First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
3・大太
大太は、山陵よりも高い。
推測するに、山陵こそが大太だった。ナラカ道人の祠は大太と共に封じられていたのである。
地下にあるナラカ道人のいるであろう封印の墓は、大太が覆い隠し、この5000年護られてきた。
彼は目が覚めたばかりである。
焔で山が燃えている。多くの兵が大太に矢を射かけ銃を撃とうとも、大太は身動き一つしなかった。
なぜ自分が復活したのか。
この大男は少し頭が弱い、考え出すと動きが止まる。
「なぜだ…」
幾ら考えても結論が出ない。ただ誰かが起こした。
「大太が起きれば、ナラカ道人も、いずれ目覚める」
そうだった、大太はやっと気が付いた、思い出した、これまでの自分の役割を。しばしのち、大太は嵐のような大波のような声を上げる。
葦原太郎左衛門他、生き残った葦原藩の侍はハイナを迎えるために、陣を組み直している。
大太と祠を見据えた鶴翼(かくよく)の陣だ。
「よいか、総奉行が来るまで、死するでない」
葦原は、生き残った部下に檄を飛ばす。
「あの八鬼衆は、かの勇者たちに任せよ。武士としてそれを恥じてはいけない。我らが真の戦いは、まだこれからぞ」
葦原太郎左衛門は、じっと時を待っている。
ニンジャがどこからか走り来る。
月見里さくらだ。ハイナがすぐ側まで軍を進めている。
葦原太郎左衛門の眼が血走る。
「あい判った」
大太を取り囲む一群を見やる。
「総奉行が来る前にヤツを倒さないと!」
さくらの言葉は尤もだ。
「すまない、今は兵を減らすことが出来ないんだ。娘らが戦う、共に頼む!」
大太と対峙している桐生 ひな(きりゅう・ひな)が葦原太郎左衛門を見る。
「桐生組に、任せてくださいッ」
葦原太郎左衛門は、等間隔で広がり間合いをつめる娘たちを見た。
さくらもその輪に加わる。
山陵が崩壊しても、この地に留まっている緋山 政敏(ひやま・まさとし)が太郎左衛門の側にいた。
「なあ、太郎左衛門さんはここにいていいのか」
ボソッと呟く。
「なぜだ?」
「書院が気になるんだろ、総奉行も房姫もいない城の警護は手薄だ。もし再度襲われたら」
「ああ、しかしここを離れるわけにはいかない、人が死に過ぎたよ」
太郎左衛門は檄を飛ばす侍大将の顔から、素に戻る。
「ここだ、ここで戦う」
死を覚悟している。政敏、それを知って尚、言葉を続ける。
「確か、寝物語に祠の話を聞いたと言っていたな。その乳母ってのはまだご存命か」
「ああ、長生きの家系なんだよ」
乳母の顔を思い出したのか、太郎左衛門の緊張が解ける。
相変わらず、大太は動かない。
「ここは総奉行に任せないか、書院が気になるって直感、信じたほうがいいぜ」
太郎左衛門は側に控える侍になにやら告げる。
すぐに侍は封書を手に戻ってきた。
「ここに乳母の住まいを記してある。お前に託そう。あれが何か知ってるとは思えないが、まあ、お前の直感を信じよう」
周囲を警戒していたカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)に政敏が声を掛ける。
「いくぞ」
「書院ですか?」
「いや、ここだ!」
「書院は…」
「書院は信じてやれ」
太郎左衛門は遠方に見える天守閣を見る。
「護っているやつがいる。大丈夫だ」
頷く政敏。
「俺たちが行くのは、ここだよ」
封書を入れた懐を指差す政敏。
「んでキミは何に苦しんでんだい、大太くん?」
足元まで来た桐生 円(きりゅう・まどか)は、動かない大太に痺れを切らし、つい大声を出した。
大太の顔ははるか頭上にあり、その瞳は分厚いまぶたに覆われて見えない。
それまで微動だにしなかった大太が反応する。
「くるしむ…くるしんでなど…」
大太には苦しむという感覚が分からない。
「わからない…なぜ…」
「なんか、みんな何かで苦しんでるような気がするんだよ」
円の言葉に、大太が目を閉じた。
右手をゆっくりと動かす。苦痛なのか呻き声が出る。
側の杉を抜き去ると、円に投げつける大太。避ける円。
刹那、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が、スキル軽身功を使用して円を抱いて距離を取る。
「むちゃくちゃねぇー。乱暴だわー、それに、なに食べたらあぁなるんでしょうねぇ〜不思議ぃー」
オリヴィアは見上げて呟く。
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)がディフェンスシフトを使いつつ前に出る。
「悪いひとではなさそうです。大太さん、お話をしませんか」
「はなし…」
円の動きを見ていた大太が目線をロザリンドに向ける。
「はなしは…」
ぽろぽろ大粒の涙を流す大太。
「はなしは…知らない、はなし…」
泣きながら草木が茂り岩が苔むす腕を振り回す大太。5000年の眠りで節々が固まっている。動かすたびに呻き声が出る。
ロザリンドは5m近い巨大ランスで、その腕を弾く。しかし、怪力に敵わず衝撃で飛ぶロザリンド。
「りんりん、大丈夫ですかー」
桐生ひながロザリンドを受け止める。
「ハイナさんが来る前に、この子を倒さなければいけませんー。りんりん、戦いますよ」
ひなが皆に声を掛ける。
「今の時代は女の子だって第一線で戦えるのですよ〜。みんなに見せてあげましょ〜」
忘却の槍を構える牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)はニコニコ笑っている。
「巨人ですね、か弱い私でどこまでやれるでしょうか、ふふ。これだけ大きくなった、ということは弱かったのでは無いですか?」
「よわい…」
涙をこぼして暴れていた大太の腕が止まる。
「力や身体が弱くて、それ以上に心が弱かったから誰も傍に居ない高いところに逃げたんでしょう?
「逃げる…」
大太の重い大きな瞼が大きく開く。瞼の下に隠れていたのは邪悪な瞳だ。
「私をぐろうすることは、母をぐろうすること。ゆるさない」
大きな岩を持つとアルコリアに投げつける。
ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)がすかさず機関銃で岩を砕く。さな岩の欠片が周辺に飛び散る。
「妾の濃厚な鉛球でも食らうが良いのじゃよ、いひひ」
ツインテールの髪を揺らしながら、ナリュキが大太に機関銃を向ける。
狙った右手、機関銃を受けて岩や草木が崩れ落ちる。
「動きやすくなった」
大太は腕を振ると、片頬で笑う。
「あら、顔が変わった」
アルコリアがびっくりして、大太を見る。
「こんなに、大きくなって神にでもなったつもりなのかしら?片腹痛いですわね。その不遜打ち砕いて差し上げますわ」
ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)の金色の瞳が大太を見据える。
大太の顔が邪悪に歪む。再び腕に力をこめる大太の攻撃を制するかのように、
「畏れなさい、恐怖は己が内にあるのですわ」
ナコトは、その身を蝕む妄執を顔面を狙い牽制する。
両手で顔を覆う大太。
身体を揺する。大地が揺れる。
「大丈夫ですか、なんだか、またいっそう大きくなってる」
ロザリンドが見上げる。
「でかいが、まあそれは臆する理由ではない」
側で同じように大太を見上げていた機晶姫シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)は戦い方を考えているようだ。
桐生組、唯一の男性・ドラゴニュートランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)は白い鱗の巨体の竜人だ、三メートル近い長身をアルコリアの盾となるよう立つ。
「アル殿、怒らせるのは作戦ですか」
「作戦?」
小首をかしげ、ひなを見るアルコリア。
「泣いてばかりいる子どもでは倒すのも気がひけますー多少悪い子のほうが倒しやすいー、ですよ、きっと」
目の前の邪悪に変貌しつつある大太を見る。
皆に緊張が走る。その中でミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)だけは、なぜか浮かれている。
「わーでっかいぞーでっかい人間だー!あや取りでぐるぐるぐるぐるー楽しそうだなぁ」
「楽しいかどうか。始めますよー、まず右足ですー」
ひなの合図で皆は一斉に攻撃を始めた。
まず、ミネルバが、武器ナラカの蜘蛛糸を持ち、大太の周りを駆ける。足を絡ませ転ばせようとしたり、腕に絡ませる。特に右足を中心に巻く。
ナラカの蜘蛛糸には刃がある。
ミネルバが糸を引く。大太の手足に薄らと血が滲む
「精神力高くないとイタイイタイですよ」
シーマはメモリープロジェクターを使い、効果音と仲間の映像を大太の周りに映し出す。ミネルバを襲おうとした大太は、複数の彼女を見て、混乱を始めた。
ひなは、大太の身体を軽身功を使い駆け上がる。
大太が蜘蛛糸を解くために身体をかがめる。その隙に背中に回り、脊髄を狙って、アルティマトゥーレ、続けて則天去私を使い攻撃を仕掛ける。
身体を大きくよじる大太。ひなが弾き飛ばされる。木に打ち付けられる。
ナリュキが駆け寄る。
「ひな、無理するでないっ、戦いはまだ序盤じゃぞ」
アリスキッスを施すナリュキ。
ひな、再び立ち上がる。
ロザリンドは、右足を狙ってランスバレストを打ち込む。
大きな影がロザリンドを覆う。さっと避けるロザリンド。影は大太の右腕だった。
右腕は目標を失い、宙を切り、大木をなぎ倒す。
アルコリアも。ひなの指示に従い、まず右足を攻める。
脚を狙ってドラゴンアーツでの槍の投擲と同時に突撃、突き刺さった脹脛と思われる場所に、光条剣で斬撃する。
地団駄する大太。
脹脛に刺さった槍が抜け、飛ぶ。
アルコリアに向かう槍を防御したのは、ランゴバルトだ。
「アル殿!」
ランゴバルトはアルコリアにパワーブレスを授ける。
大太の腕がアルコリアを薙ごうと動くのを見て、ナコトは、魔法攻撃を次々に繰り出す。
蜘蛛糸を焼かぬよう、踝を狙ってファイヤストームで炙る。
「わたくしの魔力、侮らないで下さいませ!」
既にある傷口を狙って次々に魔法攻撃を打つナコト。
「全身が大きい分、当てやすいですわ」
シーマは、大太の関心が足に向いているのを幸いに、軽身巧で肩まで駆け上がる。
プロジェクターを使い、顔の近辺に複数の自らの画像を出すシーマ。
足の痛みのために、両手を振り回していた大太、何人ものシーマに囲まれて動きを止める。
「おなじ…?母とおなじか…」
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last