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臨海学校! 夏合宿R!

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臨海学校! 夏合宿R!

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3.キャンプ開始

「合宿開始はいいですけれど、ちょっとお腹が空いたわ。そうねえ、ブランチなんかができたら最高なんだけれど」
 レロシャン・カプティアティは、すぐどこかに移動することなく、とりあえず周囲を見回しながらつぶやいた。
「そうですねえ。お弁当でも持ってくればよかったんですが。まあ、僕はベジタリアンですから、山で何か食べながら食材探しでもいいのですが。皆さん、あまりお昼のことは考えていなかったようで。これも、運命なのかもしれませんが」
 そばにいたアラン・ブラックが、どこか人ごとのように答えた。
「いっそ、こういう時こそ携帯用食料(レーション)があればよかったんだが」
 坊主頭の守屋輝寛が、いかにもシャンバラ教導団らしい台詞をつぶやいた。
「なに、レーションがほしいのか。一応非常用として用意してあるが。そうだな、昼食用として希望者には配給してもいいだろう」
 守屋の言葉を耳にした教官が、思いもかけない言葉を返した。
「ぜひ、いただきます!」
 すかさず、守屋が叫ぶ。
「はーい、じゃあ、こちらに、用意しますねー」
 新米ガイドさんが、急ごしらえの配布所からみんなに呼びかけた。昼ご飯のことを計算に入れていなかった生徒たちほぼ全員が殺到する。
「よし、これで魔物にも勝てる」
 真っ先に貰いに走った八神夕が、早くも勝利宣言をした。
「ああ、私の分もお願い」
 八神同様、魔物退治に行くルイーナ・フュリューゲルが叫んだ。
「貰ったのはいいですけれど。これはなんですの? うまい棒? カロリー・メイト?」
 空腹にはかえられないとレーションを貰ったのはいいけれど、その正体をはかりかねてレロシャンは小首をかしげた。
 まだまだみんな移動せずにわいわいやっている。それをいいことに、なにやら暗躍しようとする者たちもいた。
「おうおう、そこの奴。わしらの【岩国のシロヘビ班】に入らんかい。今なら、親分の手下二号として認定してやるけん」
 シルヴェスター・ウィッカーが、周囲にいる誰彼構わずに無茶な勧誘を始めている。
「岩国のなんチャラ班って、あなたたちは【ナイスボート班】じゃないのかな」
 苦笑混じりに、ルース・メルヴィンが言い返した。
「嫌ー、そんな変な班名を口にしないでー」
 ガートルード・ハーレックが、思わず頭をかかえてその場に座り込んだ。長身ゆえの長い脚が、チャイナドレスのスリットからもろに顕わになる。
「親分、しっかりしてくれんかい。親分。畜生、今の奴……」
 ガートルードに駆けよってから、シルヴェスターは怒ってシャンバラ教導団の生徒の姿を探した。だが、すでにルースの姿は近くにはなかった。
「あんな者たちを構っている暇はないな。オレのターゲットは、あくまでも百合園のガイドさんなのだから」
 今夜の夜ばいの下準備として、ルースは百合園のガイドさんの後を密かにつけていった。
 レーションを配り終わったガイドさんたちは、飛空艇近くになぜかできあがっているバンガローの中へと入っていった。
「すごいのう。おぬしは、魔法使いか?」
 ちょっと目を離した隙にバンガローを作り上げてしまったスチュワートに驚いて、ビュリが目を丸くして訊ねた。
「バトラーの上に立つ者として、当然のスキルでございます。さすがに、お嬢様方をテントなどとという物にお泊めするわけにはまいりませんから」
 スチュワートが、うやうやしくおじぎをする。
「うわ、全員同じ所にいるという……。これはやっかいだけれど、なんとか百合園のガイドさんだけを外へ呼び出してみせるさ」
 現場を確認すると、ルースは作戦を立てなおすためにバンガローから離れていった。
「ところで、少しビュリ殿に頼みたいことがあるのだが……」
 外にいた人の気配が消えたのを確認して、教官がビュリに声をかけた。

    ☆    ☆    ☆

 各班に別れた生徒たちは、それぞれ自分の役割を果たすために活動を始めた。
 テント設営を担当する者たちは、まずテント村として適当な場所を探すことから始めていた。
「やはり、海近くの見晴らしのいい場所が一番じゃないかな」
 姫北星次郎が、海岸沿いを歩きながら言った。
「そうですね。さすがに砂浜だとテントが立てにくいですし、あまり海から離れても面白くないでしょう」
 そばを歩く斎藤邦彦が同意する。
「ああ、あそこなんかいいんじゃない。砂浜に近いけど、地面の方はしっかりとしていそうだよ」
 時枝みことが、よさそうな場所を見つけて指さした。
 飛空艇の場所からそれほど離れていないし、固い地面がそこそこの広さに広がっている。後ろは森が迫っていて、資材の確保も容易そうだ。前面には、えんえんと続く砂浜があり、キャンプファイヤーや花火をやるにしても悪くなさそうだった。
 設営班はここにテント村を作ることに同意して、整地担当と資材調達担当とテント組み立て担当に別れて作業を始めた。
「灌木の他に竹なんかも生えているね。これは都合いいな」
「そうですね。どんどん切っていきましょう」
 斎藤邦彦とネル・マイヤーズは、テントの柱となるのにちょうどいい太さと長さの木を選びながら切り始めた。
 このへんは、ノコギリとかあるわけではないので、ネルの剣技が頼りだ。幸いにして、テントには大木を使うわけではないので、剣だけでもなんとか対処できる。
 パラミタの植生は、地球とくらべたら、たまにでたらめじゃないかと思えることがある。地球の常識から言うと、ありえない植物が同時に生えていたりするのだ。だが、見た目が地球の植物と同じだからといって、性質もその通りだという保証はない。中には、魔法力で育つ植物も存在するからだ。そのへんは、今後植物学者たちが嬉々として研究してくれるだろうが、今は都合のいい植物が手にはいるというだけで充分かもしれない。
 テントの外壁や屋根になりそうな物は、葉が密集した竹の枝や、大型のシュロの葉や、大葉木蓮に似た木の葉などが充分な量存在している。
「なかなかよさそうな場所だよな。ここなら、みんなが海水浴していてもよく分かるし」
 葉を集める手を少し休めて、鈴木周は砂浜の方へ期待のまなざしをむけた。ここならば、海岸で泳ぐ女の子たちの姿がバッチリと観察できるはずだ。
「ちょっと、よからぬことは考えないでいてよね。さぼってないで、葉っぱ集めてよ」
 レミ・フラットパインが、疑惑のまなざしをパートナーにむけて言った。
「そんな、水着鑑賞なんて、これっぽっちも考えていないぜ」
 答えてしまってから、鈴木がしまったという顔になる。
「ほら、やっぱり。あたしまで恥ずかしいじゃない! おとなしくしててよね!」
 レミが、むくれて頬をふくらませる。
「仲がいいですねえ。それにくらべてイブったら……」
 地味に木材を集めていた楠見陽太郎が、ふと溜め息をついた。
「ははははははは。みんな薙ぎ倒してやるけんのう」
 高笑いをあげながら、光臣翔一朗がランスを振り回して、周囲の木をあたり構わず倒している。切るのではなく、ましてや突くのでもない、まさに木を撲殺である。見た目、パラ実かと思う風体と行動だが、彼はれっきとした蒼空学園の生徒だ。
「きゃー、かっこいいわよー。そこのお兄さん、後でその木、分けてちょうだいねー」
 ピョンピョンと跳びはねて水着の豊かな胸をゆらしながら、イブ・チェンバースが光臣に言った。その言葉に、光臣のテンションがさらにあがり、環境破壊を続けながらどこかへといってしまう。
「陽太郎ー、あたしたちの愛の巣の材料が手に入ったわよー」
 小躍りして、イブが楠見を呼んだ。
「そんな大きな木、テントには使えないですよ」
「じゃあ、それいただけますか? テーブルを作るのにちょうどよさそうです」
 だめ出しをする楠見に、フレア・ミラアが申し出た。
「どうぞどうぞ」
 楠見の言葉に、フレアが礼を言って木材を運んでいく。
「せっかくあたしが貰ったのに」
「放置されていただけでしょう」
 むくれるイブに、楠見は言った。

「月夜、お願いします」
「はい」
 樹月刀真は、パートナーの漆髪月夜に手をのばした。
 むぎゅっ。
「刀真、そこ、違う……」
 黒いビキニの胸をいきなりつかまれて、月夜はポッと顔を赤らめた。
「ああ、いや、その、間違えた!」
 大あわてで、むきだしになった月夜のへその上あたりにあらためて右手をあてる。そのとたん、光が集まり始めた。刀真が手を握ると、集まった光がその手に握られ、光条兵器の柄の部分に変化する。少し前屈みだった月夜が、下にむけた両手を軽く開いてやや後ろにのけぞった。
 身体を半回転させながら、刀真は勢いよく光条兵器を持った手を引いた。
 片刃の黒い刀身が、月夜の身体からすらりと抜き放たれる。それは、黒ダイヤにも似た半透明の刀身で、反射光のような淡い光につつまれていた。
「さて、やるかな」
 刀真は重心を低くすると、腰のそばに光条兵器を構えた。ひと呼吸整えてから、刀を一閃させる。目の前にあった大きな木に、すっと横に切れ目が入った。
「いい調子だ……」
 振り返って、刀真が月夜に言ったそのときだった。
「……刀真、それ、危ない」
 月夜が、刀真にむかって持っていたメイスを振り上げた。思わず身をかがめて避けた刀真の頭上で、月夜のメイスが倒れてきた木を力強く叩いて、その軌道を変えた。
 ばきばきと枝を周囲の木にぶつけて砕け散らせながら、刀真の切った木が横に倒れていった。
「きゃっ。注意してください!」
 あわやとばっちりを食いそうになって、水橋エリスが叫んだ。
「刀真、注意する」
「すまなかった。次は注意する」
 月夜にも繰り返されて、刀真は二人に謝った。
「あら、筏を造るのにちょうどいい丸太じゃない。これちょうだい」
「おう、俺にもくれ。筏で海に繰り出して魔物退治だぜ」
 通りかかった小鳥遊美羽と姫宮和希が、これ幸いと刀真の切り倒した木を運んでいった。
 砂浜では、六本木優希らが筏の組み立てを始めている。太い木の丸太を骨組みとして、その上下に竹をならべて浮力と柔軟性からくる耐久度を高めようとした物だ。
「すいませんね、手伝っていただいて」
 六本木が、瓶底レンズのような眼鏡の位置を軽くなおして、ザックハート・ストレイジングとルアナ・フロイトロンにお礼を言った。
「いえ、困っているときはお互い様ですから」
 そう答えながら、ルアナは心の中で何回も何回もごめんなさいを繰り返していた。
「くっくっくっ。すべては計画通り……」
 ザックハートは、縄を結ぶふりをして、要所要所にナイフでわずかな切れ込みをいれていた。これで、魔物に襲われれば、簡単に筏は分解してしまうはずだ。お宝のライバルは蹴落とすに限る。
 テント設営に使えない資材は魔物対策組の方へ回されたが、本来の目的である資材は着々とキャンプ地に運ばれ、そこで組み立てが行われていった。
「この葉っぱは、ここにおけばいいかな」
 テントの外壁に使えそうな葉っぱを両手にかかえてきた緋桜遙遠は、カナン・アルベリオスに訊ねた。
「ええ、そこにお願いします。そうそう、ロープになりそうな蔦などは、藤宮さんがほしがってましたから、そちらへお願いします」
「分かりました。遥遠、それは別の場所みたいですから。半分持ちましょう」
「大丈夫です。これくらい、遥遠一人で運べます」
「いいですから」
 遙遠は遥遠の持っていた蔦を無理矢理半分奪うと、すたすたと歩き始めた。
「もう」
 一瞬立ち止まってから、遥遠は小走りに遙遠の後を追いかけていった。

「よし、女の子たちのテントは、この位置とこの位置と……」
 カルナス・レインフォードは、設営をちゃんと手伝うとともに、各班のテントの位置をしっかりと頭に叩き込んでいた。各テントは、結構離れて設置されている。夜中に多少騒いでも、他の班に迷惑をかけないための配慮だが、カルナスにとってはまっことありがたい配置でもあった。
「ふふふ。夜が楽しみだぜ」
 カルナスは、誰にも悟られないように微笑みを浮かべた。

 多少の騒ぎはあったけれども、テント村の設営は順調に進んだ。ほどなく、それまで何もなかった場所に、りっぱなテント村ができあがる。三十近くのテントは均等にばらけて配置され、丸太から作られた夕食用のテーブルや椅子がちゃんとならべられた。キャンプファイヤー用の資材は、担当者が扱いやすいように砂浜との境に積みあげてある。
「やれやれ、終わったかな。駆除するようなモンスターもいなかったことだし、後は夕食までだらけますか」
 斎藤邦彦が、うーんとのびをして言った。そのまま、てくてくと砂浜の方へと歩いていく。
 筏を作っていたグループは、すでに完成品を運び去ったのか姿が見えなかった。
「いきなり気を抜くと、墓穴を掘りますよ。まだみんな後片づけをしているんですから、ちゃんと手伝わないと」
 ネル・マイヤーズが、パートナーを軽く注意しする。
「えー。もういいじゃないですか」
 そう言うと、斎藤は勢いよく砂浜に倒れて寝転がろうとした。
 ごつん。
「いてててて。いったい何が……。うわあ!」
 斎藤が倒れた砂浜が、突然むくむくと盛り上がった。そこから、巨大なカニが姿を現す。
「斎藤!」
 ネルが、剣を抜き様バーストダッシュで飛び出した。光の翼が背後に顕現し、足下で砂が左右に飛び散って真一文字の跡を残す。まさに斎藤に振り下ろされんとしていた巨大なハサミをスウェーで逸らすと、ネルはパートナーののばした手をつかんで、一緒にその場から離脱した。砂浜から浅瀬へと一気に駆け抜けると、砂飛沫から水飛沫へと代わり、海の水が二人の身体をびっしょりと濡らしていった。
「みこと!」
 危険がないか周囲を見回していたフレア・ミラアが、逸早く化けガニに気づいた。
「よし、なんか出たね。待ってましたあ!」
 すぐさま、パートナーの時枝みことが駆けつける。
「これを!」
 フレアが、いったん脇腹近くにあてた手を高くさしあげた。そこには、逆手に持たれた光条兵器の柄があった。ジャンプ一番、みことがそれをつかむ。まっすぐにのばされたフレアの腕が鞘であるかのように、光る刀身が抜き放たれた。
 そのままの勢いで突っ込んだみことが、化けガニの左のハサミを切り落とす。
「やった……おっと」
 化けカニに泡を吹きかけられそうになって、みことはあわてて後ろに下がった。
「おおい、みんなー、待望の魔物が出たぞー」
 現場に駆けつけた鈴木周が、大声で叫んだ。
「みんなー、はやくこーい!」
「叫んでばかりいないで、周くんも戦いなさいよ、もう」
 レミ・フラットパインはそう言うと、組んで背中に回した両手を、頭越しにブンと身体の前に振り下ろした。その手に、青白く輝くバスタードソード型の光条兵器が握られている。
「なあにぃ、魔物じゃとぉ! 俺の獲物じゃけん、誰も手えだすじゃねえぞぉ!!」
 遙か後方から、凄まじい勢いで、ランスをかかえた六尺褌(ふんどし)姿の光臣翔一朗が突っ込んできた。
「こいつ……」
 残ったハサミで攻撃されたネルが、それをなんとか剣で受けとめている。その瞬間、化けガニの動きが止まった。
「魂(たま)貰ったあぁぁぁ!」
 突っ込んできた光臣のランスが、固い化けガニの甲羅をみごとに粉砕して突き抜けた。それでも止まらない勢いが、ネルごと化けガニを海中へと押し込む。凄まじい水音と派手な水柱が立った。
「ははははは、たわいもない」
 倒した化けガニを足蹴にして勝ち誇る褌男のそばでは、目を回したネルがぷっかりと浅瀬に浮かんでいた。

「魔物って、これのことだったのかなあ」
 みんなで砂浜に引き上げた化けガニを前にして、みことが小首をかしげた。
「どうでしょうか。まだ気を抜かない方がいいと思いますが」
 周囲を見回しながら、フレアが言った。
「それで、宝物は……?」
 褌男を取り逃がしたネルが、剣を杖にして肩で息をしながら誰にともなく訊ねた。
「ゆでがにって、高級食材じゃありませんでした? これが宝なんじゃ……」
 斎藤の言葉に、一同はそれはないからと首を振った。