リアクション
外へ 「オプシディアンが気になる……」 「ああ、ケイたちは先にゆけ。わらわたちは、遺跡内の者たちの脱出を手伝う。思う存分やってこい」 緋桜ケイのつぶやきに、悠久ノカナタが言った。 「すまない。ソア、行こう」 「ベア、頼みます」 先行する御凪真人たちと閃崎静麻たちを見つけて、緋桜ケイたちが合流する。 「ああ、任せときなって」 緋桜ケイと共にかけだしていくソア・ウェンボリスを見送りながら、雪国ベアがドンと胸を叩いた。 ★ ★ ★ 「こっちに、ゴチメイたちの飛空艇がおいてある格納庫がある。そこからなら、迎えに来たイコンでも逃げられるはずだ」 清泉北都がマップを確認しつつ、ココ・カンパーニュを始めとする者たちを先導して脱出を急いだ。 「誰かいたら、すぐに脱出してくださーい。もうここには、お金になる物はありませんよー」 クロセル・ラインツァートが、通路によく響く声で叫んだ。へたに撤退しろと言うよりは、こういう言い方の方が効果がある者たちが多いことをクロセル・ラインツァートはよーく知っていた。 「つまんないなあ、まだ何かありそうなのに……」 ユノ・フェティダがなんとかローグの本能を抑えつつ、つぶやいた。 「どーせ、ただ働きよ。ええ、いつもそうですとも」 日堂真宵の方は、もうすでにこういうパターンは慣れっこのようだ。 「みんなー、もうすぐここは爆発だよー。早く逃げてー」 小鳥遊美羽の方は、まだ至極まっとうな避難勧告である。 「砲撃一時中止。中の者たちが脱出するから、迎えを頼むぜ!」 フェイミィ・オルトリンデがイーリにむかって救援を要請する。 殿(しんがり)を受け継いだ緋山政敏が、カチェア・ニムロッドのマップでこまめに位置を確認しつつ、取りこぼしがないかチェックしていく。 「とりあえず、中の出来事を外の奴らにも把握してもらわないとな」 緋山政敏は、リーン・リリィーシアに連絡を入れた。 ★ ★ ★ 「まずいな、ここはもう撤退らしい」 急ごうと、七尾 蒼也(ななお・そうや)がジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)をうながした。 「ええ。でも、まだ残っている人がいるかもしれません」 ぎりぎりまで、中にいる人たちの手助けをしようとジーナ・ユキノシタが言う。らしいねと、七尾蒼也が微笑んだ。 「行こう、まだこっちの道は確認していない」 ジーナ・ユキノシタの手を引いて、七尾蒼也は走りだした。 「メロンパン、メロンパンはどこですかあ!」 突然素っ頓狂な叫び声が聞こえてきて、七尾蒼也たちは足を止めた。何ごとかと用心しながら、先へ進んでいく。 すると、そこにはだごーん秘密教団員たちとあたふたとグルグル駆け回っているいんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)たちがいた。 「見なかったことにしよう」 七尾蒼也がくるりと背をむけかける。 「だめです。たとえ誰でも、困っている人たちを見捨ててはいけません」 ジーナ・ユキノシタが、七尾蒼也の服を引っぱって引き止めた。 「おお、あなたたちは。あなたたちも、遺跡を荒らしに来たバカップルでございまするか」 七尾蒼也たちを見つけてしまったいんすますぽに夫たちが喜び勇んでびちゃびちゃと駆け寄ってくる。 「誰がバカップルだと、誰が……」 「ぎゃぎゃ、いたた、ぎょぎょ」 七尾蒼也に頭をぐりぐりされて、いんすますぽに夫が痛がった。あわてて、ジーナ・ユキノシタが止めに入る。 「申し訳ありませんでした。それでは、正式に我がだごーん教団でお二人を祝福させていただきます。ささやき、えいしょう、ふたぐん」 「呪われそうだからやめんか!」 七尾蒼也が、いんすますぽに夫を踏んでぐりぐりした。一応、これでも説得である。 「まあまあ。とにかく、みんなで一緒に脱出しましょう。ここは危険です」 ジーナ・ユキノシタがなだめる。でも、ちょっと疲れてきた。 「脱出ならお任せください。ちゃんと出口まではメロンパンの屑が……」 口の端にメロンパンの屑をつけたいんすますぽに夫が自慢げに言った。 「いったい、どこにメロンパンが……」 「ぎょぎょ、そうでしたあ、食べてしまいましたあ。ぽに夫一生の不覚!」 七尾蒼也に指摘されて、いんすますぽに夫が頭をかかえた。だが、すぐに復活する。 「こんなこともあろうと、ちゃんと種籾を撒いて進んできたのです。それを辿ればすぐさま出口に……」 力説するいんすますぽに夫の後ろで、だごーん秘密教団員の一人が口の端に種籾をつけたまま何やらもぐもぐしていた。 「食べましたね、あなた食べましたね!」 いんすますぽに夫が詰め寄るが、すでに後の祭りである。 「大丈夫ですよ、ちゃんとマップは持っていますから。出口はこっちです」 見かねたジーナ・ユキノシタが、先頭に立って案内し始めた。 「おお、すばらしい。やはり祝福させてくださーい。ああーっ、待ってー」 思いっきりその場で感動していたいんすますぽに夫であったが、いつの間にかおいていかれかけているのに気づいて、あわててみんなの後を追いかけていった。 ★ ★ ★ 『よかった、無事でしたか。撤退だそうです。そこは、じきに爆発するそうです』 「なんだと、それはまずいのだよ」 ロア・キープセイクからの通信を受けたゴルガイス・アラバンディットが顔を顰めた。 「まさか、誰かに先を越されたのか?」 「さあ。どうも、ここはもともと爆弾だったという情報もありますし。いずれにしろ、こんな所で爆死してしまったら、せっかくのグラキエス様の御身体が手に入らなくなってしまうかもしれません。それでは、全てを手に入れることができなくなってしまいます。ここは、素早い撤退を」 勘ぐるグラキエス・エンドロアに、エルデネスト・ヴァッサゴーが進言した。 ★ ★ ★ 「何よ、みんな薄情よね。馬以外、誰もいないじゃない」 西格納庫に戻ってきた宇都宮祥子が、中を見回して叫んだ。あまつさえ、何機かのイコンはひっくり返っている。 「そんなことより、早く脱出した方がいいですわ」 イオテス・サイフォードにうながされて、宇都宮祥子はプラーティーン・フリューゲルに乗り込んだ。 足許に転がっていた宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢を転がして道をあけると、VTOL機能で床から浮きあがった。S−01の飛行形態に移行すると、メインブースターをふかして一気に格納庫から飛び出す。 進路上に現れたリーフェルハルニッシュが振り下ろしてきた剣を90度ロールして避けると、そのまま戦闘域を後にしていった。 |
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