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リアクション
・決別
『第二世代機開発プロジェクト』の会議が行われる前日。
「そんな深刻な顔をしてどうした?」
御空 天泣(みそら・てんきゅう)はジール・ホワイトスノー博士に会いに来ていた。
別れを告げるために。
「お伝えすることがあって、参りました。今後は別の角度からイコンを考察したいので、プロジェクトには参加しません。今までお世話になりました」
プロジェクトが本格的に動き出したら、未参加の自分がここにいるわけにはいかない。いくら博士に認められているからとはいえ、万が一の事態に陥ったときは漏洩の疑いをかけられる可能性がある。
「別に、そんな改まることはないのではないかしら?」
罪の調律者が彼を見る。
「何を考えているのかは知らないけれど、早まらないことね」
「いえ……もう、決めたことですから」
揺らぐことはない。
「最後に、聞いておきます。調律者は他にもいるんですか?」
「この前も話した通りよ。調律者は聖像造りに関わった人達のこと。他にも呼び方はあるのだけれど、わたしはそう呼んでいるわ」
「その調律者は、今も生きていると思いますか?」
調律者が少し考える素振りを見せた。
「一万年前よ。普通に考えれば、もう生きてはいないわ。一人を除いて、ね。まあでも、子孫はいるかもしれないわ」
当時を知る者はおそらくもういないだろう、とのことだ。
「博士」
上手く言葉には出来ないが、最後の質問をする。
「もしノヴァさんに……会えるとしたら……なんて伝えたいですか?」
一瞬だけ寂しそうな目をした後、いつもの調子で博士が声を発した。
「……すまなかった。と一言言ってやりたい」
それだけ聞くと、天泣は頭を下げて海京分所を後にした。
これまではイコンの研究をしようと博士に取り入っていた。しかし、今から始まるプロジェクトは、イコンを兵器として扱うものだ。少なくとも、天泣にはそう見えていた。
だから、これ以上ここにはいられない。
そして彼は考えた。
(ノヴァに会うには……十人評議会に接触しなければ)
十人評議会が本当に存在するのか、確実な情報はない。もちろん、ノヴァがそのメンバーだということも。
鏖殺寺院イコンの解析資料集を元にデタラメなイコンの設計図を作り、新兵器とタイトルをつけ携帯に保存する。
俗に言う裏サイトの掲示板を中心に、十人評議会に入ってみたいという書き込みを行う。これで準備は完了だ。
(十人評議会を調べようとすると、危険な目に遭う)
それも都市伝説だ。
だが、実際にパソコンがウイルスに犯されたり、データを吸い出されたりといったことが起こっているらしい。
あとは、携帯の中にある設計図のデータが評議会の目に留まれば……。
しかし、期待とは裏腹に何も反応がなかった。
あったとすれば、掲示板の書き込みに『反シャンバラ派のF.R.A.Gと提携している契約者のための学校が、イコンの技術職員を募集している』ということくらいだ。
一方、ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)は天泣の後を追わず、博士と向き合った。
「あーもう! いいかおば……博士、アンタさ、ノヴァのことかなり引きずってるでしょ」
ホワイトスノーは答えない。
だが、言動からもノヴァのことを気にしているのは窺える。
「頭でっかちで兵器の開発でしかこの戦争に貢献出来ないのに、それは嫌。アイツは自分はなんて駄目な人間だろうって勝手に落ち込んでる」
いつものように子供ぶることなく、はっきりと気持ちをぶちまけた。
「だからアイツ、多分ノヴァのとこにいくつもりだよ。
ノヴァとアンタを和解させて、皆でイコンの秘密を探せたら、って思ってるんだよ。本当どうしようもないお花畑野郎」
おそらく、このままではノヴァにたどり着くことさえ難しいだろう。それでも、天泣は一縷の可能性に賭けているのだ。それを、ラヴィーナは感じ取っている。
「まあいいや、僕は最後まで天泣に付き合う。もし僕達が死んだら葬式には来てね。んじゃバイバイ」
言うだけ言って、立ち去った。
あとは、天泣次第である。
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