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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第一話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第一話

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 キリアナが、この依頼を石原肥満へ行ったことに、違和感を感じた者もいた。
 叶 白竜(よう・ぱいろん)もその一人だった。
「本当の罪人の身柄の確保を望むなら、直接教導団へ要請があってもおかしくないはずですが……」
「まあ、わけありみたいだからねえ、彼女」

 パートナーの強化人間、世 羅儀(せい・らぎ)は、キリアナの美貌にころっといってしまっていた。
「エリュシオンてひょっとして、美人の神様がいっぱい!?」
 期待に胸を弾ませたが、白竜に睨まれるので、キリアナの前では節度を保ち、
「御用がありましたら、雑用でも何なりと、申し付けてやってください」
と、執事紛いの挨拶をして笑われた。
「堅苦しいことは抜きでよろしゅうお願いします」
 そう言われ、その後は普段のタメ口だ。

「深い調査や干渉はされたくない、ただ「罪人」探しの人手は欲しい、というところでしょうか」
「どうする?」
 羅儀が訊ねる。
「今は深くは詮索せず、協力して行くことにします」
「白竜が口開くと、軍人丸出しだしな。
 それに、オレ達が詮索しなくても、他の連中が色々訊いてくれるんじゃないの」
 白竜は頷く。
 他の者達との会話を逃さず聴きとっていれば、様々な事情も解ってくるだろう。


「依頼についてなんだけど」
と、キリアナに言ったのは、伏見 明子(ふしみ・めいこ)である。
「また別のところから、セルウスの逃走幇助の依頼が出たらしくて、セルウスの手助けをしてこっちの邪魔をしてくる契約者が出て来ると思うのよね」
「あらまあ……、それは難儀なことになりましたなあ」
 キリアナは表情を曇らせる。
「皆さんに手伝うてもろて、この件も早うに終わると思うてたのだけど」
「この辺は、国っていうより個人の動きだから勘弁して欲しいんだけど」
「それは勿論ですわ。うちかて、一応個人で動いとることになっとりますし。
 まあ、建前ですけどなあ」
 この辺は、事情が事情なので勘弁な、とキリアナは苦笑する。お互い様、ということか。
「とりあえず私は、そういう仲間を説得する方向で行こうと思うわ。いいかしら」
「方法は、お任せします」
 キリアナは頷く。


「ぷちエニセイ、しっかり働くんよ」
 と、キリアナの剣技によってエニセイが分裂する様子をずっと見ながら、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)
「すげー! すっげー!」
と目を輝かせていた。
 分裂を作る度に、本体のエニセイが縮んでいると思っていたが、最後には、エニセイは馬の倍ほどの大きさにまで小さくなっている。
「なあなあ、それって他の生き物でも分裂させることができるのか?」
 アキラは期待を込めて訊ねた。
「もしできるなら、俺を分裂とかしてみて欲しいんだが!」
「無理やわ」
 即答されて、がくっと肩を落とす。
「えーっ……」
「すんまへんなぁ。
 でもこれ、エニセイだけの特殊能力なんやわ。
 勿論、分裂できるように見極めて斬らへんとあかんけどな」
「なぁんだ〜つまんねーの」
 自分が分裂した時の期待感は、雲より高くなっていたので、がっくり感も半端なかったが、できないものは仕方なかった。
「遊んでないで、真面目に仕事しろってことネ」
 パートナーのゆる族、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が冷静に言い放つ。
「……解ってるよー。
 でも少しくらい夢みたっていいだろー」

 ここ迄来たのだから、セルウス捕獲の依頼は受けるが、アキラのテンションは、すっかり下がってしまっていた。
 分裂エニセイを受け取るのを忘れてしまうほどに。
「どうするノヨ?」
「野生の勘で行くさ。
 あとはアンダーグラウンドドラゴンの嗅覚で何とかなるだろ」
「投げやりネ……」
 もしかしたら忘れたのではなく、テンションが下がって受け取る気にもならなかったのではとアリスは思ったが、特に訊ねることでもない、と何も言わなかった。
 二人はアンダーグラウンドドラゴンに乗る。
 しかし追跡よりも、横道を見る度に、
「あっちにドワーフのお宝無いかな〜」
と、アキラの移り気が激しかった為、追跡は全く捗らなかった。


◇ ◇ ◇


「アンデッドが出没するって噂だけど。
 途中アンデッドと遭遇しても、いちいち相手にしていたらきりがないよねえ」
「スルーできるものはスルーして行くのが望ましいでしょうね。
 セルウスさんを確保する時に、荒事にならないとも限らないのですし、余計な消耗は好ましくありません」
 なぶらの言葉に、パートナーのヴァルキリー、フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)も言った。
「頑張らないと……龍騎士団員なんだから」
「まあ、色々きな臭いものも感じないではないですが……まずはセルウスさんと接触しなくては始まりませんし」
 二人は追跡する分裂エニセイの後に続き、坑道を進んで行く。


「何だか、怖いところね……」
 ハーフフェアリーのアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)が、パートナーの辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)に囁いた。
 二人はそれぞれ分裂エニセイに乗っている。
 小柄な二人が、その背に乗って進んで行けるようにと、キリアナが、他の分裂エニセイより、二人に一頭ずつ、大きめに斬ってくれたのだ。
 折角だから刹那と一緒に乗れるようにして欲しいとアルミナは思ったが、
「ウチは構わへんけど、そうすると、ポニーくらいの大きさになってしまいますえ」
とキリアナに苦笑された。
 あまり大きいと、追跡させるには向かなくなってしまう。
 最も、二人が乗ろうと言う時点で、既に追跡には使えないだろうが。
「どうします?」
 訊かれて、刹那が
「普通の大きさで構わん」
と答えた。
「ほなら」
と、この大きさになったのだ。少し残念だったが、仕方がない。



 坑道の内部は真っ暗ではなく、予想に反して明るかった。
 所々に、機晶石による灯りが灯され、内部を照らしていたからだ。
 稀にその灯りが切れて暗くなっているところもあったが、概ね、進むのに支障は無い。
 天井も高く、馬程度の動物であれば、連れて進むことも問題なかった。

 それでも、怖いところだわ、とアルミナは思う。
 空気が淀んでいるような気がする。
 アンデッドが出る、と刹那が言っていた。
 刹那がいるなら、怖がることなど何もないのだが。


「アルミナ、避けておれ!」
 刹那の奈落の鉄鎖で落とされた首のゾンビが、そのまま潰される。
 武尊は、飛来して来たゾンビ首をバットでフルスイングした。
 首は天井に激突した後、跳ね返って壁と床に激突した後、もう一度壁に激突してからぼとりと床に落ちる。
 ひくりひくりと動いている様子から、それでもまだ、しぶとく生きてはいるようだった。
「くそ、キリがねえなあ!
 しかもシャンバラに近付くにつれて増えて行ってるぜ」
「しかし、方向に間違いはないようです。
 ……先程も、アンデッドの死骸が散らばっていましたし」
 白竜が言った。
「あちらさんも、アンデッドには苦労しているようですなあ」
「だからと言って、この道の先にいるとは限りませんが」
「いくつも分岐してるしな」
 羅儀も頷く。

 分岐ごとに、分裂エニセイの反応が分かれた際は、キリアナ一行もそれに従って手分けしている。
 稀に、一旦分かれた仲間が、再び同じ道に合流することもあった。
「それにしても、奇妙なアンデッドどすなあ」
 キリアナは一行の最後尾に、馬の2倍ほどのサイズに縮んだエニセイと共にいた。
 アンデッド対応でキリアナの手を煩わせない、と言った白竜に
「ほならお願いします」
と、下がっているのだ。

「……だが、真の脅威は、アンデッド共じゃねえ」
 武尊は呟いた。
 真の脅威は、契約者だ。
 今回の依頼で、帝国を快く思わない者や、他に思惑のある者、罪人セルウスに味方する者が必ず、こちらの邪魔をしに動いて来る。
 極端な話、シボラ側から坑道に入った者以外は全て敵、と見てもいいだろう、と武尊は思っている。
 それくらいの警戒は必要だ。
「邪魔する奴がいたら、全員顔を覚えて仕返ししてやる」
 又吉は、記録の為にデジカメを非物質化して隠し持っている。

「向こうは、坑道内部でHCを多用してくると思ったが……」
 ドラゴニュートのゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)は、HCの通信傍受を試みながら、首を傾げた。
 今のところ、有益な情報が得られない。
 マッピング程度にしか使っていないということか。

 実は、この坑道内部では携帯電話が使用できた。
 全範囲ではなく、エリュシオン・シャンバラ間を中心に、現在も範囲拡大中で、ドワーフ達による、光ファイバー設置工事が進められているところなのだ。