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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

リアクション


・新たな助手


 受付にて。
「失礼します。入所手続き申請書を作成しましたので、ご確認お願い致します」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は正規の手続きを経て、ホワイトスノー博士への面会に臨むこととなった。
 彼女とは初対面となるため、事前に金団長と羅参謀から紹介状を書いてもらってもいる。彼女が、教導団にとって信用に値する人物だという証明が必要だからだ。
 ロイヤルガードとして立場を使えば、こういった手間は省けただろう。だが、彼女はあえてそういうことはしなかった。
 自分という人間をちゃんと知ってもらうため、そして教導団の軍人でありロイヤルガード以前に、一人の人間として接したいと考えているため。当然、ホワイトスノー博士の経歴も分かる範囲で調べている。
 ロボット工学の第一人者。ある本には、「ロボット工学の母」とまで書かれていたほどだ。
「どうぞ。博士がお待ちです」
 応接室へ通される。
「よく来た。まあ、座ってくれ」
 ルカルカ、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)ニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)の三人が腰を下ろした。
「シャンバラ教導団のルー少尉か。ジール・ホワイトスノーだ。よろしく」
「ルカとお呼び下さい。よろしくお願いします」
 まずは軽く挨拶をする。
「今日は客が多い。あまり話す時間はとれないが、まずは用件を聞こう」
 静かにルカルカと目を合わせてくる、博士。
「第二世代機開発プロジェクトの話を伺い、博士のお手伝いをしたいと考えこうして参りました。是非とも助手としてこの身を役立たせて下さい」
「ふむ、助手か」
 とはいえ、天御柱学院関係者でもないルカルカ達を、すんなりと助手として受け入れてはくれない。
 そこで、自分の有用性をアピールする。
「これまで、生身でもイコンでも多くの戦いを乗り越えて来ました。その経験による助言が出来ます」
 戦闘においては、国軍である教導団はプロフェッショナルだ。その一線で戦ってきた彼女達には、目を見張るものがある。天御柱学院生ほどでなくとも、イコン操縦経験があるのも大きい。
「もう一つは、電脳のノウハウもあり、コンピューター関係でのサポート行えます」
 助手としては必須の技能だ。
「そして、有事の際にデータお呼び博士の安全を護るだけの力があります」
 護衛として動ける、というのを最後に上げた。
「まあ、電脳に関してはルカよりも俺の本分ではあるが」
 と、ダリルが呟く。
「生憎、天学の生徒が助手として手伝ってくれている。助手は間に合っている……と言おうと思っていたところだが」
 ホワイトスノー博士が続ける。
「ちょうど二人ともプラントの方に行っててな。今後、海京に常駐するというのなら入所を許可しよう。教導団の駐在所が海京の北地区にあるはずだ。
 私としては、助手というよりは研究所の警護をしてもらえると助かるのだが……」
 機密保持の関係上、セキュリティの大部分はコンピューター任せになっているという。生身の警備は、海京警察、教導団共に研究所内には存在しない。
 今後も継続して海京分所に入るには、博士の提示した条件を飲まざるを得ないようだ。
「どう思う、中尉」
 博士の視線の先、ルカルカ達の背後に一人の頼りなさそうな青年が立っていた。
「人手は多いに越したことはないと思いますよ、大佐。それに、護衛なら僕がやりますから」
「博士、彼は?」
「イワン・モロゾフ中尉。雑用係だ。特技は掃除と洗濯。見ての通り、まったく頼りにならない」
「そ、そんなぁ……」
 がっくりと肩を落とすモロゾフ中尉。
「と、こんな具合だ。まあ、今後どうするかは任せるとして、今日は手伝ってくれると助かる」
 プロジェクトの会議は午後からとのことなので、まだ時間はある。
「海京への駐在許可が団から下りるかは何とも言えませんが、下りましたら是非とも手伝わせて下さい」
「では、よろしく頼む」
 一応の許可は得たので、早速プラントの通信環境整備に取り掛かる。

「念のために確認しておきますが、博士の脳内の知的財産はデータしてありますか?」
 ダリルが尋ねる。
「無論だ。私に万一のことがあっても、イコンのデータは残る。今後開発に必要な情報もまとめてある」
 もし、自分が敵なら博士は真っ先に潰したい人物だ。だからこそ、彼女の安全には留意する。本人も狙われるという自覚は持っているように見受けられる。事実、彼女は海京にやってくる際、刺客の襲撃を受けていた。だからこそ、一応の備えもあるのだろう。
「それと、F.R.A.Gのイコンについて、開発者に心当たりは?」
「あるが、おそらくもうF.R.A.Gからは手を引いているだろう。今までは鏖殺寺院を隠れ蓑にしていたが、公の武装組織となった以上、F.R.A.Gのトップとしては非人道的な科学者は排除しておきたいはずだ」
 ヴィクター・ウェストという人物だそうだが、F.R.A.Gはその男からイコン技術を買い上げて、手を切った可能性があるという。あるいは、始めから金と研究施設だけ提供して、研究を行ってもらっていたか。
「F.R.A.Gについてはまだ分からないことの方が多い。そちらは専門の者達に任せておけばいいだろう」
 そのとき、博士への来客が訪れたことが知らされる。午後から会議が始まる関係で、午前中は相当予定が詰まっているらしい。
「私はしばらく席を外す。中尉、しばらく私の代わりを務めてくれ」
「は、はい!」
 モロゾフ中尉を残し、一度博士は部屋を出た。