天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

嘆きの邂逅~悲喜の追録~

リアクション公開中!

嘆きの邂逅~悲喜の追録~

リアクション


第3章 中心部

 北塔から南へ向かう道は、アルコリアが先陣を切り、敵の殲滅に当たっていたことと、先の戦いの際に、武尊らにより、地下道の掃討は済んでいたことから、障害となるものはほとんどなかった。
 宮殿方面に向かった一向は、宮殿前まで一緒に行動をした後、各々目的の場所へと向かうことにした。
「私は宝物庫に行ってくるね」
 宝物庫を調査した班の班長を務めていたこともあり、琳 鳳明(りん・ほうめい)は、宝物庫周辺の片付けに志願していた。
「お願いするわ。閉じ込められたりしないようにね」
「大丈夫。今回はセラさんも一緒だしね」
 ティリアにそう答えて、鳳明はパートナーのセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)に微笑みを向けた。
 以前、離宮に下りた際には、セラフィーナは鳳明を案じながら地上で連絡係を務めていた。
「そうですね」
 セラフィーナはそうとだけ答えて、周囲に目を向けた。
 話には聞いていたが、宮殿の周りは酷い状況だった。
 人の姿形をした死体が、沢山あるのだ。
 薄暗く、死の臭いが漂い、逃げ場のないこのような場所で、よく鳳明は正気を保っていられたものだと、セラフィーナは苦悩とも、安堵ともいえる感情を抱く。
「こっちだよ」
「ええ」
 そして走り出す鳳明に続き、セラフィーナも宝物庫へと向かっていく。
「ここに、光条兵器使いが押し寄せて大変だったんだよ」
 宝物庫へと続く扉の前に到着をして、鳳明がセラフィーナにそう言った。
 説明がなくても、わかるほどに、その場にも戦闘の跡が深く残っている。
「内側から塞いじゃったから、開けるの大変だけど手伝ってね」
「塞いでいる荷物をどかせばいいのですね」
 鳳明とセラフィーナは、入口を塞いでいる荷物を下したり、落としたりして、入口を開けていく。
 それから工具を使って、扉も簡単に修理をして、閉められるようにした。
「当たり前だけど、あの時のままだね……」
 感慨深げに言って、鳳明は中へと入っていく。
 後に続き、セラフィーナは宝物庫の中を見回す。
「ここにある物を調べれば、色んなことが判るかもしれない」
 言いながら、鳳明は入口を塞いでいた荷物、皆で集めて持ち帰るかどうか相談をし、そのままになっていた物品ひとつひとつを、棚に戻していった。
「例えば古王国時代のこと。――5000年も前の事だもんね。未だに判らないことも多いんだろうな」
「そうですね。当時、シャンバラは優れた技術を有していましたから」
「うん、失われた知識や技術。もしかしたら、この中に機晶に関する技術も眠っているかもしれない」
 鳳明は軽く部屋を見回した後、セラフィーナに笑みを見せる。
「……でも、今はまだお預けだね」
「はい」
 鳳明の微笑みに、セラフィーナも淡い笑みを見せて頷いた。
「それにしても」
 くすりと微笑みながら、セラフィーナは言葉を続けていく。
「今まではワタシが前に立って導いていたつもりが、気がついたらすぐ横に立って歩いていましたね。遠くない未来、キミはこのままワタシを追い越して前を行くのでしょうか?」
「ん?」
 鳳明はセラフィーナの言葉に、きょとんとした表情を見せた。
 その顔にはまだ、幼さが残っていて、セラフィーナは何故か少し安心をした。
「……そうなっても、キミの側を離れないように。うかうかしてられませんね。キミと共に、前へ前へ歩きましょう」
「うん!」
 鳳明は輝く笑顔を見せた。
 そして、一緒に宝物庫の中を、片付けていく。
 宝物、一つ一つを丁寧に、大切に扱いながら。

○     ○     ○


 宮殿の中には、光条兵器使いの姿があった。
 地下に残っていた残党が、宮殿内に上ってきたようだ。ただ、こちらの人数も多いことからさしたる問題はなく、一行は中央地下へと足を進めていた。
「……こっちだ、足下に気を付けるぽん」
 攻略隊の一員として、宮殿の調査に当たっていた四条 輪廻(しじょう・りんね)は、パートナーの大神 白矢(おおかみ・びゃくや)と共に、先導をしていた。
「……ここは特に敵が多かった、残党が出る可能性もあるから注意するぽん……」
「うん、皆離れないようにしようね。……だけど」
 ティリアの前を歩くレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、軽く眉を寄せている。
「現れたぽん」
 柱の陰から、光条兵器使いが姿を見せる。
「先手必勝じゃな!」
 即、ミア・マハ(みあ・まは)が濃度の高い、アシッドミストを放った。
「行くよ!」
 レキは封印解凍をし、攻撃力を上げ、チェインスマイトで現れた光条兵器使いを倒した。
「そうだ、そうやって攻撃前に倒してしまうぽん」
 輪廻は真面目な顔で、離宮に降りたことのない者に説明をしていく。
「相手は知能が低く組織立った行動などは取ってこないはずぽん……。牽制しつつ進路を塞いでしまえば問題なく防げるはずぽん、あぁ、それと……他になにか言うことは……」
 饒舌に話し続ける輪廻を前に、レキはいぶかしげに眉をひそめたままだ。
 そして一言こういう。
「すっごく真面目な話なのに、なんで『ぽん』!?」
 こほん。と、白矢が咳払いをする。
「……四条殿……拙者も思っていたでござるよ。なぜ狸化を、と……?」
 くるりと輪廻は背を向けて、地下へ続く階段を下りていく。
「ふむ、緊張感は保つ必要があるが、場所が場所だけに、あまり気が重くなるのも問題ぽん、まぁ多少は和むかなと思ったんだぽん」
 倒れている数々の光条兵器使いの体を目にしては、軽く目を伏せて輪廻は進んでいく。
「一番気が重いと思っているのは……いえ、なんでもないでござるよ」
 そっと息をついて、白矢が続いていく。
「……そうぽんね。ぽんぽん飛び越えていこうぽんね」
 そんな言葉を、輪廻の背に向けてレキは口にした。優しい声で。
 ごく僅かに輪廻は口元に笑みを浮かべて「ありがとう……ぽん」と小さく呟き、先に進む。
「さあ、こちらです。騎士の皆さんが待っています」
 かつて、仲間達とこの道を通ったことのある比島 真紀(ひしま・まき)サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)と共に、ティリアや皆の前を歩き、導いていた。
「あの時と、変わってないね……でも、今度は仲間だから、嬉しいね」
 サイモンが、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)に目を向ける。
 エメも攻略隊の解放班の一員として、当時ここを訪れている。
 そして、組織に洗脳されていた『激昂のジュリオ』と対峙し、仲間達と共に戦い、倒して――彼を地上に連れ帰った。
 それからエメは、彼の回復を願い、意思を確認し、彼との契約に至っている。
 そうして現代によみがえったジュリオ・ルリマーレン(じゅりお・るりまーれん)は、この離宮での出来事をあるまじき失態と考え、日々、自責の念に駆られているという。
「ええ。二度と彼が私達に剣を向けることはないでしょう」
 そう答えて、エメは瓜生 コウ(うりゅう・こう)に目を向けた。
 彼女も、6騎士の1人をパートナーとする地球人だ。
「マリザはジュリオ・ルリマーレンと共に来れると聞いて、とても喜んでいた。……ま、あの時のことを追及して弄り倒すとかも言ってたけどな。彼女なりの愛情表現だし、ジュリオも受け入れてくれるだろう」
 瓜生 コウ(うりゅう・こう)は、マリザの言葉を思い出し、軽く笑みを浮かべる。
 今頃、ジュリオはマリザの追及に降参しているかもしれない。
「……さて、私はこの辺りで退路の確保に務めようかしら」
 そう言ったのは、伏見 明子(ふしみ・めいこ)だ。
 明子は途中まで、調査隊員として協力していたのだが、途中で事情により地上に戻ってしまったため、最終局面に立ち合ってはいなかった。
「私達の存在に気付き、目を覚ました敵さんもいるようだしね」
「お願いするわ。でも無理せず、危ないと感じた時には合流してね」
「了解」
 ティリアの返答を受けた後、明子はパートナー達とその場に立ち止まり、階段から宮殿の出口までの道の確保に努めることにする。
「私達はもう少し下の、以前も退路の確保を行った場所を担当させていただきます」
「よろしくね。お互い自分達が運ばれたりしないよう、気をつけよう」
 エメと、パートナーのリュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)が、明子にそう言い、階段を駆け下りていく。
「大丈夫よ。ここは任せて」
 答えた後、明子は槍を構える。
 階段の上から、光条兵器使いの姿が現れた。
「外はアルコリアさんが回ってくれているはず。私達は外に向かう道の確保に専念しましょう」
「うん、そうだね」
「りょーかい」
「わかりました」
 パートナーの九條 静佳(くじょう・しずか)レヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)が、それぞれ返事をして武器を構え、前方と後方に散った。