First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
「他校の生徒に遅れを取ってなるものですか! 行くわよ、みんな!」
空飛ぶ箒で林たちとは反対側に回り込んでいた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、パートナーたちに声をかけた。
「とりあえず、邪魔もんには倒れといてもらいましょか」
山城 樹(やましろ・いつき)が星輝銃で、物資の山の側に居る見張りを先に片付ける。
「ちょっと大人しくしてて下さいね?」
こちらへ向かってきた敵は、セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)が『適者生存』で戦意を削いで牽制する。その隙に、祥子と湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)が爆炎波を使った攻撃で物資に火を放つ。
「行くぞシーリル!」
おらおらおらおらぁ!と叫び声を上げながら、真っ先に突っ込んだのは国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。思わず自分の方を見た見張りに光術で目潰しを食らわせ、両手に持ったハンドガンを乱射する。
「ちょっとっ、あんまり考えなしに撃たないでよ! 弾数厳しいんでしょ!?」
援護をしようとショットガンを構えたシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が怒鳴る。
「よし、僕たちも行こう!」
イルミンスール魔法学校の高月 芳樹(たかつき・よしき)は、パートナーのヴァルキリーアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)、魔道書伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)、ハーフフェアリマリル・システルース(まりる・しすてるーす)に声をかけ、ライトブレードを持った手をかざして火の粉を避けながら駆け出す。テントの中から、休息していたらしい敵兵がさらに十人ほど出て来たが、完全に機先を制された格好だ。
「……これは……凄いですね」
蒼空学園の教師櫻井 馨(さくらい・かおる)は、そんな戦闘の様子をあっけに取られて見ていた。
「あの敵は……人間ではないのですか? なぜあんなふうに、ためらいもなく撃てるのでしょう」
私は人を殺したくありません、と呟く馨に、林は厳しい表情で言った。
「俺たちだって殺していい気分はしない。好きで殺すわけじゃないんだ。だが、敵は殺る気で来ているし、殺さなければ止まらない。それでも不殺を貫くと言うなら、皆に迷惑がかからないようにしてくれ」
馨は言葉を失った。
「戦う気がないなら、邪魔にならない場所に居てくれ。命がけで戦っているあいつらの邪魔になる」
林は薫を睨む。
「……戦う気がないわけじゃない!」
馨は思わず声を荒立てると、戦場に飛び込んで行った。
「他の物資はともかく、弾薬はもったいなかったか……?」
馨の背中を見送り、火柱を見て林は呟いた。その時、
「すみませんっ、遅くなりました!」
イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)とパートナーの剣の花嫁カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)が、それぞれのヒポグリフにローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)とグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)を乗せて現れた。
「お、重かった……」
「わらわたちを荷台代わりに使うとは、良い根性であるな」
ローザマリアとグロリアーナは転がるようにヒポグリフから降りると、地面に座り込んだまま背嚢を外した。
「仕方がないでしょう、荷物とお嬢さんたちを一緒に乗せるにはそれしかなかったんですから」
「そうだよ、それに、一番重たい思いをしたのはヒポグリフたちだし」
良く頑張ってくれたね、とカッティはヒポグリフの首を撫でる。
「しかも、もう始まっちゃってるし!」
戦っている生徒たちを見て、ローザマリアは叫ぶ。
「作戦の提案に来たのに……私、何しにここに来たのかしら……」
「提案があったんなら、本校と連絡が取れる場所まで戻って燭竜に話せば良かったじゃないか。俺とあいつはアンテナなくても携帯で連絡取れるんだし」
呆れたような口調で、林は言う。
「そ、そうでした……」
ローザマリアはがっくりと肩を落とす。
「これから、戦闘で挽回しましょう」
菊がパートナーを励ます。
「ああ、その前に、あいつらに弾薬を補給してやってくれ。オーヴィル、スタードロップ、お前たちもだ」
戦っている生徒たちを目で示して、林は言った。
「了解です」
イレブンとカッティは、背嚢を開けて弾薬を取り出した。
「こうなったら、暴れてやるー! グロリアーナ、菊、援護して!」
ローザマリアは弾薬を引っ掴み、駆け出した。グロリアーナは処刑人の剣を構えて伴走し、菊は後方からアシッドミストや弓で道を開く。
「ほらっ、弾!」
「おう!」
予備の弾倉を受け取った武尊は、またハンドガンを乱射し始める。他の生徒たちにも弾薬を届けた後、ローザマリアは担いでいたスナイパーライフルを下ろし、高速飛空艇に向けて、パイロットの姿を探した。
しかし、
「もうパイロットが乗ってしまっていますわ!」
発進を阻止するために高速飛空艇に駆け寄りながら、百合園女学院の冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は悔しそうに叫んだ。ローザマリアは舌打ちしながら操縦席に向かって引金を引いたが、風防に弾かれてしまった。
「させるかああッ!!」
松平 岩造(まつだいら・がんぞう)のパートナーのドラゴニュートドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)が高速飛空艇の翼の上に飛び乗り、風防をこじ開けようとした。しかし、高速飛空艇はゆっくりと空へ舞い上がった。重量のせいもあるのだろう、いつものスピードではないが、拠点の上空でくるりと機体をひねってローリング飛行を始めた。これではさすがに、ドラニオもしがみついては居られない。目を回して地上へ向け落下する。
「危ないっ!」
小夜子のパートナーのヴァルキリーエノン・アイゼン(えのん・あいぜん)が叫んで飛び出したが、その前に拠点探索に参加したヒポグリフたちが飛び出して、どうにかドラニオを空中で受け止めた。
「ドラニオ、大丈夫か!」
ブライトグラディウスで敵と戦っていた岩造は、乱戦から少し離れた場所に下ろしてもらったドラニオに声をかけた。
「あ、ああ……何とかな」
ドラニオは首を振りながら答える。
一方、もう一機の高速飛空艇には、比島 真紀(ひしま・まき)とパートナーのドラゴニュートサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が駆け寄っていた。
「てえええええいッ!」
高速飛空艇に向かってヘキサハンマーを振り下ろした真紀を見て、小夜子とパートナーの吸血鬼ルフト・ヴァンス(るふと・う゛ぁんす)は目を丸くする。
「確かに、乗られてしまったら厄介だとは思っていましたが……」
「こ、壊してしまって良いのですか?」
唖然とする小夜子とルフトに向かって、真紀は叫んだ。
「そう、発進されたら厄介ですから! だからここで壊すんであります!」
「やっべ、負けてらんないじゃん。こっちも行くよ!」
羽高 魅世瑠(はだか・みせる)は、パートナーの剣の花嫁フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)、シャンバラ人ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)、獣人アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)に声をかけた。
「えー、でも、あれ剣でなまずにできないよー?」
ラズが小首を傾げて魅世瑠に尋ねる。
「なまず? 剣じゃなくても、あんなもんなまずには出来ねーだろ……」
今度は魅世瑠が首を傾げる番だ。
「えーっと、うん、細かく切ったらなまずになる!」
ラズはうんうん唸ってから、にっこり笑って答えた。
「……もしかして魚の『ナマズ』じゃなくて『なます』……って言ってる間にッ!」
突っ込みかけたフローレンスが、離陸してしまった高速飛空艇を見て悲鳴を上げる。サイモンが翼にしがみついて必死で止めているが、もう時間の問題のようだ。
「とにかく、足を止めるぜ!」
フローレンスは『野生の蹂躙』を使った。周囲の森から鳥が集まり、高速飛空艇の周囲に群れる。
「ラズ、アルダト、ついて来な!」
魅世瑠はラズとアルダトに向かって手を振り、高速飛空艇に向かって駆け出した。
「はーい!」
「結局こういうことになるんですのね……」
ラズは元気良く、アルダトはおつきあいで仕方なく、と言う様子で返事をし、魅世瑠に続く。魅世瑠はパワードスーツの性能を生かして高速飛空艇の翼に飛びついた。しかし、足が地面に固定されているわけではないので、上昇する力に負けてぐいと体が浮く。
「えーと、とばしちゃだめなのかな?」
「だと思いますわ」
ラズとアルダトは、地上から離れてしまった魅世瑠の足にしがみついた。サイモンとあわせて四人分にパワードスーツの重さも加わり、さすがに上昇が止まる。
「今なら、こいつでも狙えるか?」
後方に居たロイ・シュヴァルツ(ろい・しゅう゛ぁるつ)は、曲射タイプの光条兵器を構えた。
「えーっと……もう少し右、で、もうちょっと上!」
パートナーの剣の花嫁エリー・ラケーテン(えりー・らけーてん)が方向を指示する。微調整をして、ロイは引金を引く。しかし、その直前に、高速飛空艇は急に高度を下げた。
「!」
「うわっ!」
「ひゃぅ!」
「きゃあ!」
高速飛空艇を押さえ込もうとしていた四人はバランスを崩し、それぞれ悲鳴を上げて地面に投げ出された。その隙に高速飛空艇は彼らの手の届かない高度まで舞い上がる。
「うーん、こいつならコクピット素通しで中の人間を狙えるんだが、精密射撃の技能があっても厳しいか……」
舌打ちをして、ロイはスコープから目を外した。
「まずいよ、反転して来た!」
ロケットランチャー型の光条兵器の狙いをつけながら、エリーが叫ぶ。
「機銃には機関銃だ! 補給も来たし、容赦しないぞ!」
蒼空学園の酒杜 陽一(さかもり・よういち)が高速飛空艇に銃口を向けた。
「そうよ、がんがんやっちゃいましょう!」
心の中で、『もし精神力を使い果たしたら、私の愛のキッスで思う存分回復してあげる!』と付け加え、パートナーのアリス酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が背後で叫ぶ。
「……えーと、今何か嫌な予感が……」
陽一は思わず振り向いた。
「おい、お前たち、危ないぞ!!」
高速飛空艇が高度を下げて来たのに気付いた岩造が怒鳴った。
「やべっ!」
正面を向こうとした陽一を、美由子が突き倒した。それまで陽一の頭があった位置を、機銃の弾が薙いで行く。
「くそ、早すぎて狙いが定まらん!」
ロイが歯噛みした。エリーの光条兵器は翼に命中したが、飛行が不可能になるようなダメージは与えられない。
反転して来た高速飛空艇が、再び突っ込んで来た。
(俺、もうダメかも……。深山さんのことがどうなったかも、気になってたんだけどな……)
美由子にのしかかられた状態で陽一がぼんやりと思ったその時、機銃の弾が吹き飛んだ。
「何とか、間に合ったみたいだな!」
木立ちの間から、ドラゴニュートアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)が姿を現す。彼がドラゴンアーツで弾丸を吹き飛ばしたのだ。
「応援に来たのだよ」
続いて、アンゲロのパートナーのケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)が、そして、相沢 洋(あいざわ・ひろし)とパートナーの魔女乃木坂 みと(のぎさか・みと)、そしてマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)とパートナーの吸血鬼アム・ブランド(あむ・ぶらんど)、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)とパートナーの剣の花嫁レナ・ブランド(れな・ぶらんど)、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)とパートナーの魔女クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)と、《工場》から移動して来た生徒たちが次々に現れる。
「重たい無線機を背負って来た甲斐があったわ」
伽羅たちと随時連絡を取っていたアムがほっと安堵の息をつく。
「お前なぁ、もうどけよ!」
間一髪助かった陽一は、自分を押し倒したままの美由子に向かって怒鳴った。
「……ざーんねーん」
美由子はぺろりと舌なめずりをして、陽一の腹の上から降りる。
「ありがとう、助かった!」
陽一は飛び起きて、アンゲロに礼を言う。
「あんたを助けたかったわけじゃねえ、ただ、鏖殺寺院の連中に好き勝手をさせるわけにはいかねえからだ」
アンゲロはふん、と鼻を鳴らした。
「既に発進した後ですか。着陸中を狙いたかったのですが、仕方がありませんな。上空からの攻撃に気を配りつつ、ここを制圧しましょう!」
クレーメック・ジーベックから指揮を任されたマーゼンが、仲間たちに指示をする。
「わたくしとマーゼン殿で守りを固めますので、魔法が使える皆さんは思う存分武勲を立てて下さいませ」
ハインリヒは、みとやアム、ヴァリアの前に出た。
「はーっははは! いいぜ! ついに使えるようになったこいつだ! この反動! 硝煙の香り! これを待っていたんだ!」
洋は担いで来た機関銃をどっかりと地面に設置し、乱射しながらみとの方へ振り向いた。
「みと! 前方、敵防衛部隊に対し、最大濃度でのアシッドミスト散布許可!! 構わん! 奴らには人権なんぞ与えてはいかんからなあ。化学兵器の使用も問題ない!」
「この魔法はあまり好きではないのですが、洋さまのご命令とあれば……」
みとは両腕を振り上げた。酸の霧が敵兵を包む。
「これだけじゃ、落とせないとは思うけどね」
無線機を下ろしたアムは、高速飛空艇に向かってアシッドミストを放った。一発で飛行不能になるほどのダメージは与えられないが、魔法を嫌って、高速飛空艇は高度を上げる。
「逃がしませんわ!」
ヴァリアがさらにアシッドミストで追撃するが、高速飛空艇はそのまま、追うヒポグリフたちも振り切って飛び去ってしまった。
「ち、逃がしたか」
アンゲロが悔しそうに舌打ちをする。
「地上の方はまだ残っていますぞ!」
マーゼンが注意を促す。
「行きます! レナ、あなたはここで治療と援護を!」
ゴットリープがレナに言って、飛び交う銃弾を見切って回避しつつ、カルスノウトを振り上げて敵に迫る。
「うん! 気をつけてね!」
レナはうなずくと、仲間たちに何かあったらすぐに行動を起こせるように、戦況を見守る。
「さーて、俺も出るかな。魔法を使っている者は、味方を巻き込まないように気をつけろよ!」
イレブンとカッティが弾薬を皆に届け終わったのを見て、林は手にしていた中国風の槍をしごいた。
「あんたらみたいな雑魚ども、あたしたちの敵じゃないし!」
高速飛空艇に転ばされたものの起き上がった魅世瑠たちも、アシッドミストで弱った敵を切り伏せて行く。
結局、戦闘は小一時間ほどで終わった。高速飛空艇が飛び去った後の地面のあちこちに、倒れた敵兵たちが転がっている。
「ああ……」
自分は誰も殺さなかったが、結果としては敵が全滅、という状況を見て、櫻井 馨(さくらい・かおる)は複雑な表情でため息をつく。
「ドラゴンアーツが使える者! 居たら穴を掘るのを手伝え。せめて葬るくらいはしてやらんとな。他の者は水源を探して消火だ! 敵が森に逃げ込んだ可能性もある、単独行動は慎めよ! ヒポグリフ隊は飛び火した場所がないか、上空から探索しろ」
槍の穂先についた血を払い、林は矢継ぎ早に生徒たちに指示をしてから、携帯を取り出した。
「おう、俺だ。敵の拠点は潰した。あとは、そっちの頑張り次第だ」
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last