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リアクション
第2章 乱戦
技術科研究棟での話し合いの間にも、校内では、相変わらず戦闘が続いていた。
「……例の話し合い、どうなったんでしょうか……」
『光龍』捌号機のレジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)は、心配そうに呟いた。
「いくら何でも、この状況で内輪もめなんて馬鹿馬鹿しいことはしないでしょ」
パートナーの機晶姫エリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)が、安心しなさいと言いたげに答える。
「それより、戦闘に集中しないと! 味方を誤射したら洒落にならないよ?」
「はう、そ、そうでした」
レジーヌはぷるぷると首を左右に振って、雑念を振り払った。しかしその時、防壁側の通路からわらわらと蛮族たちが現れた。その後ろに居る黒服の人間が手を振ると、蛮族たちはいっせいに、『光龍』に銃口を向けた。
「掴まって下さいッ!」
運転手がアクセルを踏む。急発進した『光龍』がそれまで停まっていた場所に銃弾が爆ぜる。
「な、なにっ!?」
レジーヌは悲鳴を上げた。
「明らかにこっちを狙って来ています。《冠》のことがばれたか、そうでなくても、『光龍』を脅威と認めて集中的に排除に出たか……」
砲手が厳しい表情で、どうしますか、とレジーヌを見る。
疾走する車上で、レジーヌは唇を噛んだ。立場上、ここに居る四人の中では少尉待遇の彼女がリーダーだ。自分で判断を下さなくてはならない。
「……まだ敵の飛龍も高速飛空艇も残っています。逃げるわけには行きません」
ひとつ大きく息をして、レジーヌは言った。
「相手は徒歩なんですから、今みたいに敵が来たら場所を移動すれば、捕捉される危険は少ないはず。細かく移動を繰り返すと砲手が狙いをつけるのが大変になるかも知れませんけど、お願いします。私は、本校も《冠》もパートナーも守り抜きたいんです。弾切れになるギリギリまで戦いましょう」
「……了解です」
運転手が言った。砲手もうなずく。
「あのね。《冠》が見えないように、頭にこれを巻いてもらえるかな?」
エリーズは、傍らに置いていたストールを取って、砲手に差し出した。
「もしかしたら遅いかも知れないけど、隠しておいた方がいいかなって思うんだ」
「わかりました」
砲手は立ち上がり、エリーズの頭にストールをターバンのように巻きつけた。
「なるべく敵から見えにくい、植え込みのある場所や校舎の影になる所へ移動しましょう。お願いします」
レジーヌの言葉に従って、捌号機は再び戦場へと戻る。その間に、レジーヌは無線で指揮本部と連絡を取った。
しばらくすると、
「お呼びとあらば即、参上!なーんてねっ」
軍用バイクに乗ったルカルカ・ルー(るかるか・るー)と、パートナーの剣の花嫁ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)、ドラゴニュートカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)、英霊夏侯 淵(かこう・えん)が現れた。
「ルカルカさん、すみません。お願いします!」
「ルカルカたちだって本校を守りたい気持ちは一緒なんだから、『すみません』は余計! で、鏖殺寺院が現れたら応戦すればいいんだよね?」
切迫した状況だと言うのに鷹揚に笑うルカルカに、レジーヌはうなずいた。
「前方に敵!」
運転手が叫ぶ。前方に、走って行く蛮族たちの姿があった。
「任せて!」
ルカルカは、パートナーたちに向かって手を振った。バイクのスピードを上げて、『光龍』の前に出ると、敵に向けて容赦なくブライトマシンガンを乱射する。
一方で、ダリルは『光龍』の脇についた。
「スピードを落として、敵を排除するまで下がるんだ」
ダリルの指示に従い、運転手はスピードを落とす。しかしその時、背後からも敵が現れた。
「任せな!」
淵がハンドルを切り、バイクをターンさせる。
「受けろ、我が神弓の矢を!」
諸葛弩を放つその隣で、さらにカルキノスがファイアストームを放つ。
「どうせ食えないなら、黒こげでもまったく問題ないからな。容赦なく行くぜ!」
「……今、『食う』って言いましたよ……」
ちょっと大変な人に応援を頼んでしまったかも、とレジーヌは青くなる。
「いくら何でも、味方を食べたりはしないよ、きっと」
エリーズが囁き返す。その間に、ルカルカは前方の敵をきれいに排除していた。
「後ろは食い止めとくから!」
こちらはまだ交戦中の淵が叫ぶ。カルキノスは毒虫を呼んでいる。やりたい放題だ。
「上空に敵! 狙いつけます!」
とりあえず前方の敵が居なくなったことで余裕が出来た砲手が、砲身を旋回させる。しかし、新手の敵が再びこちらへ向かって来た。
「敵も、上空から指示を出しているのかも……」
照準器から目を離し、空を見上げて、砲手が呟く。
「敵はルカルカたちが引き受けるから、絶対に守るから! レジーナたちは空の敵に集中して!」
ブライトマシンガンを乱射しつつ、ルカルカはレジーナに言った。
「援護するわ!」
葦原明倫館のユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)と剣の花嫁シンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)も、光龍の護衛に駆けつける。ユーナは雅刀を抜いて『光龍』の前に立ち、シンシアは『パワーブレス』を唱える。
「ありがとうございます! ……照準、お願いします!」
レジーナはうなずいて、砲手に指示を出した。
「《冠》とネージュを守り抜けても本校が落ちれば判定負け、敵の拠点を落として撤退に持ち込めればドローか判定勝ち……ルドラを倒せなければ完全な勝利とは言えない、と言うことかな」
『光龍』陸号機の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、戦いながらも冷静に勝利条件を計算していた。
「ルドラを引っ張り出すには、まず飛龍を完全に排除して、高速飛空艇が出て来ざるを得ない状況を作るべきです。まだ敵が浸透していない場所に移動して、飛龍を叩き落としましょう!」
「……む、敵の気配が……!」
陸号機の運転手を務める英霊グスタフ・アドルフ(ぐすたふ・あどるふ)が眉を寄せて周囲を見回した。校舎の影から、蛮族たちが姿を現す。
「助太刀するぜ!」
そこへ、『超感覚』で足音を聞きつけた橘 カオル(たちばな・かおる)と、パートナーの剣の花嫁マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)が駆けつけた。
「ありがとうございます。我の小隊から数人残しますので、かれらと共にここで敵を食い止めていてもらえますか。グスタフ殿、移動しましょう!」
「うむ!」
グスタフは『光龍』を発進させる。共に行動していた小隊のうち、三人がその場に残った。残りは軍用バイクで『光龍』の後を追う。
「よし、行くぞマリーア!」
カオルは雅刀を構え、『鬼眼』で敵を睨みつけた。敵が一瞬ひるんだ隙に、小次郎の小隊の隊員たちがアサルトカービンで敵を牽制し、そこへカオルと、グレートソードを携えたマリーアと共に突っ込む。
「うおおりゃあ!」
『爆炎波』で炎をまとった雅刀が、蛮族を一刀両断にする。
「当たらないよ!」
マリーアは敵の銃弾を身をかわして避けながら、グレートソードをぶんぶんと振り回す。たちまち、あたりは倒れた蛮族で一杯になった。
一方、『光龍』を運転するグスタフは、敵の気配に気を配りつつ、なるべく安全そうな道を選んで移動した。
「……ずいぶん、技術科研究棟に近い場所まで来てしまいましたね」
《冠》を装着している守護天使リース・バーロット(りーす・ばーろっと)が、少し不安そうな表情で言う。
「技術科の防衛も兼ねられて、一石二鳥と思うことにしましょう。小隊は周囲に展開。アンジェラ殿、照準を!」
「了解!」
小次郎の指示を受け、機晶姫アンジェラ・クリューガー(あんじぇら・くりゅーがー)が照準器をのぞく。
「まだまだ……撃ッ!」
小次郎が発射ボタンを押すと、光の弾丸が上空にいた飛龍を吹き飛ばした。
「次……だめだわ、遠くて照準があわせられない」
アンジェラは空を見上げた。飛龍の数が減ってきたことで逃げ回るスペースが出来た上、林の元に向かうヒポグリフが準備のためにそろそろ一時戦線離脱を始めたらしく、こちらも数が少なくなっているので、上手く追い込めなくなって来ているのだ。
「急ぐにこしたことはありませんが、焦らなくても良いです。ただ、警戒は怠らないようにしてください。グスタフ殿も、敵の気配を感じたらすぐに移動を」
小次郎の言葉に、アンジェラとグスタフはうなずいた。
その頃、『光龍』玖号機のアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)と、パートナーのシャンバラ人クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)、運転手を務めるアリスアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)、砲手のハーフフェアリーパオラ・ロッタ(ぱおら・ろった)は、車上でもめていた。アクィラが、『光龍』で曲射ができないかと言い出したのだ。
「ちょっと、それは無茶じゃないの? 光線はまっすぐに飛ぶもので、迫撃砲やなんかは重力の関係があるから曲がるわけだし…」
反対しているのはアカリだ。しかし、
「でも、曲がれって念じれば曲がるかも知れないだろ」
と、アクィラは譲らない。
「じゃあ、普通の光条兵器で『曲がれ』って念じて曲射できる?」
「うっ……」
アカリの反論に、アクィラは詰まる。
「まあまあ」
そこへ、パワードスーツを装着し、玖号機の護衛に入った青 野武(せい・やぶ)が割って入った。
「確かに、『光龍』に搭載されている砲は光条兵器の応用である。だが、原理的にまだ解明されていない部分も多々あるのだよ。最初から不可能と決めつけることはない」
「事ここに至っては、できることは何でもやってみるしかありますまい。『成らぬは人の為さぬなりけり』とも言います、試してみる価値はあるでしょう」
野武のパートナー黒 金烏(こく・きんう)もうなずく。
「そうですよ!」
機晶姫青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)が叫んだ。
「まっすぐ進むと思っているものでも、実はそうでもないかも知れませんよ? たとえば……」
「余計なことを言うんじゃない、このポンコツロボットが!」
言いかけたところで、野武がいきなりすぱーんとノニ・十八号の頭を引っぱたいた。
「い、いきなり何ですかー! まだ何も言ってないですよぅ!? それに、ロボットじゃなくて機晶姫ですぅ!」
「お? いや、今何か不穏なことを言いそうな予感がしたものでな……」
野武は不思議そうに自分の手を見て首を傾げる。
「じゃあ、せめて楊教官に、可能性があるかどうか聞いてみるとか……クリスのパワーは無尽蔵じゃないんだし」
「…おお、ホレーショよ、この天地には汝の哲学のオーソリチィーの通ぜぬ物がまだまだ山とあるのですよ」
まだ納得できないでいるアカリに、英霊シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)がずいと迫る。
「なに、それ」
だが、詩人らしく、シェークスピアと藤村操の遺書の言葉を混ぜた反論は、アカリには理解できなかったらしい。そっけない反応に、シラノはがっくりと肩を落とす。
「何回か試してみるくらいなら、別にいいんじゃないの? ねえクリス」
パオラがエネルギー源であるクリスティーナを振り返る。
「一応回復の手段はあるので、大丈夫だと思いますぅ」
クリスティーナはうなずいた。
「せっかくのアクィラさんの発案ですし、青さんもああ言ってますしぃ、とにかくやってみましょうよ」
「……クリスがそう言うなら……。でも、状況が状況なんだし、やってみてダメならすぐに諦めなさいよ?」
しぶしぶ、という様子でアカリは引き下がった。
「よし。じゃあ、とりあえずテストしてみるか」
アクィラとクリスティーナは『曲がれ』と念じながら、とりあえず一発試射してみた。だが、期待に反して、光の弾はまったく曲がらずに直進した。
「うーん、念じ方が足らなかったかな?」
アクィラはさらに二発ほど試してみたが、やはり曲がらない。
「ほら、諦めなさいってば!」
アカリがため息をついたその時、背後からばたばたと足音がした。
「お父さん、敵ですよぅ」
緊張感のカケラもない声でノニ・十八号が言う。
「うわ、まずいな。みんな、通常戦闘に移行するよ!」
「了解である!」
野武がパワードスーツをガチャガチャ言わせながら前に出る。
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