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リアクション
12・母の死
獣母は、神代 明日香とノルニル 『運命の書』に追い詰められている。
「もはやここまでか」
獣母は、背後にある銀杏の巨木に気付く。
この巨木の裏側には、救援物資や刀痕を追った武者、獣に食い千切られた雑兵などが横たわって、救出を待っている。
「ここは我が生誕の地。ここで死するは本望」
明日香は、女の影が、実体と同じほっそりとした姿であることを確認していた。
「ノルンちゃん」
無抵抗で佇む獣母への攻撃を迷っている。
その隙に、獣母の触手は、銀杏の葉を胎内に取り組む。
「私の最後の子どもとなろう、空を覆い、みなの災いとなれ」
苦痛に顔を歪ませる猛母、大きく腹が膨れる。
「明日香さん、産ませちゃだめです」
頷く明日香。
投擲槍形状の光条兵器を取り出す。ギャザリングへクス及び禁じられた言葉で魔力強化、ヒロイックアサルトでルーン文字を光条兵器に記して強化、禁忌の書(レベル4)より魔力供給を受けて更に強化、能力を最大限にまで引き出した光条兵器を獣母に投擲する。
腹からは羊水が流れで、銀杏の魔物が生み出される瞬間であった。
光が獣母を貫く。まだ半身が体内にとどまる我が子と共に、火に焼かれる獣母。
「やっと終わる。しかし始まる」
焼かれて縮小し塊となって地面に落ちる獣母、そのまま大地に吸収される。
菅野 葉月(すがの・はづき)は、ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)と共に、人型に変貌した白樺と戦っていた。二本の枝は剣となっている。
二刀流の構えだ。
「木にしては見事な構えですが、なんとなく癪です」
江戸時代から続く剣道場の生まれであるが、敢えて騎士になった葉月は、剣の道も極めている。
「そこまでの剣術を身に着けるには、何年もの研鑽が必要となります。まったく魔物はたちが悪い」
葉月は、チェインスマイトを繰り出し、白樺の魔物を二つに引き裂いた。
「それでも、結局は努力が結果をもたらします。魔に頼らず研鑽を怠らないようにすることです」
あっけなく魔物を倒すと、ミーナと共に、怪物に襲われている兵を助ける。
空からも恐竜もどきの羽を持った野鳥が口から銃弾撃ちながら落ちてくる。ミーナのチェインメイルで身を護りながら、機関銃を乱射する葉月。
優秀なる狙撃主比島 真紀(ひしま・まき)は、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)と共に、少し離れた高台から魔物を狙い撃ちしていた。
「なんという魔物の数。これが皆、あの獣を産む女の産物なのか」
ドラゴニュートのサイモンは、真紀の周囲を護りながら、呟く。
「その女なら、今、死んだよ」
「なら、魔物はなぜ戦う。逃げて他で生きればいい」
兵に襲い掛かる野獣の頭を打ち抜く真紀。
突然、空が暗くなる。大鷲が真紀の頭上を舞っている。
「大望を適えてくれた母だからだ。我ら魔物は、人と違うぞ。俺は生まれ変わったお陰で、我が父を撃ち殺した猟師を飲み込むことが出来た」
大鷲の姿が大きな口に変化する。
真紀に向かって、空より下降してくる大鷲。
その口に向かって、サイモンがトミーガンを撃つ。
小さな肉片となり、空で散る大鷲。
「生臭い話だ」
真紀は、大鷲の話を思い出す。
「ナカラ道人、心も操るのかもしれない」
13・旅の女
「なんとか、間に合ったようだ」
肉付きの良い身体を揺らして、手には杖を付き頭には手拭を被った旅姿の中年女が坂道を登ってくる。着物は歩きやすいようにはしょっている。
「そち、戦さ場はどこか、ご存知か?」
女が前から来る若い男に話しかける。
声をかけられたのは、天城 一輝(あまぎ・いっき)だ。市販されているハンディーカムを手にしている。
「この上だ。誰か知り合いでもいるのかい?」
「まだ上かい、そんな場所で戦うなんで、まったく皆どうかしているよ」
女は背を伸ばす。
「上は酷い有様だ。八鬼衆が暴れている」
一輝は、人懐っこい、この中年の女が気に入った。
「そうかい、知り合いがいるんだ、死ぬ前にひと目会いたくてねぇ」
「行かないほうがいいぞ」
手にしたビデオを見る一輝。
「なんぞ、それは」
「先ほど、この下に陣を構えたハンナ総奉行に送った画像だ。八鬼衆が映っているんだ」
一輝は得意げに話す。そのデータ「銃型HC」を使い、転送してたのだ。
「なんと!冥土の土産に出来る、見せてくれぬかのう」
女の申し出を困惑しながら一輝は受けた。知り合いが映ってるかも知れぬと女が懇願したのだ。
先ほど撮影した、獣母の最期、無灯の死骸、火焔の姿が映っている。
「残念なことよのう」
女が呟く。
「古くからの友人が、戦っていると聞いてのう、慌てて駆けつけたのだが」
「あんたの知り合いは、侍かい?だったら戦さが収まるまでハンナ様のところに避難してたらどうだ。」
「ああ、そうだね、そちは良い男だ。よい、私を撮りなされ」
「いや、そういうもんじゃないんだ、これは」
「そちは見逃してやろう、さあ」
パートナーのローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)は、防御系スキルを駆使して一輝の護衛をしていたが、ただならぬ空気を感じている。
そっと茂みに隠してあった小型飛行艇に乗り込むローザ。
勢いに押されて、ハンディーカムを女に向ける一輝。
「我が友、無灯は死を望んでいた。感謝するぞ、ハンナ」
中年の女は、その白いふくよかな手で自らの顔を覆う。
「我が名は、砂の葉」
女が名乗ると、砂が舞い上がる。
ローザは、その瞬間に小型飛行艇を急降下させて、一輝の腕を引っ張る。
地上では、全ての頭髪に無数の口をつけた「砂の葉」と名乗る女が笑いながら手を振っている。
一輝の手にはハンディーカムが残されている。
「そのハンディーカム、ところどころ砂に変わっているわ。あの女の紙が触れたところよ」
14・桐生組
一人の兵が突然腹を押さえ苦しみ出した。顔面は蒼白となり口からはごぼごぼと血を吐いている。内臓の辺りが急速に萎んでゆく。胃が腎臓が心臓が。手足はそのままで紙のように薄っぺらい胴体となった兵は、そのまま地面に倒れた。首筋から何やら棘のようなものが出てくる。
よく見ると小型のハーフフェアリーである。
火が移り負傷した兵を運んでいたロザリンド・セリナの、目前に、そのハーフフェアリーが飛んでくる。殺気を感じるロザリンド。
「私の名はロザリンド・セリナあなた様の名前を教えていただけないでしょうか?」
震える声で気丈にも問う。
一人の内臓を食い尽くしたことで満腹感を覚えていたハーフフェアリーは、眠そうな目をロザリンドに向ける。
「名前かぁ。綿毛だ」
「八鬼衆のお一人なんですね」
「はぁ。そんなもんだ、んっ、んッ、あーーーあーーー!」
突然、綿毛が叫んだ。
「無性に腹が減った!畜生、なぜなんだ、なぜ」
歯をガタガタならす綿毛。
「食いたいッ食いたいッ!」
目が血走り、尖った歯がむき出しになる。
ロザリンドに向かって飛ぶ綿毛。
「リンリン、気をつけて!」
桐生ひなが、ロザリンドに駆けよる。
その風で、綿毛はふわっと空に舞う。
戦場でも豊満な胸を更に強調した服を着用しているナリュキ・オジョカンが、機関銃を綿毛に向けて連射する。
綿毛は、ふわふわと何処かに飛んでいった。余りに小さいために銃弾が当たる前に風圧で飛んでしまうのだ。
「なんじゃ、今のは?」
牛皮消 アルコリアは、火焔と思われる焼け爛れた兵士と対峙していた。
火達磨となって襲ってくる。
「今はこの人が火焔なんですか」
巨獣の大腿骨で、ボールのように火焔を跳ね返えすアルコリア。
火焔は、燃え尽きたのか粉々になる。
「今度はどこでしょう?」
周囲には、火がついた兵が数人いる。この中に火焔は移っているのだ。
魔道書のナコト・オールドワンは、隙を突いてアルコリアを襲ってくる魔獣に気付く。
「生ける炎よ、我が仇敵を焼き払えっ!」
ファイヤーストームで、その草木の化け物を焼くナコト。
「終わりが見えません」
焼けた兵がムックッと起き上がった。火焔らしい。
アルコリアは敵を避けて、ドラゴニュートのランゴバルト・レームへと走る。
「レーム、お願いです。歩ちゃんに伝えて!」
ランゴバルト・レームは、救護をしている七瀬歩のもとに急ぐ。
「分かりましたぁ!」
歩は、祠を護る葦原太郎左衛門の元に走った。メイベルが設置した呼子が激しくなる。
太郎左衛門は身構えている。
走ってきた歩を見ても、刃を収めない。
「先ほどの少女か」
頷く歩。急いで事の顛末を話す。
「八鬼衆の一人、火焔は焔で人を焼き、その焔を通じで転移することが出来ます。お願いですっ、兵を一時引いてください、今のままだと皆燃えてしまいます」
「相分かった」
配下に目配せする。法螺貝の音が陵山に響き渡る。
撤退した兵は陣形を作り、いつでも再び戦えるよう備えている。
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