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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

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・勧誘


「何の用かね?」
 空京大学学長を退き、一技術職員となったアクリト・シーカー(あくりと・しーかー)に、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は接触した。
「いいのかい。こんなところで燻ったままで」
 揺さぶりをかける。
 彼の決めた選択を覆すために。
「私は、今度こそ正しいシャンバラを目指すと決めた。悔いはない」
「キミとってはそうかもしれない。だけど、『正しいシャンバラを目指す』ために、ここよりも力を発揮出来る場所があるんじゃないかい?」
 十人評議会。
 ブルタは噂でしかその存在を知らない。だが、世界を裏で操る存在がいるとすれば、彼はその一員として動いた方がよっぽど有意義だ。
「地球とシャンバラ、どちらの視点も備えているキミならば、双方が争わないで済む道も切り開けるかもしれないよ」
 悪魔が囁くかのように、アクリトを追い込もうとする。
「その才能、もっと世界の役に立てた方がいいよ」
 だが、アクリトは決して誘いには乗らなかった。
「私からの答えは変わらない。帰りたまえ」
 ブルタの口車に乗せられるほど、アクリトも愚かではなかった。

* * *


「見ていたのだろう? 彼も、君達の仲間か?」
 ブルタが去った後、窓の外を眺めていたアクリトは、背後の気配に尋ねた。
「失礼。扉が開いておりましたので」
「しっかりと閉まっていたはずだが」
 そしてアクリトはその人物――サングラスをかけた黒いスーツ姿に向き直る。度々彼に接触を図ってきている男だ。
「君達の元へ行くつもりはない」
「先日はまだ迷ってお出ででしたが……残念です。貴方は『こちら側』の人間であると、主達が仰っていましたが」
「前までは、そうかもしれない。だが今は違う。私はここで、今の私にやれることをやるだけだ」
「『彼が御神楽 環菜を暗殺した段階で、接触を図るべきだった』と主達は仰ることでしょう。いえ、実行したのはパートナーでしたか。どちらにせよ、我々は遅すぎたということでしょう」
 淡々と喋り続ける相手の真意は読めない。
「最後に一つ聞く。君の主達というのは、『十人評議会』と呼ばれるものか?」
「その質問への答えを、私は持ち合わせておりません。主達の真の姿は、私の知るところではございません」
 貴方の力を欲する勢力など、世界中にいくらでもいるのですよ。と彼女は続けた。
「それでは、『別件』もございますので失礼致します」
 アクリトの部屋を去っていく。


 男の姿は誰にも気付かれていなかった。主から渡された高度な隠行の術式が刻まれたカードのおかげで。
 空京大学を離れ、一旦『変装』を解く。
 そこに現れたのは、仕事の出来るキャリアウーマンを彷彿とさせる女性の姿だった。
『猊下、やはりと言いますか、今の彼は完全にシャンバラに懐柔されております。これ以上の説得は困難かと』
『止むを得まい。無理に席を埋めることもないだろう。君の主に、しばらく代理で第二席にいてもらうことにしよう。
 次は予定通り、私に手紙を送ってきた彼に接触してくれ』