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リアクション
5.キャンプファイヤー
魔物も退治されて安全になった海には、自分たちの仕事を終えた学生たちが、夕食までの残り少ない時間、海水浴を楽しもうと集まってきていた。
中には、まだ一所懸命宝物を探している者たちも混じってはいたが。
「刀真ー」
漆髪月夜が、樹月刀真に大きく手を振った。初めての海にちょっと興奮気味なのだが、いつもが極端に静かなので、あまりはしゃいでいるように見えない。
「あーら、ごめんあそばせ」
刀真に気をとられていた月夜に、秋葉つかさがなぜか正面からぶつかった。はたして布がついているのかと疑うほどのマイクロビキニのブラがあっけなく外れて、豊かな胸がわざとらしく顕わになる。なぜか、月夜の黒い水着のブラも、極端にずれて豊かな胸が見えてしまっていた。
「よっしゃあ。脳内録画完了!」
我が人生に悔い無しと、伊達恭之郎がガッツポーズをして叫んだ。
「ほーう。それはよかったな。だが、今消せ、すぐ消せ、完全に消去しろ。なんなら、今この場で脳内のネガを燃やしてやろうか」
いつの間にか恭之郎の背後に回っていた刀真が、携帯につなげた光条兵器の刀身を燃えあがらせながら迫った。あれっという感じで、月夜がお腹のあたりをさする。
「いや、デジタル録画なもので……」
「なら、データを焼き尽くしてやるぜ」
刀真の目が本気なので、恭之郎があせった。
「はい、消しました。誓います。完全に消しました」
そう叫ぶと、恭之郎はあわててその場を逃げだしていった。
「刀真……水着がとれた」
「だあああ。今行くから隠せ!」
顔を真っ赤にして駆けつけると、刀真は急いで月夜のブラをなおしてやった。これでなんとかなったとほっとしたのも束の間、月夜がなぜか胸をすりつけてくる。
「すりすり……」
「月夜、何をしている」
口をぱくぱくさせながら、刀真はなんとか言葉を捻り出した。
「こうすると、刀真が喜ぶと、さっきの人に教わった。すりすりすり……」
「あの女ぁ!!」
刀真は叫んだが、とっくの昔につかさの姿はなくなっている。
「やめんか。ああ、もう。むこうでサンオイル塗ってやるから、もうやめろ」
「うん♪」
「うーん、やっぱり毒キノコかなあ」
浜辺に敷いたレジャーシートの上に寝そべりながら、御凪真人はキノコ図鑑に夢中だった。
「でも、毒キノコは毒キノコで楽しいかもねー」
そう言って、真人はちょっと怖い笑みを浮かべた。
「ねえ、泳ごうよお」
イブ・チェンバースが、楠見陽太郎の腕を引っぱっておねだりした。
「もう夕方ですよ。風邪ひいちゃいますよ」
陽太郎は、パラミタ内海に沈んでいこうとする太陽を指さして言った。あれが地球の太陽なのか、パラミタの太陽なのかはよく分からないが、美しい夕焼けであることには変わりない。
「じゃ、一緒に夕日を見ながら散歩しよ」
そう言うと、イブは陽太郎の肩に頭をあずけた。
「綺麗な夕焼けですわねえ。今ごろ、バカップルたちは、きゃっきゃうふふしてるのでしょうねえ」
テント村のテーブルで優雅にお茶を飲みながらテレサ・カーライルは独りごちた。
「他の人なんかいいじゃない。あたしは楽しいし、ここにもたくさん友達になれそうな人はいるよ」
マリカ・ヘーシンクが、手にしていたティーカップをテーブルに戻して言った。そうでしょと問いたげに、銀色のロングヘアーをそよ風にゆらす。これが、ついさっきイノシシを素手で投げ飛ばした少女だとはとても思えないほどかわいい。
「あら、まるでわたくしには殿方がいないようなお言葉ですね」
「ええと……」
ちょっとマリカが言いよどむ。テレサは、一瞬むっとした顔をすると、わざとらしく綺麗な縦ロールのピンクの髪をかき上げて見せた。
「いいでしょう。ちょうどいい機会ですから、あなた様にも少し殿方のことをレクチャーしてさしあげますわ。そもそも、わたくしが初めて殿方と……」
苦笑するマリカに、テレサはえんえんと語り始めたのだった。
☆ ☆ ☆
のんびりしている者たちとは別に、調理担当の生徒たちは次第にあわただしさを増していた。
夕食の食材は思っていたよりもたくさんの種類の食べ物が豊富に手に入ったので、食事はかなり豪華なものになりそうだった。
なんと言っても、一番の大物は魔物と恐れられていたバラクーダである。もちろん、これはカマスの塩焼きということになった。戦いですでに生焼けになっていたところを、ビュリやソア・ウェンボリスを中心とした魔法使いや魔女たちが、自慢の火術を駆使してこんがりと焼いていった。
にゃん丸が身体を張って釣った巨大カレイも、丸焼きにされた。
「煮つけの方が好みなんだけどなあ」
にゃん丸はぼやいたが、さすがにこの大きさを煮つけにするための巨大な鍋など存在しないのでしかたがない。
ちなみに、鍋や食器類はレベッカたちがジャタ族から借りてきてくれたので、彼女たちのグループは救世主としてありがたがられた。食材はなんとかなりそうであったが、食器類が確保できるかどうかが出発前からの大問題だったからだ。
クロス・クロノスとお手伝いの愛沢ミサが作った竈と鉄板もかなり役にたった。テレサが仕留めてジェニファー・グリーンがさばいたイノシシも、これで焼き肉にされた。他にも、キノコや野菜などが鉄板焼きにされていく。
とはいえ、御凪真人と柳尾なぎこが集めたキノコの大半は、アリシア・スウィーニーたちプリーストが解毒したとたんに消滅してしまったのだが。まったく、危ないところではあった。
もちろん、棚畑亞狗理がまた変なことを言いだす前に、水も綺麗に濾過されてプリーストたちによって解毒された。
魚や肉の味付けには、永夷零の作った塩や、無崎みつなの摘んできたハーブが大活躍してくれた。
他には、メイベル・ポーターとセシリア・ライトの作る山菜料理、本郷翔の貝のスープ、クロセル・ラインツァートの魚の串焼きなどが作られた。手の込んだ物では、ミルディア・ディスティンの魚の包み焼きなどという物もあり、これは数が限られたので食事の時に奪いあいとなった。
そして、一番の変わり種といったら、東條カガチの作ったサンショウウオの黒焼きかもしれない。これは、完全に精力剤だと思うのだが。
できあがった料理たちは、鈴虫翔子、和泉真奈、カルナス・レインフォードらがどんどんテーブルへと運んでいった。もちろん、他のバトラーやメイドたちも、ここぞと活躍したのは言うまでもない。
「さて、人間も料理も全部揃ったようだな」
すっかり支度ができあがると、マスターガイドであるシャンバラ教導団の指導教官が挨拶に立った。
「今、目の前にある物は、すべて君たちの成果だ。苦労して手に入れた物もあれば、案外あっさりと手に入った物もあるだろう。だが、運さえ、君たちの才能の一つではある。また、その才能を組み合わせれば、このパラミタで不可能なことは一つもないと信じる。その無限の可能性を示すためにこそ、君たちはパラミタへと渡り、そして、今日ここに集まったのだ。周りの者の顔をよく覚えておくがいい。君たちは、きっといつかまたどこかで必ず出会うだろう。そのときこそ、可能性は結果へと昇華するのだから。さあ、せっかくの食事が冷めてしまってはもったいない、皆で勝ち取った物だ、存分に味わおうではないか」
ガイドたちが、形のまちまちなグラスを手に取り、生徒たちもそれに倣った。好きな種類のフレッシュジュースがグラスの中に入っている。まさに色とりどりであった。
「では、乾杯!」
「かんぱーい!」
「プロージット!」
「チアーズ!」
「ア・ボトル・サァンテ!」
様々な言葉が飛び交う。それもまたパラミタだ。
「いやあ、思っていたより豪華な食事だな」
苦労して倒したバラクーダの肉をほおばりながら、高月芳樹が言った。
「それは、苦労しましたもの」
アメリア・ストークスが答える。
「苦労したと言えば、こいつは食わねばならないねえ」
襲われた恨みとばかりに、東條カガチがサンショウウオの黒焼きを食べている。
「これは、今夜のためにも食べておく必要がありますわね」
サンショウウオの黒焼きには、他にも秋葉つかさを始めとして、ルース・メルヴィンとカルナス・レインフォードも喜んで手をつけていた。このメンバーは、なにやら下心が透けて見えてきそうだが。
変わり種といえば、バラクーダは雌で腹子を持っていたため、焼いた……というか、焼けてしまった卵も珍味として食卓に上っていた。
ぐごぉり!
「あーん。痛いですぅー」
突然すごい音とともに、蒼空学園の新米ガイドさんが泣きながらのたうった。
「どうしました。何か入っていたんですか。早く吐き出して」
百合園女学院のガイドが、あわてて新米ガイドさんの背中を叩いた。
「げほげほ……」
やっと、新米ガイドさんが何かを吐き出す。
余っている水で洗うと、それはビー玉大の怪しいドピンクに輝く球体だった。危なく、これを喉に詰まらせるところだったのである。
「なんだい、これは。魔物の卵か何かかい」
「ええー」
姐御の言葉に、新米ガイドさんが青くなる。
「これは、もしかしたら、噂の宝物ではないのでしょうか」
スチュワートが、少し離れたところから球体を眺めて言った。
「なんだってえ!」
お宝ゲットをめざしていた者たちが、新米ガイドさんの所に殺到した。
「落ち着け!」
「はいはい、ここから先に入っちゃダメだよ。いいね」
教官に一喝され、姐御のひいた線の後ろに生徒たちは下げられた。
「さて、どうした物か。正体の分からない物を、安直に人の手に触れさせるわけには……」
困ったように、教官が思案する。
「でも、見つけたのは彼女じゃ。これは、彼女の物だと思うのじゃが」
ビュリが、小枝の先で玉をツンツンしながら言った。押されてテーブルの上を転がった玉が、新米ガイドさんの前でピタリと止まる。
この宝珠の正体は、後に阿魔之宝珠であることが分かるのであるが、このときはまだ正体不明であった。
「あれがお宝ですの? いったい、あれのどこがお宝なのかしら」
東重城亜矢子は、玉の価値をはかりかねて首をかしげた。
「球体ですから、阿魔之宝珠でしょうか。いえ、早計は禁物ですね」
「イルミンスールに戻ってから調べれば、正体も分かるだろうぜ」
譲葉大和の言葉に、亜矢子が興味を示した。
「イルミンスール魔法学校に行けば、詳しいことが分かりますの?」
「ああ。うちの学校の図書館は世界最高峰だからな。もしうちの学校に来るのなら、ここにいる魔法学校の生徒の誰かがきっと案内してくれるぜ」
高月芳樹が安請け合いする。
「ええ、必ずうかがわせていただきますわ」
亜矢子はそう宣言した。
彼らがそんな約束を交わしている間に、謎の玉はとりあえず新米ガイドさんの物と言うことになった。後日その正体が分かったら、連絡とともにその後の処置も決定するという約束で。
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