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リアクション
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オプシディアンたちの撤退と共に魔導球はその姿を消し、サテライトセルたちもなぜか攻撃をやめて撤退していった。おそらくは、けんちゃんが台座に戻ったために、コントロールの一部を奪取し直したのだろう。
「えっと、お二人はどういう関係で?」
月詠司が、ちょっと間の抜けた感じでアルディミアク・ミトゥナたちに訊ねた。
「兄妹に決まってるじゃないか」
バンと月詠司の背中を叩いてココ・カンパーニュが言った。
「こぼげほっ。ええっと、そうするとココさんのお兄さんって言うことに……?」
激しく咳き込みながら、月詠司が質問を続ける。
「そういうことになるのか?」
なんだか初めて気がついたという感じて、ココ・カンパーニュがアラザルク・ミトゥナを見あげた。
さあと、アルディミアク・ミトゥナをだいたまま、アラザルク・ミトゥナが軽く肩をすくめて苦笑する。
「ツカサちゃん、それ以上玉砕フラグ立て続けると、せっかくのシリアスが台無しだから」
「いや、すでに崩壊しているとも……」
月詠司の袖をちょんちょんと引っぱるシオン・エヴァンジェリウスの隣で、ウォーデン・オーディルーロキがやれやれという顔で言う。
「遺跡の進行が止まりつつあるようだ。なんとかなりそうだぞ。救出用に、いくつかのイコンも各出口にむかってる」
リーン・リリィーシアと連絡をとっていた緋山政敏が、一同に告げた。だが、ほっとしたのも束の間、緋山政敏の頭の中で、有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)の声が響き渡った。
『――逃げて! 今、そっちへむかうから。早く!』
そのリミッターのかからない思考に、思わず緋山政敏が頭をかかえてうずくまった。
「どうしたのよ。大丈夫」
普通じゃないと見てとったカチェア・ニムロッドが駆け寄る。
「ちょっと待ってくれ、別の情報が……。大変だ、遺跡の中心のエネルギー数値が異常上昇しているらしい。このままじゃ、臨界突破して自壊の後に爆発するだと!」
最後の方は、有栖川美幸への呼びかけがそのまま口に出てしまっている。
そこへ、樹月刀真たちがやっと駆けつけてきた。すぐ後ろから清泉北都たちもやってくる。
「まずいぞ、エネルギーの流れがここの下に集中しているそうだ。なんとか、流れを変えて放出することはできないか」
同じ情報をテノーリオ・メイベアから知らされた樹月刀真が、みんなに訊ねた。
『分かり……た。なん……してみまし……』
もの凄く朧気な姿の少年が、台座に突き刺さった大剣の前に突如現れた。
「けんちゃん?」
コンちゃんが訊ねる。
『久しぶ……ね、コン……ん、ランちゃん、メ……ゃん……』
アストラルミストが微少なせいか、あまりちゃんと形を作れないらしい。それとも、何か他の原因があるのか、その姿と言葉は途切れ途切れだ。
『リーフェル……ニッシュへ送ってい……ネルギーラインのリミッターを外し……。そうすれ……ある程度のエネルギ……外に放出できる……ょう。少しでも、爆……小さくで……はずです』
「停止はできないのか?」
悠久ノカナタが、けんちゃんに訊ねた。
『ええ……。もう無……す』
「これのせいか?」
源鉄心が、オプシディアンがあけていった台座周りの穴を指して言った。
『ええ。……攻撃で、コアのリミッターと、……フィールド発生装置に損傷を受け……た。じきに、第一隔壁から……崩壊していくでしょう。最終隔壁が崩……て爆発する前に、あなたたちは脱出……ください』
「そんな、あなたはどうするの。なんとか制御する方法はないんだもん?」
小鳥遊美羽がけんちゃんに言った。このままけんちゃんとそのマスターをここに残していけるはずがない。
『大丈夫……。あの攻撃……他の眠り姫のコントロール……ンをも破壊してくれ……た。現在、僕がシステムと一体化して、その……んどを制圧しつつ……ます。でも、完全じゃ……ません。ですから、……たたちは脱出してください』
「このコントロールカプセルは、システムのほんの一部だったようだ」
けんちゃんの言葉を、アラザルク・ミトゥナが継いだ。
「これと同じ物が計十二本、このイコンのコックピットとしてこの足の下にある。おそらく、中のパイロットたちは、最初にこのカプセルに入っていた剣の花嫁と同じ姿になってはいるだろうが」
そう言って、アラザルク・ミトゥナが砕けて粉となったミイラを一瞥した。
「だったら、他のカプセルを取り出せば、コントロールが可能だよね?」
「いや、それが破壊されてしまったため、彼がコントロールを掌握できているんだよ。つまり、もう、彼しか、この遺跡を動かすことができない」
秋月葵に、アラザルク・ミトゥナが答えた。
「だったら、安全な場所に運んでから爆発させれば? パラミタ内海とかはどうでしょう」
「世界樹に近づくのはまずいぞ」
ソア・ウェンボリスの提案に、悠久ノカナタが異を唱えた。そんなことをしたらまたエネルギーを吸収してしまって、逆効果になりかねない。
「だとしたら、後は雲海に持ってくしかないぜ」
雪国ベアが言った。爆発しても周囲に何もない場所といったら、もうそこしかない。
『急いでくださ……みなさ……いると、エネルギーの放出ができ……ん。巻き込まれてしまいます……』
「分かった、従おう」
けんちゃんの言葉に、新風燕馬がきっぱりと言った。
「ここに俺たちがいたら、その子の決意自体を無駄にしちまう」
「でもでも、ぎりぎりまで残って、けんちゃんを抜いて脱出すればまだなんとか……」
小鳥遊美羽があくまでも食い下がった。
『もう抜くことは無理……よ。すでに、僕はシステ……融合を始めていますから。ありがとう、すぐに……に差し戻してくれたので、それを行うことができ……た。もし先に今のお話をして……ら、融合……てもらえなかったかもしれません』
けんちゃんが、コハク・ソーロッドの方を見て礼を言った。
『ただ一つお願いがあります。これを……』
そう言ったとたん、けんちゃんの柄頭に埋め込まれていた魔石が外れて転がり落ちた。中には、この遺跡の眠り姫として長い年月を守り続けてきたけんちゃんのマスターである少女が眠りについている。
『いつの日……マスターを解放してあ……ください。お願いします』
「うん。みんな、早く外へ行こう。あたしたちは、まだやることがある。まだ終わってなんかいないんだよ。頑張らないと、あたしたちのいる意味がないもん」
魔石を拾いあげたランちゃんが、それをしっかりと胸にいだきながらはっきりと言った。
「脱出を急ごう。私たちは邪魔者か。違うでしょ。私たちは……」
リネン・エルフトが皆に言った。
「ああ。私たちは……」
そう言って、ココ・カンパーニュがランちゃんたちに手をさしのべた。
「一緒に行こう。さあ、みんな、遺跡に残ってる奴らのケツを蹴っ飛ばして外に追い出すよ。外に出たら、二度とあいつらをこの中に入らせるな。絶対だ!」
そう言いきると、ココ・カンパーニュはやや乱暴にコントロールルームにいる者たちを追い出していった。
「脱出だ!!」