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砕けた記憶の眠る晶石

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第二章 遺跡を巡る魔獣


 魔獣がまず切りかかったのは、着物を纏った少女だった。

「津波!」
「く、大丈夫、ナトレア……パワーブレス……っ」

 ケガをかばう腕すら惜しみ、呪文を紡ぐために両手を合わせると茶色いセミロングの髪が魔力の流れに合わせてたなびく。高潮 津波(たかしお・つなみ)の呟きは昴 コウジ(すばる・こうじ) の力をさらに引き出すための呪文となった。

「感謝する、高潮!ライラプス、戦斗機動。状況開始!」
「コピー、戦斗機動。突撃します」

 乳白金の髪をたなびかせ、ライラプス・オライオン(らいらぷす・おらいおん) は魔獣たちの速さに負けることなく切り込んでいく。昴 コウジの動きをコピーしているだけとは思えない見事な連携は、見るものを魅了した。ナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)も二人の後を追い、綺麗さっぱりと魔獣たちを無力化していく。
 ランスの軌跡が光となって舞っていた。魔獣を貫きなぎ払うのは譲葉 大和(ゆずりは・やまと)だ。パートナーのラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)はダメージを受けた様子の高潮 津波にヒールをかける。
 彼らの背後に残るのは、魔獣たちの死屍累々だけとなっていた。
 高潮 津波は回復してもったおかげで一息つくと、心配そうに覗き込むナトレア・アトレアの顔に飛んでしまった魔獣の体液をぬぐってやる。

「急ぎましょう、思った以上に時間がかかっています」
「先頭組みが歩いた後に襲ってくるとはな……明るいとはいえ、気をつけなくてはな……」

 昴 コウジたちが不信感を抱きながら先を急いでいると、その先を歩いていたはずのアラン・ブラック(あらん・ぶらっく)セス・ヘルムズ(せす・へるむず)飛鳥井 蘭(あすかい・らん)を肩車しているクロード・ディーヴァー(くろーど・でぃーう゛ぁー)に出くわした。譲葉 大和は驚いたように声を上げた。

「あれ、先に進んでおられなかったのですか?」
「わたくしは、遺跡調査の一環ですから……この照明に書かれたルーンは、蒼空学園の資料では分からないようなので、持ち帰ろうと思って写していたんですのよ」
「お嬢様、そろそろ降りませんか……?」
「僕らは、イシュベルタさんはルーノアレエさんがどこに迷い込んだのか分からない、そういっていたので……」
「どこかに隠れられそうな場所がないか、慎重に見て回っていたんだ」

 セス・ヘルムズは時折しゃがみこんで壁に横穴がないかを確かめ、壁も本物かどうか確かめた。それに習って、他のメンバーも壁に手をつきながら歩き始めた。
 彼らよりも少し先を進むものたちも、魔獣の攻撃を受けていた。

「ふぅ、それにしても……」

 犬神 疾風(いぬがみ・はやて)は青い瞳を見開いて、先を見つめた。後ろには高潮 津波たちが控えているけれどもなるべく降りかかる火の粉は払っておこうと考え、さほど広くはない一本道の奥から襲い掛かってくる魔獣たちを切り伏せてはいたものの、先遣隊であるイシュベルタたちがこれほどの量の魔獣を無視して進んでいるとは思えない。ようやくやんだ魔獣たちの攻撃に安堵し、一旦剣を収めた。

「禁猟区を使っても、これじゃよけられそうにないもんね」

 黄色いツインテールを揺らしながら、月守 遥(つくもり・はるか) はかすり傷を負った犬神 疾風の腕に応急処置を施して包帯を巻きつける。リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は銀の前髪をかきあげて汗をぬぐうと、剣を地面に刺し大きく息を吐いた。そんなパートナーにハンカチを差し出すのはグロリア・リヒト(ぐろりあ・りひと)。本人も、一度に襲ってきた魔獣たち倒したせいか、若干の疲労が伺える。

「そもそも禁猟区は探知のためにあるのであって、姿を隠したり攻撃を防いだり、ということはできませんからね……光学迷彩を使ったとしても、この一本道では役に立たないでしょう……」
「とにかく先を急ぐとしよう。オレたちが倒しても、後ろのメンバーも何でか戦う状況に追い込まれているみたいだ……そのへんも、あのおっさんに聞かないといけないな」

 リュース・ティアーレの言葉に一同が頷くころ、先頭組は一足先に、中継地点となる場所へとたどり着いていた。

「ここを中継地点とする。もともと、俺とルーノアレエの寝泊りする場所だった」
「ルーノアレエおねえちゃん、どうやったら治るんですか?」

 ヴァーナー・ヴォネガットは疑うことを知らないような眼差しをイシュベルタに向ける。イシュベルタは一瞬むっとした顔をしたものの、その眼差しを見てわずかに笑みをこぼした。

「俺には心得がないから、ヒラニプラに連れて行くしかないな……」
「何で壊れたんですか?」
「……それは」
「なぁ、ルーノアレエってへんな名前だな……もしかして偽名か何かか?」

 イシュベルタ・アルザスの後をぴったりとくっついていた神代 正義(かみしろ・まさよし) は、ふとした疑問を口にする。イシュベルタはまた口元をきつく結ぶと、目線だけ神代 正義に送るとけだるそうに口を開いた。

「アレは俺のつけた名前だ。奴の本名がどうかなんて、俺は興味ない」
「なんでそんな名前をつけたんだ?てか、あんた遺跡調査の割りにずいぶんと武器を持ってきてるんだな」
「……俺が依頼したのは、俺の素行調査じゃあない」

 イシュベルタが一蹴すると、神代 正義はさらに追求しようと身を乗り出すが、ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)が立ちはだかる。イシュベルタ・アルザスは既に離れて他のメンバーに状況の説明を始めた。

「疑うのは勝手だけどよ、あんまりしつこいと……」
「お前は奴が怪しいと思わないのか?」
「……生活のためだ」
「……く、すまない!」

 神代 正義は何か通じるものを感じたのか、ベア・ヘルロットの手をしっかり握り涙を堪えた。マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)はそんな友情シーンを尻目に、イシュベルタ・アルザスのほうへと視線を向けた。

「……悪い人ではないと思うのだけれど、何を、隠しているのかしら……」

 拠点とされる場所は天井が高く、見渡せる場所には入ってきた通路、それ以外に6つ奥へ向かう通路があった。
 辺りにはテントなど、つい最近まで生活していたらしい後があり、それがイシュベルタ・アルザスのものだと本人は語った。遺跡の古代シャンバラ文字によると、ここはこの洞窟に住んでいた人々の集会所みたいなものなのだという。

「それじゃ、あたしがここで皆さんの帰りを待ってますね」

 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん) は赤い髪をたなびかせながらポーズをとる。和泉 真奈(いずみ・まな)もその横に立ち、茶色い瞳を細めて微笑んだ。そうこうしていると、最後尾のチームも到着した。

「怪我をしたらすぐにこちらに連絡をくださいね」
「では、他の人員はいくつかの班に分かれて行動してもらおうか」
「連絡しやすくするためにも、みんなここに班行動のメンバーの名前かいてもらっていい?」

 ミルディア・ディスティンが差し出した紙を受け取ると、それぞれ書き出していった。
 書いている最中、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が声をかけた。

「これは、あんたに指図されなきゃならないのか?」
「いや、お前らで好きにチーム分けすればいい。俺は一番左の道を行く。それについてくるものだけ決めてくれりゃ、それでいい」
「それは、私たちで構わないかしら?ちゃんとメンバー表も書いたわよ?」

 緑色の瞳を細めて微笑む荒巻 さけ(あらまき・さけ)はメンバー表を差し出しながらいった。その後ろには、ベア・ヘルロットとマナ・ファクトリ、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)赤城 仁(あかぎ・じん)ナタリー・クレメント(なたりー・くれめんと)村雨 焔(むらさめ・ほむら)アリシア・ノース(ありしあ・のーす)、そして神代 正義だった。

 〜イシュベルタと同行〜
 荒巻 さけ
 ベア・ヘルロット/マナ・ファクトリ
 クルード・フォルスマイヤー/ユニ・ウェスペルタティア
 赤城 仁/ナタリー・クレメント
 村雨 焔/アリシア・ノース
 神代 正義

「好きにしろ。この遺跡内では爆発系の攻撃は避けるように。爆風で、他の場所に被害が出るからな。ルーノアレエが見つかり次第、すぐに連絡を入れるように」

 イシュベルタ・アルザスはそういうとすぐにその場を離れ、入り口から向かって一番左の通路へと向かった。

「それじゃ、なんで自分は爆発物持って歩いてるんだろうね?」

 フタバ・グリーンフィールド(ふたば・ぐりーんふぃーるど)は金色の瞳に疑いの色を潜ませて、イシュベルタの後姿を睨みつけた。朝野 未沙(あさの・みさ)朝野 未羅(あさの・みら)の手をしっかりと握り締めて、にっこりと微笑みかけた。

「ルーノアレエさん、早く見つけてあげなきゃね?」
「はいなの」
「んじゃ、ルーノアレエってやつの事はミサとミラ、それにフタバに任せておけば良いか。な、スフィーリア」

 レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)は剣の柄に手を置いて気合を入れると、後ろでおどおどしているスフィーリア・フローライト(すふぃーりあ・ふろーらいと)の肩をぽんと叩いた。

「あ……は、はい……が、がんばります……」
「さてと、それじゃナガンたちも向かうとしますかね」

 ナガン ウェルロッドは手をひらひらさせながら、仲間を連れて左から二番目の通路を進んでいった。
 メンバー表もしっかり書き残してくれていた。

 〜スナフ・レア〜
 ナガン ウェルロッド
 朝野 未沙/朝野 未羅
 スフィーリア・フローライト/フタバ・グリーンフィールド
 レイディス・アルフェイン


「それでは、我らも探すとする。探すといっても、この遺跡に関することなのだが……一応、メンバー表も書かせてもらった」

 全身を白でそろえている藍澤 黎(あいざわ・れい)フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)を引き連れて3番目の通路を行こうとしていた。

 〜遺跡調査班〜
 メニエス・レイン(めにえす・れいん)ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)
 鞘月 弥生/鞘月 彩都
 ロイ・エルテクス(ろい・えるてくす)ミリア・イオテール(みりあ・いおてーる)
 飛鳥井 蘭/クロード・ディーヴァー
 高務 野々/エルシア・リュシュベル
 武来 弥(たけらい・わたる)
 桜井 雪華
 ロザリンド・セリナ
 藍澤 黎/フィルラント・アッシュワース


「あ〜あ、全く……ほとんどなんも分からないで入ってって、大丈夫なのかなぁ?」

 アルル・アイオンはため息混じりに先に向かった部隊の背中を見つめた。リュース・ティアーレはその言葉を聞いて頷いた。

「確かに、魔獣に関してもちょっとおかしなところがあるからな……情報交換をしないか?」
「魔獣を倒さなくっても進む方法とかですか?」

 アリア・セレスティは嬉々とした表情で話しに割ってはいるが、盛大なため息をつきながら樹月 刀真(きづき・とうま)もそれに続いて話の輪に入る。

「魔獣は魔獣。やらなきゃやられるだけです。止めを刺さないで後ろから襲われたいっていうのなら、逃げ回れば良いいですよ」
「刀真……アリア、気を悪くしないで。心配しているだけ」

 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は柔らかく微笑むが、アリア・セレスティは表情を曇らせて二人から距離を置くようにエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)の背後に隠れる。

「私も、可能なら魔獣は倒したくありませんよ。この遺跡の守りとしておかれているのなら、それを侵しているのは私たちなのですし……ただ、いろんなところから急に飛び出されてきては、他に手の打ちようがありません」
「それは私も不思議に思いました。先攻しているはずの犬神さんたちの後を歩いていた私たちが魔獣に襲われたんです。一本道なのに、ですよ?」
「そんなバカな……私たちも、魔獣と遭遇し、片付けたはずです」

 比島 真紀(ひしま・まき)は同意を求めるように、パートナーのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)に目線を送る。
 彼も同じく頷いて「遺骸も確認した。確かに、死んでいた」と言葉をつなげた。

「ルーノアレエさんに関しても、分かることをここで情報交換していこうと思います」
「そうか、百合園の君達なら何か知って……」
「彼女の言語回路は、逆さ読みなのです」

 大草 義純(おおくさ・よしずみ)の言葉をさえぎって、神楽坂 有栖は言葉を続けた。

「私たちは、彼女と数日間だけ一緒にいました。彼女は、探している人がいる……そう、言っていたんです」 
「……あの、どんな歌を歌ってました?」

 アイリス・零式(あいりす・ぜろしき)は赤い瞳を輝かせながら、恐る恐る口を開いた。ずっと聞きたかったのを、遠慮していたかのようだ。

「歌なら、ボク知ってるよ。ボクが教えてあげるね!」
「アイリス!今はそれどころじゃ……」

 黒いぼさぼさの頭を抱えるようにして赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)はとめようとアイリス・零式の肩に手を差し伸べかけたが、はっと気がついてその手を引っ込めた。

「そうか、歌を知っていれば、安心して俺たちのほうに来てくれるかもしれない……そういうことか」
「俺、さっきの遺跡調査士に行くって言ったメンバーのところ行ってくる……遺跡調査に集中するには、魔獣倒す役目の人間がいるだろうからな」
「それなら、オレも手伝うよ。グロリア、いいか?」
「あなたが行くところなら、私も勿論行くわ」

 リュース・ティアーレと犬神 疾風たちはそういうと、3番目の通路を目指して駆け出していった。
 黒いポニーテールが特徴的な青年、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)はいく枚かの顔写真をその場で広げて見たが、その中にイシュベルタ・アルザスらしき顔写真は存在しなかった。
 ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)がその様子に気がついて、銀色の髪をかきあげながらその広げられた写真を除きこむ。

「これは、鏖殺寺院の手配写真?」
「残念ながらイシュベルタ・アルザスはいないようですが……」

 ルミナ・ヴァルキリー(るみな・う゛ぁるきりー) は赤い瞳を凝らしていく枚もの手配書に目を通す。その中に、気になる一枚が見つかった。そこには、『名無し』と書かれていた。

「この写真だけ、名前がありませんよ?」
「あ、それね。凄く小さな男の子だからじゃないかな?」

 金色の瞳で答えたのはファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)。彼女の手には、古代シャンバラ語の辞典が抱えられている。
 ルミナ・ヴァルキリーが気にかけた手配書を拾い上げたのは、白髪を束ねあげた青年葉山 龍壱(はやま・りゅういち)だ。赤い瞳でパートナーである空菜 雪(そらな・ゆき)をじっと見つめた。

「どうしたの?龍壱」
「絶対に俺のそばから離れるなよ、雪」

 空菜 雪は赤い瞳を閉じにっこりと微笑んで、葉山 龍壱の隣にたってその側を離れない、ということを無言で示した。

〜遺跡調査部隊・追加護衛〜

 犬神 疾風/月守 遥か
 リュース・ティアーレ/グロリア・リヒト

〜探索部隊・1〜

 昴 コウジ/ライラプス・オライオン
 ヴァーナー・ヴォネガット
 エメ・シェンノート
 神楽坂 有栖/ミルフィ・ガレット
 高潮 津波/ナトレア・アトレア
 譲葉 大和/ラキシス・ファナティック
 空井 雫/アルル・アイオン
 ウィング・ヴォルフリート/ファティ・クラーヴィス
 ユウ・ルクセンベール/ルミナ・ヴァルキリー

〜探索部隊・2〜

 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)
 緋桜 翠葉(ひおう・すいは)海凪 黒羽(うみなぎ・くろは)
 永夷 零(ながい・ぜろ)ルナ・テュリン(るな・てゅりん)
 御厨 縁(みくりや・えにし)サラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)
 一乗谷 燕(いちじょうだに・つばめ)
 アリア・セレスティ
 樹月 刀真/漆髪 月夜
 大草 義純
 赤嶺 霜月/アイリス・零式

〜探索部隊・3〜

 ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)
 秋月 葵(あきづき・あおい)エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)
 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)
 ルカルカ・ルー/ダリル・ガイザック
 アラン・ブラック/セス・ヘルムズ
 緋山 政敏/カチュア・ニムロッド
 比島 真紀/サイモン・アームストロング
 葉山 龍壱/空菜 雪

「定時連絡だけ忘れないでくださいね?」

 ミルディア・ディスティンは中継地点でみんなの背中を見送ると、すぐさまパートナーの和泉 真奈と支度に取り掛かった。手伝いに残ってくれたのは数人だけだ。
 いつ何があるか分からないから、すぐに無線を常に拾える状態にして治療道具の整理を始めた。