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嘆きの邂逅~悲喜の追録~

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嘆きの邂逅~悲喜の追録~

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○     ○     ○


 遺体、遺品をすべて、部屋に運びいれた後も、尋人は、テレポートしてきた場所に、まだ立っていた。
 傍らには、人型となった雷號の姿がある。会話はほとんどしなかったが、雷號はずっと尋人と一緒に作業に勤しんでいた。
「お疲れさまでしたねえ」
 霧神が、トレーにティーカップを乗せて、2人の所に戻ってきた。
 カップを受け取って、霧神が淹れたハーブティーを一口飲んだ尋人の目から、ぽたりと、大粒の涙が落ちた。
 霧神は何も言わず、見なかった振りをして、雷號にもティーカップを差し出した。
 雷號は無言で受け取って、今は自分達に背を向けている尋人を見つめる。
 もう、死ぬかと思ったあの時。
 それでも、咄嗟に尋人を庇えたことが、雷號の誇りとなった。
 あの時、尋人は『もっといろいろ話したい』と言っていたが、今の互いに相変わらず、会話はあまりない。
 しかし、信頼は確かに強くなったと感じている。
 自分だけではなく、共にあの暗い地下の中で力を合わせた者達全てと、尋人の間でも。
 雷號はそう感じながら、小さな声で呟いた。
「……離宮ではいろんなものを得た。尋人もいつか気付く」
 尋人はまだ、背を向けたままだった。
 地面に、水滴がぽたりとまた1つ落ちた。

「ところでさ」
 ファビオ達との会話を終えたジュリオに、リュミエールが問いかける。
「ジュリオをここの封印の役に選んだのって、もしかしてソフィア?」
「……どうしてそう思う?」
「だって頼まれ事とか、涙にすごく弱そうだし騙しやす……いやなんでもないよ」
 にこっとリュミエールが笑う。
 ジュリオは軽く眉を寄せて不機嫌そうな顔となり、エメは苦笑しながら、2人を見守っている。
「自ら志願した。6人の女王の騎士の中で、既婚者で子供がいたのは、私だけだったからだ。他の者には代わりに封印を解ける存在がいなかった」
「……なるほど」
「まあ……真っ先に賛成して反対者を説得したのはソフィアだが」
「あ、やっぱり?」
 リュミエールはくすくすと笑い、ジュリオは自嘲的な笑みを浮かべる。
「離宮では、どのような暮らしをされていたのですか?」
 エメが穏やかな声で問いかけた。
「忙しない日々だった。思い出されるのは会議に監督に、戦い……だが、良い仲間に恵まれて、私は充実した日々を送っていた」
 ジュリオから見た、マリザ、マリル、ファビオは、娘、息子のようでもあった。
 マリザは明るくて、ムードメーカーだった。お転婆で、トラブルもよく起こしていた。
 マリルは優しさと強さを兼ね備えており、部下達の姉的存在だった。
 ファビオは優しくて繊細な少年だった。本来の性格は情熱的だというのに、内に秘めていることが多かった。
 カルロは穏やかな青年だった。彼の怒りは見たことがない。ソフィアとの恋愛に敗れたという噂が流れていたが、彼女に対して、憎しみの感情を抱くことも、仕事に影響を出すこともなかった。
 ソフィアは……頼りになる女性だと、ジュリオは思っていた。
 人柱になる直前まで、彼女のことを一切疑ってはいなかった、と、ジュリオはエメに語った。
「封印術を発動する時点で、私は彼女が疑わしいということに気付いた。しかし、その時には既に、止めることは出来ない状況にあった。……未来に託すしかなかった。もっと早く、彼女の裏切りに気付いていれば……。お前達に剣を向けてしまったこと、傷つけてしまったこと……全てにおいて、不甲斐ない」
 ジュリオの言葉に、威厳はまるで感じなかった。
 彼はずっと、自責の念に駆られていた。
 そして、エメはそんな彼をずっと案じ続けてきた。
「この街は現在も美しい。それに、御家名は今も残っています。護れたという事実を認めるのに、これ以上どんな証が必要ですか?」
 穏やかに、ジュリオの心にエメは語りかける。
「時の向こうに失ったものは、確かに取り戻せませんが……」
 目を細めて、エメはジュリオに切なげな微笑みを見せた。
「せめて、この背を預けさせてください……兄さん」
 軽く、驚きの表情を浮かべた後。
 ジュリオは吐息をついて、淡い笑みを見せた。
「ありがとう、エメ」
「……よし」
 微笑み合う二人の間に、リュミエールがひょっこり入ってくる。
「ねえ、後で観光しない? 凄く見に行きたい所があるんだ。どれほど想い出が美化されてるかも興味あるし」
「……古王国時代の施設でもあるのか?」
「施設というか……モデルと彫像を一緒に眺める事ができるなんて、すごく稀有な機会だろう? 是非本人の生の感想も聞かせて欲しいな」
「全くお前という奴は」
 苦笑しながら、ジュリオはリュミエールの肩を、ぽんと叩いた。
「行こうか。私も興味がある」
「面白そうですね」
 エメもジュリオに並んで歩き出す。
 女王の騎士の姿が刻まれている、騎士の橋へと。

「ここでいいか?」
「うん……」
 北都と共に、ラズィーヤから借りた台を運んできた。
 地下に離宮がある、場所に。
 昶が見守る中、北都は台の上に花を添える。
 それから、目を閉じて祈りを捧げた……。

 太陽の光が降り注ぐ、明るい場所だった。
 近くに建物もなく、さわやかな風が草木を揺らして吹き抜けていく。

 守ってくれて、ありがとう――。

担当マスターより

▼担当マスター

川岸満里亜

▼マスターコメント

沢山の心の籠ったアクションを、ありがとうございます。

行いたい(行わなければならない)ことが沢山ある方も多かったようでした。今回は出来る限り結果として描写をいたしました。
個人的な後日談までは描けなかったのですが、そちらは機会がありましたら、休日系のシナリオ等でまた行っていただければと思っております。

貴重なアクション欄を割いての私信等、本当にありがとうございます。
今回はほとんど個別のお返事を書くことが出来なかったのですが、次の機会には時間を作れたらと思っております。
長い間、離宮の物語を共に紡いでくださり、ありがとうございました。