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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第一話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第一話

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quinque : 争奪戦

 そして、キリアナ達は、ついにセルウス達に追い付いた。

 分裂エニセイ達を先頭に並ばせ、ジャジラッド・ボゴルが、一行の最前列でセルウス達を停止させる。
 パワードスーツを装備した相沢が、先頭に立ってそれに対峙した。

「我々は、エリュシオンの依頼により、セルウスを保護しに来た。
 引き渡して貰おうか」
「拒否する」
 ジャジラッドの要求に、洋は言い返す。
「こちらはシャンバラ国軍である!
 該当者は国軍の管轄下にあると宣言する。
 引渡し要請は、後日出直して貰おうか」
「国軍の管轄下?」
 ジャジラッドは、その言葉を笑い飛ばした。
「それは是非とも、根拠を聞かせて欲しいものだな」

 ジャジラッドは、パートナーのサルガタナス・ドルドフェリオンに、事前にシャンバラ政府に連絡を入れさせている。
 勿論シャンバラ政府でも、シボラの長老の夢を見た者からの報告が入っていたのだろう、既に今回の件の情報は耳に入っていた。
 だが、シャンバラ政府の見解とシャンバラ側の対応を問い合わせた際には、「対応スタンスは保留」という回答が返っていた。
 判断材料が足りない、ということなのだろう。
 つまり洋の言葉は、その場凌ぎのハッタリだ。
 しかし政府の回答をそのまま伝えることは、こちら側の利にもならないので、ジャジラッドはそれ以上は触れなかった。
「その小僧はエリュシオンの罪人だ。
 シャンバラはエリュシオンと同盟関係にあり、罪人を匿うことには、相応の覚悟が必要だと言っておくぞ」

 政治とかそういうのは現場に持ち込まないで欲しいですわ、と、洋の後ろで乃木坂みとが密かに溜め息を吐く。
 戦闘になりそうだ。
 この件が、政治的にどうなって行くのか気になるが、まあ、現場には関係ないことだろう。
「いいじゃん。密入国だろうが亡命だろうが」
 洋のパートナー、未来人の相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)が、投げやりに言った。
「どちらでも構いません」
と、剣の花嫁、エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)も淡々と言う。
「神の鉄槌を打ち下ろすのが我等が役目ならば、敵対するはこれすべて敵なり。
 神ドージェはそのように申されました。以上」
「ドージェの名を出すとはな」
 ジャジラッドは、エリスへの軽蔑を込めて、ふん、と笑う。
「いいだろう。こっちが譲歩してやる。
 帝国からの逃亡者は、もう一人いたな。いや、頭蓋骨を含めて三人か」
 ジャジラッドの言葉に、ぴく、とドミトリエが反応する。
「一人だけでも引き渡せば、この場は引き下がってやる」
「ドミトリエは駄目だよ!」
 セルウスは叫んだ。
「馬鹿正直に、名前を叫ぶ奴があるか」
 ドミトリエは呆れたように呟く。
「拒否する。
 どうしても引き渡せというなら、こちらは武力を以ってそれを阻止する!」
 洋は宣言した。


「叶中尉……!」
 キリアナ達一行の中に、叶白竜の姿を見付けて、大熊丈二はぎょっとした。
「まずい、あの人には勝てそうにありません」
 と、いうか。
「やっぱり教導団は、キリアナ側についてたのか……?」
 しかし見れば、白竜は私服だ。勿論自分もだが。
 教導団の正式な任務で動いているのなら、制服を着ている筈だ、と推論し、恐らく石原校長の依頼を受けて行動しているのだろう、と想像する。
 ジャジラッドと洋の交渉戦にも口出しして来ない。
 もしも彼が正式な任務で動き、召集を掛けてくるのなら、丈二は軍人として、ここでセルウス達と袂を分かち、キリアナ側へつくことも厭わないつもりではあるが。

 白竜も丈二の姿を確認したが、特に表情を変えなかった。
 ただ淡々と、キリアナの前に立っている。
 世羅儀に至っては、へらっと笑って軽く手を振ってきた。
 個人的な動機で行動しているのなら、こういう事態も有り得ることを、丈二は勿論、彼等とて分かっているのだろう。
 戦場では、親兄弟が敵味方になることだってあるのだ。
 それでも、今回は任務ではないのだから、契約者同士で本気の殺し合いなどはしたくない、と思う。
 どうにか、この場を凌いで逃げる方向に持っていくことはできないだろうか。


「あのお人は、シャンバラ国軍の命令で動いてるわけではないんやね」
 キリアナが前に出て来て、ジャジラッドに囁いた。
「保証しよう」
「そんなら、ウチが相手しましょうか。
 シャンバラ政府を敵に回すのは不本意でしたけど、そういうことなら。
 ウチの依頼は『セルウスを捕らえる』ことやし、皆さんに同士討ちさせるのは忍びないですよって」

「ならば、おぬしの相手はわしがしよう」
 六黒が進み出た。
 そうだ、待っていたのはこの時だ。
 様々な思惑はともかく、武に生きる者としては、手を合わせておくべきと思っていた。
(むくろ。だめ)
 パートナーの強化人間、九段 沙酉(くだん・さとり)は、そんな六黒を必死で止める。
(ふり。ここでは、かてない)
 実力差があることを、沙酉は悟っていた。
(むくろ)
(やかましい。黙れ)
 振り向くことすらせず、六黒の怒気を孕んだ声に、沙酉は押し黙る。
「いいじゃない。やらせておけば」
 テレパシーによる二人のやり取りは分からずとも、ネヴァンが沙酉に言った。
「でも」
「何の為に来たと思ってるの? あたしに、見せてよ」

 六黒が先に仕掛けた。
 速度向上の装備と大帝の目の補佐により、応戦するキリアナの剣を見極めながら、抜刀するなりアナイアレーションを仕掛ける。
 だが、その剣先をくぐり抜けるようにして、キリアナが六黒の懐に攻め込んだ。
「ちっ……!」
 避けられることも見越して、六黒はギリギリで回避する。
 しかし、その肩口から鮮血が散った。
 キリアナは早く、適確で、その上一撃一撃が重かった。
 小手先の技など、何一つ使わない。
 小柄な体を生かした、無駄の無い動きで、純粋な剣技のみで戦っている。
 次第に六黒は防戦一方となり、それも危うくなって来た時、
 不意に、周囲の明かりが狙撃されて次々と消え、暗闇となった。


 六黒とキリアナの戦闘の一方で、洋達の方でも動いていた。

 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が、後方から坑道の壁の明かりを次々に狙撃した。
 視界にある全ての明かりを消してしまうと、周囲は暗闇に包まれる。
 だが、その暗闇に、多くの者は怯まなかった。
 坑内に光源がないことを予測して、相応の備えをしていた者が多かったからだ。

 むしろ、ジャジラッドはこの暗闇を利用した。
 その瞬間、彼はトラクタービームを使って、クトニオスを捕らえようとする。
 セルウスもドミトリエも駄目なら、クトニオスだけでも押さえておこうと思ったのだ。
 と言うより、むしろ彼の狙いは始めからクトニウスだった。
 先にドミトリエを指定したのは、油断させる為の時間稼ぎのようなものだ。
「わわっ!」
「何ジャ!?」
 がくん腰を引っ張られる感覚に、セルウスは体勢を崩す。
 クトニウスを括り付けてあった紐が、ぶちりと千切れた。
「うぉぅっ!!」
「師匠っ!?」
 暗闇の中にぼんやりと光るビーム。
 その先に、クトニウスほのかにが照らされている。
 追いかけようとしたセルウスは、何かにどしんとぶつかって転んだ。
「貰った!」
 引き寄せたジャジラッドは、ぱしんとそれを受け止め、勝ち誇って笑った。
 ビームが消え、全くの暗闇となる。

 一方、闇に包まれると同時に、みとや洋孝ら、洋のパートナー達が一斉に攻撃する。
 ダークビジョンを持っているのはみとだけだったので目くら撃ちだが、構いはしない。
 洋孝は乱射でジャジラッド達を攪乱する。
「死にたくなければ立ち去ってください。
 神罰の代行者たる私の辞書に、手加減という文字はありません。以上」
 エリスが言い放った。

「セルウス達は、先に行くであります!」
 機晶爆弾を取り出しながら、吹雪が叫んだ。
「こっちでさ!」
 ガイ・アントゥルースがセルウスの腕を引く。
「でも、師匠が……」
「ここは逃げるのが先でさあ」
 酷なようだが、状況的に、そう判断するしかない。
 ガイはセルウスを連れて行く。
 吹雪は、洋達の戦闘に紛れて、坑道の隅に二つの機晶爆弾を設置すると、更にひとつをジャジラッド達に向けて投擲した。
「撤退!」
「退却だ!」
 爆音と同時、両陣営から指示が飛ぶ。
 この後に来ることに気付いたのだ。


(むくろ、ひだり!)
 周囲が闇に包まれた瞬間、ダークビジョンでキリアナの場所を見付けた沙酉が、六黒に叫んだ。
 六黒は咄嗟に、左に向かってスタンクラッシュを放つ。
「きゃっ!」
 キリアナが身を竦めた。
 かかった手応えを感じたが、深追いはしない。
 ここで下手に追撃すれば、返り討ちを食らうのは明白だった。
 沙酉が、にげてむくろと煩く叫んでいるが、答えるまでもなく、引き際くらい心得ている。
「挨拶はここまでよ」
 言い捨てて、六黒は撤退する。
 負け惜しみと取られてもよかった。
 決着の舞台は、まだ先だ。


 吹雪の仕掛けた機晶爆弾が爆発する。
 轟音と共に、壁や天井が崩れた。
 またか、と、その轟音を耳に聞きながらドミトリエが呟く。
 暫くドワーフ達は忙しいことになりそうだ。


「はあ……、油断したわ」
 キリアナは、軽く肩を竦めて剣を収める。
 息が上がっていた。
「キリアナちゃん、大丈夫?」
「心配あらへんよ」
 回復魔法をかけようとするアルミナ・シンフォニールの言葉に、笑みを見せて断る。
「ちょっと疲れただけですよって」

 ジャジラッド達は、クトニウスを捕獲した時点で、速やかに離脱の体勢に入っていた。
 坑道は塞がれ、別の道を探さなければならないが、負傷は少ない。
 アルミナや封印の巫女白花らが、負傷者の治療にあたった。
「せっちゃん、大丈夫?」
「平気じゃ」
 流れ弾を受けた辿楼院刹那に泣きそうな顔で治療しながら、そう心配するアルミナに、刹那は言葉少なに答えた。