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砕けた記憶の眠る晶石

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砕けた記憶の眠る晶石

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第四章 古のエレアノール


 
 百合園女学院の制服と見まごうような格好をした九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )はツインテールで小柄な剣の花嫁マネット・エェル( ・ )と共にミルディア・ディスティン、和泉 真奈ら医療班の手伝いとして残っていた。今のところ平和なその場所で、退屈紛れにマネット・エェルが口を開いた。

「旧い、旧いお話があります……金色の機晶石をもった、エラノールという機晶姫がいました。エレアノールはいつも白銀の機晶石を持つニフレディルと一緒だったのです。
 金のエラノール、白のニフレディルと呼ばれた二人は、それぞれ二つ名を持っておりました。
 エラノールは大人びた風貌で、【麗しの】。ニフレディルは小柄な風貌で【清かなる】と呼ばれていました。
 ある日、二人は引き離されて暮らすことになってしまうのですが、お互いの強い願いと、互いの持つ不思議な機晶石が奇跡を起こして、また共に暮らすことができるようになったのです。
 その後、二人は幸せに生涯を過ごしましたとさ」
「………へぇ……今のお話、あなたは聞いたことある?イシュベルタさん」
『あくまでも昔話だがな。そんな旧い話を知っているとは、博識だな』
「えへへ。お粗末さまでした」

 小柄(というより本当に身体が小さいのだが)なマネット・エェルは百合園女学院の制服を着せてもらい上機嫌なようで、そのスカートのすそを持ち上げて無線機にお辞儀した。

「案外、昔話じゃなくてルーノアレエと関係があるんじゃないの?この物語の機晶姫も、エラノールとなっているけれど、エレアノールと名前が近いわ。本当の名前は」
『昔、その話がはやったばかりの頃はどの家の娘もエレアノールやエラノール、ニフレディルになったもんだ』

 そういうが早いか、イシュベルタ・アルザスはブチン、と一旦無線のスイッチを切った。九弓・フゥ・リュィソーはちぇ、と小さく舌を突き出すとゴロン、と簡易ベッドに寝転んだ。





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「フン」

 イシュベルタは鼻を鳴らしながら切った無線機を腰のポーチに入れて歩みを進めた。少し間をおいて、荒巻 さけは他のメンバーと固まって歩いていた。可能な限り声を潜ませて、隣にいるクルード・フォルスマイヤーに言葉をかけた。
 
「ところで、このメンバーはみんな彼を信用しているのかしら?」
「恐らく、考えている事は同じだろう」
「確認するまでもない……か」

 村雨 焔、その後ろにいる赤城 仁も習って頷いた。ナタリー・クレメントはじっとイシュベルタ・アルザスの顔を見つめ時折目を細めてうーんと唸り声を上げる。

「どうしたんだ?ナタリー」
「どこかで、お会いした気がするんです」
「あの男にか?手配書か何かかな……」
「はい、でも……悪い記憶ではなかった気が……」

「あまり無駄口を叩くならおいていくぞ」

 イシュベルタの言葉に、またしばらく口をつぐむことになったメンバーは、なかなか尻尾を出さないイシュベルタについていくほかなかった。




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 ナガン ウェルロッドは3つ目の部屋の中身を確認し、イラついたようにしたうちをもらした。部屋の中の光源をつかさどっていたルーンは破壊されていた真っ暗な部屋だった。遠くから除いた分には、何か光るものが見えたが、今は真っ暗な状態となっていた。

「おかしいな、確かにこの部屋が光っていたはずなんだが……」
「魔獣かもしれない。あまり長居せず、他を当たろう」
「この中かもしれないの」
「未羅?」

 止めるのも聞かず、朝野 未羅は真っ暗な部屋へと入っていく。念のため持ってきていた光源をおのおの取り出し、その部屋へと入る。

「まって、これは……スイッチ?」

 フタバ・グリーンフィールドが何かのルーンに触れると、部屋全体が明るさを取り戻した。そこに並んでいたのは、カプセルに入れられた機晶姫たちだった。朝野 未沙は驚きのあまり素っ頓狂な声を上げた。

「ひゃわあ!?」
「機晶姫……か?」
「機晶石がはまってないの……この子達、まだ生まれる前の機晶姫なの……?」 
「へぇ、生まれる前の機晶姫かぁ……それにしても、ずいぶんと大人びた風貌が多いんだな?」

 レイディス・アルフェインの呟きに、ナガン ウェルロッドが辺りを見回し始めた。倒れた書棚の下敷きになっている書物を引っ張りあげて、ほこりをはたいて開くが、古代シャンバラ文字で書かれていた。

「貸してみて。多分これなら読めると思う…………え………な、なにこれ!!」
「ど……どうしたの?フタバ……」

 苦虫を噛み潰した表情で、書物から目をそらそうとしてしまうフタバ・グリーンフィールドだったが、心配そうに覗き込んでくるパートナーの顔を見て意を決したように読み上げ始める。

「……この建物は、我々の研究に大変好都合だ……機晶石発掘用の洞窟は、機晶姫を改造し、兵器に変えよという神のお告げに他ならない……」
「なんだと?」
「……我々は、まず機晶石の改造に着手したが、これは容易に行えた。だが、機晶姫にはめると異常を起こし、どれもが拒絶反応を起こしてしまうのだ……」

 朝野 未沙は機晶姫が入ったカプセルに視線を戻した。よく見れば、機晶石をはめるはずのその場所が、まるで何かが焼き付いたかのような痕があるのだ。

「……これではいつまで経っても我らの悲願は達成されない。機晶姫そのものの改造を開始した。千の機晶姫の中から、数百の改造機晶姫を作ることに成功したが、効率が悪い上、失敗作の処分が面倒だった。結果、一から作るほうが早いと判断した。盗んだ機晶姫たちは無駄になるが、まぁ別の実験に使えばいいだろう……」
「ひどい、ひどいの……機晶姫はおもちゃじゃないの!!機晶姫、みんな、生きてるのぅ……」
「っ……ミラ、落ち着けって……」

 泣き出してしまった朝野 未羅をレイディス・アルフェインは抱きしめてなだめた。自身も、その非人道的な内容に奥歯をかみ締めて怒りを押さえ込んでいた。

「……我らの目標をかなえるため、エレアノールに一体の機晶姫を作らせた。青い髪と白い肌のエレアノールとは正反対の容姿だ。赤い髪、黒い肌、赤い目。この機晶姫は成功としかいいようがない。光をはなつ機晶石があんなに美しく見えたのは、初めて機晶石の改造に成功したとき以来だ。イシュベルタに教育を任せたが、奴には早すぎたのだろうか。友達感覚で付き合っているようだ。早急に感情回路の破棄をエレアノールに命じなければ……」
「まてよ……イシュベルタは、その本が書かれた頃にここにいたのか?」
「その点は偽名の可能性がある。むしろ、あの機晶姫の名前はなんなんだ?」
「フタバ、続きは?」
「残念ながら、これが最後のページみたい……他のは実験の日誌かな……どれも失敗した奴……」

 ため息を漏らしながら、フタバ・グリーンフィールドは本を閉じた。ナガン ウェルロッドはしばらく考え込むと顔を上げた。同時に、レイディス・アルフェインも何かを思いついたように声を上げた。

「妙だぞ。肝心な本は全部破かれていたり、壊されている……まるで、誰かが見られたくから、破壊して回っているみたいだ」
「わざわざ壊すって事は、再発の防止……もしかして、ルーノアレエ本人か?」
「だとしたら急がなくっちゃ、ルーノアレエさんはもう先に進んでるってことでしょ?」 

 スナフ・レアの面々は互いに顔を見合わせて頷くと、その部屋を後にした。
 


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「石碑に、エレアノールという名前があった。ただ、製作者としてだが……」

 石碑の部屋をあらかた調べ終えたロイ・エルテクスは、書き写した文章を共有のため他のメンバーに手渡す。そこには機晶姫の作り手、エレアノールとあった。

「こちらも、少しずつ上がってきました……たしかに、エレアノールという女性は、機晶姫を製作する人だったようですね……」
「どれどれ……剣を使うのが得意やったんやな……ヴァルキリーとして生まれたものの、研究心は消えることなくこの組織に入った。組織は私を優遇してくれたが、組織の理念にはついていってはいけなかったのだ。気がついたときには、もう遅かった」

 フィルラント・アッシュワースは出来上がった部分だけを読み上げていく。そこを読むだけでも、エレアノールという女性の後悔の念がにじみ出ていた。

「……私に似せて作った赤い髪の実験体は……なんや?ここ空白や……と名前をつけた。名前がキーとなるようにした。この名前が引き金になるのは、まだ数年先だろうから、今は彼女の名前をしっかりと刻み込みたい。それが、私の罰なのだろう」
「名前が引き金?」

 ミリア・イオテールは他の書物を引っ張り出し、ページをものすごい速さでめくると、ぴたっとあるページを指し示してみんなに見えるように広げた。

「ここに、機晶姫に関する実験の記述があります……詳細は、恐らくここ以外のところにあるのではないかと……」
「ルーノアレエの本名探しが、ずいぶんと大掛かりになりましたね……」

 藍澤 黎はため息混じりに言葉を漏らす。そこへメニエス・レインがいくつかの本を彼の目の前にドサドサと無造作に置いた。

「この遺跡の内部構造に関する書物があったわ。遺跡の中枢には、この遺跡全体を包んでいる魔法文字に関する石碑と………機晶石の採掘所があるそうよ。機晶姫の製作者なら、そこにも何か手がかりがあるかも」
「ありがとうございます」

 ロザリンド・セリナがお礼を口にすると、メニエス・レインはクス、と小さく笑った。そんな彼らの耳に戦闘の喧騒が聞こえてきた。

「ここから先には行かせないぜ!!」
「パワーブレス!パワーブレス!!」

 犬神 疾風は襲い掛かる四足の魔獣たちを刻みながらおとりになるように、部屋とは反対方向へと駆け出した。月守 遥の援護により、リュース・ティアーレとグロリア・リヒトは見るものすら魅了する剣技を披露しながら、犬神 疾風とは違う方向へと魔獣たちを連れて行く。
 しんがりを勤めたのはミストラル・フォーセットだ。彼女が紡いだ言葉が犬神 疾風、リュース・ティアーレ双方を追う魔獣たちの足を凍りつかせてその戦いの終止符となる雷撃を放った。

「魔法があるってのはありがたいな」
「全くだ、ありがとうな」
「メニエス様を守るついでです。気になさらないでくださいな」

 そっけなく言い放たれて、犬神 疾風とリュース・ティアーレは苦笑するしかなかった。その後ろで、移動の準備を整えた調査班のメンバーが待っていた。

「ミストラル、次の行き先が決まったわ。移動するわよ」
「はい、メニエス様」
「遺跡のお宝……はやくみたいわぁ……」