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リアクション
「時は来た!」
メニエス・レインは、隠れていた場所から勢いよく飛び出すと、そのまま空飛ぶ箒で上空へと舞い上がった。
「たかが魚ぐらいでごたごたするなんて、なんとつまらない。戦うんなら、もっと本気を出しなって。こんなふうにね」
そう言うと、メニエス・レインは、まだあっけにとられている者たちの上で片腕を挙げた。
「裁きの雷よ、審判を……下せ!」
勢いよく腕を振り下ろすとともに、無数の雷光の雨が生け簀近くに降り注いだ。
昼間のうちに仕掛けられた機雷や爆索が次々に誘爆して、湖面に一斉に水柱があがる。余波を受けた魚たちが水圧や感電で気絶して、水面に銀色の腹を見せてぷっかりと浮かびあがった。
「新手です!」
篠北 礼香(しのきた・れいか)が、スナイパーライフルでメニエス・レインに威嚇射撃をした。
「ちっ」
再びサンダーブラストを放とうとしたメニエス・レインが、一端回避運動に専念した。
生け簀を警備していた者たちの注意が、メニエス・レインに集まった。
海賊たちは、この機を逃さなかった。抵抗が乱れたのに乗じて、一気にディッシュに乗った者たちを中心に姿を顕わにして、防衛ラインを攪乱する。
「いいねえ。こちらもまだまだやらせてもらうよ。裁きの雷よ!」
再び、メニエス・レインが、サンダーブラストの態勢に入った。
「まったく、そうそう好きにさせるかってのよ!」
翻弄される形になったココ・カンパーニュが、怒りを顕わにした。
「こい! エレメント・ブレーカー!」
高く突き上げた右手を、拳を握りしめていきながら眼前へと下ろす。そこに、レンズ状の輝く結晶体をつけたナックルガードが忽然と現れた。
「セット」
左手でポケットから取り出した携帯電話を、クルリと回して結晶体の中に差し入れる。不思議なことに、さほど厚みのない結晶体の中に、細長い携帯電話が吸い込まれていった。
「――審判を下せ!」
ココ・カンパーニュの動きなど気にもとめず、メニエス・レインがサンダーブラストを放つ。
「アブソーブ!」
ココ・カンパーニュが、星拳エレメントブレーカーをメニエス・レインにむけた。
大気を切り裂く轟音を響かせながら、無数の雷光が走った。だが、湖面を沸騰させるかに思われた光の雨が直前で収束し、あっけなくココ・カンパーニュの右手を被う星拳エレメントブレーカーの結晶体に吸い込まれていった。
「何、あれは!」
メニエス・レインが目を見張って驚く。それは、その場にいた他の者も同じだった。
「あれは……、星剣!?」
特殊な光条兵器らしき物を見て、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)が驚きの声を漏らした。クイーンヴァンガードに入隊した彼の知る限り、あんな特殊な兵器は見たことがない。もし、同様の物があるとしたら、十二星華の持つ星剣と呼ばれる強力無比の光条兵器だけだ。
「だとしたら、彼女は十二星華なのか!? いずれにしろ、あれを使わせてはだめだ!」
「リリース、サンダー・インパクト!!」
ココ・カンパーニュが大きく拳を振りかぶった。その右手が光につつまれ、雷光がまとわりつく。
「させない!」
ココ・カンパーニュが拳に集まった雷光をメニエス・レインに放とうとした直前、譲葉大和が遠当てを放った。
「何をするですか!」
あわやという瞬間に、シェイド・クレインがなんとかガードラインで割って入った。だが、まさか味方から攻撃を受けるとは思っていなかったので、完全には防ぎきれずに、ココ・カンパーニュをかすめるような形で遠当てが通り過ぎた。さすがにあたりはしなかったものの、避けた拍子に、ココ・カンパーニュの放った雷撃が方向を違(たが)えて湖面を直撃した。
夜のヴァイシャリー湖の水面が、青白い輝きにつつまれた。次の瞬間、すさまじい音をたてて巨大な水柱が立ち、もうもうと水蒸気が周囲に立ちこめた。
「あつつつつ……」
降り注いできたお湯に、篠北礼香が思わず頭をかかえる。
「どういうつもりだよ」
ミレイユ・グリシャムが、譲葉大和に詰め寄った。
「すまない。ちょっと手元が狂ってしまった。だが、あれは過ぎた力ではないのか?」
雷撃によって水面に浮かびあがった大量の錦鯉をさして、譲葉大和が言った。
「ああああ、錦鯉たちが」
大あわてで、フリードリッヒ・常磐が錦鯉をヒールして回る。
「ライゼ、ヒールで錦鯉を。朔、二人にSPリチャージで補佐を」
朝霧垂が、素早くパートナーたちに手伝うように言った。
「はーい」
「分かりました」
二人が、素早くその指示に従う。
「にしても、確かにこれはやりすぎだ」
「しかたないだろ、不可抗力というか。いや、あいつだあいつ、あいつがすべて悪いんじゃないか」
思いがけない結果に、ココ・カンパーニュがあたふたとメニエス・レインを指さして、決めつけた。
「どうしてそうなる。どう見ても、そいつのせいだろう」
濡れ衣だとばかりに、メニエス・レインが譲葉大和を指さした。
「うかつ者め、隙あり!」
その一瞬をついて、ココ・カンパーニュがドラゴンアーツを上空のメニエス・レインに放った。わざと騒いで隙を誘ったのだ。だが、メニエス・レインとて、完全に油断していたわけではない。氣の衝撃は、空飛ぶ箒の掃く部分を半分吹き飛ばすだけにとどまった。
さすがに、メニエス・レインがバランスを崩す。
「雑魚のくせに……。潮時ね。すべてを溶かす、腐朽の帳よ!」(V)
メニエス・レインがアシッドミストを放って、その場から離脱を計った。
「逃がしません!」
気づいた夜霧朔が六連ミサイルポッドで攻撃したが、酸の霧に誘導を狂わされてミサイルは自爆した。爆風でアシッドミストを払うことはできたが、すでにメニエス・レインの姿はそこにはなかった。
「その光条兵器のことだが……」
譲葉大和がココ・カンパーニュに訊ねかけたとき、ペコ・フラワリーが足早にやってきた。
「リーダー、小舟でやってきた賊たちが、反対側の生け簀に大挙して乗り込んできました」
「分かった、今行く。そこの、話は後だ」
そう言うと、ココ・カンパーニュは、譲葉大和を残して移動していった。
譲葉大和もその後を追おうとしたが、デューイ・ホプキンスに行く手を阻まれた。
「まだ敵がやってくる。ここを手薄にするのはまずいであろう」
攻撃の機会をうかがって周囲に押し寄せてきている海賊たちをさして、デューイ・ホプキンスが言った。
★ ★ ★
「ここは、ゴチメイ戦隊新人、ゴチメイホワイト、神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)が通しません」
「同じく、シルバー、ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)、有栖お嬢様は、命に代えてもお護りいたしますわ!」
生け簀にとりついた海賊たちにむかって、神楽坂有栖とミルフィ・ガレットが勝手な名乗りとともにポーズをつけた。
「まてまてまて、新入隊員なら、私の方が先だ!」
そうはさせるかと、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が二人の間に割って入る。
「お待ちなさい。あなた、色を決めていらっしゃらないのではなくて。それではだめですわ」
何を横からと、ミルフィ・ガレットが怒って言った。
「もちろん、これから決めてもらうんだ」
なぜか、自信満々で、ミューレリア・ラングウェイが答えた。
「ふっ、シルバーは、渡しませんわよ。もちろん、ホワイトもですわ」
ミルフィ・ガレットが勝ち誇る。
「もう、そこで何をやってるのよ」
三人をかき分けるようにしてやってきたリン・ダージが、スカートの中からハンドガンを取りだすと、生け簀を壊そうとしていた海賊たちに発砲した。
三人がもめている間に生け簀を壊してしまおうとしていた海賊たちが、あわててその場から逃げ出す。
「張り合いがないわねえ」
逃げる海賊たちの足下の板を、リン・ダージは銃弾で撃ち抜いた。足場をなくして、海賊たちが水に落ちる。
「ちょっと、今、どこから武器を出したのです?」
「いいのよ、女の子のスカートの中は武器庫なんだから」
神楽坂有栖に聞かれて、リン・ダージはそう答えた。
「入隊するには、それも覚えなければいけないのですね。めもめもっと」
感心したように、神楽坂有栖がメモをとる。
「入隊って……、だいたいホワイトは、なぜかリーダーが欠番にしているから無理だよ」
「ええ、そんなあ」
リン・ダージの言葉に、神楽坂有栖ががっくりと肩を落とす。
「なにをやってるんです、生け簀がめちゃくちゃじゃないですか」
のほほんと戦っているリン・ダージたちにむかって、緋桜遙遠が怒鳴った。
「錦鯉さんが、逃げ出しています」
紫桜遥遠が、リン・ダージの壊した部分をさして叫んだ。
「大変ですぅ、早く捕まえないとぉ」
朝野未那が網を持って駆けつけてくる。
「よし、だったら、ゴチメイ隊入隊をかけて、錦鯉取りで勝負だ!」
「望むところよ」
「後始末は、私たちに任せてください」
ミューレリア・ラングウェイたちは、先を争って網を取りに走っていった。
★ ★ ★
「死にたくなかったら、避けなさい」
大上段にフランベルジュを振りあげたペコ・フラワリーが言った。
あわてて逃げ出そうとする海賊たちがまだ乗っている状態で、彼らのボートを真っ二つに一刀両断する。
「負けてられないよね!」
ミーナ・コーミアが、対抗意識丸出しで、生け簀の被害無視でライトブレードを振り回した。
「ちょっと、ミーナ、あなたがそんなことでどうするのです」
あわてて菅野葉月が止めようとする。
「手加減なんかしていられないよな。やっちまえ!」
どこか楽しそうに、ココ・カンパーニュが言った。輝きにつつまれた右の拳で、海賊たちを吹き飛ばしていく。星剣本来の力はまったく使っていないようであったが、その威力はすさまじい。吹き飛ばされる海賊たちは、足場である生け簀ごと、お星様になりそうな勢いで次々に遠くへと消えていった。
「いい暴れっぷりだよ。さすが、あたしたちパラ実の星。これは、あたしたちも負けていられないじゃん。行くよ、みんな」
「はーい」
ココ・カンパーニュたちの戦いに感心する羽高魅世瑠のかけ声で、彼女のパートナーであるフローレンス・モントゴメリー、アルダト・リリエンタール、ラズ・ヴィシャが一同に並ぶ。
「はあーい」
羽高魅世瑠たちが、一斉に羽織っていたポンチョの前をはだけた。ほとんど全裸と、季節外れのサンタ服の肢体が夜の闇の中に浮かびあがる。
「あっ……」
さすがに、男ばかりの海賊たちの動きが止まった。
「隙ありですわ、やっておしまいなさいジュスティーヌ!」
それを見て、突然わいたジュリエット・デスリンクが叫んだ。
「はい。必殺、自転車ミサイル!」
そう叫ぶと、自転車に乗ったジュスティーヌ・デスリンクが猛スピードで海賊たちに体当たりをしていった。
「うわあ」
ひき逃げアタックを食らった海賊たちが、次々と湖に落ちていく。
「さあ、アンドレ、機関銃でとどめですわ。……アンドレ?」
勝ち誇って命令したジュリエット・デスリンクであったが、肝心のアンドレ・マッセナの反応がない。おかしいと思って振り返ると、アンドレ・マッセナは羽高魅世瑠たちをガン見している最中であった。
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