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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め

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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め
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第三章 情報戦4

【マホロバ暦1187年(西暦527年) 6月6日 7時22分】
 羽紫軍――



 羽紫秀古(はむら・ひでこ)の行軍は驚異的な速さだった。
 時に道なき道を行き、谷は深く、道が狭いうえに滑りやすい。
 兵は延々と縦列になり、暴風という天候の悪化も重なっていた。
 御凪 真人(みなぎ・まこと)らから瑞穂の情報を得ていた秀古は、土方 伊織(ひじかた・いおり)を瑞穂国に残しており、しばらく待てと言った。
「瑞穂の出方をみきわめよ。それまで水防堤を解いてはならんぞ」
「うーん、本之右寺の出来事は、知られること前提で動いたほうが良いと思いますよ。第一、講和を一度結ぶことができたなら、追撃できない状況にさえすればよいのではないでしょうか。それでこそ和睦が活きてくると思うのです」
「魁正はそんな手ぬるく待つ男ではない。奴の本願は、天下取りを狙う他の大名と同じ『上洛』だ。隙あらばとその機会を伺っているはずだ」
 天性の勘というものなのだろうか。
 秀古は自分を追いかけてきそうな男を無意識に遠ざけようとしていた。
「とりあえず、ようじょさんが考えた作戦を成功させるですよ」
「ああ……」
 馬謖 幼常(ばしょく・ようじょう)は、古地図を示しながら説明した。
「羽紫軍は扶桑の都目指して行軍中だ。俺たちは瑞穂軍の追撃に備えて、瑞穂軍をおびき寄せ、水防堤のこの当たり一帯を決壊させる。実力行使で足止めする」
 幼常はすでに期は熟しているといった。
「二日だ。羽紫軍が瑞穂国を発って二日たっている。秀古のしばらくとは、今しかない」
「では、私とサティナ様にお任せください。私たちが伊織お嬢様をお守りしつつ、作戦を成功させて見せます」
 サー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)が伊織に恭しく傅いた。
「私は騎士として最後の戦いにて国を、王をお守りすることができませんでした。歴史を変えることができたらと何度思ったかしれません。ゆえに、主を討たれた秀古殿の気持ちも分かるつもりです。私は西国からの大返しを成功させてやりたいと思っています」
 サティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)も手伝いうのはやぶさかではないといった。
「しかし、瑞穂軍をおびき寄せ堤防をきるとなると、我等だけではちと人数が足りぬのう。他に援軍はないのか」
「俺も加えてくれ。俺は、香姫の敵をとりたい」
 七篠 類(ななしの・たぐい)尾長 黒羽(おなが・くろは)と連れ立って志願していた。
 彼は自分は瑞穂軍ではないと念を押して言っていた。
 類はただ、香姫を助けられなかったことを、『助けられたはずだ』と思い悩んでいた。
「マホロバ暦1185年に死ぬはずだった鬼城 貞康(きじょう・さだやす)のかわりに香姫は死んだのか。確かめたいんだ。もし、羽紫秀古を助けることができるのなら、この歴史改変を仕組んでいる奴の改竄を阻止できる」
 類は秀古を助けることで、敵を討とうと考えた。
 黒羽もこの間は煮え湯を飲まされたと感じていた。
「わたくしのテリトリーに入って好き勝手してくださいましたわ。お返しして差し上げませんとね」
「私も加勢します。羽紫軍への追撃を阻止すればいいんですよね」
 九十九 昴(つくも・すばる)九十九 刃夜(つくも・じんや)九十九 天地(つくも・あまつち)と並び立つ。
「本来起こりえないことが起こったのならば、正さなくてはね」と昴。
「ふむ、これだけそろえばいけるかもな」
 幼常は顎に手をかけて思案していた。
「足りなければ、途中でまた拾えばいい。本之右寺のことは他のものに任せて、俺たちは目の前の瑞穂軍を止めるぞ」
 各隊はそれぞれ任務を負って散らばった。

卍卍卍


「くそ〜重て〜!!」
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は鬼鎧絶対無敵要塞『かぐや』を押していた。
 しかし、びくとも動かない。
「うっかり誤作動して設置しちまったあああ! どーすっかな……」
 この巨大タケノコ型の要塞の最大の利点は、設置時間の短さにあるという。
 詳細は不明だが、設置とほぼ同時に瞬間的に『のびる』らしい。
 この最大の利点が、今回は裏目に出てしまった。
「仕方ナイヨ。アキラゆえにアキラメル……ナンチャッテ」
「アリス……お前」
 アキラの肩の上ではしゃぐアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)を摘み上げた。
 これでも彼女なりにアキラを慰めているのだ。
 アキラはぎゅっとアリスを抱きしめる。
「ここで瑞穂魁正(みずほ・かいせい)を止めないと、歴史がおかしくなったままなんだよ。俺の計算が正しければ、この巨大タケノコ要塞でとうせんぼできたはずのに……なのに〜!!」
「アキラの計算が正確だったことが今まであったのか?」
 ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)がトドメのツッコミを入れる。
 アキラは本当に落ち込んできた。
 今にも泣きそうである。
「アレレ、アキラ足ヌレテルヨ」
「馬鹿いえ。男がめそめそ泣いてなんか……って、なんだコレ?」
 ルシェイメアもスカートをたくし上げて覗き込む。
 彼女たちの足元に水が流れ込んでいた。
 水は絶対無敵要塞『かぐや』にせき止められ、どんどんたまっていく。
「どこから流れ込んでいる?」
 アキラが上流を見上げると、追い立てられるような軍勢の姿があった。
 瑞穂国の軍である。
 それを九十九 刃夜(つくも・じんや)九十九 天地(つくも・あまつち)が追いつめているのだ。
 しかし、瑞穂の軍馬や兵はぬかるみに足を取られて進めない。
「それでは思うように動けないだろう。行進をやめろ」と、刃夜。
 天地が稲妻を発生させながら、再度警告した。
「瑞穂の国へ引き返しなさい。でなければ、我の力をまともに受けることになりますよ」
 アキラが目の前の光景に呆然としていると、土方 伊織(ひじかた・いおり)たちに声をかけられた。
「この上の水堤防をベディヴィエールさんとサティナさんが壊してくれたんです。そこへ丁度、この要塞がいい場所に居てくれたので、水溜りを作ることができたんですよ。瑞穂軍はぬかるみで当分動けませんよ。ありがとう、お礼を言いますね!」
「え、ああ……そう。そうなんだ」
 アキラにはよく分からなかったが、偶然にも絶対無敵要塞『かぐや』が役に立ったらしい。
 いや、そもそもこれは偶然ではなく、必然なのではないか。
 必然は偶然のためにあるのではないか?
 時空を旅していると何の時系列が正しくて、どれがそうでないのか分からなくなってくる。、
 それはともかく、彼の目的も果たせそうだ。
「瑞穂魁正殿、ここからは先へは進めさせません。どうしてもというなら、私がお相手いたします」
 九十九 昴(つくも・すばる)は刀を馬上の魁正に向けて突きつけた。
「いったい何を見たのです。秀古に、何を?」
 魁正は答えなかった。
 すでに天下取りを秀古から大きく水をあけられたのを悟ったのである。
「それがお前たちの意思なのか。これから天下がどう動くか……知っているというのか」
 魁正は自嘲しながら言った。
「お前たちは天下を動かした気になっているのだろう。だが、それもわずかの間だ」
 魁正は全軍に向けて撤退命令を出した。
 羽紫軍に追いつけないのならば、無理に進める必要はない。
 これから天下は大きく乱れることだろう。
 国へ戻り、時局を見る必要があった。
「なぜこうも思い通りにならん……『鬼の仮面』も『人』も俺の前に立ちはだかるのだ……」