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リアクション
京都御所を巡る『土』のコース
京都御所。
かつて天皇がその生活を送っていた宮殿。明治維新後、天皇が江戸城(現在の皇居)に移り住んだため、以来保存され現在に至る。参観には宮内庁の許可が必要であるが、春と秋には一般公開されるとの事。
紫宸殿前にある南庭には、この日のために特設リングが組まれていた。
その横の実況解説席にいるのは、十二神将の天空(てんくう)と大裳(たいも)である。
「さあ、いよいよ始まります。『土』の十二神将・勾陳(こうちん)VS蒼空学園、シングルマッチ、時間無制限一本勝負。実況は私、天空。解説は大裳さんでお送りします。よろしくお願いします、大裳さん」
「はい。よろしくお願いします」
天空は眼鏡をかけた三十代のアナウンサー風、大裳は初老のプロレス解説者風の姿をしている。
「今日の試合は面白くなりそうですね、大裳さん。すでに熱狂的なファンが声援を送っています」
まだ始まってもいないのに、リングサイドからは勾陳コールが上がっていた。
気の早過ぎるその人物は、カーチェ・シルヴァンティエ(かーちぇ・しるばんてぃえ)。
気の早いファンに対しても、応えてみせるのが一流のエンターテイナーと言うもの。
声援に応えて、リング上の勾陳は天を指差し言い放った。
「ノーフィアー!!!」
「ノーフィアー!!!」
一緒になって叫ぶ相棒の姿に、駒姫ちあき(こまひめ・ちあき)は憂鬱な表情を浮かべている。
「あのさ、私帰ってもいいかな……?」
「何言ってるんだよ! 一緒に応援しなきゃ駄目だろ!」
逃亡を企てたちあきをむんずと掴んで、カーチェは放さない。
男らしくない外見のコンプレックスからか、その反動でカーチェは男臭い試合には目がないようだ。
「なんで私がこんな恥ずかしい目に……」
こうなってしまっては、もはや耐える以外ちあきに道はない。
「さて、最初の挑戦者。樹月刀真(きづき・とうま)選手の登場です!」
名前を呼ばれた刀真であるが、リングサイドでパートナー達となんだかもめている。
「刀真、あの鎧男を叩き潰すのだ! そして、晴明の鼻を明かしてやるのだ!」
息を荒くするのは、玉藻前(たまもの・まえ)。
どうも昔、安倍晴明と因縁があったらしい。晴明に復讐すべく、無茶な要求を刀真にしている。
「なんで俺がそんな事を……、馬鹿な事を言わないで下さい、この馬鹿」
「な、なんだと!」
「玉ちゃん、落ち着いて!」
と、漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)が仲裁に入ったかに見えたが……。
「玉ちゃん、大丈夫。刀真は本当にして欲しい事は絶対にやってくれるから」
逃げ道を塞ぎに来ただけであった。
「な、なんだこのプレッシャーは……!?」
しぶしぶリングに上がった刀真を、腕組みをした勾陳が待ち構えていた。
黄金の鎧で全身を包み込んだ生粋の武人。龍頭を模したフルフェイスの兜からは、その表情を伺い知る事は出来ない。十二神将最強にふさわしい威圧感は、見守る生徒たちを緊張させるには十分過ぎるほどだった。
「……五情の怨を司るあなたに、今の時を過ごせる喜を持って挑みます」
刀真の言う五情とは五行に対応する感情の事である。
光条兵器の『片刃の黒剣』を刀真は構え、ヒロイックアサルトの『金毛九尾の妖力』を身にまとった。
「蒼空学園所属、樹月刀真参ります」
そう言い終えた瞬間。
ソニックブレードによる音速の一撃が、勾陳をロープ際まで吹き飛ばした。
あまりにも早過ぎる一撃。
パラパラと勾陳の鎧の破片が、宙を舞ってリングに落ちていく。
「え、えーと……、早過ぎて見えませんでしたね、大裳さん」
「三つのスキルによる合わせ技と言った所でしょうね。いやはや、見事なもんです」
実況と解説が呆気にとられている横で、玉藻前が「技名くらい言わんか!」と吠えた。
「技名? 何を言っているんですか? 呼吸を乱すのに剣を振る時に名前なんか叫べませんよ」
だがしかし、この程度で終わるほど、十二神将・勾陳は甘くない。
勾陳は鎧の破片を払いながら立ち上がった。
「なかなかグレートな一発だ。だがな、俺はどんな攻撃にも耐え抜いて見せる!」
「……刀真。……俺に代われ」
「まあ、ぶっ飛ばしましたし……、もう十分でしょう」
玉藻前の気が晴れてくれればいいな、とか思いつつ刀真はリングから降りた。
「続いてリングに上がるのは、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)選手!」
リングサイドで彼を見守るのは、アイシア・ウェスリンド(あいしあ・うぇすりんど)。
「……がんばってください。クルードさんっ!」
パートナーの無事を祈りながら、アイシアはちらりとカーチェを見つめた。
「わ……、私もあんな風に声援を送ったほうがいいのでしょうか……?」
「そのままで大丈夫。想いは伝わるわ」
ぽんとアイシアの肩を叩き、ちあきは優しく言った。
良い事言ってる風のちあきだが、単に両隣で騒がれるのはかなわんと思ったからである。
一方、クルードと勾陳の睨み合いが、リングの上では巻き起こっていた。
「俺は弱点など付かん……。正面から見せてやる……『冥狼流』の力をな……」
「好きにするがいい。お前の全力が見れるなら、どうしようと俺は構わん!」
「行くぞ……。『閃光の銀狼』の爪牙……、見せてやろう……」
そう言うと、クルードは剣を鞘に納め、必殺の構えを取った。
「その身に刻め! 冥狼流奥義! 『駿狼烈風閃』!」
それは居合い抜きの要領で繰り出すソニックブレード。
その速度は目にも止まらず、抜き放つ瞬間の刀身の煌めきが閃光のように輝いて見えた。
「……これが、銀狼の爪だ……」
極限まで高められたその威力の前に、勾陳の鎧は一刀両断されリングに崩れ落ちた。
しかし、クルードはその手応えに違和感を感じていた。
鎧を断つ手応えはあったが、途中で刃が弾かれたような気がする。
「……言うだけの事はあるな。俺じゃなければ、くたばっていた事だろう」
平然と言葉を紡ぐ勾陳。剥き出しになった上半身には傷一つない。
「十二神将最強か……、お前も言うだけの事はあるな……」
そう言って、クルードは剣を鞘に納めた。
再び挑むためではない。これ以上の戦いは不要、そう判断したからである。
その一撃で、両者は互いの実力を認め合ったのだ。
「さて、続いての試合ですが、選手の希望により御池庭での場外試合となります」
御池庭の側で木刀を構えるのは、挑戦者の一乗谷燕(いちじょうだに・つばめ)。
対峙する勾陳は、スペアの鎧に着替え、燕の前に仁王立ちしている。
「ウチは器用な技は出来しまへん、けどやっぱり地元で負ける言うのは避けとぉす」
清冽な水の気を身に纏い、木刀に自身の気合を練り込むよう、イメージを高めた。
木刀を使うのは、勾陳の弱点と考えての戦略。
そして、御池庭をわざわざ指定したのは、五行生成、水生木の思想から。
水気で木気を強化しようと考えているのだ。
「ほな、いきまっせぇ!」
円を描くように勾陳の周囲を回ると、燕は東にあたる位置で足を止めた。
方角も五行に対応する。東西南北は木金火水。そして中央は土。土の勾陳には東から攻めるが吉。
これだけ陰陽道を理解していたら、もはや陰陽師を名乗ってもいいぐらいである。
「秘技! 神空鎌鼬っ!」
ソニックブレードが起こす衝撃波で、燕は風の刃を放った。
風も木属性。徹底して弱点を突く。
バーストダッシュで追いかけ、ツインスラッシュをそれに重ねる。
「……ぬ、ぬおお!!!」
執拗に弱点を突いた攻撃には、さすがの勾陳も多大なダメージを受けた。
「な、なかなかの使い手! 今度はこちらから……、ん?」
勾陳が手を出すまでもなく、燕はその場にへたりと崩れ落ちた。
必殺技の過剰使用で精神力が底を突き、気を失ってしまったらしい。
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