リアクション
* * * 「司城さんっ!」 桐生 ひな(きりゅう・ひな)はプラントにやってきた。 「やあ。いつものように、ジャスパー達も一緒だね」 ジャスパー・ズィーベンもいる。また、ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)がルチル・ツェーンを連れて来ている。 「先日のパーティーでお手伝いを約束したのですが、まだいまいち状況が分からないものでして……何も知らない状態で力になるのは流石に無理過ぎるので、司城さんが懸念してることとか話して頂ければと思ってるのですー」 PASDがこのプロジェクトに関わっているということは知っているが、実際どういった関わり方をしているのかは分からない。 ジャスパーには、「今回は社会科見学みたいな気分ですね〜」といった感じで誘ったほどだ。 そうは言っても、ひなはPASDとの繋がりが深い。 「基本的にはここだけの内密な話がしたいのです〜。私としても信頼に値する人以外には、情報を開示する考えはないですしっ」 それを受け、司城が口を開く。 「ボク達が本格的に関わるのは、もう少し先になってからだよ。このプラントで機体を製造する段階になったときに、データ入力やジール達と細かい仕様の打ち合わせをする。とはいえこのプラント自体、まだ謎が多いからね。その調査も兼ねているんだ」 プロジェクト開始にこぎつけて、一万年前のことを調べようという。 「知っての通り、ボクにはジェネシス・ワーズワースの記憶がある。機甲化兵の原理は自分で考えたものだと思っているし、記録でもそうなっている。だけど、機晶姫というよりはイコンに近い技術なような気がしてね。だけど、それがごっそり抜けている。その辺りについても確かめたくてね」 公の存在になる前からイコンを知っていたはずだが、なぜか忘れていた。そこに引っ掛かりを覚えているらしい。 「まあ、表向きはプラント調査は終わったことになってるんだけど、そういうこともあってプロジェクトの裏でこっそりと進めることになってね。知ってる人はごくわずかだよ」 なるほどー、と頷いた。 司城の考えを聞いたところで、今度は相談に移る。 「私が考えてたことを司城さんに相談しようと思ってたのですよー。今の話のこともありますが、やはり新型のイコン研究が中心のようですので、その辺の話も交えてなのですがっ」 「何かな?」 「有機型機晶姫は身体能力に優れているということなので、重力への耐性もより高いということになります〜。そうなれば高機動型なイコンの操縦も可能にならないかとー? 通常の種族では熟練者しかなし得ない、超機動も夢じゃないと思うのですっ」 ジャスパーのような特異な存在だからこそ出来ることもある。 「たしかに、彼女達ならば可能だろうね。機械化されてることもあるから、イコンと直接リンクして負荷を減らすようにコントロールすることも出来るかもしれない。だけど、どうしてそんなことを?」 「ジャスパー達にも活躍の場があって欲しいなと思ったからですよっ」 「わたしには人にはない力がある。必要になったら、役立てて欲しいなと思って」 積極的に戦いたいというわけではないが、戦わざるを得ない状況になったときにはみんなを助けたい。そういった想いがあるようだ。 「ボクとしても、戦いには巻き込みたくはないんだけどね。十分に研究は可能だと思うよ。ジールとも相談、ってことになるとは思うけどね。一番の問題は、イコンが二人乗りってことかな。当然、地球人もそれに耐えられなければいけない。パイロットスーツの改良か、身体の強化、あるいは魔鎧の技術の応用、まだ実用には時間が掛かりそうだね」 その辺は不可能ではないが、長い道のりになりそうだった。 一方、二人が話している間、ナリュキは常駐している五機精の一人、アンバー・ドライを呼び出していた。 「なんじゃ、一体?」 「何やら会議の裏で調査だとか何とかという話が聞こえたからの。せっかくだから、妾達と行動せんかにゃ?」 プラント常駐ということで、アンバーならこの広い場所を色々知ってそうだし、と誘ってみる。 「こんでも、仕事があるからのう……」 「そんなこと言っていいのかにゃー? ほれ」 PASDのパーティにおける罰ゲーム写真を、携帯を取り出してちらつかせる。 「!! まだ持っておったのか!?」 「そんなことより、奥に言っちゃだめかー」 ルチルに至ってはじっとしていられないようだ。 「分かった。いずれは本格的にプラント調査に乗り出すじゃろう。会議の邪魔にならんよう、その間に中を案内しよう……って、勝手に走り回ると迷うぞ!!」 そんなわけで、一行はプラント内を見回ることにした。 * * * (ふむ……これが試作段階の第二世代機ですか) 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は第二世代機である『ブルースロート』のデータを閲覧していた。 今回のプロジェクト参加にあたり、参考情報として提示されていたものである。 (防御特化ということは、単騎での使用を主眼と置いているのではなく、他の機体との連携を主眼に置いている。そうでなければ、防御特化というのは唯単にやられる時間を稼ぐだけの、実質的に意味がないもの。ということは、やはりこの機体もまたゼロベースで造られたものではなく、既存の機体をコピーしたものになる) ブルースロートのオリジナルとなる機体が存在する、と小次郎は推測する。ブルースロート自体は他のイコンと同様、攻撃武装を搭載出来るものの、あくまで補助的なものだ。自衛に使うのが限度だろう。 というわけで、通信が繋がっている海京分所に問い合わせることにした。 『シャンバラ教導団の戦部です。そちらのプロジェクト関係者はいらっしゃいますか?』 『はい、お待ち下さい。大佐、プラントからです』 研究所とプラントの互いの状況はモニターで見ることが出来る。青年から、黒いコートで全身を覆った女性が画面越しに小次郎と向かい合う。 『用件を伺おう』 『第二世代機「ブルースロート」の元となった機体の情報を開示して頂きたいと考えております』 『理由は?』 『先の事態に備えるためです。情報を知っていれば、何か起こったとしてもそれを元に対策を立てることが出来ますが、何もなければ打てる手も打てません』 これから起こることは、一歩手を間違えたら取り返しのつかないことになる。そのリスクを減らすという意味でも、情報を提示して欲しいというのが本音だ。 単に強力な次世代機を開発する、というのがこのプロジェクトの目的というわけでもなさそうだ。 『まるで、身内を最も警戒しているかのような言い草だな。まあいいだろう。 ベースとなった機体は【ナイチンゲール】だ。そのプラントで眠っていた、原初のイコンの片割れ。一切の攻撃機能は持たず、また持たせることは出来ない。ブルースロートは機晶エネルギーへの干渉やジャミング、小隊範囲までならエネルギーシールドを展開することが可能だ。また、オリジナルにのみ、「女神の祝福」という特殊兵装が備わっている。絶対防御領域の展開、というのがその機能だ。それだけはオリジナル機以外で再現することが出来ない』 あくまでも戦闘の支援を行うための機体、ということだ。 『ならばもしかする、と攻撃特化の機体とセットで運用するのが本来の在り方、ということですか』 『そうなるな。だが、その攻撃特化機のデータは存在しない。それはシャンバラとは別の勢力が握っている』 【ナイチンゲール】と対になる機体。どうやらそれがどこかに存在するらしい。 おそらくは海京決戦で最後に現れた『白銀』。小次郎はそのイコンを想起した。 |
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