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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第一話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第一話

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 その容貌は、やはりエリュシオン人の目には珍しく、目立つのだろう。
 ブルーズ・アッシュワーズを、二人の少年の内背の低い方、セルウスは、目をまん丸にして見つめた。
「………………トカゲ?」
「違う。ドラゴニュートだ」
 ブルーズは、心なしか身の危険を感じつつ、答える。
 敵意ではない。これは……
「ドラゴン?
 俺一度ドラゴンの丸焼き食べてみたかったんだけど!」
「食うな」
 目を輝かすセルウスは、がつんと後頭部に背の高い方の拳を食らう。
「これでも大事なペ……パートナーなので、それは遠慮してもらえないかな」
 黒崎天音が苦笑した。
「……おまえ今、わざと言い間違えただろう」
 ブルーズに半眼で言われるのに、何のことかな、ととぼける。

「おなか空いてない? これ、差し入れ」
 ヴァルキリーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、ドーナツの箱入り詰め合わせをセルウスに差し出した。
「うわあ! ありがとう!」
 セルウスは大喜びでそれを受け取る。
 その場で箱を空け、もぐ、とひとつにかぶりついた。
「おいしい」
「こんな時に何をがっついてる」
 もう一人の少年が呆れるが、はいっ、と一個渡されて溜め息を吐く。
「師匠も食べる? おいしいよ」
「無理ジャ」
 くすっと笑って、小鳥遊美羽が自己紹介した。
「私は、西シャンバラ・ロイヤルガードの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だよ。こっちはコハク」
「にししゃんばらろいやるがー……」
「美羽だよ」
 美羽は笑った。
「えっと、俺は、セルウス。
 あと、ドミトリエと、クトニオス。よろしく」
「大体の事情は、シボラの長老から聞いてるけど……。
 何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってね」
「困ったこと……」
 セルウスは、その言葉に、ふと真面目な顔になって美羽を見た。
「……実は、すごく困ってることがあるんだけど」
 真剣な表情で声をひそめるセルウスに、美羽は顔を寄せる。
「どしたの?」
 ドミトリエのことなんだけど、と、セルウスは言った。
「最初、ドンちゃんて呼んだら殴られて、
 ドムって呼んだら蹴られて、
 ドミィって呼んだら、向こう向いたまま返事してくれなかったんだ」
 美羽とコハクは、目をパチクリと瞬く。
「何て呼んだらいいと思う?」
「ドミトリエと呼べ」
 背後から、ごつんと拳骨を食らう。
「こんなところで、のんびり寛いでいる場合か。行くぞ」
「まだ食べ終わってないんだけど」
「一気に食べなくてもいいよ。
 休憩できるところで残りを食べよう」
 コハクが笑う。
「シャンバラに行ったら、また差し入れするよ」
「ありがと!」
 セルウスは、ドーナツの箱を抱えて、先を歩くドミトリエに続く。
 その横に、美羽とコハクも続いた。

「何にしろ、無事に合流できてよかったです」
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が安堵に微笑み、自己紹介をする。
「もう少し落ち着いた場所に行けたら、すぐに回復しますね」
「ありがとう。まだまだ平気だよ」
と、セルウスは笑って答えた。
「おう!
 これからは俺達が協力してやるから、大船に乗ったつもりでいな。はっはっは!」
 パートナーのゆる族、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がどんと胸を叩いた。


「君が、セルウスか。
 俺は武神牙竜。君の使命に協力する為に来た」
 少年を助けるのはヒーローの基本。
 例え罪人と呼ばれていようとも、ヒーローは子供の味方でならなくてはならない。
 己の信念と使命の為にここへ来た武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、成長途中のセルウスと目線を合わせて屈み、そう自己紹介した。
「君達の目的は、パラミタの崩壊に関わることなのかな?」
 樹隷であるセルウスが、宿命を背負っているというのなら、それは世界樹に関することでは、と牙竜は見ていた。
「えっと……」
 言い淀むセルウスの腰で、クトニウスが
「それには答えられン!」
と口を挟む。
 実は今迄も、彼は時折ブツブツと説教じみたことを言っていたが、あまり反応されていなかった。
「そうか。
 いや、いきなりすまなかった。
 推測が違っていても構わない。そこは問題じゃないからな。
 君を助けることが、一番重要だ」
 理由はひとつ。牙竜がヒーローだから、である。
「知ってるか? ヒーローは子供の味方なんだぜ!」
「知らなかった」
 そうなの? とドミトリエを見ると、冷ややかな表情で、彼は顔を逸らす。
「そうか。じゃあこれから知ってくれ」
 牙竜は笑った。
「約束する。
 やるべきことを果たせるよう、セルウス達を絶対に守る」
 右手の小指を向ける。
「うん。ありがとう! 俺も頑張るよ!」
 セルウスも言って、二人は誓いの指切りを交わす。
 最後まで絶対に護り抜く、と、牙竜はその指切りに熱く誓い、一方ドミトリエは、そんな二人から少しずつ距離を置いて行ったのだった。

 セルウス達への協力者が続々と合流する一方で、アンデッドの襲撃もまた、途絶えたわけではなかった。
 どうやらシャンバラ地方からシボラ地方に流れているようで、シャンバラに向かうにつれ、遭遇する頻度が増えている。
 特に、飛来するゾンビ首の群れは、強さは雑魚にも近かったが、それを補うほどの数が集まっていた。
「だが、今や俺達も、セルウスの元に集結した。
 あいつらごとき恐るるに足りん!
 いくぜ……変身!」
「カード・インストール!」
 叫びと共に、パートナーの龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が魔鎧化し、牙竜に装着されて、ケンリュウガーとなる。
「ケンリュウガー、剛! 降!」
 ケンリュウガーは変身のポーズを決め、
「先手必勝!」
と叫んで、ゾンビ首の群れに突っ込んで行く。

「私達も行きますっ!」
 ソアが、ベアと共に戦う。
「とりあえずセルウス達は休んでろ!」
 ベアは、まだ回復しきっていないセルウス達を下がらせた。
「でも、戦える!」
「心配すんな。次からは一緒にだ!」
「休んでおけ、セルウス。まだ先は長いゾ!」
 クトニウスも言って、セルウスは頷く。
「まとめて行きますよっ!」
 範囲魔法を使うべく、ソアが叫んだ。
 閉ざされた場所で使う魔法ではないが、大量の敵を一気に一掃するには、やはりこれが有効だ。
「構わん。行け!」
 ケンリュウガーが応える。
 ソアはブリザードを放った。
 氷の嵐に襲われて、宙を飛び交うゾンビ首達が、次々ボトボトと地面に落ちる。
 復活しないよう、それらにとどめを刺して回りながら、ソアの魔法を逃れたゾンビ首を掃討して行った。

 ケンリュウガー変身の間に、更に彼等から距離を置いていたドミトリエは、やれやれと近くの壁に寄りかかり、
「ン」
と、その壁から離れて背後を見つめた。
「ドミトリエー」
 考え込んでいるドミトリエに、セルウスが走り寄り、ドミトリエは振り返る。
 程なくして、戦闘を終えたソア達もやって来た。
「まあざっとこんなもんだ!」
 片手を壁にもたれかけ、片手親指をびしっと自分に向けながら、得意げにベアが言い、その体が傾いて、壁に飲まれた。
「ベアっ!?」
 壁が、後ろに倒れたのだ。
「ぎゃー!?」
 ベアは向こう側に転がり、壁は、起き上がり小法師の要領で元に戻る。
「……やはり、隠し通路があったか」
 ドミトリエが呟いた。
「ベアが消えちゃったー!」
 セルウスが叫ぶ。何事かと仲間達が振り向いた。
「消えてねえ! こっちに道があるぞ!」
 壁がこちら側に傾いて、ベアが顔を出す。
「こっち、灯りがねえからよく見えねえ。
 その辺の壁の灯り、外してもいいか?」