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【4周年SP】初夏の川原パーティ

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【4周年SP】初夏の川原パーティ

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 川原にて。
 石を組んでかまどをつくり、炭をくべ、それから焚き火台をセット。
 食材を取出しててきぱきと焼いているのは、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)だった。
「手際いいわね……」
 感心しながら妻の御神楽 環菜(みかぐら・かんな)がその様子を見ている。
「玉葱、ピーマン、人参、そして牛肉を持参しましたが、こういう時ははやりこれですね」
 陽太は魚を網の上に乗せていく。
 自分で釣ったものと、食材調達を担当している若者達が提供してくれたものだ。
「現地で獲った食材を調理するのも楽しいものです。次回は釣りもじっくりやってみたいですね」
 陽太がそう言うと、環菜は風で飛ばされそうになる帽子を押さえながら言う。
「でも釣りって飽きそうよね」
「大声を出さなければ話をしていても大丈夫ですし、景色が素敵ですから、退屈しませんよ。俺がさせません」
「そう」
 そんな陽太を環菜は頼もしく思う。本心はごくたまにしか口には出さないけれど。
「山菜採りも、悪くはないわよね。あなたが間違って毒草をとらないよう、見ていてあげるわ」
 ここに来る前に、森に寄ってキノコとフルーツも採ってきていた。
 慣れてはいないため、毒草と間違えそうな植物は避けて。
「そうですね。山菜採りの前に、フルーツ狩りでしょうか」
「これからの時期だとスイカ……は大変そうよね。ブルーベリー摘みなんかがいいかしら」
「ええ、ジャムにして長く楽しめそうです」
 のんびりと会話をしているうちに、食材が焼けていく。
 焼けた肉を持っていた皿で受け取った後。
「ひっくり返すわね」
「お願いします」
 環菜がトングを手に取って、肉や野菜をひっくり返す。
 陽太は自分の皿にも、焼けたものを乗せていく。
「最初はあなたのタレがよさそうね」
 タレは2種類あった。
 陽太が自宅で作ってきた醤油たれと。
 環菜が通販で購入したフルーツをベースにした、高級たれだ。
「はい、素材の味が楽しめるよう、薄味にしてありますので……決して、手を抜いたわけじゃないですよ?」
「わかってるわよ」
 くすっと軽く環菜は口元に笑みを浮かべた。
 陽太は皿を持って、環菜の隣に腰かけて食べ始める。
 良く知っている味のはずなのに。
 不思議といつもより美味しく感じられた。
「美味しいですね」
 陽太が言うと、環菜がこくりと頷いた。
「魚には、環菜が用意してくれたタレをかけてみましょう」
「ええ。あ……私も、手抜きというわけじゃないのよ」
 環菜のそんな言葉に、わかってるというように陽太は笑顔で強く頷いた。
 手作りではないけれど、今日の為に環菜が必要なものの準備に積極的に動いていてくれたことを、知っているから。

○     ○     ○


 樹月 刀真(きづき・とうま)のパートナーである漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、百合園女学院生徒会執行部『白百合団』の団長である風見 瑠奈(かざみ るな)に、話したいことがあると言われていた為、瑠奈と刀真のパートナーの玉藻 前(たまもの・まえ)封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)を誘って、パーティに訪れていた。
 呼雪の焼きそばに、ユニコルノのタコ焼き、優子の刺身に、川の家でかき氷とドリンクを買ってきて、四人でテーブルを囲んで楽しく会話をしていた。
「寮か〜、瑠奈や亜璃珠や円、ロザリンド達とおしゃべりできたら楽しいよね!」
 瑠奈の『百合園に来るのなら、寮に入らないか』という勧めに、月夜は前向きだった。
「ヴァイシャリーに光条世界からの使者が来たって話を聞いたの。
 私は封印を解かれる前の記憶がないんだけど、刀真達と一緒に居るのが楽しいから良いかな? って思ってた。
 でも、光条世界の事が分かるなら知りたいって思う……何で私は封印されていたのか、をこのまま刀真に迷惑かけないって事を知りたい」
 だから、百合園に入ったら色々と手がかりを得るための何かに出会えるんじゃないかなと、月夜は考えていた。
「光条世界については、ヴァイシャリーにいた方が情報を掴めるということはないと思うのだけれど、軍に所属しているより一般の学生でいたほうが自由に動けるんじゃないかしら」
 瑠奈はかき氷を食べながらそう答えた。 
「私達も月夜さんと一緒に学園や寮に入れるのですか? ちょっとドキドキしちゃいますね。刀真さんが良いと言うのであれば私は構いませんよ」
 ジュースを手に、白花は微笑み。
「我も構わんぞ、お前達と一緒なら何処でもいい。
 ふむ、寮とは、皆で寝食を共にする共同の寝床といったところか……ならば我は可愛らしい娘との同室を希望しよう。
 我が閨での技を1から10まで手ずからに教えて……」
「玉藻さんと一緒に居た方が良さそうですね」
 白花は微笑みながら、前の耳をぎゅううっと引っ張る。
「ってイタイイタイ、痛いよ封印の巫女!」
「もう、他にも人が沢山います変な事言わないで下さいね」
「人がいないところならいいんだな」
 耳を抑えながら、前は軽く白花を睨む。
「そんなことをしていたら、寮から追い出されてしまいますよ。そしたら一緒にはいられなくなります」
「そうなったら、刀真の家に戻れば良い。お前等のおらぬ間、あやつを存分に……」
「抜け駆けですか、見逃せませんね……」
「イタイ、イタイといっておろう!」
 耳をぎりぎり引っ張る白花の様子を、月夜は楽しそうに見ていた。
 ただ、瑠奈はとても複雑そうな顔をしていた。
「……瑠奈? 話って何かな」
 瑠奈の様子に気づき、月夜が尋ねる。
「やれやれ、お前の個人的な話か? 刀真の事だろう? 言ってみろ」
 白花の手から逃れた前も、耳を押さえながら瑠奈に目を向けた。
「実は私……樹月刀真さんに、こ……交際を申し込んでみようと、思うの」
「こ、交際……!?」
 月夜が驚きの声を上げた。
「皆さんは、樹月さんとお付き合いしているわけでも、婚約しているわけでもない、んですよね?」
「う……うん、たっ確かに、私達は恋人じゃないけど、えっと、えっと……」
 月夜は混乱してしまって、上手く言葉を出せなかった。
「ふむ、別に構わぬぞ。刀真の周りに女が増えるという事は、我が愛でる者が増えるという事だからな。
 ……我の楽しみが増える」
 前はにやりと笑みを見せた。
「あ、あの……愛でるって、な、内容によっては困る、わ」
 瑠奈は赤くなって俯いてしまう。
「まあ、何かあれば我らに相談すれば良い、酒でも飲みながら話すだけだ」
 前は言って、タコ焼きを自らの口に運び梅酒を飲み、思いついたように月夜の方を見る。
「あ、いや、月夜や封印の巫女の考えは知らないが」
「あの……うーん……」
 月夜はまだ混乱しているようだった。
「えっと……私は刀真さんのものですから、刀真さんに要らないと言われない限り、ずっと側にいます」
 白花はそう瑠奈に言い、冷たいジュースを飲んで一息ついたあと、こう続ける。
「私が刀真さんと契約する時には月夜さんが傍に居ましたし、契約をする時も月夜さんに背中を押して貰いました。
 だから、月夜さんが良いと言うのなら、この事で私からいう事はありません」
「……樹月さんは、白花さんや皆さんのことを要らないなんて、絶対に言わないわ」
 瑠奈がまっすぐ、白花を見る。
「漆髪さんのことも、玉藻さんのことも、白花さんのもとも……そして、多分私のことも彼は好きって思ってくれていて、欲しいって思ってる。でも、それって対等じゃない。
 白花さんは本当にそれでいいの?」
 瑠奈の言葉に、白花の形の良い眉がぴくっと揺れた。
「白花さんは樹月さん1人のものだけど、樹月さんは3人のもの、でしょう? いいえ、3人のものでもないわ。彼は私にも好き、とか。独り占めしたい、というような言葉をくれたもの。多分、他の女の子にだって……」
 瑠奈の瞳が悲しげに揺れる。
「私も彼の側にいたいって心から思う。皆と一緒に愛してもらえたら……とも思ってしまう。だけど、私は一人の人間として自立したい。好きな人と、対等に付き合っていきたい!」
 だけれど、彼の元にいたら。
 この想いに縛られていたら、自分は中途半端な人間になってしまう。
 それに気づいた、から……。
「半年だけって決めてるの。樹月さんがいいって言ってくれたら、半年だけお付き合いさせてください。残念だけど、彼が私だけを選ぶ理由って何もないから、半年たたないうちに、皆のもとに戻ってしまうかもしれないけれど……。
 料理の腕は、白花さんの方が上だと思うし、戦闘でのパートナーは、漆髪さんの分野で、魅力は玉藻さんに敵わない」
 瑠奈は少しさみしそうに笑った。
「このお付き合いは、彼のためにもなると思う、から」
 彼という人を良く見て。
 彼が沢山の人を愛する人で幸せに出来る人ならば――。そして、パートナーの皆も、これまで通りの暮らし方を望み続けるのなら。
 必ず、パートナーの皆に彼を返すと、瑠奈は約束をした。
「刀真が決めた事に従うよ……私は刀真のパートナーだけど剣だから」
 月夜はその話の最後に、そうとだけ言った。