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リアクション
四条河原町周辺通りを巡る『金』のコース
四条河原町周辺通り。
四条河原町を東西に走るのは四条通である。西の松尾大社から、東は祇園の八坂神社へ続く通りだ。そして、四条通と交差するのが、鴨川に沿って南北に走る河原町通。北に下鴨神社、南へ向かえば京都駅がある。
四条通。
こちらのコースでは、すでに勝負は始まっていた。
『金』を司る十二神将、大陰(たいいん)と白虎(びゃっこ)は東へ向かって爆走中だ。
白虎はその名の示す通りホワイトタイガーである。
人語を操る事は出来ないが、こちらの言葉を理解するだけの知恵は持っている。走る事が三度の飯より大好きな、無邪気な性格の持ち主だ。高い戦闘力を持っているが、無闇に人を傷つけたりはしない。
一方、白虎の背に乗る、大陰は巫女服を着た十歳ほどの少女である。
可愛らしい姿であるが、どうにも小生意気な性格をしている。大人ぶってみたい年頃なのだろうが、その言葉遣いは乱暴で目に余る。晴明ももう少し女の子らしくすればいいのに、と嘆いているほどだ。
「どけどけ、そこのチビ! そんな所に突っ立ってると、白虎に吹っ飛ばされるぜ!」
「なっ!? 君だってボクと同じくらいちっこいじゃないか〜!」
リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)に暴言を吐き捨て、大陰は風のように駆け抜けていった。
「むっか〜! 陣くん! このチビ捕まえちゃおうよ! ボクの方が上だって見せつけてやるんだから!」
お前も大陰も五十歩百歩だろう……、身長的に考えて。
リーズの相棒の七枷陣(ななかせ・じん)は、呆れつつもパートナーのため、重い腰を上げた。
そんな陣の横を、大陰を追う数機の飛空挺が通り過ぎていった。
「大陰ちゃんは随分とお転婆な子みたいだねぇ」
大陰の背を見つめながら、佐々良縁(ささら・よすが)はのんびりとした口調で言った。
そんな縁の飛空挺に相乗りしているのは、パートナーの佐々良睦月(ささら・むつき)。
「京都ひゃっほー、追いかっけこひゃっほーーーい!」
なんかもう力試しとか関係なしに、睦月は純粋に追いかけっこを楽しんでいるようだ。
縁は速度を上げると、先行するもう一人のパートナーとで、大陰の前後を挟み込んだ。
「よしよし。このまま交差点まで連れて行くわよぉ」
徐々に距離を縮める、縁とパートナーの佐々良皐月(ささら・さつき)。
彼女達は二神を捕獲するため協力する『白虎を捕まえ隊』の一員である。
この先の四条河原町交差点で罠をはる仲間の所へ、二神を誘導するつもりなのだった。
ところが、大陰はおもむろに白虎の背毛を引っ張ると、ひょいとジャンプして飛び越えた。
「へっへんだ! そんなもんであたしらが止められるかよぅ!」
頭の上を飛び越していった二神に、皐月は思わず感心してしまった。
「うわぁ! あの子、すごーい!」
自分と同じ年頃に見える少女が、颯爽と大虎を乗りこなす姿に何か憧れるものがあったようだ。
実際には大陰が千歳ほど年上なのであるが、まあ、精神年齢的にはあまり変わらない。
「こらこら、驚いてないで追いかけないと……」
さて、そのころ別のルートでは、法定速度を余裕でぶっちぎる自転車の姿が目撃されていた。
「おらおら、どけどけ! 轢き殺されてぇーのか!」
「危ないです、前を通らないでください、退いて下さい!」
赤色バンダナを鉢巻きにして、風になっているのは結城翔(ゆうき・しょう)だ。
その後ろに乗っているのは、パートナーの神楽誠(かぐら・まこと)である。
白いパーカーにジーンズと、カジュアルな服装の誠なのだが、何故か頭には軍用ヘルムが。安全のためなのだとしたら、僭越ながら注意しておこう。自転車に乗る時は、専用のヘルメットを着用する事!
「なあ、誠。このまま突き進んで大丈夫なのか?」
翔はナビを任せてある誠に尋ねた。
「ええ、任せて下さい。この先が四条通……」
と、四条通に差し掛かった二人の目に、白虎に乗った大陰が駆け抜けて行くのが見えた。
「ようやく、見つけたぜぇ!!!」
馬鹿みたいなスピードで走る自転車を、より馬鹿にし。
二人は大陰の真横に並んだ。
「な、なんだよ、お前たち……?」
異常な速度の自転車を不気味に思ったのか、横を一瞥した大陰は速度をわずかに落とした。
自転車は大陰を追い越し、あっという間に二神から離れて行った。
「あ、あの……、翔さん? 追い越しちゃいましたけど?」
「……ぶ、ブレーキが効かない!!」
「な、な、なんですって!」
四条河原町交差点を通り過ぎ、眼前には四条大橋。そして、鴨川が広がっている。
誠は光条兵器の大振りの両手剣を出すと、地面に突き刺しブレーキをかけようと試みた。
だが、この状況でそんな事をすれば、どうなるかは自明の理。
ブレーキの反動で、二人は自転車から投げ出され、鴨川へ突っ込んだ。
「どわああああああ!!!」
この一件がきっかけで、鴨川にまた一つ名物が生まれる事になる。
はた迷惑な名物『カモガワダイビング』の誕生の瞬間であった。
四条河原町交差点。
多くの通行人で賑わう京都の中心地で、葛葉翔(くずのは・しょう)は両の目をごしごし擦っていた。
「今、何か自転車らしきものが通って行ったような……」
お化けでもみたような彼の元に、パートナーのアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が戻って来た。
アリアは飛行能力を生かして、二神を追い込む袋小路を空から探しに行っていたのだ。
「翔くん。北の河原町通の途中にいい感じの行き止まりを見つけたよ」
「あ……、ああ。ありがとう。よし、じゃあ、罠を設置して追い込むとするか」
「これがダーリンお手製の罠……。すごい臭いジャン……!」
もう一人のパートナー、イーディ・エタニティ(いーでぃ・えたにてぃ)が青い顔で呟いた。
翔の用意したのは、コーヒーの粉と納豆を混ぜたものと、柑橘系の芳香剤である。
コーヒーの粉と納豆からは、十二神将も裸足で逃げ出すような強烈な臭いが漂っている。
三人が交差点に罠を設置し終えると、ちょうど良く大陰がこちらへ向かって来た。
「……な、なんだ? この臭い? く……、臭い!」
「ガ、ガガ、ガウガウガウガウー!」
そのまま祇園方面に行こうとしていたのだが、二神は慌てて進路を南に変更した。
交差点の東を死守するコーヒー納豆には、大陰よりも嗅覚の優れた白虎のほうがたまらない。ついでに付け加えるなら、全然関係ないのにコーヒー納豆を嗅がされた通行人の皆さんはもっとたまらない。
南に向かう二神だったが、設置された芳香剤を前にし、突如白虎は歩みを止めた。
「……そう言えば、どうして普通の芳香剤なんか設置したの?」
「ああ、その事か。猫ってやつは柑橘系の匂いが苦手なんだよ」
アリアの素朴な疑問に答える翔だが、その企みは大成功を見せた。
白虎は嫌そうに顔を背けると、狙い通り河原町通を北へ向かって走って行った。
その様子を確認し、翔は同じ『白虎を捕まえ隊』のメンバーに携帯で連絡を入れた。
河原町通。
翔の連絡を受け、待機していた『白虎を捕まえ隊』のメンバーが追跡を開始する。
「ああ、そのもふもふの身体にダイブしたい。是非したい」
はやる気持ちを抑えつつ、白虎を飛空挺で追いかけるのは十倉朱華(とくら・はねず)だ。
どちらかと言えば犬派の彼だが、猫は猫でも大型猫なら大好物である。
「もふもふも最高だけど、肉球ぷにぷにも忘れちゃいけないよ?」
そう言ったのは、朱華の隣りで飛空挺を走らせている、久世沙幸(くぜ・さゆき)である。
「ぷにぷにとな。そちもなかなかのデカ猫好きよのぅ」
「いえいえ。お代官さまにはかないませんよ」
楽しそうに小芝居をする二人に、沙幸と相乗りするパートナーの藍玉美海(あいだま・みうみ)は声をかけた。
「三文芝居の続きは、終わってからにしてくださいな、お二人とも」
朱華と沙幸は苦笑いして、意識を前方の二神へ戻した。
「……あらあら、白虎さんは寄り道がお好きなのかしら?」
途中の路地へ入ろうとする白虎に、美海は火術を繰り出して威嚇した。
朱華もおもむろに剣を抜き爆炎波で、進路を変えないように牽制している。
五行思想では、火剋金、火は金属を溶かす。
金を司る二神は火を苦手とするわけるだが……、基本的に火が苦手ではない生き物はいない気もする。
とそこへ、一隻の飛空挺の影が上空から忍び寄った。
「ふっふっふ……、もっふもふと聞いたら、俺が参上しないわけにはいかないよねぇ」
登場したのは、東條カガチ(とうじょう・かがち)である。
彼は飛空挺を乗り捨てると、白虎の背中に豪快に飛び乗った。
「な、なんだよ、おまえ! 白虎から降りろ!」
「おやまぁ、大陰ちゃんはつれないねぇ。そんな顔しないで、タンデムと洒落込もうぜ」
もっふもふの白虎のふわ毛を、ふるもっふにしながら、カガチは夢心地だった。
河原町通T字路。
はるか上空から、カミュ・フローライト(かみゅ・ふろーらいと)は河原町通の騒動を見物していた。
「なんだか盛り上がってるみたいじゃない。さてと……、速人に教えなくちゃ!」
飛空挺の上に双眼鏡を放ると、カミュは地上のパートナーへ連絡を入れた。
連絡を受けたのは、最後の『白虎を捕まえ隊』メンバー、赤月速人(あかつき・はやと)である。
「……ようやく俺の出番ってわけだな!」
彼はトラッパースキルを駆使し、通りに素早く罠を仕掛けていった。
北へ向かう道を大量の鼠のぬいぐるみで塞ぎ、袋小路へ続く小道には大きな輪を設置した。
「おっと。さっそく十二神将さまのおでましか……」
T字路に差し掛かった白虎は、ふと前方の鼠のぬいぐるみを見つけ興奮した。
やはり猫科の悲しい性か、鼠を見るといても立ってもいられない。
白虎が近づいたのを見て、上空のカミュは仕掛けを作動させた。
中に仕込まれた火の呪符が発火し、道に炎の壁を作った。
「ガ、ガウガウー!」
白虎は地面に爪を突き立てると、慌ててブレーキをかけた。
そして、進路変更。
小道へと入る白虎であるが、そこで速人はもう一つの罠を作動させる。
仕掛けられた輪に炎がともり、突如白虎は火の輪くぐりを無茶ぶりされてしまった。
この狭い小道では、もはや後戻りなど出来ない。
「ガウー!」
火を恐れる獣の本能を乗り越え、白虎は火の輪をくぐってみせた。
彼が半泣きであったのは言うまでもないが、彼が本泣きになるのはその直後である。
道の先に待ち受けるのは行き止まりなのだから。
「ば、馬鹿! 白虎の馬鹿! なんでこっちの道に入ったんだ!」
白虎を責める大陰の前に、一難さってまた一難。
「は〜い、そこな爆走ロリ。追いかけっこもお仕舞いだ」
別ルートから追って来ていた、陣とリーズが屋根の上に現れたのだ。
「陣くん! やっちゃって!」
「へぇへぇ、お嬢様の仰せのままにー」
喉を鳴らして威嚇する白虎の前に、陣は火術を放って注意を引きつける。
その隙をついて、リーズが大陰に飛びかかった。
白虎の上でもみ合う二人に、さっきまで夢心地だったカガチが止めに入るが……。
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着きな。危ないって……、わわっ!」
カガチは二人をかばうようにして、白虎の上から転げ落ちた。
助けてくれたカガチを踏みつけて、二人は取っ組み合いのケンカを始めてしまった。
「いきなり何すんだよ! このチビ!」
「ごめんなさいって、謝れ〜!」
「不毛だ……。とてつもなく不毛だ……」
なんとも間の抜けた泥仕合を繰り広げる二人に、陣はため息を吐いた。
いつの間にか、周囲には『白虎を捕まえ隊』の面々が揃っている。
二人のケンカに戸惑っていた白虎は、捕まえ隊に捕まえられ、沙幸の用意した高級キャットフードを美味しそうに食べていた。
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