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コーラルワールド(最終回/全3回)

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コーラルワールド(最終回/全3回)

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第16章 それは未練か、執念か
 
 
「よく解らないですけど、何だか見覚えのある根っこですねぇ」
 成り行きのままコーラルワールドにいるキャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)が、事情がよく解らないままに、アールキングの根を見やった。
「邪悪な意思を感じるのですぅ。
 かかって来るなら、三枚におろしてキャンティちゃんの爪とぎ板にしてやるですわ〜」
 某有名猫のパチ……よく似たようなゆる族であるキャンティの、一体どこから発せられているのか不明な、フシャーという威嚇音と共に、爪ではなく、銃での牽制攻撃。
 だが、弾丸は幹にめり込むばかりだ。
「ちぃっですう!」
 舌打ちしたところで、背後からの援護射撃で、幹が抉らるように爆ぜ、木片がばらばらと散らばった。
 振り返ると、聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)が対物ライフルを構えている。
「こんなこともあろうかと」
「ひじりん、流石です〜」
「……ですが、大したダメージでもなさそうですね。
 お嬢様、どうやらこれは、エリュシオンの帝都で見た、アールキングの根と同じ物のようでございます。
 くれぐれもお気をつけください」
「すごいですぅ〜ひじりんは何でも解るんですねぇ」
「いえ……先刻からやたら周囲より「アールキング」という単語が耳に入りますので」
「がっかりですぅ〜」
 まるでコントのような二人のやり取りに呆れつつも、周囲の契約者達も、それぞれ行動する。
 アールキングを、スポットに到達させるわけには行かないのだ。



「なあセルウス……じゃねぇや、ユグドラシル……様?
 イルミンスールがあのアホキングにぬっ殺された後、どうやって蘇ったんよ?」
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)の問いに、ユグドラシルは怪訝そうな表情をした。
 ユグドラシル!? と、そこで初めて外見セルウスの存在に気付いた聖が反応する。
「私はぁ、先代のイルミンスールとは、別ですよぉ。
 あのイルミンスールが死んだ後に、植えられたんですぅ」
 イルミンスールが説明する。
 だからイルミンスールはまだ五千歳。世界樹としては全くの下っ端で、雑草呼ばわりされている。
「あれ、そうだっけ? じゃあ無いの、復活する方法。無いの?」
「……それを知ってどうする」
 正にそれを成す為に今、カラスはアールキングの根をコーラルネットワークに送ろうとしているわけだが、アキラの意図が読めずにユグドラシルは問う。
「それと同じことをすればあのアホキングも蘇るかなって」
 得意げに言ったアキラに、二人は唖然とした。
 つまり、アキラはカラス同様、アールキングの復活を目論んでいるのか。
「アールキングを、ですかぁ?」
「だってイルミンスールもアールキングのこと気にしてたじゃん。
 そんなヤツが守護する国の人間だもん、そう考えてもしょーがないじゃん」
 アキラの言葉に、イルミンスールは激しくショックを受けた顔をした。
「仮にアールキングが成長して悪さしても、早くても数百年はかかるんだろ?
 そんときゃぁ俺ぁもーとっくに死んでるだろーし、そんな数百年後のことまで知ったこっちゃーないしな!
 あーっはっはっはっは!」
 大爆笑するアキラの前で、イルミンスールは青ざめ、ユグドラシルは、軽蔑の目をアキラに向けた。
 アキラは、視線を受けてにやりと笑う。
「それに、そんときゃーその時代のヤツラが何とかすんだろ」
「何とも出来なかったなら、お前が、数百年後に世界を滅ぼす者となるわけか」
 ユグドラシルは、低い声で言う。
 それは、アキラにとっては数百年後の関係ない未来でも、世界樹達にとっては明日の話だ。
 自らが世界樹となる世界以外を認めず、世界創造の手段として、パラミタを滅ぼそうとしたアールキング。
 永い永い時を経て、ようやくその脅威が去ったと思えたところだったのに。

 アールキングの復活を望むのは、お前の国の人間だから、と、そう言われたイルミンスールは、酷く衝撃を受けている。
「何だよ、アールキングも、マナがパラミタを託した世界樹の一本だろうし、その気持ちは汲んであげたいじゃん」
「……成程、お前は何も知らないのだな」
「……アールキングはぁ、ニルヴァーナの生まれですぅ……」
 か細いイルミンスールの言葉に、アキラは首を傾げた。
「あれ、違うの? うーんまあいいや」
「去ね。
 お前と話すことは無い」
 口調に怒気を孕んでいる。
 怒らせたかなーと思いながら、アキラは言われるままに世界樹達から離れた。
「仕方ない。自力で何とかしよう。
 あの根を持ち帰って植える」
「ポケットに入るかシラ?」
 パートナーのアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が、しみじみ見上げる。
 人形サイズのアリスにとって、あの根はアキラが見るより更に巨大だ。
「バッカ、あんなにいらねーよ、ほんのちょこっとあればいいんだ。
 よしピヨ、とりあえず薙ぎ払え!」
 ジャイアントピヨに指示を出し、アキラは余計な部分の伐採に取り掛かった。



 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は世界樹達に、コーラルワールドを、コーラルネットワークから切り離さずに済む方法は無いかと訊ねた。
「決まってる。アールキングより先にスポットを「確保」して、聖剣を差し込めば」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)の言葉に、「そうですぅ」とイルミンスールが頷く。
「よろしく、お願いしますぅ」
 世界樹達は、スポットが何処にあるのか知っていそうなものだが、と北都は思ったが、ぱらみいを殺そうとした自分が問うても、答えてくれない気がした。
 あの時の選択は、今も後悔していない。
 選択をしないことは、ハルカを見殺しにすること。北都には、その方が耐え難いことだった。
 だが、せめて『スポット』については、聞いておきたい。探しているものが何か解らないのでは話にならないからだ。
「『スポット』とはどんな物なのか、教えて貰えないでしょうか?」
 北都の問いに、イルミンスールは、森の奥を指差した。
「地面に光の粒が集まって、円が描かれているのですぅ。
 魔法陣ほどには複雑ではないですけどぉ、似たようなものですねぇ」
 言って、イルミンスールは、ふと北都に微笑んだ。
 その笑みが、慈愛を含んだようなものであることにドキリとする。
 子供の姿を借りているけれど、そして、ユグドラシル達には雑草と呼ばれて子供扱いされているけれど、自分とは桁違いの、五千年という長さを生きた存在なのだと気付かされる。
「……人も、私も、一人で全部を護ることは、できませぇん」
「……?」
「でもぉ、自分では届かない先にいる人にもきっと、護りたいと思う人、思われる人がいるはずですぅ」
 一人では不足でも、そうして補い合って、先の先にいる人にまで。
「あなたが、あなたの友達の為に選択したことを、責めたりしないですぅ。
 でも、私達は私達の友達の為に、心配したり怒ったり、しますけどぉ」
 だから、頑張ってくださぁい、と、送り出され、北都は、パートナーのクナイ・アヤシ(くない・あやし)と共に森の中を巡る。
 クナイから渡された、『禁猟区』の施されたハンカチは、ポケットの中だ。
「見つけたら、連絡するよ」
「ええ」
 別れ際、北都の言葉に頷いて、ルカルカはちら、とHCを装備しているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を見た。
 コーラルワールド内では、HCによる通信が可能らしい。

 ニキータ・エリザロフは、パートナーのカーミレ・マンサニージャ(かーみれ・まんさにーじゃ)から聖剣を受け取った。
「じゃあ、そっちはよろしくね」
 都築中佐の行方を気にしているニキータは、彼のパートナーであるテオフィロスの元にカーミレを向かわせ、自分はスポットを探すことにした。
「はい。お姉様もお気をつけて」
 HCを持っているカーミレと別行動になるので、北都達との連絡は、ニキータから定期的にテレパシーを送ることにする。
 そうして彼等は、手分けしてスポットを探した。