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地球とパラミタの境界で(前編)

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地球とパラミタの境界で(前編)

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・1月19日(火) 12:20〜


「おう、入れ」
 佐野 誠一(さの・せいいち)は進路相談のため、ベルイマン整備科長のいる科長室を訪れた。
「進路っつっても、卒業後に技術研修生として開発を勉強中の身だろ?」
「それはそうなんだが……まあ、成り行きというか惰性というか、『何となくそうしてる』に近い状態だ。現状に甘えてばかりいないで、いい出処進退をはっきりさせたいんだ」
 ホワイトスノー博士にイコン開発で弟子入りし、そのまま高等部卒業後も学院に籍を残して研究所に出入りしていた。とはいえ、第二世代機開発プロジェクトで忙しかったため卒業式に出席して卒業証書をもらった記憶がなく、博士の助手として身分を証明してもらっていたようなものだ。死亡が確認されていないから、ということで半年経った今でも立場に関しては保留になっている。しかし、それも今年度限りだ。
「希望の進路としては研究所だな。ジェファルコン造る時に大して役に立ってた訳じゃないから厳しいかもしれんが」
「大丈夫じゃねぇか? シジョウの娘っ子が来るまで開発が滞ってたってこと考えりゃ、博士の下で学んでた奴は重宝されるはずだ。一応、ある程度指導は受けてたんだろ?」
「まあ、多少はな。そんなこともあって、ニルヴァーナ絡みでイコンの改修案を持ってきた。研究所に出す前に、まずはこっちだろってな」
「つっても、俺ぁ理論面にゃ強くねぇぞ?」
 教えることに関しては、だ。職人気質で「身体で覚えろ」な科長や教官長だが、当人達には、失礼な言い方かもしれないが、見かけに反してかなり頭が切れる。
「とりあえず要となるのは、宇宙、あるいは月面に適応したバックパック、火気管制および操縦システムの更新、向上。独自動力源を搭載した大口径砲の三つだ」
 ニルヴァーナ探索隊のブースターパックは一時凌ぎのものだったことがある。宇宙仕様の機体を開発することは、本格的な調査を進める上で必要だろう。また、火気管制、操縦システムも現状では大気圏内を想定してのものだ。最後のものは、未知なる敵――かつて熾天使を滅ぼした敵性種族が生き残っていた場合に備えてだ。
「最後のに関してはシャンバラ王国軍が試行錯誤中だ。うちとしては、この前の不祥事がある以上、強力な武装の研究は自重せざるを得ねぇ状態だ。ただでさえ、機体そのものが強力だからな。あとの二つに関しては、大丈夫だ。ちょうど今、システムのアップデートの最中だ。プログラムさえ組めれば、宇宙空間用のモードも入れられんだろ。宇宙用バックパックに関しては、バックパックによる拡張を前提としたプラヴァー向けに造った後、それを元に既存機向けのパーツ、あるいは改良案を検討するのが良さそうだ」
 誠一の出した資料をひと通りチェックし、科長が頷いた。
「研究所に売り込むには、まずまずの出来じゃねぇか? あとは整備上発生し得る問題に対しての解決策をちゃんと用意出来るか。そこまでちゃんと考えられりゃ、研究職としてやってけんだろ」
 及第点には達しているようだ。
「ま、研究所の連中よりも、シジョウから徹底的にダメ出し食らうかもしれんがな」
「ところで、その司城 雪姫って空大教授の司城 征の身内か? 行方不明のホワイトスノー博士ってオチはないだろうな」
「ねぇよ。大体、まだ十代だ。確かに博士は三十半ばにしちゃやたら若く見えたが、十代に見せるのは無理あんだろ」
「不思議現象で若返ったって言われても別に驚かんさ」
「……確かに、十代の頃の写真を見たことがあるが、似てはいるかもしれんな」
 同一人物かどうかは置いておくにしても、二人が全く無関係な人物ということはなさそうだ。
「んじゃ、頑張ってこい」
 面談を終え、誠一は科長室をあとにした。