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【戦国マホロバ】壱の巻 葦原の戦神子と鬼の血脈

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【戦国マホロバ】壱の巻 葦原の戦神子と鬼の血脈

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第六章 朱天童子1


 頭上には、二つの月が浮かんでいる。
 いつからこのような不思議な月が現われたのだろうか。
 朱天童子(しゅてん・どうじ)は滝川で水を浴びながら、月をみていた。
 水面に映る月が揺れ、月が『仮面』の形になった。
「誰だ!?」
 振り返るが、誰も居ない。
 どこからともなく声が聞こえてくる。
『朱天よ、母の願いかなえてたもれ……』
「誰だ? 鬼である我(われ)に母などおらん!」
『では誰の腹から生まれたと申すのか。鬼の子はすべてわらわの子』
 『仮面』は朱天童子に向かって、山道を促す。
『これより輿がここを通る……決して、通させてはならぬ。人間が鬼にする仕打ちを決して忘れてはならぬぞ』
 朱天童子が水面を叩き、波しぶきが上がった。
 仮面はとび跳ね、朱天童子の顔にぴたりとはまる。
 鬼の絶叫が山にこだました。
 やがて――
「大名の……輿だと……?」
 朱天童子の目が開き、口元がゆがんでにやりと笑った。
「……金はありそうだな」
 鬼は川を跳ね、暗い山道へと入って行った。

卍卍卍


【マホロバ暦1185年(西暦525年) 2月19日】
 扶桑の都――


「さすが扶桑の都や。1500年前とは思えないくらい華やかやな〜!」
 瀬山 裕輝(せやま・ひろき)はパートナーの英霊渡辺 綱(わたなべの・つな)とともに、都を歩いていた。
「物見遊山と決め込んでる場合ではないぞ、裕輝。どうやらこの時代はまだ鬼の時代。朱天童子(しゅてん・どうじなる鬼の棟梁が暴れているらしいぞ」
 この時代のマホロバにも鬼一族も悪行を重ね、人々から恐れられといるという。
 しかも、この頃は山門の僧侶たちと手を組み、小金を巻き上げているという噂もあった。
 綱は生前、鬼退治をしていたことを語った。
「小賢しいことをしているな。いい加減に、盗賊家業から足を洗わせないとな……ん?」
 大通りに黒い人だかりができ、わっと蜘蛛の子にように散った。
 一目散に逃げ出している。
「鬼だー! 鬼が出たぞー!!」
 きけば、都の郊外の山で朱天童子率いる鬼の軍団が、大名の輿を襲ったらしい。
「襲われたのは瑞穂のお姫様らしいぞ! 武菱へ嫁ぐ道中だったそうだ。かわいそうに!」
 裕輝は綱と目を合わせる。
「鬼め、やはりこの世でも悪さをしているか! 懲らしめねばならんな!!」
 彼らは都の郊外に向かった。