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リアクション
「今いいですか?」
「えっ!?」
場所取りをしていた山葉 聡(やまは・さとし)は、突然の声に驚いて、一歩後ろに足を引いた。
「驚かせちゃいましたか? すみません」
ぺこりと頭を下げたのは、ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)。
彼女の胸の谷間が目に入り、聡がごくりと唾を飲む。
「な、なに?」
「パーティ中にお話できればと思ったんですけれど、聡さんみたいな人だとこういう場でも色々忙しいなって」
「う、うん。VIP席にいたしな。でも花火はやっぱ、外で見た方が楽しいから」
連れは今、飲み物を買いに屋台に行っているそうだ。
この聡の側に人がいなくなったチャンスに、ミネッティは声をかけたのだ。
「あちらにも良い場所あるんです。ちょっとだけ、いいでしょうか?」
ミネッティは両手を胸の前で組んで、可愛らしく聡に強請るように言う。
「そうだな、盗られてもいい荷物おいておけばいいか」
聡はシートの上に殆ど何も入っていない鞄を置くと、ミネッティと歩き出す。
パン、パン、パン――。
既に花火が始まっており、空には色とりどりの光の花が咲いていた。
美しい花を観ながらゆっくり歩いていく。
「ところで」
花火から、視線を聡に移してミネッティが話しかける。
「ん?」
「ナンパはダメなんですよね?」
「う、うん。我慢中。絶対しない……」
「じゃあ」
ミネッティが聡に体を近づけてきた。
「あたしから誘うんなら別にいいですよね」
「!!」
聡の身体がびくっと反応した。
そして彼はきょろきょろ辺りを見回す。
皆、花火に夢中になり、こちらを見ている者などいない。
「ここは、人が多いですよね」
「そ、そうだな」
「花火は見難いですけれど……あちらで、話をしませんか?」
ミネッティがそっと腕を引くと。
「そうだな、少しだけなら……!」
聡はミネッティに引っ張られて、灯の無い場所まで歩いた。
「座ろうか?」
「ああ」
花火は見難いけれど、人目につきにくい場所にミネッティはシートを敷いて。
2人で腰かけた。
ミネッティが身体をくっつけると、聡もミネッティを引き寄せるように触れてくる。
乗り気なようだが……時間や周りを聡は凄く気にしていた。
その日はほんの少し。他愛もない話を楽しんで。
花火が中盤に差し掛かる頃に、聡は仲間達のところへ帰っていった。
○ ○ ○
料理や飲み物を購入して、花火が見やすい場所へと若者達は移動していく。
「む、このタコ焼き美味しいな」
歩きながら、
月崎 羽純(つきざき・はすみ)は
ユニコルノが作ったたこ焼きを食べていた。
「ほんと、中がトロトロで、タコも大きくて凄く美味しい! あっ」
落しそうになり、
遠野 歌菜(とおの・かな)は腕と胸で押さえようとした。
「っと、歌菜、浴衣を汚さないように気を付けろよ?」
羽純が歌菜の胸に転がりそうになったタコ焼きを止める。
「あ、うん。ありがと羽純くん。気を付けるね♪」
花火は始まっていたがゆっくり2人は歩いて。
打上げ華美という、人間を空へと打ち上げる事が出来る砲台のもとへ到着した。
たこ焼きを全部食べ終わった頃に、2人の番は回ってきて。
「羽純くん」
「ああ」
歌菜が羽純に手を伸ばし、羽純は歌菜の手をしっかりと握って。
2人は砲台の中へと入った。
「3……2……1……」
パンッと、普通の花火よりも大きな音が響き、2人の身体は空へと打ち上げられる。
(うわあ……)
声も出せないほどのスピードで空が迫る。
宝石よりも美しい小さな光が、空全体に広がっている。
歌菜は決して離れないよう、しっかり羽純の手を掴みながら。
もう片方の手を空へと伸ばす。
「また会えたね、お星様達!」
以前飛んだ時には、あまりの美しさに無口になってしまった。
今回も、そうだったけれど。
もう一度、この素晴らしい景色に会えてうれしいから――。
歌菜は口を大きく開いて、歌い始めた。
感情をメロディに。
思いを空に向かって開放する。
羽純は穏やかな顔で、歌菜の歌を聞いていた。
歌菜と同じく、この美しい空とまた出会えたことに感謝し、歌菜と共に観れたことに喜びながら。
歌う歌菜の手を引き寄せて、羽純は彼女の肩を抱いた。
響き渡る歌声の中。星々の光と花火の光を浴びながら。
大切な人の温もりが腕の中にあることを。深く感謝し。
「贅沢な時間だ。――今年も、ありがとう」
そう言葉を空へと発した。
空の旅を終えて。
二人の身体は急降下。
羽純はレビテートを用いて、腕の中の歌菜と共に、そっと地面に降り立ち。
「ありがとう」
最後にぎゅっと歌菜を抱きしめ、彼女にも感謝をしたのだった。
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