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リアクション
2章 山道は危険なダンジョン
さて、熊から逃れた一同。そろそろお昼時という事もあり、昼食を兼ねて安全な場所で一息つく事になった。そうしているうちに、食虫植物と戦った者や、熊と戦った者達が追いついてきた。シズルも無事にレティーシアと再会する事ができ、ほっと胸をなでおろす。
「問題は、この先どのルートをとるかね」
シズルが山の地図を見ながら考え込む。
「道は2つですわ」
レティーシアはそう言って、口の前に手をのばしチョキの形を作った。
「一つは、安全だけれど険しくて遠回りな右の道。もう一つは、近道だけれど、ドリアードや熊がジャンジャン出る左の道……ですわ」
それを聞いて、スタインが尋ねる。
「遠回りに近道か……時間にするとどれぐらいの差があるんだろう?」
「そうね。少なくとも……半日の差はあるかしら……」
シズルが答える。すると、スタインの即答。
「半日もあるのか。じゃあ、考えるまでもない。左の道を行こう」
「あなたは、そう言うと思ったわよ」
シズルが苦笑する。
「でも、今はそれしかないわね」
すると、
「ちょっと、待って下さい」
と、御凪 真人(みなぎ・まこと)が立ち上がった。
「そんなに簡単に道を決める事には反対です。焦れば焦るほど危険になる事も多いですよ。こんな時だから冷静に事を運ぶべきです」
「しかし、妹の容態は一刻を争うんだ」
スタインが答えた。
「半日ものタイムラグを受け入れるわけにはいかない」
「俺だって、苦しんでる妹さんを早く救いたいとは思います。でも、そもそも俺達が花を持って帰れなければ救えないんです。早く行けるからと危険なルートを選ぶのはどうでしょうか」
「君になにが分かるんだ? グズグズしていたら、妹は死ぬかもしれないんだぞ? 多少リスクがあっても可能性のある方を選ぶのは当然だろう?」
スタインの言葉に、真人の心は揺れた。彼とて、感情としては少しでも早くミュゼットを助けてたいと思っているのだ。しかし、理性と知識がその危険性訴えている。
「残り時間を予測し、最適なルートを選択しましょう。ギリギリでは無く不測の事態にも対応できる時間を残して……」
すると、シズルが言った。
「真人。あなたの言っている事は間違ってないわ。でも、残念ながら、選択肢はさほど多くないの。道は二つだけ。ここは、スタインの気持ちを汲んで多少のリスクを負ってでも早く行ける道を行きましょう」
「そうですか……。シズルさんがそこまで言うなら……」
真人はやむなく自説を引っ込めた。しかし、納得いっていないことが、その表情からありありと窺える。
「まーさと!」
セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が真人の背中をどやした。
「なんですか?」
真人が仏頂面で振り向く。セルファは吹き出しそうになりながら真人を励ました。
「元気出しなよ! 決まった事は仕方がないでしょ」
「そんな事は分かってます。でも、どうなっても俺は知りませんよ」
「大丈夫だよ」
セルファは笑顔で励ました。
「どんなに危険な道だって『心さえ折れなければ、前に進める』が真人の信条でしょ?」
その言葉に、真人がハッとするた。そして、
「……これは一本取られましたね」
と、笑うと、
「決まった事は仕方がない。こうなったら、少しでも遅れが出ないようにフォローしていきましょう」
とうなずいた。
こうして、一同は危険な左のルートへと進みはじめた。進めば進む程、森が深くなっていく。
「いかにも何か出そうだねえ」
鬱蒼と茂る木々を見渡し、東條 カガチ(とうじょう・かがち)がつぶやいた。
「まったくだね。食虫植物でも出そうだよ」
四谷 大助(しや・だいすけ)が答える。
その時……
……助けてえ……
どこからか悲鳴が聞こえた。
「女の声だ」
カガチが声の方を見た。
「あっちからだ。助けなきゃ!」
大助は声の方に向かって神速で駆けつけた。外見の幼さに似合わぬ敏速な行動力だ。
駆けつけると、森のはずれで一人の美しい女性が崖に手をかけてぶら下がっているのが見える。今まさに落ちるかの瀬戸際だ。
「助けてえええ!」
女性は泣き叫んでいた。
「手を!」
大助は女性に向かって手を差し伸べた。女性が大助の手を掴む。大助は思い切り力を込めて引っ張り上げた。
「ふぅ、間一髪だったな…君、大丈夫? ケガは…」
「……足をくじいたみたい。悪いけど、坊や、だっこしてくれない?」
「だ……だっこですか? いいよ」
大助は美女の体を抱き上げた。ふんわりと甘い香りが……。そこに、カガチが駆けつけてきた。
「なにがあった?」
「この人が崖から落ちかけてたのを助けたんだ」
「へええ」
カガチはまじまじと美女を見つめる。そして、大助に耳打ちした。
「山の中に美女か、思う存分怪しいよねぇ」
「バカだな。こんな奇麗な人が怪しいわけないじゃないか」
「いいや、本当に恐ろしいのは見た目にはなーんの脅威もねえこーいう手合いよ。油断するんじゃねえぜー」
そういいつつも、カガチはそれとなく襟元正してみたり前髪撫で付けてみたり女性の気をさり気なく引く。すると、女性が言った。
「そっちのお兄さん、ちょっとニヒルでいいんじゃない……こっちの坊やも食べちゃいたい程かわいいけど……」
「え?」
カガチとは大助は鼻の下をのばした。いよいよ俺たちにもモテ期が来たよ……と二人して舞い上がったその時……
「あ、あーら大助。初対面の女性をいきなりお姫様だっこ?」
恐ろしい声とともに、グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)が現れた。
「グ……グリム……」
大助が青ざめる。グリムは言った。
「さすが、エロ大助! 女なら誰でも見境なしね」
「ち……ちがう。これは、ただの人助けで……」
大助が必死で言い訳をはじめたその時……、
「クククククク……」
美女が不気味な笑い声をたてた。
「……?」
大助は腕の中を見る。すると、美女の髪がにうねり、蔦のように伸びはじめている。
「う……うわ。こいつ人間じゃない。ま……まさか、ド……ドリアード?」
「あーら、バレちゃった? さあ、かわいい坊や。一緒に樹の中に行きましょう」
ドリアードは蔦状になった腕をうねうねと大助に絡ませて迫ってくる。
「い、いや、樹の中に取り込まれるのはちょっと…っておい! 助けろよグリム! 見てないで!」
すると、グリムが冷たく言い放った。
「あーら? 貴方だけはここに残った方がいいんじゃないかしら? ほらほら、死んでも責任取らなきゃダメよ」
「は……薄情者ー!」
大助が叫んだその時、カガチが抜刀術でドリアードに襲いかかった。
「せっかくのモテ期と思ったのに残念!」
カガチはそう言うと、本当に無念そうに刀を振る。
「くそ……」
ドリアードは刀を避け、宙に舞い上がった。
「これで、あきらめると思わないでよっ……!」
そして、どこへともなく消えていった。
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