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フロンティア ヴュー 3/3

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フロンティア ヴュー 3/3

リアクション

 
 
「世界樹そのものが、聖剣だったんだね……」
 布袋佳奈子がしげしげと、剣を見つめた。
「マナちゃんが、今のパラミタの世界樹達に全部託して、いなくなっちゃった後、ウラノスちゃんが、残ったこの剣を飲み込んだの。
 そして此処で、聖剣は、世界樹の形になってたんだよ」
 ぱらみいは、少し寂しそうに、遺跡を見渡す。
 この遺跡の中で、圧倒的な存在感を放っていた巨木がなくなって、何だか随分すっきりしてしまった。
「……飲み込んだ?」
 佳奈子は首を傾げる。
「うん。ここは、ウラノスちゃんの中だから」
「ウラノスの中?」
 ぽかんと訊き返す佳奈子に、ぱらみいは、うん、と笑う。


「なあ、ちょっとだけ、見せてくんない?」
 大谷地康之に頼まれて、北都は聖剣を彼に渡した。
 じっと眺めて、それを北都に返す。
「もういいの?」
「ああ。
 オレは見たかっただけだ。別に欲しくはねえ。
 できれば、ジールって姉ちゃんにやって欲しいと思うが。姉ちゃんはその為にここまで来たんだろ?
 でも、オレが勝手に決めていいことじゃないしな!
 とりあえず返す!」
「僕だって、特に欲しいわけじゃないけど……」
 北都はそう言って、とりあえずそれを、都築に渡した。
「どうだった?」
と、匿名が感想を訊ねた。
「うーん、凄いっていうか、深くて、澄んでる、って感じがした」
 言って、うん、と頷く。
 うん、そんな感じがした。

「へー」
 と、トゥレンが都築の背後にべったりくっついて、肩越しにその剣を覗き込んでいる。
「……正面から見りゃあいいだろうが」
「嫌がらせっぽいでしょ」
 トゥレンはくつくつ笑ってぱらみいを見た。
「ところで、この剣、銘は何?」
「今は、無いの」
「今は?」
「必要な時に、持って行く人が好きな名前をつけてたよ。
 名前を得て、聖剣は役目を帯びるんだ、って言ってた。
 だから役目が終わると、名前がなくなるの。
 でも最初の人が、自分の好きな名前をつけたの、皆、真似しただけなんじゃないかなあ」
 ぱらみいの話に、それなら名前をつけよう、ということになる。
「スピンオブフォーチュン、というのはどうだ? 運命を紡ぐ、という意味だ」
 刀真が言って、うんうん、とぱらみいは喜ぶ。
「それなら、カエラム、というのはどうかしら……。ウラノスの語源、天、という意味よ」
 リネンの言葉に、わくわくとぱらみいの目が輝く。
「パラミタリバー、とかは? やっぱりパラミタの名前が入ってるといいと思う」
 某の提案に、ふむふむとぱらみいは頷く。

 パラミタ、アトラス、アトリムパス、メルカトル、エスヘルト、アドゥムブラリ、ユグドラシル、クネニマキリ、ファーネル、

 と、次々に候補が挙がり、都築は挙げられる名前を地面に書き記していく。
 全ての候補が出ると、じっと名前を見比べていたぱらみいが、おもむろに、全ての名前の横に、線を引いた。
「……お前、もしかして、それ……」
 都築が苦笑する。
 線は書き加えられて行き、アミダの形になって、ぱらみいはジールを見た。
「選んで」
 えっ、とジールは驚いたが、頷いて、ひとつを選ぶ。

 そして、決まった聖剣の名は、アトリムパス。
 ――聖剣アトリムパス。



 そして、案件は、もうひとつ。

 誰がこの剣を持つべきか。
 ジールは困ったように都築の手にある聖剣を見つめているが、手にしたのが自分ではない以上、何も言えずに黙っている。
 カサンドロスなどは、今にも聖剣を奪おうと襲い掛かって来かねない気迫だが、流石にそんな卑怯な真似をする気はないようだ。
 トゥレンは成り行きを傍観している。
「要するに、この剣を使ってリューリク帝を止めれば、別に誰が剣を使ってもいいんでしょ」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、トゥレン達を説得しようとして言った。
「……そう、だけど、でも……」
 ジールは、ぎゅっと拳を握る。
「……私が、してしまったことの尻拭いを、皆さんにさせるのは、どうかと思う」
 自信なんて無い。
 どうしたらいいのかも解らず、だから強く言えない。
 自分が成してみせる、と、自分よりずっと強い契約者や龍騎士の前で、言えるわけもない。
 それでも、これは自分の責任なのだ。
 ジールは俯いて、それでも、そう言う。
「一人でやろうとしないで、皆でやればいいじゃない。
 誰の責任とか、そういう問題じゃないよ。
 もう起きてしまったことなんだから、皆で解決させなきゃ」
 手伝うよ、と美羽は言った。
「いいんじゃない。渡りに船だよ」
 トゥレンがけろりとそう言って、カサンドロスが睨みつける。
 トゥレンはわざとらしく顔を逸らした。
「渡りに船?」
 尋人が訊ねる。
「だって相手は元とは言え皇帝だしさ」
 トゥレンは言って、首を傾げる尋人に笑った。
「あんたらが、必要とあらば女王を殺すことも厭わない、ってんなら、説明しても無駄だし、殺せない、ってんなら、説明しなくても解るでしょ、ってこと」
 そう言ってから、トゥレンは少し考え込む。
「……あー、シャンバラは一回滅びたんだっけ」
 色々複雑なのよ、とトゥレンは笑った。
「皇帝に刃向かうとか、もう本当、ものすごい精神力が要るよ。
 雑魚なんか簡単に発狂するくらいの皇気を持ってるしね。
 精神力の強い弱いもあるけど、副団長みたいにガッチガチな忠誠心の塊なんか、一発で挫けるね。
 だから副団長は、元々対皇帝要員としては全っ然期待されてない。
 でも、まあ盾としてなら使えるからね」
「盾?」
「そう。副団長がジールの前に立って、死ぬまでに何とかしてね、っていう作戦だったの」
「……それで、渡りに船、か。他国民ならと?」
 都築の言葉に、それなんだよねえ、とトゥレンは大袈裟に溜息を吐いた。
「感情としては、他国民がウチの皇帝に剣を向けんじゃねえ、とか思うじゃん。
 もうホント、あんたらからすれば支離滅裂で無茶苦茶だよね。
 だから副団長なんてもう、色々むかついてんのに黙ってるしかないっていう」
 じろりと睨みつけるカサンドロスの視線を、トゥレンは無視する。


「少佐は、どうすべきと思いますか」
 叶白竜の言葉に、都築は肩を竦めた。
「どうするべきだと思う?」
「……私の意見を言ってもいいのであれば、必要とする人達に渡すべきだと考えます」
「だよなあ」
と都築も頷いて、
「そういうことなんで」
とジールを見た。
「ただし、まあ見届けさせて貰う。
 あわよくば、事が終わった後強奪しようかなとか考えてる。
 で、死なない程度に勝手に介入しようとかも考えてるから、くれぐれもそっちの護衛に、後ろからばっさりやらないようにと伝えておいてくれ」
「カサンドロス様は、そんな卑怯なことはしないわ」
 むっ、とジールは言ってから、ほっとしたように都築達を見た。
「手を貸してくれるの」
「ジール、そういうのはっきり言っちゃ駄目でしょ。
 折角うちの石頭の立場を汲んで、ああいう言い方してくれてんだから」
「あっ、ごめんなさい」
 トゥレンが口を挟んでジールは謝ったが、それをわざわざ言うトゥレンの方がどうなのかと白竜は思う。
 カサンドロスを伺えば、案の定、機嫌の悪さに拍車がかかっている。
 無論、そこを追及するようなことはしなかった。


 都築から預かって、刀真がジールに聖剣を渡す。
「……大丈夫か?」
 刀真の案じる言葉に、ジールは力無く微笑んで見せた。
「もし、きついようならば、戦う時には援護する。
 代理としてこの剣を振るっても構わない。
 ……ちなみに、現皇帝のセルウスは、彼自身が物凄いとかじゃなくて、その在り方に、周りの奴等が手を貸したんだ。
 もし、今此処にセルウスが居たら、やっぱり相応のあり方を見せてくれると思うよ。
 君はどうする?」
「……新しい皇帝は……貴方達の、信頼を得ているのね」
 何処か羨ましそうなその目が、自分ではないものを見つめているような気が、刀真はした。
「……私はね、本当は…………」
 ジールは、言いかけて、言葉を止める。
 ふ、と自嘲的に笑って、聖剣を手にした。
「ありがとう。頑張ってみるわ」




「それじゃ、聖剣、借りて行くね。必ず返しに来るから」
 代わりになるか解らないけど、と、ルカルカ・ルーは、ぱらみいに自分の持っていた剣と、そして『イアペトスの灯』と『蒼き涙の秘石』を渡した。
 それは託された想い、そしてアトラスの記憶だ。
 この親子の残した心を、ぱらみいなら大切に抱きとめられるのではないかとルカルカは思ったのだった。
 アトラス縁の品があれば、寂しさも紛れるかもしれないとも。――いや、寂しさがなくなることは無いかもしれない。
 けれど、無いよりはきっといいはずだ。
「ドージェは、アトラスの思いもちゃんと受け止めてた」
 ルカルカは、アトラスに代わってパラミタを支え、ドージェに託した経験を思い出して、ぱらみいを抱きしめる。
「ぱらみいも想ってくれてるし、アトラスはきっと幸せだよ」
「ありがと」
 礼を言ったぱらみいに笑いかけて、ルカルカは皆の待つ六芒星の中に立つ。
 帰りは、歌は必要ないらしい。帰ろうと思えば帰れるという。
 見送るぱらみいに手を振って、彼等の姿は『空の遺跡』から消えた。