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第9章 おれたちがロミジュリだ!

 ヴェローナの町、キャピュレット家の墓所にて。
 ドコーーーンと重い物がぶち当たる音がして、地下霊廟入り口のドアが吹っ飛んだ。
 くるくると宙を舞い、地に突き刺さる鉄のドア。
 驚きのあまり硬直してしまった墓堀人の前、堂々と中からジュリエットが現れた。
「よし! あいた!」
 グッと左手を握りこぶしにするジュリエット――に扮した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)
「美羽……アインさんが鍵を取ってきてくれるから、もう少し待ってって言ったのに…」
 派手すぎる。
 思わず顔を覆ってしまったコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)扮するロミオとつないだ右手をぐいっと引っ張って、美羽はこれと思った方向に走り出す。
「わわっ、美羽っもうちょっとゆっくりっ」
「何言ってんのよ、こんなに気持ちいい朝なのにっ。コハクこそもっと早く走ってっ」
 元気に笑顔で叫ぶ美羽につられたか、コハクも口元が緩んでくる。
 2人は笑いながら草の斜面を駆け上がると、そこにいた人たちの間を突っ切って走って行った。


「そんな、まさか、娘が…!」
 走って行く2人の姿を遠目に見て、馬上のキャピュレットはつぶやいた。
 死を感じさせない軽快さで、2人はどんどん遠ざかって行く。
 娘が動いて、笑って、あんなに走って…。
「キャピュレット! 娘はたしかに死んでいたのだろうな!?」
 大公の怒鳴り声にはっとなって、キャピュレットはいつの間にか前のめりになっていた背を正した。
「はい。たしかに、娘の肌は冷たく凍っておりました。心の臓も動いてはおりませんでした…」
「そうか。ではあれは、死人というわけだ」
「ええっ?」
「夜な夜な墓所をうろつく死霊が乗り移り、動かしておるのだ」
 絶句するキャピュレット。もう今にも気絶しそうだ。
 今度は左側についたモンタギューがあわてた。
「大公さま! うちのロミオは死んではおりません!」
「ほう、あれはロミオか。それは気づかなかった。
 が、ああしているところを見て、首謀者はやつであろうな。おおかた悪魔に魂を売り渡し、ジュリエットの死霊を呼び寄せよみがえらせたのだ」
「――そんな…」
 なぜうちの息子がキャピュレットの娘などと、とモンタギューは声にならない声でつぶやいた。全く分からなかったが、しかしどう見ても、死者と手をつないで笑っているのはロミオにしか見えなかった。
「ローザマリア! 部下を率いてあやつらをしとめろ! 二度とよみがえることのないように、確実に死屍を砕け!!」
 振り返り、そこに控えていたローザマリアに命じる。
 ローザマリアは少し考え込み、言ってみた。
「――ライザ、これって本当にこんな話だったっけ?」
「わらわは昨夜、ついに思い出したのだ。あの2人はラスト目前に死ぬ。両家は仲違いのままで、2人の死によって和解が成立する。それが正しいリストレーションだ」
「ライザ…」
 そしてグロリアーナは、ローザマリアの方に体を倒し、彼女にだけ聞こえる声でささやいた。
「あれはリストレイターたちだ。本物の2人はどこかにいるのだろう。ならばわらわたちのなすべきことは?」
 あっと声をあげ、彼女の本意を悟ったローザマリアは一気にこれまでの緊張を解き、くすくす笑った。
「お互い、損な役割をとっちゃったわね」
 馬首を巡らせ、グロリアーナから離れる。
「さあ行け、ローザマリア! 二度とは言わぬ! わが命を見事為し遂げてまいれ!」



「――なんか、どんどん追手が増えてない?」
 美羽の横を走りながら、コハクは後ろを振り返った。
 前も、後ろも、敵だらけだ。
「望むところよ!」
 自分たちの前に立ちはだかった男を、美羽はミニスカキックでことごとく粉砕していく。
 彼女たちを捕らえようとする男たちは、例外なく美羽の超マイクロミニスカートから伸びる足に目が釘付けとなり、顎や脳天を蹴られたというのに鼻血を吹いて倒れていった。
 足ばかり見てくれて、美羽としては大助かりだった。ふとももより上に視線を持っていっていたら、蹴り倒すどころではすまない。
「てーいっ!」
 今また現れた男の顔面を両足飛び蹴りでノックアウトし、美羽は目標としていた森に駆け込んだ。
「でも多分、もうそろそろ減ってくるんじゃないかな」



 美羽の予想通り、2人が別の場所に現れたという報が、大公たちの元に入った。
「ほんとだよ? 町の方で、2人が……俺のほかにもいっぱい目撃した人がいるんだ」
 息を切らせ、エリュト・ハルニッシュ(えりゅと・はるにっしゅ)が馬上の3人に伝える。
「娘が、今もいるのかっ?」
「う、うん、多分」
 キャピュレットの勢いに気圧されながら頷く。
(というか、2人が来るのを待ってるんだけどね)
「案内しろ、ぼうず」
 その呼称にかちんときたものの、エリュトは面に出さず、こっちだと2人の先頭に立ち、元来た道を走り出した。



 一方グロリアーナは、それどころではなかった。
 話の空気が一切読めていない――というか一切無視?――と思われる敵、リストレイターのリブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)が、一軍を率いて現れたからだ。
「……なんだ、その後ろの道化師どもは」
 真っ向から見据えるグロリアーナ――大公に、リブロはいけしゃあしゃあとこう言った。
「なに、つまらない権力抗争の末路とその報いとはどういうものなのか、見せつけてやろうと思いましてね。ちょっとした小細工をさせていただきました」
 胸元から丸まった書状を取り出し、はらりと解いて見せる。
「金印勅書です。金の印章もあります。あなたなら、これが何を意味するかご存じでしょう」
「黄金文書か」
 神聖ローマ帝国皇帝のみが発布できる勅令。
「そう。そしてこれにはこうあります「いがみ合う両家は断絶、ヴェローナはオーストリアに併合し、オーストリア大公・リブロによって治められるものとする」」
 ……くだらぬ。
「何か言いましたか?」
 グロリアーナの手が、かすかにぶれたようにリブロには見えた。
 次の瞬間、真っ二つにされた印章と勅書がはらりと落ちる。
 グロリアーナの手に握られているのはレプリカ・ビックディッパー。リブロには、彼女がそれを呼び出した瞬間すら見えなかった。
「わらわも一時は両家断絶を考えた。そなたと同じであったとは、それだけで屈辱的だが…。しかしそのような道化芝居をうとうとは、ほんの一時たりと思ったことはない」
 グロリアーナはレプリカ・ビックディッパーを持ち上げ、リブロの喉先にぴたりと突きつけた。
「ヴェローナはこのエスカラス大公が治める町! オーストリアの犬なぞが紙切れ1枚持ち出したところで「はいそうですか」と渡す義理などないわ!!」
 威迫一閃!
 リブロは頬をかすめ、横髪をひと掴み分切り落としたグロリアーナの迫力に、完全に気を飲まれた。
 瞬間的に、この場の支配権を完全にグロリアーナの意志が掌握する。
 リブロの生み出した軍は人型の紙となってはらはらと舞い消えた。
「さあ残るはそなたのみぞ。どうする? 来るか、去るか」
「――くっ…」
 相手が悪かった。
 リブロは撤退を余儀なくされたのだった。



 そしてヴェローナの町の広場では。
 キャピュレットとモンタギューの到着を待って、ルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)扮するジュリエットとセディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)扮するロミオが、互いを抱き締め合った姿で死んだフリをしていた。
「ほら、あそこだよ!」
 2人の耳に息せき切ったエリュトの声が入る。
 カツカツと走ってくる馬のひづめの音が2つ。
「ああっ! ロミオ様とジュリエット様、死んじゃってるー!! 俺たちの到着を待てなかったの? 絶対呼んでくるって言ったのに! うわぁぁぁぁぁんっ!」
 わざとらしく聞こえるのは、あれがうそ泣きと知っているからか。
「おお……間に合わなかったか…!」
「あれはまさしくロミオ。なぜおまえがこんなことを…」
 それは、涙のにじんだ震える声だった。
 2人の前、ロミオは服毒したように口元から血を流し、ジュリエットの胸には柄近くまで短剣が突き刺さっている。
 2人はこの数日ですっかり年老いてしまったように疲れきった姿で、変わり果てた子どもたちのもとへと歩み寄ろうとした。
 そのとき。
 ジュリエットの目が、カッと見開いた。
「おお…!」
 キャピュレットの手がぴたりと止まる。
 ゆらりと起き上がるジュリエット、そしてロミオ。
 変身っ!
 まばゆい白光に包まれたと思った次の瞬間、ジュリエットはセレインナーガの姿に、ロミオはディバインロードへと姿を変えていた。
 変わり果てた――というかもう別人――子どもたちの姿に、2人の老公はあんぐりと口をあける。
「これで分かったか。無益な争いは悲劇を生む! それがどれほどの犠牲と悲しみをもたらすのか考えろ! 2人が本当に悲惨な道を選ぶ前に、いい加減目を覚ませ!!」
 セレインナーガは子どもたちの死んだ姿を見せ、2人の諍いがどういう結末を招くことになるか、気づかせようとしたのだが。
「うわーーーっ!! 死体が生き返ったよーーーっっ!」
「悪魔よ! 悪魔が化けていたんだわ!」
「神様、どうかお助けをーっ!!」
 周囲を取り囲んでいた町の人々は2人が生き返り、さらに姿を変えたことにおそれおののき、口々にそう叫ぶと、パーっと散ってしまった。
 思い思いの方向に逃げ去る人々。2人の老公の姿は影も形もない。
「――これって失敗? かな?」
 頭の後ろで手を組んで、エリュトがぽつっとつぶやいた。



 ヴェローナの町は、大混乱を極めた。
 あちこちで死霊と化したジュリエットと悪魔になったロミオが目撃されたのだ。
 その説にさらに追いうちをかけたのが、天川 翠(あまかわ・すい)セディ・レイヴ・カオスロード(せでぃれいう゛・かおすろーど)のひと芝居だった。
 夏野を宿へ送り届けたあと、再び墓所へ向かったパリスは、この騒ぎにまだ気づいていなかった。そのため地下霊廟への入り口が破壊されているのに驚き、ジュリエットの無事を確認しようと中へ駆け込もうとしたのだ。
「駄目だよ、まだロミオさん来てないのに!」
 草むらでやきもきする翠の横から、レイヴが飛び出す。
 高くジャンプして入り口の上に降り立つと、彼に気づいたパリスを見下ろした。
「そこから先は、進んではならぬ。今日は美しき我が花嫁を迎える日。退くがよい」
(――え、セディ、本当にそれやる気だったの!?)
 もしもの場合にそなえて、たしかに打ち合わせはしていたけれど。まさか本当にやることになるとは思わなかった。
 翠は、打ち合わせの際にもっと激しく抵抗すべきだったと内心後悔しながらも、草むらから姿を現した。
「気をつけなさい、そこの御方。あれは悪魔に相違ない」
 神父に扮した翠が、悪魔レイヴにおののくパリスの横につく。
「神父さま、悪魔と言いましたか? ではジュリエットは悪魔の花嫁に!?」
「それはわたしがさせません! 去れ! 悪魔!」
 形ばかりの言葉を唱え、胸に下げた十字架を突きつける翠。
「愚かな人間め!」
「うわあああっ」
 レイヴの放った火術――もちろん寸止め――にやられたフリをして、翠は草むらに身を隠す。そしてすぐそばの木の上から、今度はミニスカ天使になって登場した。
「よくもわがしもべをやってくれましたね! 今度はわたしが相手です!」
 そしてレイヴを相手に派手な肉弾戦をしたあとで飛びずさり、距離をとった翠は、効果的に、あくまでパリスという観客のためにハデハデしく――恥ずかしい!!――ポーズを決めた。
「このピュアヴェルデが、神に代わって…………って、あれ?」
 そこではたと気づく翠。
 パリスはとっくに逃げ出していた。



 そしてそのころとある場所では。
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)に手伝ってもらいながら紫桜 瑠璃(しざくら・るり)が、ある仕掛けをしていた。
「――瑠璃、本当にこれでいいんですか?」
 くるくる手元の箱を回して弄びながら訊く。
「うんっ! バッチリ! 間違いなし!」
 遙遠は、これまでの修復経過を頭の中で反すうし、何か違うような気もしたが…………ま、違ってたからといってべつに間違いというわけでもないだろうと思って――はっきり言えば、どうでもよかったので――瑠璃に箱を渡す。
「間違えないようにね」
「うんっ」
 遙遠を見上げて楽しそうに笑う瑠璃。
 遙遠もまた、笑顔を返した。



 目の前に立ちふさがる者あればどんどん蹴倒していく美羽とコハク。
 行く先々で「悪魔が来た!」と逃げられるルナティエールとセディ。
 「あれは悪魔です!」とパリスが呼んできた神父たちに追いかけられることになった翠とレイヴ。
 ヴェローナの町は、いまや騒擾の極みにあった。
 悪魔や死霊がいるとのうわさは口から口へと広まり、町脱出まで考える人が出る始末。
 私財をかき集め、ガラガラと手押し車を引く人で道が埋もれている。
 そんな中。
 今またここに、ロミオとジュリエットの2人が、追手から逃げ惑っていた。
 ギィンと音をたて、切り結ぶ。
「早く行け!」
 弥涼 総司(いすず・そうじ)は剣を押し戻しながら後方の鬼崎 朔(きざき・さく)に叫んだ。
「そうじゃ! ここはわしらに任せて、早く2人を!」
 路地から飛び出してきた新たな追手を相手に大立ち回りを繰り広げながら、アキラ 二号(あきら・にごう)も叫ぶ。
「まったく……わしがこういう目にあってるというのに、あやつはどこで何をしておるんじゃッ!」
 フォースフィールド展開、サイコキネシスで相手の剣を叩き落とし、自分の得物とする。
 「あやつ」ことブラッキュ・百十一世(ぶらっきゅ・ひゃくじゅういっせい)は、そのころひと気のなくなったモンタギュー家で、実は値の張りそうなものをあれこれ物色していたのだが、もちろんそんなこと、アキラは知らない。(夢の世界だから持ち帰れないのにね!)
 路地という限定された場所だからアキラ1人でもなんとかなっているが、3人を相手にしている総司はかなりの苦戦だ。朔は一瞬迷ったものの、自分まで離れては2人を守る者がいなくなると思い切り、戦場に背を向けた。
「すまない…!」
 もちろん、こちらのロミオとジュリエットは本物だ。
 ロミオの到着がマンチュアでのいざこざのせいでかなり遅れてしまったため――そちらはアリシア、さゆみ、アデリーヌで片付けられた。なんと言っても相手は一般人なのだから――、計画が少々狂ってしまったのだ。
 本当であれば、美羽たちが関係者の注意を引き、混乱させている間にすみやかに町を脱出。2人がおちついたところでルナティエールたちが両家を説得し、それがうまくいったらあらためて2人に戻ってきてもらうはずだったのだが。
「携帯が使えないと、本当に不便だ!」
 互いの連携が全然とれてなかったことが混乱の一端、というか、大部分だった。
 最初に決めた通りにやってはいるのだが、狂いに狂いが積み重なって、重なりまくった結果、すっかり混乱しきってだれがどこで何をやっているかサッパリ分からない。
 しかもなぜかジュリエットは死霊とりつかれた死体で、ロミオは悪魔の化身か悪魔に魂を売った魔女になっている。
 そのため、追手の目的は彼らを捕まえるのではなく、殺害になってしまっていた。
「……だが何より始末におえないのは、きさまらだ!」
 朔は、町の門との間に立ちはだかるリン・リーファ(りん・りーふぁ)に向け、ボウガンを放った。
「えーっ? だってさぁ、これこそ「障害があるほど燃え上がる恋」じゃんっ」
 ひょい、とボウガンを避けて答えるリンに、横の関谷 未憂(せきや・みゆう)
「ほら、やっぱり怒られた」
 とため息をつく。
「リンが告げ口なんかするから…」
「ふははーっ、よくぞここまで来た、恋人たちよ。この先に進みたければワシを倒してみせるがいいー」
 あ、全然聞いてない。
 両脇に手をあて、胸を張るリン。すっかり悪のラスボス気取りだ。
「リン、その台詞はちょっと違うんじゃ…?」
 未憂がツッコミを入れるより早く。
 すれ違いざま、朔の無光剣が、ゴンッとリンの頭をどついて行った。
「――ね? 悪ノリしすぎはいけませんって言ったでしょ?」
 頭に大きなコブを作って目を回しているリンのそばにしゃがみ込み、未憂はよしよしと頭をなでた。



「美羽……も、もう息が……体力の、限界だよ…っ」
 数時間、メチャクチャ走り続けたコハクがついに音を上げた。
 もう走っているというより、美羽に引っ張られてよろめいているに近い。
 痛む横腹を抱えて走るコハクを振り返り、後ろの追手との距離を目算して、美羽は前方のなだらかな丘を指差した。
「あそこまで! あそこを登るまで頑張って!」
 コハクがどうにか丘を越え、くだりに入った直後。

「今だよ、瑠璃」
 地獄の天使で浮かんだ遙遠が、十分安全距離をとった位置から言う。
「はーいっ」
 ぽちり。瑠璃は箱についた赤いスイッチを押す。
 直後。

 丘が爆発した。

「きゃーーーあっっ☆」
 爆風に背を押され、吹っ飛んだ美羽とコハク。
 美羽は笑って、着地した草の斜面をどこまでも滑り落ちていく。

「やっぱり物語の最後はいつも爆発だよねっ」

 丘からの向かい風を受けながら、瑠璃はにこにこ満足げに笑っていた。



 爆発の余波がすべておさまり、わらわらと人が集まってきた。
 丘はえぐれて巨大な穴と化し、ロミオとジュリエットの姿はどこにもない。
 あの爆発だ。かけらも残さず吹き飛んだのだと、だれもが思った。
「いくら愛する者といえど、死地よりよみがえらようなどと、なんと愚かで愛しい行為か。
 ですが、ああして炎によって清められることにより、2人の魂は救われたのです」
 坂上 来栖(さかがみ・くるす)は神父となって告げる。
「神父さま…」
 泣き崩れるキャピュレットとモンタギューの背中をさすりながら、神父は聖書の言葉を読み聞かせ続けた。
「心配は無用です。神の愛は平等です。神は必ずあなた方にも心の平安を与えてくださいます。わたしも祈りましょう。あなた方が神の慈愛を感じ取れる日が訪れますように」



 町を脱出し、遠く離れた丘の上に集まるリストレイターたち。
 眼下に広がった光景に、だれもがうーーーんとこめかみに手をあてた。
「――なんか、思っていたのと全然違う結末になっちゃったみたいなんだけど」
 しゃがみこみ、膝で頬杖をついた歩がため息をつくが、もうできあがってしまった結末は変えようがない。
 彼らから少し離れた場所で、朔はロミオとジュリエットに、もはやヴェローナに帰ることは考えず、完全に新しい人生を歩むようにと2人をさとした。
「ヴェローナのロミオとジュリエットは死んだんです。これからはオーディン、オフィーリアと名乗って、互いを支えとし、強く生きてください」
 朔の手が、道の先を指差す。
 そこには本物のロレンス神父が、馬を連れて2人を待っていた。