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リアクション
★ ★ ★
「ああ、いたいた。どうだい、手すきだったら、気分転換に上空からパトロールしないか?」
小型飛空挺で湖面近くを流してきたカルナス・レインフォード(かるなす・れいんふぉーど)が、捜していたチャイ・セイロンを見つけて、満を持して声をかけた。
「うん、それはいい考えですー!」
突然横から入ってきてそれに答えたのは、桐生 ひな(きりゅう・ひな)だ。
「それはいいですわね、じゃあ、三人で飛びましょうかあ」
さっと魔法の箒を取り出すと、チャイ・セイロンは桐生ひなを後ろに乗せて空へと飛びあがった。
「ああ、待ってくれよ」
あわてて、カルナス・レインフォードが、小型飛空挺で後を追いかける。
「人がいっぱいですねー」
桐生ひなが、眼下に生け簀を見下ろしていった。
「本当は、あたしたちだけでも充分だったんですけれどお。ここのオーナーさんは、ずいぶんと心配性みたいです」
「まあ、そのおかげで、オレは君と出逢えたわけだがな。その、今度食事でも……」
「私は、マヨネーズ御飯が好きですっ」
「いや、オレが話しかけているのはだなあ……」
絶妙のタイミングで間に入ってくる桐生ひなに、カルナス・レインフォードは思わずため息をついた。これは、よくある本命以外の女の子と話がはずんで自滅するというパターンなのだろうか。
「あら、誰か下で手を振っていますわあ」
「本当ですっ。うちの、ナリュキなのですっ」
下を見て、桐生ひなが言った。
「うーん、いつの間にあんなおいしそうな胸とお近づきになったのかのう。ああ、下に降りてくれば、思いっきり揉みしだけるというものを……」
両手をわきゃわきゃさせながら、ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)は下で悔しがっていた。
「それにしても、遅れてやってきてみれば、もうずいぶんと派手にやらかしてるみたいじゃないの。こんなことだったらもっと早くくるんだったよねー」
まだあちこち修復中の生け簀の惨状を見て、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が残念そうに言った。
「いったい、何をやらかしたのよね」
「さあ、あたしは知らないよー」
訊ねられて、リン・ダージがすっとぼけた。
「知らないとはのう。そういうことだから、ヴァイシャリーの屋敷で働いていたメイドともあろう者が、鯉の生け簀の警備などに……。まったく、世知辛い世の中になったものだのう」
ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、なんだか勝手に同情して、ポンポンとリン・ダージの肩を叩いた。
「あんたたちだって、同じバイトしてるじゃない」
リン・ダージが、もっともな言葉をジュレール・リーヴェンディに言い返した。
「まあ、おちび同士、バイトも胸もそっくりということだな」
二人の頭を無造作に撫でくりながら、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がまた余計なことを言う。
「へえ〜。そういうことを言う口は、この口かなあ」
すっとすり寄ったリン・ダージが、その小さな右手を雪国ベアの喉元へ持っていった。その手には、いつの間にか小さな拳銃が握られている。
「うーりうーり」
あごの下に拳銃をぐりぐりと押しつけながら、リン・ダージが細めた目で雪国ベアを睨みつけた。
「ギブアップ」
すぐさま、雪国ベアが両手を挙げて降参した。
「どーしよーかなあ」
「みんな、ごめんなさい。もうそのくらいで許してあげて」(V)
さすがに、ソア・ウェンボリスが間に割って入った。
「えーっ、一発撃ってからではいけないのか。胸の恨みは、大きいのだぞ」
ジュレール・リーヴェンディが、物騒なことを言う。
「あらあら、小さいのが悩みなら、いくらでもわらわが揉んで大きくしてやろうというものを」
横で事の推移を見守りながら、ナリュキ・オジョカンがこちらも面白そうだという顔で言った。
どうやって収拾をつけようかとソア・ウェンボリスが思っているとき、彼女の所へ紙ドラゴンがポトンと落ちてきた。上空を、烏の影が飛び去っていく。
「あら、誰の使い魔……もしかして、ゴンドラ業者を調べると言っていたケイたちのかしら」
ソア・ウェンボリスが紙ドラゴンをつまみあげると、それは自然と開いて、元の一枚の紙の形に戻っていった。
その紙に、悠久ノカナタの思念を写し取った文字がじんわりと浮かびあがってくる。
「きゃっ、大変、そんなことしている場合じゃないですよ!」(V)
そう叫ぶと、ソア・ウェンボリスはココ・カンパーニュの許へと走り出した。
「今夜か、それはいい報せだ」
ソア・ウェンボリスの話を聞いたココ・カンパーニュは目を輝かせた。情報では、今夜賊がやってくるらしい。これで、時間も確定した。
「くるならこいってんだ。一気に全滅させてやるぜ」
パンと両の拳を合わせながら、ココ・カンパーニュが意気込んだ。
「だが、味方が捕まっているとあるし、潜入に成功している者もいるとあるじゃないか。敵味方は、ちゃんと区別しないと、彼らの努力を無駄にすることになるぞ」
「むーん、面倒くさいなあ。そういうのは苦手なんだが……」
本郷涼介に言われて、ココ・カンパーニュが困った顔をする。本当にそういうのは苦手そうだ。ちゃんと監視していないと、勝手に全部ぶっ飛ばして終わりにしてしまうかもしれない。
「とにかく、味方の識別は慎重に」
本郷涼介は、繰り返し念を押した。
★ ★ ★
「結局、空振りじゃったのう」
レストラン『湖の畔』で、白身魚のソテーをつつきながら、セシリア・ファフレータがつまらなそうに言った。
「最初から無理だったのよ。この広いヴァイシャリー湖でたった一隻の船を見つけ出そうなんて」
テラスから望む湖を見つめて、ミリィ・ラインドがちょっとため息をついた。背景の湖にイメージの船として浮かべてみたいかのように、指先で丸パンを弾いてみる。
「たいした情報も集まりませんでしたものね。もしかしたら、ただの噂だけだったのかも……」
ワインのグラスをおくと、少しがっかりしたようにファルチェ・レクレラージュも同意した。
彼女たちの隣のテーブルでは、ルカルカ・ルーがホタテのバター焼きにぷすりとフォークを突き立てていた。
「結局、船は水の上で探せということだったよね。ヴァイシャリーじゃ、ほとんど何も分からなかったんだし」
「いや、確認は大切だろう。まだ推測だが、不審船の乗員がこの町に大挙して上陸したという話がなかったというのは収穫だ。可能性を一つ潰すことができる」
ナイフで綺麗にシタビラメをさばきながら、ダリル・ガイザックが言った。
「それはどういうことだ?」
訊ねてから、カルキノス・シュトロエンデがロブスターを殻ごと豪快に噛み砕く。
「不審船が本当にいるとして……、もぐもぐ。目的はここじゃないということだぜ」
横からひょいとカルキノス・シュトロエンデの皿にあった付け合わせのポテトをかすめ取ると、それをぽいと夏侯淵は口に放り込んだ。
「じゃあ、どこだって言うんだ」
夏侯淵のお行儀には頓着せず、カルキノス・シュトロエンデが訊ねた。
「むしろ、町から船に人が動いたふしもあるから、やっぱり、噂通り狙われているのは錦鯉の生け簀なんだろか」
ここからでは、遠くにある生け簀が見えるはずもないが、自然とルカルカ・ルーはそちらの方へ視線をむけていた。
「なんか、にぎやかしが聞こえない?」
両手に持った蟹の足をバキンと折ってチュウチュウ啜ってから、クマラ・カールッティケーヤが誰にともなく訊ねた。
「湖の方から、聞こえてくるようだな。気になるなら、後で調べに行くか?」
綺麗にむいた蟹肉を蟹味噌につけて食べながら、エース・ラグランツが言った。
「まだ、納得しませんか?」
食べ散らかされた蟹の殻を拾い集めてテーブルの上の壺に捨てながら、メシエ・ヒューヴェリアルが訊ねた。
「そりゃあ、襲撃と言えば夜だぜ。不審船が戦闘艦だったら、確実に何か起きるだろう」
「ちょっと楽しそうですね」
「そうか? まあ、ここまで来て手ぶらで帰れるかってんだ」
負けん気を全面に顕わにして、エース・ラグランツはメシエ・ヒューヴェリアルに言った。
そのときである、遙か遠くで、何かの爆発音が聞こえ、湖上の一画に火柱があがった。
即座に、セシリア・ファフレータとルカルカ・ルーが椅子を蹴り倒して立ちあがる。
「きたぜ、きたぜ」
嬉しそうに、エース・ラグランツが叫んだ。
「すぐに、小型飛空挺を回します」
メシエ・ヒューヴェリアルが席を立った。
すでに、ダリル・ガイザックの姿はレストランの外にある。
「ねえ、これ食べちゃってからでもいい?」
クマラ・カールッティケーヤが、蟹足を両手に持って叫んだ。
「持ってきて食べろ。その前に会計を頼む」
エース・ラグランツに言われて、クマラ・カールッティケーヤは、ミリィ・ラインドたちのいるレジの方へと視線をむけた。
★ ★ ★
「ついに本性を現しましたね。行きましょう!」
いんすますぽに夫は、誰かに合図するかのように、湖にむかって両手を挙げた。
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