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リアクション
9・裏切
赤城長門に説得された獣母は、途中で生んだ怪物や道中で会った我が子を引きつれ、祠前まで来ていた。
長門は獣母に剣を突きつけている。
「怖くはないのですか、このような魔物に囲まれて」
獣母が細い目をいっそう細くして、長門に問う。
「お前は母じゃけん、子に徒名すとは思えんけん。子もそうじゃ。八鬼衆を倒して、戦を早く終わら何処かに落ちるとええ、きっと皆で暮らせる山中があるはずじゃ。」
「戦が終われば、産みの苦しみから解放されるのでしょうか。私はもう子を産みたくはないのです、子を産む苦痛、そなたら男には分かりますまい」
獣母の目がカッと見開いた。刹那、長門を魔物が飲み込もうとする。
必死に避ける長門。
そこに、二人を追ってきたノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)の使い魔、紙ドラゴンが遅いかかる。
「明日香さん!」
ノルニルの叫びを聞いて、神代 明日香(かみしろ・あすか)が飛んできた。
長門は肩口に大きな傷を負っている。
魔法の箒に乗った織部イルが、頭上から急降下して、長門を抱えて再び舞い上がる。
「そなた、大丈夫か」
長門は大きく肩で息をしている。
度会鈴鹿の元に連れられた長門、その傷は深い。
「大丈夫です、すぐに直ります」
傷の手当をする鈴鹿。
「信じてはいけなかったのじゃけん、分かってたことじゃけんど、しかし…かのおなごは、母じゃ。母を疑うのは辛いけん…」
長門は動こうとしている。傷口が熱を帯びている。魘されているのだ。
「大丈夫です、気をしっかり。イル、彼を城まで連れて行けますか、このままでは」
「よし、箒に乗せるのじゃ」
長門は、箒でイルと共に城に戻った。
メイベルらが設置した、敵の接近を知らせる鳴子が鳴り響く。
「ギャー」
魔獣が落とし穴に落ちたようだ。穴の中には、先を尖らせた竹がある。
串刺しになり、動けなくなっている。
そのとき、やっと援軍が祠に到着した。
来てはならない援軍だった。既に祠の前には、獣母が生んだ魔物が舌なめずりをしている。火焔は燃え移る対象が増えることで、命を永らえることが出来る。そして、もう一人の八鬼衆が援軍の到着を腹を空かせながら待っていた。
援軍と共に来た高月 芳樹(たかつき・よしき)は、美しき花々に囲まれていた。四季折々の花はそれぞれに足を持ち、花弁から鋭い針を出している。
「花が嫌いになりそうだ、悪夢だな」
芳樹は、バーストダッシュを使い包囲網から脱出する。
服に棘が刺さる。棘を抜こうとする芳樹をアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が嗜める。
「駄目、それは魔物だわ」
アメリアは博識を使って、棘の正体を見破っていた。
「小さいからと我を侮る無かれ」
小さな生き物は気味の悪い笑い声を上げて、芳樹に向かう。
アメリアがシャープシューターで、棘を打つ。棘はふわっと宙に浮いた。
軽く小さすぎて、攻撃が当たる前に風で飛ぶのだ、
「何で私がそちらごときにやられると思うのだ、何と慢心な。これだから大きなものは困る」
小さな生き物は、今度はアメリアに向かってくる。
アメリアの博識がその正体を探る。
棘と思ったのは、小型のハーフフェアリーだった。苛立った顔をして歯をギリギリと鳴らしている。
「アメリア、気をつけるのじゃ」
仮の女姿をしている魔道書伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)が、攻撃を避けるためにマントでアメリアを覆う。
風によって再び飛ばされるハーフフェアリー。
「忌々しい!」
ハーフフェアリーは吐き捨てるように呟き、目の前で別の魔獣と戦う兵士の鼻の穴にもぐりこんだ。
「今の、なんなの?」
「知らない!それに」
芳樹が武器を構える。
「当面の僕らの敵は、この可愛いお花だ」
花たちは、芳樹に狙いを定めているようだ。まっすぐに狙ってくる。
「焼こうかしら」
アメリアが言う。
「わらわは凍らせてみようかと思うのじゃ」
「玉兎、俺は焼くぜ」
芳樹は爆炎波をを花に向ける。
花は甲高い悲鳴を挙げて土に返る。
玉兎は、別の群生して襲ってくる花に氷術をかけた。
「芳樹、頼むぞ」
「よし」
ライトブレードで凍った花を粉々に砕く。
緋山 政敏(ひやま・まさとし)はカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)と共に祠に向かった。
まだ、魔物は祠まで辿り着いていない。
葦原明倫館の精鋭と助っ人として加わった学生たちの働きのおかげである。
「年季が入ってるな、補強はされているにしてもこれじゃあ」
「ああ、5000年の昔の建造物だ」
政敏の問いに答えたのは、葦原太郎左衛門だ。
「だがよ、この祠の守りが強化されたのは最近だ。それまでは道すら消えていた」
ほんの少しだけ離れた場所では、死闘が繰り広げられている。
葦原太郎左衛門ののどかな物言いに違和感を覚える政敏。
「なんだって、そんなに平静なんだ」
「わしは子どもの時分に、乳母の寝物語にこの祠の昔話を聞いている。ずっと信じていなかった。何かが動き出したんだろうな。抗うことの出来ない何かが。そうでなければ、ここで死んだ兵らが浮かばれねぇ」
「だが、何時だって争いは遺恨しか残さない。」
「そうだ、遺恨が遺恨を呼ぶ。5000年前の遺恨が今ここで多くの犠牲者を出してるんだ」
騒ぎが次第に祠に近寄ってくる。
「さあ、いよいよだな」
葦原太郎左衛門をはじめ配下の部下が剣を抜く。
政敏も雅刀を構える。
カチェアは、政敏から少し離れた場所で援護のタイミングを探っている。比較的安全と葦原太郎左衛門が判断した銀杏の巨木の側だ。救援に集まった面々もそこで待機している。
「ここが戦場だからでしょうか。あの人が何時もより真面目で活き活きとしているのは」
カチェアは政敏が普段は見せない熱気を帯びていることに気がついた。
「哀しいですが、あの人は、戦う事でしか生きている実感が持てない人だから」
10・綿毛
アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)は、引き連れてきた巨大甲虫、狼、パラミタ猪と共に、獣母が産んだ魔獣と戦っていた。
敵は、双頭の巨大雀だ。
巨大甲虫が、地中に潜る。
狼とパラミタ猪が、双頭の顔を対峙している。狼と猪が、まるで呼応するかのように雀に向かう。
くちばしから毒を吐きながら、それぞれの敵に燕の頭が首を伸ばしたとき、地中から、巨大甲虫の角が燕を引き裂いた。
何とか倒したとき、携帯電話がなる。イーオンからだ。
「なんだ」
暫く話している。
「少し待て」
アシャンテは、御陰 繭螺(みかげ・まゆら)に尋ねる。
「小さな魔物がいなかったか、イーオンが聞いてきている。八鬼衆の一人で、綿毛という名らしい」
「なんか、大変な事になってきたね、小さな魔物はまだ見ていない。ああ、いうかと多すぎてわからないよ。変な獣や毒を吐き出す草木…そうだちょっと聞いてみるよ」
使い魔のネコを呼び出す。ネコはそのまま帰ってこなかった。
戻ってきたのは、戦闘が終わって暫くしてからだ。
11・お茶会
二度の出兵で城の警備は手薄になっている。ハンナ総奉行を護る隠密衆も共に出兵した。
房姫の周りにいるのは、陰から護る不畏卑忌 蛟丞(やしき・こうすけ)。それに、話し相手として置かれた橘 柚子(たちばな・ゆず)だ。
イルミンスール魔法学校から参じたレン・オズワルド(れん・おずわるど)が面会を申し込んだとき、蛟丞は手薄な警備を心配して、兵が戻るまでの延期を主張した。
それを押し切ったのは房姫だ。
「面白い活動をされているようですわ、戦以外の話もしてみたいです」
広間に通されたレンは、自分の行なっている活動について説明する。
「次代を担う学生達が、将来「冒険者」として生きていく為に、職業としての冒険者−冒険屋のギルドを作った。この学校においても将来冒険者を目指す者が居るだろうと思う。その学び舎を守る為にも、ここは率先して協力をさせてもらいたい」
レンの申し入れを快く受ける房姫。
「ただし、今、総奉行は戦に赴いておりますの。正式な協力は、ハイナが帰城後になりますわ」
房姫の言葉に、レンが問う。
「事情はおおよそ察している。しかし分からないことが多すぎる。八鬼衆が封印の祠に攻め入ろうとしている時に悠長と言われるかもしれないが、急いては事を仕損じるともいう。他校に救援を求めたにも関わらず、ナカラ道人がどのようなものなのか、誰もしらない。なぜだ」
房姫が首を振る。
「私が知っているのは…ナカラ道人は神をも超える能力を持っているということですわ。太古の実験、失敗によって生み出されたのは、神を超えてしまう存在だったということです。もし封印が敗れれば、全てが明らかになるでしょう。しかし、封印が護られるのなら、明らかにしないほうがよい真実もあるのですわ」
レンは房姫を護る従者の面々を見ている。数人の精鋭を残して、猛者は皆、陵山に向かったらしい。
「よし分かった。俺は護衛として残りたい、どうだ」
レンは、房姫の背後に控える蛟丞に問う。
「姫さんがいいならいいが…」
蛟丞が手にするクナイの刃が光る。
「…ときは容赦しないぞ」
「心が落ち着きませんわ。お濃茶はいかがでしょう」
房姫と共に茶室に移動する一同。そこには家臣の計らいで、房姫と面談を希望する他校生も招待されていた。
蒼空学園の朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は、由緒ある神社の一人娘である。厳しく躾けられ、茶の作法も一通り習得している。メイド服を身に着けたフェルブレイド(魔剣士)であるイルマ・レスト(いるま・れすと)は、茶会には加わらず茶室の片隅に端座している。
房姫の立てた濃茶が皆に渡り、茶席に飾られている軸や花、 お茶や道具などについて問答があった後、千歳は思うことを口にする。
「力になりたいと思っているの、私も警護に加えてもらえないかなぁ、えーと、その。」
言葉に詰る千歳に変わって、控えていたイルマが問う。
「八鬼衆、既に城内に忍び込んでいるかもしれません。見知った者でも油断すべきではありませんわ。本望のために、数十年にわたり敵地に潜伏する忍びもいるときいています。私どもも警備に加えてください。誰が出来て誰が味方か分からないのですから、人が多いほうが監視の目が行き届きますわ」
「相互監視というわけか」
同じように茶室の隅にいたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が自嘲気味に笑う。
「他校生を呼び集めた割には、情報を小出しにする。そのわけは何だ?そもそもナラカ道人と八鬼衆とは何者なのか?俺たちにも知る権利はあるはずだ」
「私は、お筆先のことばを伝えるのが役目ですわ。我が言葉には魂が宿ります。言霊に翻弄されないよう気を配る必要がありますの。これ以上のことはハイナが戻ったら語らせましょう」
トライブのパートナー、蘭堂 一媛(らんどう・いちひめ)は茶室の外で、台所で貰ってきた握り飯を食いながら、みなの会話を聞いている。
「神をも超える存在であるナラカ道人に、反則的な特殊能力を持つ八鬼衆か。ふむ、面白い!戦ってみたいのう」
両手に持つ握り飯を口いっぱいに頬張る。
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