天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

臨海学校! 夏合宿R!

リアクション公開中!

臨海学校! 夏合宿R!

リアクション

 
6.夜は更けて

 兵(つわもの)どもが夢の跡。
 あのきわどい水着姿のままの秋葉つかさは、最後まで残ってキャンプファイヤーの後片づけをしていった。
 もう消灯時間も近く、あたりは真っ暗だ。
「でも、まだまだ夜はこれからですわね」
 海岸を歩いていくと、鈴木周と出会った。夜に備えて、見回りをしていたらしい。
「あら、あなたも夜型でございますか。眠れないのでしたら、後で私のテントまでお越しください。一晩中お話しいたしましょう」
 軽く巨乳を鈴木にすりすりしてから、つかさは言った。
「周くーん」
 鈴木を呼ぶ声がして、レミ・フラットパインが駆けてくる。
「では、また後で……」
 レミを見て、つかさはいそいそとその場を離れていった。
「ああ、レミ……ぐはあ」
 少し放心したまま、鈴木がレミに声をかけようとしたが、返ってきたのは鉄拳制裁だった。
「いきなり何をしやがる!」
 さすがに、鈴木が怒る。
「今の女は何!」
「いや、何と言われても……」
 鈴木が、目を逸らして口籠もる。
「こっちきなさい。もう、絶対に目を離さないんだから」
 もう一発鈴木に叩き込むと、レミはそのまま彼を引きずってテントの方へと帰っていった。

「なんか変な音がしたようですが、気のせいでしょうか?」
 和泉真奈は、怪訝そうにあたりを見回した。
 特別何も発見できないので、視線をパートナーの方に戻す。
 月明かりに照らされた砂浜を、ミルディア・ディスティンが日課のランニングを行っているところであった。パートナーの和泉は、静かにそれを見守っている。
「やあ、あまり遅くならないうちに戻れよ」
「はい」
 見回りをしている姫北星次郎とすれ違って、ミルディアは軽く手を挙げて答えた。
「あれは……、放っておくか」
 姫北は、岬に寄り添う嵐堂大地とサラ・嵐堂のラブラブシルエットを発見したが、それはあえて無視することにしてやった。

「まったく、レミの奴、こういうときは容赦ないんだから……」
 おとなしくテントに戻ったふりをした鈴木は、しばらくしてからつかさのテントに夜ばいをかけるべく、テント設営班男子のテントからそろりそろりと一人抜け出そうとした。
「どちらにお出かけかしら」
「うっ」
 外に出たとたん、鈴木の視界いっぱいに、腰に手をあてて仁王立ちするレミの姿が映った。
「おとなしく寝てなさい」
 健康的にすらりとのびたレミの脚から、強烈なキックが鈴木に炸裂する。
「うわっ、何やってんだ」
 もんどり打ってテントの中に転がっていった鈴木に、斎藤邦彦たちが怒声を浴びせる。
「みんな、構わないから周くんを簀巻きにでもなんでもしちゃって。もう、本当にあたしまで恥ずかしいじゃない! おとなしくしててよね!」
 レミの要請によって、鈴木はその夜は完全に行動不能とされたのだった。

「いいか、お前はガイドたちの所に忍び込んで、お宝を奪ってくるんだ。ついでに、飛空艇の起動キーも盗んでこい。逃走用だ」
 包帯でグルグル巻きにされたザックハート・ストレイジングは、ルアナ・フロイトロンに命令した。勝手に占拠したテントの中には、部外者の姿はなく二人だけだ。
「ええっ、そんな酷いことは……」
「誰のせいで俺がこうなったと思っているんだ。さっさと行ってきやがれ」
 そう言うと、ザックハートはルアナをテントの外に蹴りだした。本当は自業自得なのだが、悪いことはすべてルアナのせいというのが彼のルールだった。
「くっくっくっ、お宝は俺の物だ」
 ほくそ笑むザックハートとは対照的に、ルアナはとぼとぼとガイドたちのバンガローへとむかった。
「ああ、ザックハート様を改心させるには、どうしたらいいのかしら……」
 溜め息をつきながらも、ルアナはザックハートの命令を実行しようとガイドたちのバンガローに近づいた。
「あら、何か踏ん……」
 ちゅどーーーーーーん。

「ふっ、馬鹿がもう引っかかったようだな」
 スチュワートの淹れてくれた紅茶を楽しみながら、教官が面白そうにほくそ笑んだ。
「わしの吹っ飛ばし魔法の罠は完璧じゃからのう。えへん」
「GJ(グッジョブ)」
 胸を張るビュリに、姐御がサムズアップを送った。
「よくないことを考える人って、本当にいるんですねえ」
 例の宝珠を入れた小箱をかかえて、新米ガイドさんが信じられないと言った顔で言った。
 その直後、なぜかまた爆発音が響く。
「一人じゃないみたいだね。ちょっと一回りしてくるとしよう」
 サーベルを手にとると、百合園女学院のガイドはバンガローを出ていった。

「遅いな。ルアナの奴何をして……ぐはあ!」
 ぐしゃっ!
 ルアナの帰りを待っていたザックハートは、突然の落下物の下敷きになって気絶した。
「きゅうぅぅぅ」
 ビュリの罠にかかって吹っ飛ばされてきたルアナは、テントとザックハートがクッションとなって、なんとか目を回すだけで助かっていた。その後、二人が目を覚ましたのはもう合宿の帰り支度が始まったころであった。

「おかしいですわね。誰もいらっしゃらないですわ」
 秋葉つかさは、つまらなそうにテントの中を見回した。はじっこの方では、パトリシアーナ・ヒルベルトが疲れて熟睡している。さっき無崎みつなが配ってくれたハーブが、安眠に誘ってくれたのだろう。
「まったく、甲斐性無しばっかりですわね」
 つかさが悪態をつくと、テントの入り口がすっと開いた。
「そうでもないと思うぜ」
 現れたのはカルナス・レインフォードだ。
「あら、さっきとは違う殿方ですけれど、誰でもウェルカムですわ。さあ、こちらへいらして」
 一瞬だけ戸惑ってから、つかさはすぐに極上の微笑みを浮かべた。蠱惑的に寝そべった自分の横のスペースをポンポンと叩いて、カルナスを手招く。
「いただきまーす」
 つかさときゃっきゃうふふをするために、カルナスは彼女の隣に滑り込んだ。パトリシアーナは相変わらずすやすやと寝ている。
「さあ、夜はこれから……」
 二人がそうつぶやいたとき、何かひゅるひゅるという落下音と、微かに「百合園のガイドさーん」と叫ぶ声が聞こえたような気がした。
「嫌な予感が……」
 最後まで言えないうちに、ビュリの罠に引っかかったルース・メルヴィンが、二人の上に墜落してきた。
「ぐわっ」
 下敷きになったつかさとカルナス、そして、落ちてきたルースが、ぐちゃぐちゃにもつれ合ったまま朝まで気絶する。その横で、パトリシアーナは安らかに眠り続けていた。

「おかしいですねえ。誰も来ないし、みんな熟睡しちゃってるし。虫どころか、男まで避けちゃったのでしょうか」
 吊してあるハーブをツンツンつつきながら、無崎みつなはつまらなそうに言った。同じテントの中にいるジェニファー・グリーン、レイ・レイニー、マリカ・ヘーシンク、テレサ・カーライルたちはすやすやと安眠している。

 別のテントでは、ぎんぎんに眠れない者もいた。
「ああ、あんな物食べるんじゃなかったなあ。もう、叫んじゃおうかなあ。ああ」
 オオサンショウウオの黒焼きを食べた東條カガチが、悶々として言った。
「おう、夜はこれからだ。一緒に叫ぼうぜ。竜装剣牙、ケンリュウガー、見参……えっ!?」
 武神牙竜がのりを合わせて叫んだとき、テントを被う葉っぱのむこうからざっくりとサーベルが突き込まれた。狙ったように、カガチと武神の間に突き刺さる。もし少しでもずれていたら、どちらかが串刺しになっていたところだ。さすがに声を失って二人が黙り込む。
「夜は静かにしたまえ。それが男子たるものの礼節だよ」
 テントの外から、百合園女学院のガイドさんの声が聞こえた。
「は、はい」
 カガチと武神が声を揃えて返事をする。
「じゃあ、僕はまた後で見に来るから。それまでには寝ていてくれたまえ」
 そう言って、ガイドさんは去っていった。
「よかったあ。あたしも、仮面乙女マジカル・リリィ! って叫びそうになってたんだもの。セーフ」
 こっそりと、対面のテントの様子に恐怖しながらリリィ・シャーロックが言った。
 夜はまだ長い。

「なんで、僕だけひとりぼっちなんだろう」
 テントの中で、リオ・ソレイユは寂しくつぶやいた。
 班分けの結果、彼の班は男性一人女性五人というものすごくアンバランスな物になってしまったのだ。
「こうなったら、女子テントに遊びにいくっしかない」
 そう決めると、リオはごそごそとテントを這いだした。パートナーの宝月ルミナが女子テントにはいるはずだから、遊びに行ってもなんとかなるだろう。
「ルミナー、遊ぼうよー」
 声をかけると、女子テントの中から誰かが出てきた。
「あら、誰かと思ったら、同じ班の……。ええと、リオ・ソレイユであったかな」
 中から出てきたのは、妖艶とも言えるメリナ・キャンベルだ。
「なになに、おにいちゃん? ダメだよ、ここは女の子のテントなんだから。男の子は入っちゃいけないの。よーし、禁猟区ー。これで、変なことしようとすれば分かっちゃうんだから」
 半分眠りかけていたルミナが、テントの中で禁猟区をかけた。
「いや、その……。戻って寝ます」
 リオはがっくりとうなだれると、自分のテントに戻っていった。ただ、小さくメリナの舌打ちが聞こえた気がしたのは気のせいだろうか。
 メリナとしては、同じテントの女子たちの血を夜食として美味しくいただこうとしていた矢先だったので、思わず舌打ちしてしまったのも無理もない。禁猟区を使われてしまっては、寝込みを襲う前に気づかれてしまう。
「それでは、メリナは散歩に行ってくるとしよう。また後でな」
 メリナは、テントを出ると獲物を求めて夜のキャンプ場を彷徨い始めた。
 彼女がいつテントに戻ってきたのかは誰も覚えていなかったが、満足そうな笑顔を浮かべて寝ていたのだけは、ルミナたちは覚えていた。