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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め

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【戦国マホロバ】弐の巻 風雲!葦原城攻め
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}第六章 講和の条件1

【マホロバ暦1188年(西暦528年) 7月5日 6時09分】
 葦原国葦原城下 鬼城陣営 ――



 翌朝――。
 葦原国主葦原総勝(あしはら・そうかつ)は鬼城陣営に姿を現した。
 日輪秀古(ひのわ・ひでこ)の本陣でもなく、瑞穂魁正(みずほ・かいせい)の陣でもない。
 途中、総勝が鬼城陣営へ向かっていくのを見つけたルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、開口一番「だからあのとき、援軍を送って鬼城貞康(きじょう・さだやす)を味方にしておくべきだったのよ!」と言った。
「でも、ご無事でよかった。講和しに行くのね? そう思ってたわ」
 ルカルカは、鬼城側との戦況を語った。
「鬼城軍はほとんど動いてはいないわ。ダリルと淵がずっと瑞穂軍をけん制してたし、こちらも籠城戦になるのは覚悟の上だったしね」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)もルカルカからの連絡を聞きつけた。
「……鬼城の元へ行くのか。護衛をつけようか?」
 ダリルは万が一場合に備えて、時限爆弾付きの総勝の人形を作れるといった。
 カルキノスも備えがあるという。
「関白を殺す気はない。が、もし講和の申し入れが決裂するようなことになれば、本陣に攻撃できるようにしておく。よいな?」
 淵もダリルと同じように密かに総勝の『身代わり』を用意していた。
 この身代わりとは、総勝の死体となってもらうものだ。
 もちろん、このような身代わりなど使う必要がないほうが良い、とも言った。
「殿を死んだと思わせて……未来にお連れする。葦原のための再戦の機会はなにもこの時代だけではない。未来においてもできるはずだ」
「『葦原国主である葦原総勝が自らの命と講和を引きかえに終結する』というシナリオはかわらない……いえ、かえては駄目だ」
 総勝が降伏するために鬼城陣営に姿を現したと聞きつけた風祭 隼人(かざまつり・はやと)風祭 天斗(かざまつり・てんと)が駆けつけた
 天斗が総勝にたずねた。
「1187年で俺の息子風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)に会わなかったか? 優斗はなんといっていた?」
「風祭……ああ、あの若人か。1188年に双子の弟が行くから、それまで自刃の芝居を練習をするようにといっておったの」と、総勝。
 隼人が少し安堵したように言った。
「では、何をすればよいか分かってるんだな。芝居を……後は俺たちが何とかするから」
「おぬしたちの尽力に感謝しておる」
 総勝は、彼らの用意周到さに驚きながらも、決着は自らの手でつけると述べた。
「葦原総勝、葦原国主として、最後の仕事をしなければならん」
「……お供します」
 ルカルカたちが付き添い、風祭親子もそれに続いた。
 関白ならびに二十万の大軍を欺くことができるのか。
 まずは……鬼城貞康である。

卍卍卍


 鬼城の陣営では事前に葦原の降伏が伝えられていたようだった。
 鬼城貞康は総勝を丁重に迎え入れる。
「鬼城殿。遅参のご無礼、お許しくだされ」
「いえ、貞康のほうこそ、もっと早く書状をさしあげるべきでした」
「鬼城殿の書状は、一年前にすでに受け取っておる」
「……すでに?」
 貞康がはてと首をかしげていると、総勝は書面を懐から出して見せた。
 貞康の脳裏に、一年前の山路越えの光景が浮かんだ。
「鬼城殿は良き家臣、良き人物に恵まれておるようだ。このわしもな。危険を冒し、数千年という時を越えてまで、マホロバのために働く。これほどの忠臣があろうかの」
「はい」
 貞康もようやく総勝の供をしているものたちの正体が分かった。
「マホロバを脅かす敵の正体を暴くためとはいえ、皆には迷惑をかけた。鬼城殿もよく辛抱強く待ってくださった。感謝申し上げる。しかし、これではっきりとした」
「敵の正体……?」
 優斗はその言葉をいぶかしんだが、場を読んで口をつぐんだ。
 総勝は話を続ける。
「鬼城殿には辛い選択が待っていよう。今一度、誰ための天下か考えてくだされ」
 総勝は言葉の端々に謎の含みを残した。
「なあ、鬼城殿。英雄とはその時代に生きる人々が作り出すとはよく言ったものよの。民の願望が、その時代の気流が、御輿を作りだし押しあげるのだ。天下人もまた然り。民の平和への願いをききとげなされ。さすれば、その御手に天下はおのずからもたらされましょうぞ」
 貞康が返事に窮しているのを見て、総勝は嬉しそうに「用心深いお方だ」といった。
「東へ行きなされ」
「東?」
 貞康は総勝の言葉を意外に思った。
 これは、葦原国を受け取れという意味なのだろうか。
 貞康ははっとした。
「総勝殿は、あきらめておられぬのだな」
「さよう」
 貞康の顔を見て総勝はにやりとした。
「貞康殿がこのまま葦原城を受け取っては、後々遺恨をまねこう。関白秀古が葦原家をすぐに滅亡させず、じりじりと追い詰めたのはこのため。葦原の反乱が起こり、鬼城家と潰しあうのを待っておるのだ。恐ろしいお方よの」
 総勝の言葉に、ルカルカも日輪秀古の葦原上城めの裏にはそのような思惑が隠されていたことを理解した。
 二十万人という大軍をぶつけながら、実はこの葦原城攻めでは葦原そのものをつぶす気はなく、鬼城の力をそぐことが目的の一つだというのである。
「関白はそれほど貞康殿を恐れておるともいえる。葦原の爺の申すこと、ご理解いただけましたかな」
「……は。貞康、訓えられました」
「もし相手が瑞穂魁正殿であったのなら、こうはいきますまい。最後に貞康殿にお会いできて良かった。葦原国を……民を、くれぐれもお頼み申す」

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「葦原総勝殿は負けたのではない。譲るが勝ちだと教えてくれたのだ」
 貞康は後年まで、葦原総勝についてよくこのように語った。
 風間 光太郎(かざま・こうたろう)がその葦原国主についてたずねる。
「その総勝殿は六日後、自分の命と引き換えに全ての将兵の助命を乞い、見事に切腹されてござる。それでも勝ちといえるのでござるか?」
「さて、どうだろうな……」
 総勝の遺体は埋葬され首塚が作られたが、それに携わったものはまるで人形のようだったと語った。
 一緒に埋葬されたお宝を狙った賊も、そこはもぬけの殻だったという。
 真実は、わずかな者が知るのみである。



 貞康はこの後、秀古にさらなる東への国替えを申し出た。
 未開の荒れた土地は人が住めるものではなく、表向きは秀古に臣従したかのようにみえた。
 しかし、貞康にはかつてないほどの自信があった。
 もたらせてくれたのは、葦原総勝と『月の輪』の者たちである。
「わしはこれから東方の山を崩し、川をひき、百万石以上の土地にしてみせる。何時いかなるときも、扶桑の都へ攻め上れるように……!」