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葦原の神子 第2回/全3回

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葦原の神子 第2回/全3回

リアクション





9 女

 書院では、佐倉 留美(さくら・るみ)が一つの巻物に見入っている。幽巫と戦ったものは、その女の顔が幽巫に似ているのに驚くだろう。
「なんて書いてあるのかしら」
 留美は女の背景となる屋敷も贅を尽くしている。これも祠内部にいるものなら知っている。あの家だ。
「5000年前、時の権力者に愛された妓女。マホロバ出身の魔女、葦原藩名家の出であるが家が没落後、美貌ゆえ妓となり…」
 側にブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が来て、古の言葉を読み解く。
「見つけたようだね」
 天音は妓女の顔を見て何か感じたようだ。大急ぎで別の書棚へと急ぐ。
捜索、資料検索を駆使し、女の資料を探す天音。
「人工の『神』を創り出そうとしたと思われる、ロストテクノロジー、きっとこの妓が関わっている」



10 増殖


 風と共に大破した祠から女が出てきた。艶やかに流れる黒髪は腰まで伸び、切れ長な瞳は、陽光を集め伏し目がちでも光を持つ。陶器のような肌としなやかな物腰は、衆目を集めてきた女ならではである。
「いい女過ぎるな、それに素人じゃない」
 葦原太郎左衛門は、配下のものに目配せする。
「今は、いつじゃ」
 女が太郎左衛門に問う。
「いつだと思う」
「さあな、今に分かろう」
 祠から、もう一人女が出てきた。先ほどの女と同じ顔、首筋の黒子までが同じ位置にある。
「双子か?」



 その頃。

 幽巫を退治し房姫救出を知った祠内のものは、入り口ではなく房姫を救助した祠裏側に出ていた。
 皆が外に出た後、続けて出てきた女がある。
 幽巫の死に顔を見ていたものは皆、呆然とする。
「幽巫か」
 ナラカ道人復活儀式中断を諦め、一行に戻った斉藤が尋ねる。
「幽巫…どうなりました」
 皆の顔を見る女。
「死んだのですか…それは目出度い」
「お前、何者だ!」
 武尊は、武器の聖化で光輝属性を付与された「ライトブレード」を女の前に振る。
 威嚇のつもりだった。
 刹那、女は自ら腕を差し出した。
 二の腕から、女の白い腕が宙に舞い、赤い血しぶきが飛ぶ。
 その赤さを見て、
「なんだ、自分から切られるなよ。誰か、手当てを!」
「はやり変わらないのか…」
 女は腕を見ている。羊水のような生暖かい匂いが女の傷口から出てきた。女の、今はない指先までを覆うように羊水が満ちる。
 目くらましにあったようだった。
 腕が戻っている。
「あれを・・・」
 誰の声かも分からない。小さな呟きだ。
 腕から、先ほどと同じような水が溢れ出す。水は女の形となり、そして、女が生まれている。
「やはり、そうか。妾のからだは同じなのか」
 女は蕩けるような笑顔を見せる。
「…うぬらに分かるかっ、この苦しみが」
「待て!」
 目くらましから覚めた皆が女を追う。
「追わずともよい、まだまだ出てくるゆえ」
 山の彼方此方に穴があく、木の根、獣の洞、様々な場所から女が出てくる。





 ハイナが叫ぶ。
「もはやこれまで。葦原…葦原太郎左衛門をここに。撤退する。皆城に戻り、地下にもぐれ」
 高々に挙がるハイナの腕。大きく振り下ろされるその瞬間。
 その手を、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が抑える。小次郎はこの戦でずっとハイナの側に仕えていた。既に気心もしれている。
「地下にもぐって何をするんですか」
「猶予は無い、お前も逃げろ、逃げ場所がなければ共に来い」
「よく考えてください、総奉行!戦時は冷静でないと敵の弱点も見えません」
 小次郎はハイナの肩を掴む。
「なぜ、蟲籠は書院を狙ったんでしょう。恐らく書院に封印方法があるんです。総奉行、奥の手はまだ使う時ではありません!!」
 ハイナは、小次郎の手を振りほどく。
「そのうち埋め尽くされる、その前に手を打たないと。ここで、葦原の地で」
 小次郎の手が、ハイナの頬を打った。

「目を覚ませ!総奉行なんだろ!」
 普段は冷静で理路整然とした小次郎が、ハイナの目を覚させるために荒療治を行っていえる。
「まず、城に戻りましょう」
「だれか、だれかこのものを牢に!」
 ハイナの目が小次郎を捕らえる。
「命をかけて、わっちを打ったのであろうな。その願い敵えてやる」


「撤退!」
 伝達の兵が走る。


 しかし、既に多くのナラカ道人が出現している。

 ハイナの周りをナラカ道人が取り囲む。
 秋月 葵は、光精の指輪による閃光で視覚を攪乱させ、アルティマ・トゥーレを使用する。
 エレンディラ・ノイマンは、氷術による氷の短剣を撃ち込み、雷術を刺さっている氷の短剣目掛けて雷撃を使用する。
 目の前にナラカ道人は確かに短剣で二つに割れた。だが、その飛び散る血が乾く前に、二人のナラカ道人となって、ハイナを襲ってくる。

 朝倉 千歳もハイナの側を護っている。
「房姫さまの無事が確認された今、ハイナさんを護らなきゃ、今度は房姫様を悲しませてしまう」
 千歳は、ハイナに近寄るナラカ道人を、木刀で打つ。
「切ってはいけないのよね、折るなら大丈夫なの?それにしても!」
 次から次へと沸いて出る。

「うっし!テメェら!しっかりと守るぞ!!!」
 志気を鼓舞するように、大声を出す。
「女を殴るのは気がひけるが、おっさん頑張ってゆくぜっ、へ、俺の拳はちと硬いぜ?」
 目の前のナラカ道人を武術やドラゴンアーツをのせた拳で殴る。
「道を作れ!このままじゃ出口が無いぞ!ウラウラウラァ!!!」」

 吉永竜司は、やってくるナラカ道人を柔術で投げ飛ばす。
「ちくしょぉ、俺は女には手をださねーんだぞ、しかもなんでよぉ、こんないい女を投げ飛ばすんだぁ」
「お前、武器はねーのか」
 次々と来るナラカ道人の一人に叫ぶ竜司。
「武器かい?」
 艶やかな笑みを浮かべる女。スッーと涙を流す。
 一瞬、動きの止まった竜司の横をナラカ道人がすり抜ける。
「正義の鉄槌 食らうがいいッス!」
 サレン・シルフィーユが、ハイナへと向かうナラカ道人を拳でなぎ倒す。
「何、動揺してるんスッか!早くここから抜け出ないとッス」

 朝霧 垂は、4m程の長さの鞭を使い目の前のナラカ道人を追い払う。
「いいか、皆でまとまって動くぞ!」