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嘆きの邂逅~悲喜の追録~

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嘆きの邂逅~悲喜の追録~

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「またここに来ることになるなんてね……」
 離宮調査隊員として、調査に加わっていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と共に、南へと歩き出した。
 美羽は『アレナが離宮を再封印するための犠牲になった』と感じており、戦いのその結末にずっとわだかまりを感じていた。
 アレナと優子が離れ離れになってしまったことを、ずっと気にしていたから。
「早く、アレナを見つけなきゃ」
 美羽は急ぎ足で、まっすぐ南を目指す。
(止まっていた離宮が、また動き出す……そして)
 アレナを言葉で導いてきた早川 呼雪(はやかわ・こゆき)も、この場に来ていた。
(俺の中の時間も……)
 離宮がらみの一連の事件の後に。
 アレナを失った優子だけではなく。
 自分の中でも時が止まってしまっていた部分があったような気がしていた。
 悔やんだ事も多くあったけれど……。
「やっとは針を進める事が出来るんだ……」
 小さな小さな呼雪の呟きに、ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)は無表情で頷いた。
 表情には何も現れてはいなかったけれど、ユニコルノは何故か痛みを感じていた。
 歩いていくうちに見えてくる景色は……戦いの爪痕が生々しく残っていて。
 薄暗くて、緑の草木はなく、人が住めるような場所でもない。
「アレナ様がこんな場所で眠りに就かれたと思うと……」
 体の中央にある何かが、ずきずきと痛んで。締め付けられるような、そんな感覚をユニコルノは受けていた。
「アレナちゃんには、僕もあってみたいと思ってたんだ」
 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)はそれだけ言って、2人より半歩遅れて早歩きしていく。
 大切な人である呼雪が、アレナのことを凄く気にしていたから。
 別にやきもちというわけじゃないけど……。
 そんなことを考えながら、ヘルは真剣な呼雪とユニコルノに変わって、ディテクトエビルを使い警戒しておく。
「アレナさんのこと、よろしくね」
 調査隊員として、宝物庫の調査を担当していたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)も、パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)を連れて、アレナを救出に行く班に同行をする。
 カレンは東シャンバラのロイヤルガード隊員でもある。
 この半年間、隊長である優子の指揮下で働らいてきたことで、感じ取ったことがあった。
 離宮から帰って間もない頃、カレンは優子を案じて、会いに行ったことがあった。
 その時。優子は自分が辛いはずなのに、まず最初に周りのこと――カレンや、仲間達のことを、気遣ってくれた。
(すごく強い人だなって思ったけど……今は、やっぱり違うって思う)
 優子は『自分の心の内にある悲しみや痛みを表に出さずに耐えられる、強い人』ではなくて、『自分の心の内にある悲しみや痛みを無意識に封じてしまう人』なのではないかと。
(今のまま、一人で何もかも背負い込んでいけば、いつか必ず壊れる日が来るんじゃないかな……)
 だから。
 カレンはアレナを助け出したいと強く思う。
 直接の救出は、アレナ自身を助け出したい人に任せて、自分は援護に徹するつもりだった。全ての力を出して。
「アルコリアさん、お願いしますね。でも無理はなさらないようにしてください」
 ロザリンドが、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)に離宮の地図を手渡した。
「ふふ、大丈夫ですよ」
 アルコリアは携帯電話のタイマーを1時間45分後にセットした。
 彼女は、ロザリンドから話を聞いて、皆のサポートに……離宮内にいる、人型兵器を滅しにきた。
 そして、さっと地図を確認し、辺りを見回す。
「北と東の塔や、このあたりの地下には兵器はもうないんですね。ううん、厄介なのが沢山残っているんだけれど、それは起こさないのよね……。それじゃ、行こうか」
 アルコリアはパートナー達に目を向ける。
 白百合団員のシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)は、皆が作業を行う場所を巡回。
 魔道書のナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)には、北の塔から南の塔への間の敵の対処を。
 魔鎧のラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)には、自分についてくるようにと、指示を出してある。
「あなたの実力については、耳にしているけれど、自らの力を過信しないようにね」
 ティリアは、ロザリンド以上に心配そうだった。
 だけれど、班長であり、ロイヤルガードでもあり、実績を兼ね備えているロザリンドの推薦であることから、アルコリアを引き止めたりはしなかった。
「お気をつけて。時間には必ず戻ってきてください。……ありがとうございます」
 ロザリンドは、自らの責任でアルコリアを送り出す。
「殲滅してきます」
 くすり、とアルコリアは黒い笑みを浮かべて、神速で駆けだす。
「イエス、マイロード。荒事はお任せくださいませ」
 ナコトも、アルコリアの指示通り、北の塔付近から、敵の姿を探していく。
「ふん……素直でない」
 アルコリアとラズンが向かった方向を見ながら、シーマは呟いた。
「だが、概ね賛同できる。遺憾なくこの槍を振うとするか」
 そして、ナコトに続いて、走り出し、近辺を探っていく。
「地上から行きましょう。地下から出てくることはないと思うけれど……警戒は忘れずにね」
 宮殿付近までの地下通路の兵器は破壊済みだと報告を受けている。
 ティリアは宮殿に向かう者達にいくつか指示を出した後、封印に協力をしてくれる者達を連れて、宮殿へと出発をする。
「では、お掃除してくるです」
 ヴァーナーも、掃除に向かう者達と南の方へと走りだす。
「……それじゃ、始めるわよ」
 瑠奈が真剣で、少し悲しげな表情で言い、回収班の作業も開始される。
「こっち。台車、運ぶ」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、スコップ、担架、毛布等、台車に乗せられている手配してきた道具を、南の方へと運んでいく。
 少し歩いた先に、陥没した大地がある。
 この地から去った時と、何も変わらぬまま。

○     ○     ○


 先遣調査や攻略隊で隊長を務めた樹月 刀真(きづき・とうま)は、回収班作業開始と共に、風見瑠奈に事情を話して、自らが最後に向かった場所――北地点の地下にある制御室を訪れた。
 刀真が持ち帰らなければならないものが、ここに存在するから。
 それは、彼が切り落としたソフィア・フリークスの腕だ。
 そして、その腕にはめられていた腕輪。
 あれから、半年の時が流れたというのに、彼女の腕はあの時のまま、制御室に在った。
 腕を拾い上げながら、当時のことを思い出す。
 腕を斬られた後、ソフィアはパートナーの円に謝罪の言葉と、礼の言葉を言った。
 そして、彼女に対して、笑顔も見せた。
「この腕は、彼女に渡すべきですね」
 腕にはめられた腕輪は、いまだ嵌められたままの状態だった。
 調査の結果、この腕輪と同種の腕輪には爆弾が仕込まれていたということも、判明している。
 刀真は無理に外すことはせずに、持ってきたシートで彼女の腕を包む。
「これが裏切りを防止するために嵌めさせられた爆弾付きの腕輪なら、その事実を公表してもらいましょう」
 そうすることで、騎士の橋のソフィアの像を撤去を望む人や……落書きをしたり、傷つけようとする人の心像が変わってほしい。
 この情報で心像を変える人達に、彼女を裏切り者として扱って欲しくはない。
 知っている人たちが、それぞれの思いで、彼女を覚えていればいい……と、刀真は考えていた。
「その後、この腕輪はどこに?」
 月夜が刀真を手伝いながら問いかけた。
「ヴァイシャリー家管理になるだろうな」
 月夜は「そう」とだけ答えた。
 刀真に話しはしなかったけれど、個人的にラズィーヤにソフィアの遺品としてパートナーであった桐生円に渡すことを考えてはもらえないかと、お願いしてみようと思っていた。
「戻ろう。時間、限られてるから」
「そうだな」
 先に、月夜が制御室から出る。
 刀真も制御室を調べたりはせずに、自らがすべきことだけをして、回収班の手伝いに戻ることにする。
(アレナ・ミセファヌスを連れて地上に戻ったら、署名を提案した方にも礼をしにいかないとな。あの時、彼女が協力してくれたこともあって、今があるのだから)
 帰ってきてほしいと願っている人達の気持ちを裏切ることにならなくてよかった。
 そう思いながら、刀真はふと、後ろを振り返る。
 アレナが眠っていると思われる方向を。
(……白花……)
 刀真のもう一人のパートナーである、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)は、ここにはいない。
 扶桑に取り込まれたままだった。
 刀真は、アレナと優子の今の状況を、白花と自分に重ねてしまう。
 アレナを連れて帰って、優子と一緒にいるところを見ることができたのなら……何か、希望が見えてくるのではないかと、そんな淡い思いを抱いていた。
「時間ない。行こう」
 月夜が立ち止まった刀真の腕を引っ張った。
「うん」
 刀真は月夜に腕を引かれて、皆の元へ戻った。

「わかってはいましたけれど、調査は難しいですわね」
 離宮対策本部で、副本部長として尽力した神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)も、パートナー達と共に、離宮に下りてきていた。
 現在は、北側の地下道にいる。
 2時間はかなり短い。
 事前準備に力を注ぎたかったところだけれど、その時間もあまり取れなかった。
 とはいえ、エレンは事件後も、資料の調査や先を見据えた提案を行い続けていたため、必要最低限の準備は出来ていた。
 ただ、ラズィーヤは離宮の調査に前向きではなく、非協力的だった。
 敵対勢力が技術を狙ってくる可能性、メンバーの中に潜入する者が出る可能性、そしてまた犠牲が出る可能性が、きわめて高いと考えられるからだ。
 だからこそ、今回が離宮を調べる最後の機会になる可能性もある。
「ここでは調査を行わず、資料やデータを持ち帰ることに専念しましょう。全部の箇所を素通りして回るだけでも、2時間以上かかってしまいそうですものね……」
 北の塔から、南の塔まで、歩いて向かったとしたら敵に遭遇しなかったとしても、数十分の時間がかかってしまう。
 地下道だけであっても、エレン達だけでくまなく調べることは不可能だった。
「どこを調べるか……それを決めんとのう」
 フィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)が顔をしかめる。
 調べたい場所は多く、どこと決められずにいた。
「できるだけ情報を持ち帰りたいですけれど、絞った方がよさそうですわね〜。としますと、ここと、宮内の制御室でしょうか。いえ、制御室は他の方にお任せしましょう〜」
 鎧化し、エレンに纏われているエレア・エイリアス(えれあ・えいりあす)がそう意見を出す。
 先の離宮調査において、到達できなかった重要ポイントはわかっているだけで、2範囲。
 1つは、宮殿の制御室。ジュリオ・ルリマーレンが眠っていた部屋の奥だ。
 ただ、ここは記憶を取り戻しつつある6騎士達が把握している場所であるため、今となっては特に問題はない。
 もう1箇所はここ……北の塔、使用人居住区の地下だ。
 離宮を管理している制御室の他に、いくつも部屋があることが判明している。
「時間か人手、どちらかがあればまだよかったのですけれど」
 さすがに、遺体や遺品の回収に力を注いでいる者達に調査を手伝ってとは言えないから。
 エレンはパートナーと共に、とりあえずはこの近辺を走り回って調べて回ることにする。
「この部屋から調べるある」
 プロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)が、慎重にドアを開けて、中の部屋をデジタルビデオカメラで撮影していく。
「本があるのう」
 フィーリアが入り込み、本を手にしてめくってみる。
「何が書いてあるのかはわからぬが、持てる範囲で持ち帰るとしよう」
 そして、持ってきた箱の中に、本を入れていく。
「壁に文字が書かれているある……」
 プロクルは壁の文字に気付く。
「おそらく他の部屋に繋がっているのでしょうけれど」
 エレンも、エレアのダークビジョンで文字を確認し、近づいて触れてみたが、反応はなかった。
「合言葉か何かが分からないと、通れないようですわね」
「ピッキングでも無理かしら?」
 エレアが問うが、エレンは首を左右に振る。
「6騎士のどなたかなら、わかるかもしれませんけれど……」
 事前に、調査をしようと皆に呼びかけておけば、少し違ったかもしれない。
 だけれど、あの場に呼ばれた人達には、それぞれ他に目的があるし、転送の難しさから大人数を送ることが出来ないということも、熟知していたから……。
 エレンは軽く吐息をついた。6騎士を呼んで調べている時間はない。
 わずか数分、部屋を見回した後、隣の部屋へと移動することにした。
「いつ行えるようになるのかはわかりませんが、眠っている兵器類を無力化したり、地盤沈下や悪用などを防ぐためにも、浮上させての再開発は必要になりますわ」
 あとは最低限、離宮を一周して、造りを見ておきたい。
 出来るだけ、その時安全に浮上させることができるよう、被害や事故などが起きないように、現状を把握しておかなければならないと考えて。