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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第一話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第一話

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septem : シャンバラへ
 
「迷った」

 光臣翔一朗は、散々HCをいじった末、それを認めた。
 マッピングをしていた者は多かったが、殆ど役には立たなかった。
 誰の来たルートも、辿って戻ることはできなかったからだ。
 さ迷い歩いた末に、彼等は未だ地上への出口を見付けられないでいる。
「進んだ距離と方角的に、シャンバラに入っていることは間違いないと思う」
 ドミトリエが言った。
 元々、坑道の地上への出口は多くない。ドワーフが、それを必要としないからだ。
 だから一つを逃してしまうと、かなりさ迷い歩くことになるのだった。
「大丈夫だよ」
 セルウスは楽観的だ。
「だって最悪、行き止まりまで行っちゃえば、そこにきっと出口があるよ」
「そうだな。ドワーフが、行き止まりを何処にも繋げないわけがない」
 ドミトリエも頷く。
 そうして、とりあえず、先へと進み続けることにした。



 笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)は、空京の骨董品業者の依頼で、ドワーフの坑道を探索していた。
「……何だか、騒がしいな?」
 注意深く向かってみると、坑道の奥から、大勢の集団が近付いてくる。
 基本的に、小人数チームで活動することの多い坑道内では珍しいことだ。
「どうしたんです?」
 声を掛けてみると、
「おう、冒険者か?」
と、翔一朗が手を上げる。
「坑道の出口は、こっから近いか?」
「半日ほど行った先だけど……迷子?」
「そんなとこじゃ。追われとってのう」
「それは、大変だね。ボクに手伝えることある?」
「道案内を頼む」
 道すがら理由を聞くと、はるばるシボラから来たセルウス達の護衛で、ここまで来たという。
「お腹空いてない? あんぱんだけど食べる?」
 荷物に手を突っ込んで、あんぱんを取り出すと、セルウスは、
「食べる! ありがと!」
と受け取った。
「いちいち餌付けされてるんじゃない」
 がつん、とドミトリエのスパナ槍に突っ込まれるが、セルウスは既に挫けない。
「はいっ」
 あんぱんを半分割ってドミトリエに渡す。
 深い溜め息を吐いて、ドミトリエは更に半分に割ると、片方をセルウスに返した。

 ところが、紅鵡の来た方に、道はなかった。
 坑道が崩落して、道が塞がれている。
「ええっ」
「此処もか……」
 もはやセルウス達は驚かない。
「仕方ない。他の道を探そう」
「シャンバラまで来たことは分かった。こうなったら何処でもええけえ、出口を探すぞ」


 そうして、彼等は苦心惨憺の末、ようやく坑道の出口を見付け、地上へと出た。
「まさか本当に、行き止まりまで進むことになるとは……」
 セルウス達は、生き返った気持ちで外の空気を吸う。
 そこは森の中だった。
 深い森の中を、半ばさ迷い歩いていると、細い道の向こうから、数人の人が歩いて来た。
「皆さん、地下坑道の出口から来た方ですか」
「えっ、どうして知ってるの?」
 セルウスが驚く。
「森の結界に入り込んだ人達がいる、と。
 この出口はこれ迄殆ど使われることがなく、恐らく森で迷っているだろうので案内するように言われて来たのです」
 セルウス達は、彼等に案内され、近くにあるという村に辿り着いた。
「ここは……」
 小鳥遊美羽コハク達が目を見開く。
 彼等は、この村に見覚えがあった。来たことがあるからだ。
「てことは、ツァンダ近くまで来ちゃってるの!?」

 シャンバラ、そしてパラミタの西の果て。
 ここは、ツァンダ地方の南に広がる樹海の中にある村だった。
「あの、私達、追われてるんだけど、あの坑道出口から出てくるかも……」
 美羽が事情を話すと、村人の一人が、わかりましたと答えて何処かへ行く。
 やがて戻って来て言った。
「あの坑道出口を、結界魔法で“塞いで”来るそうです。
 出口が見えなくなるので、追手が出てくることもないでしょう」
「ありがとう!」
 セルウス達はほっと安堵する。とりあえずは一安心だ。



 相談の結果、とりあえずツァンダに行こう、ということになった。
「蒼空学園に行こうよ。
 学校なら、途中で分かれた皆とも、おちあい易いと思うしね!」
と、美羽が提案する。

「ボクは、ここで別れるね」
 紅鵡が言った。
「空京で依頼者が待ってるし」
 ここで追手を足止めする必要があればとも思ったが、その心配は要らないようだ。
 村の人に空京方面で樹海を出るルートを聞いて、紅鵡はセルウス達とは分かれることにした。
「あんぱんありがとう」
 礼を言うセルウスに、紅鵡は笑う。
「また何処かで会おうね」


「そろそろだな」
 そうして、いよいよツァンダの街に入り、とりあえず、まずは蒼空学園に向かってから、という相談をしているところで、メンテナンス・オーバーホール(めんてなんす・おーばーほーる)は、セルウスに声を掛けた。
「もう安全だ。
 ここで一旦、安全な場所にひとまず移動しようと思う。こちらへ来てくれ」
 セルウスは、首を傾げてドミトリエを見た。
 ドミトリエは、警戒心を露にした表情でメンテナンスを見ている。
「心配ないわ。道中はあたし達がしっかり護るから」
 パートナーのポータラカ人、ミアリー・アマービレ(みありー・あまーびれ)が頷き、ヴァルキリーのピュラ・アマービレ(ぴゅら・あまーびれ)モニカ・アマービレ(もにか・あまーびれ)を紹介する。
「大丈夫。さあ、こちらへ」
と、メンテナンスが促したところで、

「安全な場所、とは何処です?」
 西条霧神の声に、メンテナンス達は振り向いた。
「もう安全なのですから、ここまで来て、敢えて別のところへ一旦移動する必要は、ないと思いますよ」
「どうしてもなら、オレ達も、皆で一緒に行けばいいよ。その方が安全だ」
と、パートナーの鬼院尋人も言った。
 これだけの人数がセルウス達を護っているのだ。今、単独行動をする必要はないだろう。
「……そう言うのなら、それでも構わないが。
 確かに、もう危険はないだろうしな」
 メンテナンスは執着せず、そう頷いて引き下がった。

「警戒しておいてよかったですね」
 霧神が肩を竦めた。
 色々な者が集まっている。
 もしかしたら、味方ではない者もそこには含まれているかもしれない、と、注意していたのだ。
「どうしたのー」
 離れたところから仲間が手を振る。
 それに手を振り返して、尋人はセルウス達に笑いかけた。
「さ、行こっか」

「拉致は出来なかったわね」
 残念、と、ミアリーが言った。
 勿論、彼等の目的は、セルウス達を安全な場所に連れて行くことではなかった。
 遅れをとっているとはいえ、キリアナ達は確実に後を追って来ている。
 それに実は、キリアナ達が後を追い易いようにと、メンテナンスは痕跡を残しながら進んでいた。
 土壇場でセルウスを拉致し、キリアナ側の者に引き渡そうというのが、メンテナンス達の目的だった。
「こんなことが発端で、また両国に戦争が起こったりしないといいんだが」
 そんなことになるくらいなら、いっそ引き渡した方がいい、というのが、メンテナンスの持論であった。
 シボラの国家神に頼まれたとはいえ、エリュシオンは同盟国だ。
 天秤にかけるなら、傾くのはエリュシオン側に決まっていた。
「まあ、これからの動向を見届けさせてもらおう、といったところか」
 彼等は、ツァンダの人込みに紛れて立ち去る。


◇ ◇ ◇


「セルウス達は、ツァンダへ行ったんですの?」
 セルウス達から遅れ、更に離れた出口からシャンバラへ出たキリアナ達は、ジャジラッド・ボゴルらの案内でキマクに落ち着いていた。
 分裂したエニセイは全て元通りにくっつき、エニセイは再び元の大きさに戻っている。
 報せを聞いたキリアナの口調が、心なしか踊っていた。
「ツァンダが、何か?」
「んー、いえ、ちょっとなあ。プライベートなことやし……」
 キリアナは言葉を濁す。
 でもちょっと、会うてみたいなあ、と、ひっそり呟いた。
 

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

 
 お待たせいたしました。
 「追う者と追われる者 一回」リアクションをお送りいたします。

 セルウス達は逃げ切りに成功し、ツァンダに辿り着いています。
 次回、蒼空学園からスタートすることになります。

 リア上のセルウス側の事情ですが、全てキリアナ側も知っているということにして問題ありません。
 色々なルートを伝ってキリアナ側にも伝わっているとしてください。


 また、今回、トレジャーハンティングでアクションを掛けた方は、もれなくお宝を発見しております。
 ……の予定でしたが、該当の方はお一人でした。
 
 東朱鷺さんは、MCLC各一つずつのお宝をゲットしています。

 こちらはアイテム欄には明記されませんが、このシナリオ内で使えるローカルルールを適用させて頂きます。
 どんなお宝をゲットしたのか、次回アクションでお報せください。
 無意味に究極アイテム、等は採用されません。
 このシナリオでの行動に役立ちそうな、面白いアイテムを考えてみてくださいね。

 それでは、また次回もよろしくお願いします!