リアクション
「賑やかですね」 ○ ○ ○ 「リコ、今よ!」 「OK、美味しく料理してあげるわ!」 未だ、美羽と理子は意気揚々と巨大魚と戦っていた。 戻ってきた優子も一緒にすっごく楽しそうに挑み、解体している。 その様子をしばし無言で見ていた煌びやかな軍服姿の男――シャンバラ国軍総司令金 鋭峰(じん・るいふぉん)が低い声で、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)に「神楽崎を呼べ」と言った。 (マズイ。これは多分、優子さん叱られるわ……) ひやひやしながら、ルカルカはロイヤルガード隊長の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)を呼び寄せた。 「貴様は、何の為に先にここを訪れた。代王の安全を守るためではないのか」 いつも通りの鋭い目、厳しい口調で鋭峰は優子に言った。 鋭峰は、パートナーの羅 英照(ろー・いんざお)と共に、教導団員のルカルカ、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)達を伴いイルミンスールで開かれた会議に出席していた。 代王の理子も出席した会議だ。 「お言葉ですが、金団長。団長の格好こそ、この場に相応しくないものと存じます。 ここがどこで、このパーティがどのような目的で行われているか、ご存じでしょうか?」 ひるまずに優子は意見する。 ……というか、解体に戻りたくてうずうずしているように見える。 「そうそう、金団長……とゆーか金ちゃん!」 後からやってきた理子がびしっと鋭峰を指差す。 理子の姿はキャミソールにショートパンツ。 水着と変わらぬ姿に、鋭峰は眉間に皺を寄せた。 「一応パラ実分校主導のイベントだしね。軍服はイメージ悪いわよ。むしろその顔自体イメージ良くないけどね。笑って笑って」 「殿……理子さん、それはさすがに」 手を伸ばして鋭峰の顔をひっぱろとうした理子を優子が止める。 「無礼講で楽しもうって場だから、そんな堅苦しい格好やめて、一緒に遊びましょ?」 にこっと理子が鋭峰に微笑みかける。 「最低限の秩序を保つためには、最低限の監視が必要だ。今回は私達がそれを担っているまで」 英照がそう言うと。 「でも、いつもそんなんじゃ、気が休まらないでしょ」 理子がちょっと心配そうな顔で鋭峰と英照を見る。 「いえ。……感謝いたします」 優子は2人に頭を下げ、ルカルカに目配せをすると理子を連れてその場から離れる。 「……あそっか、あたしがちゃんと休暇をあげればいいのね」 現在の軍のトップは代王の理子なのだから。歩きながら理子はそう思うも……同時にそれがとても難しいことだとも気付く。 「とはいえ、そんな余裕ないのよね。……いつもありがとね。感謝してるわ!」 振り向いて理子が鋭峰に手を振ると、鋭峰は軽く苦笑いをして飲み物に口をつけた。 「遊んでいるように見えますけれど、お2人とも民を巨大魚から守るために戦っていたのでしょう」 ルカルカが2人をフォローする。 活き活きと楽しんで戦っていたということが、一目瞭然だったけれど。一応フォローしておく。 「あ、団長、あちらで踊ってらっしゃるのは……」 ルカルカが手を向けた方向に、鋭峰が目を向ける。 そこには、ステージで楽しそうに艶やかに踊るミルザムの姿があった。 彼女の踊りを観る人々の目も輝いていた。 パーティを楽しんでいる若者達も。 水遊びをしている人達も。 皆、きらきら、輝いているように見えた。 若者達を見る鋭峰の目が、少し優しくなったことにルカルカは気付く。 そして、鋭峰は上衣を脱ぐとルカルカに預け、シャツのボタンを一つ外した。 「皆、楽にするように」 「はっ、了……いえ、わかりましたっ」 ルカルカは元気に返事をして、鋭峰の軍服を大切に抱えたまま、上衣を脱いで楽な姿になった。 「そろそろ焼けるぞー。宴会始めようぜ。神楽崎も飲んでけって、アレナも呼んだし」 少し離れた位置で、串に刺した食材を焼いていた朝霧 垂(あさぎり・しづり)が大きな声を上げた。 途端、ルカルカはびくうっと震える。 「こっちも食べごろだよ〜」 「飲み物も冷えてますよ」 より近くで肉と野菜を焼いているエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)の言葉を聞いた直後。瞬時にダリルは2人の元に向かい、紙皿に鋭峰と英照の分の肉と野菜を貰う。 「食べ物はこちらには十分あるからな」 焼けた分全て貰って、ダリルは鋭峰達のテーブルへ戻ってきた。 (ナイス、ダリル! この幸せな雰囲気を守らなきゃ) 「ささ、熱いうちにどうぞ〜」 ルカルカは皿に取り分けて、鋭峰と英照にそれぞれ渡した。 「ウィスキーに日本酒に梅酒にワインにカクテル!! いろいろ用意したよ」 垂が担当しているコンロの側で、ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)が酒の瓶を取り出していく。 「ん? 未成年もいるのかな? でも大丈夫、大丈夫」 ルースはグラスに適当に酒を注いでいく。 「これはきもちよ〜くなれるジュースだから!」 そして、トレーに乗せると配って回る。 「垂ちゃんも、ルカもメルヴィアも飲んでみなさい」 まず渡したのは、呼び寄せたメルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)だ。 「きもちよ〜くなるジュース? ありがとぉ」 にこっとメルヴィアは微笑んだ。 彼女は今、寂しがりのメルメルモードになっていた。 さっきこっそりルースが彼女のプラチナブロンドの髪を結んでいる、リボンを解いたせいだ。 「ごめん、今度呑みに付き合うから許して」 ルカルカは鋭峰に付き添っている今も、仕事中でもあると考えている為、酒は遠慮した。 「ならば、私が戴こう。ジンの分も頼む」 返そうとするグラスを受け取ったのは、英照だった。 すぐに鋭峰の分の酒も注がれ、酒を飲まない者はジュースを注ぎ、一同は乾杯をする。 「ところで、団長と参謀長……酒が強いのはどちらの方なんですか?」 乾杯後、一口ノンアルコールビールを飲んだ後でダリルが尋ねた。 その問いに、鋭峰と英照が軽く顔を合せる。 「判らんな。試したこともない」 「互いに飲まれるほど飲むようなことはないからな」 2人とも酒に関しては、徹底した自制を怠ることはないようだった。 「次の肉が焼けるまで、もう少し待ってくださいね」 エースが、鉄板に肉を並べていく。 「お父様、あまり他の人には迷惑かけないでくださいね」 エオリアは冷たい水を、犬の姿の吉井 ゲルバッキー(よしい・げるばっきー)に飲ませていた。 (あまりというか、迷惑なんかかけるわけないじゃないか。肉はまだか、にくー) コンロの側で、しっぽを大きく振りながらゲルバッキーは肉を待っている。 「本性か演技かわからないけれど……か、可愛い……」 エースは野菜を並べ終えると、しゃがんでゲルバッキーを撫でまわしていく。 (撫でるな、暑苦しいー) と言いながら、ゲルバッキーはエースにじゃれてくる。 「ホントにただの犬のようだな」 トングで肉をひっくり返しながら言ったのは馬場 正子(ばんば・しょうこ)だ。 VIP席で要人と歓談していた彼女を誘って連れ出したのはエースだった。 「しかしこれは、犬に食わせるのはもったいない肉だな」 「正子さん、料理が上手だからね。気合入れていい肉を選んできたんだ。栄養バランスも考えて、野菜やキノコも沢山用意したよ」 ゲルバッキー犬をまふりながら、エースが言う。 タッパーの中の肉の他に、大きなざるの中に沢山の野菜が入っている。 「上手といっても、焼くだけだがな。……とはいえ、タレは用意してきたぞ」 「え? 手作り?」 「無論だ」 「それは楽しみだな」 「良かったですね、お父様。美味しいタレで美味しい肉が食べられますよ」 エースと一緒に、エオリアもゲルバッキーの頭を撫でる。 (わんわん。それは嬉しいわん) ゲルバッキーのわざとらしい吠え声に、一同笑みを漏らす。 「あまり無茶して寿命縮めるような事はホドトボにしてくれよ」 そう言いながら、エースはブラシを取り出して、毛づくろいをしてあげる。 「こんにちは」 そこに、トレー持った少女が近づいてきた――川の家で、売り子をしているアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)だった。 「どうぞ。溶けないうちに、食べてください」 アレナはエース達に、差し入れの一口サイズの氷アイスを渡していく。 「ゲルバッキーさんも、どうぞ」 しゃがんでアレナはゲルバッキーの口に、アイスを入れてあげた。 (暑くて暑くて仕方ないと思ってたんだ! さすが気が利くなサジタリウス〜) ゲルバッキーの言葉に、アレナはにこっと笑みを浮かべると、頭を下げてルカルカ達のところへアイスを届けに向かって行った。 「……サジタリウス……十二星華ですね。彼女もお父様製なんです?」 エオリアが聞いてみると、ゲルバッキーは。 (さあ。見たこともない娘だよ) 「……嘘をおっしゃいますと、お肉お預けですよ?」 (うー。十二星華はいくつか手がけた気がするけど、あの娘を作ったのは僕じゃないよ。調整したことくらいあったかな。いただき) ジャンプして、ゲルバッキーは焼き終えて皿に乗せられたばかりの肉をくわえる。 (あちっ!) 「熱いに決まってます。もう……」 「しつけがなってない犬だ」 エオリアと正子が苦笑する。 「後で診させてください。勉強の為にも」 獣医の卵のエースもそう言って微笑んだ。 「紫月達が獲ってきた、新鮮な食材だぜ!」 垂は焼けた串焼きを大皿に乗せていく。 「美味しそうに焼けましたね」 垂に誘われて訪れたアレナが飲み物を手に、にこにこ微笑んでいる。 「メルヴィア、どんどん食べるといい。酒も沢山あるからな」 「うん、梅のジュース、美味しかったよぉ。お代わりしたいなぁ」 「そうかそうか、どんどん飲みなさい」 ルースが串焼きをメルヴィアに渡して、空になったグラスに梅酒を注いであげる。 「ありがとぉ」 メルヴィアは嬉しそうに微笑んで、梅酒を飲み、串焼きを口に入れた……。 途端、彼女の顔から笑顔が消える。 「……メル、これ食べられない」 「ん? どうしたんだ?」 「あげる!」 「嫌いな食材でもあったか?」 ルースの問いに、メルヴィアは首をふるふる横に振る。 匂いを嗅いでみたが、普通だし。 「うん、丁度いい焼き具合だ! やっぱこういうところで食べる料理は美味いな」 同じ食材の串焼きを、美味しそうに垂が食べていることから、食材に問題があるわけでもないらしい。 「あ、タレか、タレが口に合わなかったか〜。どれ、馬場校長のタレを貰ってきてあげよう〜」 と言い、ルースは酒を手にエース達の方へと行き、酒を提供し、タレを貰ってきた。 たっぷりタレを付けて、はい。とメルヴィアに渡すも。 一口食べて、メルヴィアは首を大きく左右に振る。 「むーりー。わかんないけどむーりー」 何故だかわからないが、それは恐ろしく、不味かった。 「どれどれ」 ルースは、まずタレの味を確かめてみる。 うん、とっても美味しい。 続いて、タレの着いたピーマンを食べてみる。 「なんだこの、オキシドールのような味は」 とりあえず飲み込む。 「……雑巾と肉、間違えたのか……?」 見かけは確かに肉であったものは、雑巾のような硬さと味だった。 とりあえずそれも飲み込む。 「これは、スポンジ?」 シイタケのような形をしたものも飲み込む。 「さあさあ、どんどん食べてくれよー!」 どさどさっと、垂がルース達の皿に串焼きを乗せていく。 「メル……そっちのお魚欲しいーっ。沢山いれてぇ」 メルヴィアは、串焼きを全部ルースに任せると、優子が焼いている魚を強請った。 「あ、どうぞ」 優子はメルヴィアの皿に焼いた切り身を乗せながら、訝しげな顔をしている。 優子もアレナも、垂が焼いた肉を一口食べたのだが……言葉では言い表せない味だった。 「あの……優子さんの分、私焼きますね……!」 しらばらくアレナは不思議そうにコンロを見ていたが、食材を引き寄せて自分で焼こうとする。 「いやいや、任せてくれ。アレナは川の家で働いてるんだろ? 休憩時間くらいゆっくりしていけって」 「いえいえ、焼きたいので焼かせてください……っ」 「アレナは働き者だなー。それじゃ、神楽崎の分は任せた。残りは俺が焼いてやるからな!」 「し、垂ちゃん、いい子だからこっちにおいでー」 ルースがにっこり微笑んで垂を呼ぶ。 「ん? なんだ」 焼きたての串焼きが乗った皿を手に、垂はルースに近づいた。 「まあ、のんでのんでのんでのんで!」 ルースはだばだば垂のグラスに酒を注いでいく。 垂に焼く暇を与えてはいけないようだ。 彼女の料理は何故か殺人的だ。 見かけは美味しそうなのに。 自分自身は美味しく食べられるのに! 他の誰もが受け付けられない味なのだ……! 「……普通に焼けましたー。はい、どうぞ」 自分で焼いた串焼きを一応味見してから。 アレナは、優子、メルヴィアの皿の上に串焼きを置いていく。 「こっちはまだ沢山あるから平気〜。ルース、どんどん食えよ!」 垂の皿には沢山自分で焼いた串焼きが残っていたので、見張り担当となったルースも美味しい肉が食べられずにいた。 「はい、どーぞぉ」 そんな彼に、メルヴィアが味見をした串を差し出した。 「ん、ありがと」 あーんと口を開けて、ルースは、美味しい肉を食べさせてもらったのだった。 |
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