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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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二条城を巡る『火』のコース



 二条城。
 天下の覇者となった徳川家康の将軍宣下が行われた場所であり、江戸幕府最後の将軍徳川慶喜が大政奉還を行った場所でもある。華やかなりし江戸時代の始まりと終わりの場所、それがこの二条城なのだ。

 そんな二条城の上空を飛ぶ影が二つ。『火』を司る十二神将、騰蛇(とうしゃ)朱雀(すざく)だ。
「ヒャッヒャッヒャッ! 久々に人間にありつけるぜぇぇぇ!!」
 狂ったように笑うのは騰蛇。
 鬼火をまとって中を舞う大蛇。その姿は醜悪そのもの、性格も醜悪そのもの。あらゆる災事を引き起こすと言われる魔物である。弱い者に強く、強い者に弱い。あえて明言する必要もないと思うのだが、最低である。初代安倍晴明に半殺しにされて以来、『ヒャッハー』担当として十二神将に在籍している。
「騰蛇よ。晴明様は我らに食事を与えるために呼び出したのではないぞ?」
 優雅に上空を旋回しながら朱雀が口を開いた。
 羽ばたくごとに炎を散らす美しい火の鳥。しかしながら、その姿とは裏腹にその性は高慢。あらゆる生き物を下等な存在と見下し続けて数千年。主である安倍晴明にすら、頭を垂れるのを嫌がる式神である。美人だからと言って、性格まで美しいとは限らない。この法則は万国共通なのであった。
「構う事ぁねぇよ、朱雀! 旦那もここにはいやしねぇんだ。俺たちの好きにやろうじゃねぇか!」
「……確かに。力試しに協力しろとは言われたが、相手を食らうなとは言われておらんな」
 二神が質の悪さを披露する真下では、生徒たちが様子を伺っているのだが、すでに居所はバレていた。
「ヒャッハー! 匂う! 匂うぞ! 美味そうな人間の匂いだぁ!」
 騰蛇と朱雀は身を翻すと、眼下の庭園に急行下して襲いかかった。
 鬼火が茂みを焼き払い、炎が木立を焼き尽くす。身を隠していた生徒たちは慌てて飛び出した。
 いち早く攻撃を回避したのは、六本木優希(ろっぽんぎ・ゆうき)とパートナーのアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)だった。
「み、皆さん! とりあえず散開してくださいっ!」
 小型飛空挺で空へ脱出した優希は、ビン底眼鏡を押し上げながら仲間に向かって声を上げた。
 仲間を気遣う少女の姿は、朱雀の目には魅力的に映ったようだ。朱雀は目を細め笑みを浮かべた。
「おなごの肉をついばむのはいつ以来だったか……。騰蛇よ、ここは任せるぞ」



 二条城・二の丸。
 迫り来る朱雀から逃げる優希とアレクセイ。だが、二人はただ逃げているわけではなかった。二の丸庭園には池がある。朱雀は火を司る。五行相剋の教えでは、水剋火。水は火を消し去る。これは二人が朱雀に仕掛けた罠だった。もっとも高慢な朱雀の事である、罠だと知っても虫けらの浅知恵が通用するものかと笑っただろう。
「小娘。どこまで逃げようと、我の翼からは逃れられんぞ」
「もう少しで池に……!」
 必死な優希をあざ笑い、朱雀は翼を広げた。炎の風を巻き起こすつもりのようだ。
「……そこまでです!」
 朱雀の頭上を走るのは、緋桜遙遠(ひざくら・ようえん)の飛空挺。
 後部座席に乗っていた紫桜遥遠(しざくら・ようえん)が、光の翼を広げて朱雀に攻撃を仕掛ける。
「仲間に手出しはさせません!」
 紫桜の放ったツインスラッシュが朱雀の翼を切り裂いた。
 だが、朱雀は常に炎のバリアをまとう。紫桜の攻撃による傷は軽微、しかし攻撃態勢を解くには十分だった。
「お、おのれ……、小娘」
 紫桜は振り返り、緋桜に向かってうなづいた。
 この二人も優希たちと同様、朱雀を池へ誘い込む作戦を考えているのだ。
 池まではあとわずか。そして、さらに援軍が到着する。


「十二神将ってのは、女相手にしかいきがれねーのか!」
 二の丸庭園から放たれた銃弾の雨が、朱雀と飛空挺の間に撃ち込まれた。
 駆けつけたのはトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)だ。
「小賢しい真似を……!」
 朱雀は標的を変更し、トライブに襲いかかった。
 炎に包まれながら滑空する朱雀を、トライブはひらりとかわし、ハンドガンで迎撃する。
 しかし、朱雀の炎のバリアの前では、金属製の銃弾は融解して霧散してしまう。
「どうした虫けら? もう少しましな攻撃をしてみたらどうだ?」
 背後には二の丸、正面からは朱雀。逃げ道は塞がれた。
 見下した視線を向ける朱雀だったが、彼は意に介せず鼻を鳴らした。
 初めから銃撃で朱雀が倒すつもりはない。彼の狙いは朱雀の注意を引きつける事。
 そして、その目的はたった今果たされたのだった。
「おやおや、性悪鳥が誘われてきましたわよ」
 二の丸の屋根で、トライブのパートナーの千石朱鷺(せんごく・とき)が不敵な笑みを浮かべた。
「ちょっ、ちょっと待つのじゃ……」
 息を切らしながら屋根をよじ上るのは、もう一人のパートナーのベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)
 お子様が持つにはいささか大き過ぎる鞄を抱えて、疲労困憊の様子である。
「わらわにばっかり重い荷物を持たせおって……、なんとも思わぬのか!」
「ええ。毛ほどにも」
 しれっと答えた朱鷺は鞄を受け取り、中身を眼下に放り投げた。
 中身とは、大量の水風船である。
「こいつを待ってたぜ、二人とも!」
 トライブはにやりと笑うと、落下してくる水風船に銃撃を浴びせた。
 破裂した水風船から飛び出す水が、朱雀の炎のバリアを無効化していく。
 そこへすかさず上の二人がダイブ。背に落ちて来た襲撃者の衝撃に、朱雀は地面に落下した。
「おらおら! さっきの威勢はどうした!」
「折角の焼き鳥が水で台無しですわね」
「貴様の所為でわらわがどんだけ苦労したと思っておるのじゃ!」
 屈辱にも地に伏した大空の支配者に、さらなる屈辱。三人は朱雀に殴る蹴るの暴行を加える。ベルナデットのそれは八つ当たりのような気もするが、それを咎める者は誰もいないので問題なし。
「ず、図に乗るな! 虫けらが!」
 朱雀は再び羽ばたいた。炎を完全に消すには、水風船程度の水では足らない。
 その身から溢れる炎が濡れた身体を乾かし、再び炎のバリアでその身を包み込む。


 朱雀は二の丸上空に飛び上がった。
 怒りに満ちた目で激しく羽ばたき、二の丸ごと飲み込むような炎の嵐を巻き起こした。
「……やり過ぎではありませんか、朱雀さん?」
 そう言い放ったのは、菅野葉月(すがの・はづき)である。
 屋根の上にいる葉月は、氷術で発生させた冷気で二の丸を包み込み、保護している。
「これはただの力試しでしょう? 文化遺産の破壊など、君の主も望んでいないはずです」
「知った事か! 全て焼き尽くしてやる! そうしなければ、我の怒りはおさまらん!」
 咆哮を上げた朱雀は、さらにさらに羽ばたいて、炎の嵐を拡大させる。
「僕の力だけでは防ぎきれませんか……。ミーナ、南の守りを固めて下さい!」
 パートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)に、葉月は助力を求めた。
「任せて、葉月! 南ね!」
 使命感に満ちた様子で言うと、ミーナは東に向かって全力疾走した。
「そっちは東です!」
「南ってどっちよ!」
「えっと……、北の逆……?」
 方向音痴に方角を教える事ほど、難儀な事はこの世にない。
 ちなみに辞書によれば、南は日の出に向かって右の方角とあるが、すでにお天道様は天高く昇っている。
 そうこうしている間に、冷気の結界を突破して、炎が侵入してきた。
 外の守りに集中しているため、葉月自身は飛び交う炎に対し無防備である。
「……まったく世話が焼けるわね」
 どこからか聞こえた声と共に、飛び交う炎はピタリと動きを止めた。
 声の主はリリィ・マグダレン(りりぃ・まぐだれん)
 彼女は火術を発動させ、炎をコントロールしているのだ。
 上官の命令に従う兵士のように、炎は一列縦隊で並び、結界の外へと行進していった。
「助かりました、リリィさん……」
「いいって事よ。それよりとっととこいつを畳むわよ」
「虫けらが何人集まろうと同じ事だ……!」
 見下す朱雀に対し、リリィはさらに見下した視線をプレゼントした。
「あんたの泣き叫ぶ顔を見るのが楽しみになって来たわ」
 リリィは再び火術を発動させた。コントロールを試みるのは、朱雀を包む炎のバリアだ。
 自分の身に起きた異変を感じ取り、朱雀の表情に戦慄が走った。
「そうそう、その顔が見たかったんだ。さあ、二人とも、派手にやっちゃいな!」
 バリアを強制解除された朱雀に、葉月とミーナは全身全霊で氷術を叩き込んだ。


「そろそろ、お仕舞いだな! 冷凍チキン!」
 半分凍結した朱雀に向かって、アレクセイは飛空挺で体当たりを仕掛けた。
 思うように飛べない朱雀は、体当たりを受け力なくのけぞった。
「さっきはよくもユーキを追い回してくれたな!」
 こちらの作戦だったとは言え、パートナーを追い回されたのは気分が悪かった。
「ええい! 我から離れろ!」
 朱雀は炎を巻き散らすが、身体が凍っている所為か、放たれるのは炎は酷く弱々しい。
 アレクセイは指揮者のように手を振り、氷術で炎を次々と撃墜していった。
「わ、私からも……、さっきのお返しですっ!」
 さらに上空から聞こえたのは、優希の声。
 飛空挺の動力を限界まで高め、朱雀目がけて一気に急行下した。
 捨て身の体当たり。
 弾道ミサイルのごときその突撃は、朱雀を真下にある池に激しく叩き落とす。
 だが、その反動で優希も飛空挺から空中に投げ出された。
「おおっと、危ねぇ! ……だ、大丈夫か?」
 優希を受け止めたアレクセイは心配そうに声をかけた。
「な、な、なんだか世界がグルグル回ってます〜〜」
 どうやら優希は無事の様子。
 無事ではないのは池に落ちた朱雀のほうである。
「み、水は駄目だ……、早く脱出せねば……!」
 だがしかし、そうは問屋が卸さない。
 逃げ出そうとする朱雀の前に、緋桜遙遠がバーストダッシュで急接近した。
「残念ですが、逃がしませんよ」
 緋桜はそう言うと、朱雀の胸ぐらを掴み氷術を放った。
 放たれた冷気は、朱雀ごと池の水を凍結させていった。だが、近距離での氷術は諸刃の剣である。冷気は術者自身にも返りその身体を凍てつかせていく。威力に全力を注いでる緋桜なら、なおさらその反動は大きい。
「さあ、我慢比べです! 朱雀さん、付き合ってもらいますよ!」
「お、おのれおのれ……。狂っているのか、そんな事をしてただで済むと……」
「こちらも本気ですから……!」
 急速冷凍された池から、真っ白なもやが立ち上る。
 もやに覆われ様子が見えなくなった池の周りで、仲間たちは固唾を飲んで勝負の行方を見守っている。
「……大丈夫ですよね、遙遠」
 パートナーの身を案じ、紫桜は天に祈った。
 やがて、日差しに溶かされゆっくりともやが晴れると、そこには氷の彫像と化した朱雀の姿が。
 そして、その横には、力なく笑ってうなだれる緋桜の姿があった。
「す、少し……、無茶をし過ぎました……」