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リアクション
★ ★ ★
「この道で間違いはないな」
「はい、マスター」
隊長の質問に、マッピングを担当していたメイド型機晶が無表情に答えた。その姿は、ちゃんとした機晶姫と言うよりも、まるでロボットのようだ。
「隊長は、最初からこの遺跡の地図を持っていたのか?」
閃崎静麻がいぶかしげに隊長の方を見た。他の傭兵たちや、服部保長を通じて密かに傍受したマップデータを照らし合わせて現在位置をこまめに確認してるが、今歩いている通路の先は未踏破エリアのはずであった。だが、隊長の進み方は、調査しながら進んでいるという感じではない。分岐点では、迷わず深部へと続く道を選択している。決断が早く大胆だと言えばそれまでかもしれないが、一度も間違えて袋小路に入ったり戻ったりすることがないのはおかしすぎた。
「やはり、魔法が効かないというのはやりにくいですね」
乱撃ソニックブレードで行く手に現れたサテライトセルを粉砕したレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が言った。最初のうちは霧でできた紛い物だったが、奥に行くにつれて実体を持った本物のサテライトセルが混じるようになってきた。こちらは、両手の間に電磁フィールドを形成して攻撃して来るので少しやっかいだ。
「おかしいな、ラボならさっき破壊したという連絡があったんじゃないんですか?」
サンダーブラストを重ねがけして、追撃してくる敵を排除した御凪真人が首をかしげた。
まだ完全に動きを止めないサテライトセルを、セルファ・オルドリンがライトニングランスで確実に止めを刺していく。
「サテライトセルの巣が一つとは限らないだろう。気を抜かずに進め。それから、魔法の出し惜しみはするな。たとえ威力が弱まっているとしても、無効化されたわけじゃない。剣で一つ一つ壊していくよりは、よほど効率がいいはずだ」
隊長が注意をうながすとともに、魔法攻撃を奨めた。
『マスター……』
「ああ、分かっている」
小声で呼びかけてきた魔鎧状態のプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)に、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がささやき返した。
どうも、この隊長の指示はわざとらしい。何か、いいようにみんな操られているような気がしてしょうがなかった。
「ところで、一つ訊ねてもいいですか?」
紫月唯斗が、隊長に話しかけた。
「なんだ?」
「以前、葦原島でお会いしましたが、なぜ葦原島に?」
「なんでそんなことを聞く?」
隊長が鋭く聞き返した。
「いえ、助けていただいたので、感謝しているのです。あのときあなたがいなければ、妹は大怪我をしていたかもしれない。だとすれば、少ない偶然に感謝したくもなるでしょう」
「うまいことを言う。なに、実は、鬼鎧を一つ手に入れてな。その鬼鎧の違いというものを把握しようと資料を閲覧しに行っただけだ。まあ、結果は貧弱な物の方しかなかったわけだが」
言外に、雷火が玉霞に劣っているようなことを示唆されて、わずかに紫月唯斗が眉を上げた。
「さあ、おしゃべりはここまでだ。着いたぞ、ここが全ての目的地だ」
通路の終わりに突如現れた巨大な扉を前にして、隊長が言った。
「ここが目的地? この中に、未知のイコンが隠されているというのか……」
閃崎静麻が、マップで現在位置を確認した。ちょうど遺跡の中央、推測では大広間とされている。
「この扉、びくともしませんね」
どこかに開閉スイッチはないかと調べてからレイナ・ライトフィードが言った。
「中に入れぬつもりか。まあいい。破壊しろ、構わん」
きっぱりと隊長が言った。
一同は顔を見合わせたが、命令である。
「みんな下がっていろ」
閃崎静麻が分厚い扉ではなく、それが収納されるであろう壁の方に機晶爆弾を仕掛ける。
「爆破する」
全員が物陰に隠れるのを確認してから、閃崎静麻が機晶爆弾を爆破した。壁に、人が通れるほどの大穴があいた。
「突入するぞ」
慎重な足取りで、隊長を先頭に中に入る。
内部は、円形の大広間であった。天井は平らだが、ところどころ、それこそ壁や床からも、黒い金属製と思われる柱が不規則に突き出ている。普通の丸太ほどの大きさだが、ぱっと見た感じでは規則性がまったくない。いや、細かく調べてみれば、複雑な三次元のサインになっているのかもしれないが。その証拠に、ときおり何本かが発光しては、対となる反対側の柱と光条エネルギーらしいラインを構築していた。
四方には、先ほど見たのと同じ大きな扉があり、中央と細い道で繋がっていた。中央には微かに盛りあがった銀色に輝く台のような物があり、その中央に光り輝く大剣が一本垂直に突き刺さっていた。そのそばに、斜めに突き立つようにして光条吸収装置のシリンダーが飛び出している。それは、今も青く光り輝いていたが、そのそばの床には誰かが倒れているようであった。
「これ以上進んではいけません!!」
隊長と剣を結ぶ直線上に、少女が現れて叫んだ。メイちゃんたちによって補完された少女ではなく、弱い力によって作られている分体の一つらしい。
「ここは破滅をもたらす場所です。お帰りなさい」
「言いたいことはそれだけかな。戯れ言に貸す耳はない」
完全に少女を無視すると、隊長が少女にむかって手を翳した。突然湧き出した闇が、少女をつつみ込む。
「消えよ」
隊長がグッと手を握りしめると、急激に闇が一点に集まって少女の幻影ごと消えてしまった。
「ちょっと待て、俺たちの目的は未知のイコンじゃなかったのか? 一体ここのどこにそれがある」
話が違うと、閃崎静麻が隊長を呼び止めた。
「イコン? イコンならすでにお前たちの目の前にずっとあったではないか。まだ分からないのか? 今まで遺跡と呼んでいたこの建物その物が、強襲完全破壊型の巨大イコンその物なのだ!」
隊長が、周囲をぐるりと腕で示して答えた。
「そんな物、運び出せるわけがないじゃないですか。第一、何に使えるというんです?」
魔法を弱体化する結界があるとしても、内部にしか働かないのであれば意味がない。だいたいにして、このイコンは巨大すぎる。
「安心しろ。このイコンはたった一つの使い道しかない。世界樹に接触し、その魔力の全てを極小空間に圧縮した後に一気に開放する。そのためだけの物だ」
「ちょっと待ってくれ、そんなことしたら……」
「ええ。世界樹はもちろん。イルミンスールの森そのものが蒸発して、シャンバラ大荒野がもう一つできあがることになります」
絶句する紫月唯斗に、御凪真人が説明した。
「御苦労であった。お前たちの仕事はここまでだ。後は、私が進める」
そう言うと、隊長は一人大剣にむかって歩き出した。
「行かせるかあ!!」
突然横合いから怒号が聞こえたかと思うと、ドラゴンアーツの一撃が隊長を襲った。一瞬早くダッシュしたメイド機晶姫がそれを真っ向から受けとめる。衣服と外皮が吹き飛び、ひしゃげた装甲が顕わになった。
「お前が元凶かあ。ただでさえザナドゥのせいで森が減ってるんだ、責任取りやがれ!」
ココ・カンパーニュのドラゴンアーツの一撃と一緒に飛び出した伏見明子が、アナイアレーションの一撃を隊長に見舞った。間に入ったメイド機晶姫が真っ二つにされ、さすがの隊長も剣圧を受けとめながら少し後ろに弾き飛ばされる。
「もう一撃……!?」
追撃を与えようとした伏見明子が横から殴り飛ばされた。見れば、破壊されたメイド機晶姫の体内から、ボール大の魔導球がいくつも飛び出してきている。
「あれは、だめです!」
苦い過去を思い出して、クロセル・ラインツァートが叫んだ。
伏見明子の周囲でフォーメーションをとった魔導球が、高周波振動を始める。
とっさにバーストダッシュで飛び出した御凪真人が、間一髪伏見明子をつかんで安全な所へと運んだ。直後に、マイクロウェーブで床が黒焦げになる。
「私に触れさせてはだめです!」
ココ・カンパーニュたちと一緒にいる少女が叫んだ。
「シェリルは、あの中にいるんだな。任せた!」
シリンダーを指すと、少女がうなずく。それを確認すると、ココ・カンパーニュと、一緒に白兵に長けた者たちが飛び出した。
「来い、星拳エレメント・ブレーカー!」
右の拳に力を込めてココ・カンパーニュが叫ぶ。だが、現れた星拳エレメント・ブレーカーは、レンズ状の手甲部分が光を失ったままだった。
「本当に使えないのか……」
そのまま格闘に持ち込もうとするところに、魔導球が立ちはだかる。
突き出したパンチが、魔導球にぶつかって双方が後ろに弾かれた。体勢を崩したココ・カンパーニュに別の魔導球が襲いかかる。
「リーダー!」
間一髪、ペコ・フラワリーが大剣で魔導球を弾いた。
攻撃が集中した間に、雪国ベアとリネン・エルフトたちが回り込んで隊長に迫る。それをひらりと躱して、隊長が突き出た柱の一本に飛び乗った。次の瞬間、光り出した柱を避けて別の柱へと飛び移る。輝く光条の光が、一瞬隊長の姿を隠した。
「こんな所にエネルギーの流れが……。あの真ん中に集まっているの?」
ラブ・リトルが、明滅する光条の輝きを見つめてつぶやいた。
「静麻殿」
「保長か、何か分かったか?」
素早く回り込んできた服部保長が、ここに至って表立って閃崎静麻に接触して報告をする。
「あんた、一体何者なんだ。何を企んでいる」
隊長にむかって、紫月唯斗が叫んだ。
「雷火の若造か。我が名は……そう、アラバスターと呼ぶ者もいる。腕を上げたと思っているなら、今一度挑んでくるがいい。遊んでやろう」
そう言うと、アラバスターがスモークボムをばらまいた。マスタードガスを含む煙に、高くにいた者が涙を流して咳き込む。
その間に、柱の上を飛び伝って、アラバスターが一気に大剣に迫った。
それに先んじて、シリンダのそばには、アルディミアク・ミトゥナを助けようと、ローザマリア・クライツァールたちが集まっていた。
「どけ!」
迫るアラバスターが、複数の魔導球を投げつけた。魔導球からのびた高周波振動ワイヤーが周囲を回転し、さすがにその場からソア・ウェンボリスたちが逃げだす。
その一瞬の隙を突いて、アラバスターが力任せに大剣を引き抜いた。そのまま、飛び退るようにしてココ・カンパーニュたちがいるのとは反対側の柱の上へと移動した。
「はははは、さあ、目覚めるがいい、シトゥラリよ!」
アラバスターの言葉と共に、遺跡が鳴動した。
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