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高山花マリアローズを手に入れろ!

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高山花マリアローズを手に入れろ!

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「どうやら、遅れてしまったようだな」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は鬱蒼とした森を見ながらつぶやく。
「の、ようだね」
 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)はうなずいた。
「困りましたね。カガチも見失ってしまったし」
 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)も困惑したようにつぶやく。
「あまりにも食虫植物退治に夢中になっていたせいだわ……」
 ブルックス・アマング(ぶるっくす・あまんぐ)は後悔したように辺りを見回した。そこには、倒された食虫植物の残骸が山となっている。
「それにしても、この道で大丈夫なのかしら……まさか道に迷ったりとかしてないわよね」
 ブルックスが不安げにつぶやいたその時……。
「おい、待て!」
 突然、牙竜が立ち止まった。
「どうしました?」
 リュースが首をかしげる。
「あんなところに女が……」
 確かに、牙竜が指差した先で女がうずくまっているのが見える。リュースが女に近づき、話しかけた。
「どうしましたた? こんな所に女性一人で」
 女が顔を上げた。ものすごい美人だ。リュースは内心舞い上がった。女は言う。
「乱暴者に剣で斬りつけられて……それで、怪我をしちゃったの」
「それはいけない。手当をしないと……」
 リュースが駆け寄り応急処置をほどこす。
「ありがとう……」
 女は悩ましげな眼でリュースを見た。
「お兄さん、イケメンね。それに、いい声……」
「いいえ、それほどでも」
「恋人はいるの?」
「いましたが昨秋に破局しました。それより、お嬢さんに聞きたいんですが、この辺りでを長い黒髪を後ろで束ねた、白い肌の男を見ませんでしたか?」
「もしかして、金色の目の?」
「そう。東條カガチっていう……」
「見たわよ。この一本道をまっすぐいったところでね。でも、あんた達、あいつの仲間だったんだ」
「ええ。仲間です。じゃあ、本当に会ったんですね?」
「嘘なもんですか。だって、私の体に傷を負わせたのは、その男なんですもの!」

 そういうと、女は正体を現した。髪は蔦のように絡まり、手は茎のように伸び……。そう、この女こそ、先ほど大助を樹に引き込もうとしたあのドリアードだったのだ!

「ド……ドリアード!」
 リュースは悲鳴を上げた。
「そうよ。あたしはドリアード。お兄さん超好みなの。一緒に樹の中で遊びましょう」
 そういうと、ドリアードは蔦のような髪を伸ばしてリュースの体に絡めとろうとする。
「ちょっと、待ってよ!」
 ブルックスがリュースの前に立ちはだかる。
「さっきから、黙ってみてれば、リュー兄、何ドリアードさんと話し込んでるのよ」
「いや、ドリアードさんと知ったのは今の今だし……それに、ちょっと美人だし……」
「美人だからとか言ってないで、早く先に行こうよ! リュー兄もお年頃とは言え、そんなことしてる場合じゃないでしょ!」
「ちょっと、なによ。この子供」
 ドリアードがバカにしたようにブルックスを見下ろす。見下されたのが伝わったのか、ブルックスがムキになって言い返す。
「何よ! 大年増。私はリュー兄の妹よ。リュー兄にちょっかい出さないで!」
「誰が年増よ! 生意気な小娘が……!」
 ドリアードは長い爪でブルックスを引き裂こうとした。
「きゃっ」
 ブルックスの肩から血がほとばしる。それを見た途端、リュースの表情が豹変した。
「ブルックスに何をする!」
「え? どうしたの? お兄さん」
 ドリアードがきょとんとする。
「こいつに手を出すのだけは、許さん!」
 リュースはそう叫ぶと、剣を構えて体にドリアードに猛攻撃をかけていった。あまりの勢いにドリアードは「いやああああん」と言いながらひたすら逃げるばかりだ。

「お……落ち着けよ、リュースさん」
 如月 正悟がリュースをなだめた。
「無益な戦いはやめろよ。それより、せっかくドリアードに会えたんだから、マリアローズに関する有益な情報でも聞き出そうぜ……」
「……それもそうだな」
 正悟の言葉にリュースは冷静さを取り戻して剣を納めた。正悟はドリアードに近づいて尋ねる。
「ねえ、お姉さん」
「なあに? 坊やもなかなかカワイイじゃない」
「お世辞はいいよ。どうせ、俺はモテないし」
「そんな事ないわ。坊やはとても魅力的よ」
「ありがとう。言葉だけ受け取っとくわ。でも、今は一刻を争う時なんだ。正直戦ってる場合じゃな一つーか……」
「あら、なんで?」
「実は、俺たちは病気の少女のためにマリアローズを取りに来たんだ」
「マリアローズを?」
「そう」
「うふふふふ」
 ドリアードが笑った。
「あんた達人間が大挙してくる時って、大抵マリアローズがお目当てね! でも、残念だけど、アンタ達にはマリアローズは手に入れられないわよ」
「はあ? なんで?」
「だって、あんた達だけじゃマリアローズの咲いている場所にたどり着く事ができないんだもん」
「意味わかんねえ。どうしてだよ」
「それは、ヒ・ミ・ツ。そんなことより、あたしと遊びましょうよ」
「遊んでる場合じゃないっての。俺の質問に答えろよ」
「そんなのどうだっていいじゃない。今のあたしに大事なのは、かわいい男の子の種よ」
「本当に男好きだな。なんなら、あそこにいる田中太郎……もとい武神牙竜を捧げるんで。枯れるまで使ってもいいから、俺の質問に答えろよ」
「何?」
 いきなり指名を受けて武神 牙竜がびっくりする。
「え、あの子?」
 ドリアードは、流し目で牙竜を見た。そして、まんざらでもないという顔で言った。
「ふうん。カワイイじゃない。じゃあ、せっかくだから、お土産だけはもらっていこうかしら?」
「はあ?」
 牙竜は青ざめる。その牙竜の体に髪の毛を巻き付けながらドリアードは耳元で囁いた。
「お兄さん、よい種を期待してるわよ」
「種? 種ってなんだ? つーか、ちょっと……」
 牙竜が悲鳴を上げた。しかし、ドリアードはおかまいなしで、牙竜を捉えたまま樹の中へと消えていった。

「ああ! おい!」
 正悟が慌てて叫ぶ。
「土産を持ってくだけかよ! 情報は?」

 しかし、正悟の叫びは虚しく森に響くばかりだった。