リアクション
第七章 伝えたかったのは、この想い
「……【閃光の銀狼】の爪牙……見せてやろう……その身に刻め!」
クルード・フォルスマイヤーが放つ一撃で、前方の魔獣たちはようやく一掃できた。何度目の技になるかわからず、既にその表情には余裕がなくなっていた。
「アリシア、立てるか?」
「ご、ごめんね……焔ぁ……」
既に怪我を負わされたパートナーをかばいながら剣を振るう村雨 焔の顔にも、脂汗が滲んでいた。こう数が多くては、いつまでかばいきれるか分からない。ベア・ヘルロットと、マナ・ファクトリも可能な限り応戦し、荒巻 さけはイシュベルタ・アルザスめがけて突撃するものの、それを阻むように魔獣たちの波が押し寄せる。
「頭を叩けば……」
「こいつらは消えるはずなのにっ!」
「その頭まで届かなくて、いらだつか? そうだろうな……それが、一人となってから鏖殺寺院から学んだことだ。力が及ばぬならば、数で対抗するべしとな………鏖殺寺院が一人として、俺はあの方の野望のため、この遺跡を復活させる!!」
魔術を駆使し、襲いかかる魔獣たちをすべて冒険者たちに差し向けようと微弱な雷撃を放っているのが分かると、パラミタ刑事シャンバランに変身中の神代 正義は無線機を取り出した。イシュベルタ・アルザスの腰につけた無線が電源が入っているらしいことを確認すると、無線の向こうにいる手が空いているメンバーに頼んで一つの作戦を実行する。ころあいを見て、仮面をつけた神代 正義は無線機に声をかけた。
「せーの」
「♪〜〜天に舞う光の水は、空の大地を埋め尽くす
川を流れる炎の壁は、風のその先海を割る
星が落ちる、陽が滴る
影が上れば、沈む銀河
愛すべき仇を、殺したいのは恋人
あなたを壊し、
あなたを輝かせた罪
あなたが放つは破壊の音
私が歌うのは絶望の呼び声〜〜♪」
突如無線機から最大音量で流れてきた旋律に、イシュベルタ・アルザスと魔獣たちは驚いて手を止めた。その隙を狙い、緋桜 翠葉と海凪 黒羽は最大火力の炎術でイシュベルタ・アルザスの身体を炎で包み込み、樹月 刀真が切りかかるとイシュベルタ・アルザスはその場に膝を着いた。斬撃の風圧で、魔術の炎は消えうせたが致命傷になるだけの一撃を加えたのは間違いない。
「そこまでだッ!パラミタ刑事シャンバラ……って俺の出番!!!」
「やっぱり……エレアノールの弟とアンタは同一人物か……じゃ、パートナーってのは、嘘だったのか。名無しの手配書は、お前のことだったのか?」
葉山 龍壱は名無しの手配書に写る、まだあどけない少年とイシュベルタ・アルザスを見比べた。
「…く、そうだ……俺の肉体が朽ちたのは、もっと後だから、今はこの身体だがな」
「機晶姫の名前は、本当の名前を隠したのはあなたじゃないんですか?」
「名前が知りたかったら、機晶姫を俺にわたせ……。そいつは嫌でも自ら名前を呟くだろう」
「でいなさろこ! てっま!!」
ようやく到着したルーノアレエの叫びもむなしく、イシュベルタ・アルザスは吐血する。緋山 政敏はカチュア・ニムロッドと共に駆け寄ってすぐに連れ出そうとするが、二人の腕を振り払う。
「何のつもりだ、お前ら……」
「彼女があんたを助けたいのは事実だ。鏖殺寺院であろうと、なんであろうと」
「……ふ、そこの機晶姫は忘れたかもしれないがな、俺たちは離れ離れになってからもう気の遠くなるような年月が経っているんだ。俺は生きている間に鏖殺寺院で再教育され、お前は記憶を失い、俺のことを忘れて眠りについていた……そういえば、この装置のことを忘れていたな……誰だったか、この武器をなんに使うのか聞いたな。今教えてやる」
体中にめぐらせた爆薬のスイッチを握り締めて、イシュベルタ・アルザスは断末魔代わりに機晶姫に声をかけた。
「改造されたその身体の光は消えないだろう。生涯、鏖殺寺院の影におびえるがいい。……先にエレアノールと待っててやる。せいぜい、残りの人生を楽しく生きるんだな」
スイッチを入れるまでの隙を見計らい、動けるものたちはけが人を抱えて連れて行った。
爆音が聞こえるまでに、やや間があった。イシュベルタ・アルザスの心に残った、良心の証かもしれない。
第八章 光差す、乙女たちの園へ
「うん、これでいいかな。リリが持ってきてくれた回路のおかげで、修理にてこずらなくって済んだよ」
朝野 未沙はリリ・スノーウォーカーに微笑みかける。ぎこちない笑みを返しながら、既に破壊されてしまった遺跡に視線を送った。
門があった付近では温泉が湧き出しており、桜井 雪華がぶすっとした顔でその下に座り込んで一番風呂を浴びていた。
「なにがお宝や。いっそ石油ならよかったんやけどなぁ……」
イシュベルタ・アルザスの自爆によって、遺跡の兵器装置とそれらに関する石碑を破壊されてしまった。鏖殺寺院が行ったのは、内乱だけではなく、非人道的な実験もあったのだと情報が増えた。遺跡を出たところで、各自が各学校へとその旨連絡し、すぐに救助隊が来てくれる事になった。
「助けに来たってのに、自分達が救助される側になるとは思いませんでしたね……」
真っ白な衣服と紙が、土ぼこりによって汚れてしまったエメ・シェンノートはそれらを払う様子もなく修理が終わりそうなルーノアレエの顔を覗き込んだ。
「彼女の名前は、なんていうんでしょうね」
「彼女の口からは聞けないでしょうね」
ルカルカ・ルーは胸元にたまった泥を振り払いながら残念そうに呟いた。
「日記や文献を照合すると、彼女の名前はそのまま兵器へと変貌するキーとなるはずだから」
「でも、ならないかもしれない」
「機晶石が光を放つ機晶姫は、彼らの言うところの完全体……なにが起こっても不思議じゃないでしょうね」
九弓・フゥ・リュィソーは応急処置を手伝いながら、そう口にする。
「さ、治ったよ!」
朝野 未沙が改めて機晶姫の起動スイッチを入れると、ルーノアレエの黒い肌は機晶石を中心に淡く金色を帯びながら光り始める。
「……ここは」
「言葉治った!」
「未沙おねえちゃんがなおしたんだもの!当然なの!」
「ミラも手伝ったもんね」
フタバ・グリーンフィールドが朝野 未羅の頭をよしよしと撫でてあげる。
「皆さん、ご迷惑をかけて……本当にごめんなさい……」
「聞かせていただけませんか?自分たちの聞きたい事は、あなたはご存知だと思います……」
比島 真紀が跪くような姿勢でルーノアレエの顔を覗き込んだ。ルーノアレエは力なく頷いた。
「遺跡の詳細は知りませんでした。幼いイシュベルタ・アルザスから言葉を、エレアノールからは歌を教わって……毎日が楽しかった。それが、ある日突然エレアノールから逃げるよう告げられてからは、よく覚えていません。意識を取り戻したのは、ここ数十日の間のはずです。気がついたら百合園学院にいて、エレアノールから教わった歌を歌い、既にいないエレアノールに語りかけ続けていました。そして、ようやく自分と同じく生き残っているであろうイシュベルタ・アルザスを探そうと遺跡を目指したのですが、彼が鏖殺寺院による再教育を受け既に私の知る彼でないことを悟ると、遺跡の文献、エレアノールの残した日記を解読して、遺跡の中を壊さなければならないのだと理解しました」
「でも、恐らく詳細な文献は既に荒らされていたと思うわ。違う?」
メニエス・レインの言葉にも、ルーノアレエは頷いた。
「既に詳細文献は鏖殺寺院の手により持ち出されているなら、同じものが作られていないとはいえない……か」
「お願いです、私を壊してください!」
ルーノアレエは赤い瞳に涙を浮かべて懇願するが、武来 弥はずかずかと進み出た。しゃがみこんで、にっこりと笑うと彼女の頬を強かに叩いた。
「………いってぇ……さすがに機晶姫は硬いなぁ……」
「ちょっと、なにしてるのよ!?」
「あのな、今生きてる。エレアノールは、イシュベルタ・アルザスは、なにを望んでたか……分かるだろ?生きてたら、考えられるんだからさ」
そういって、頭をコツン、と小突いた。ユウ・ルクセンベールはルーノアレエの肩を叩いた。
「あんな最後の言葉でも、きっとイシュベルタ・アルザスも機晶姫を頼むと、そういいたかったのではないだろうか」
「そう、だといいですね。そう、信じます……」
高潮 津波が、手をぽんと叩いて声を上げた。
「それより、彼女の本当の名前は?」
ルーノアレエは地面に、エレアリーゼ……と書いた。
「エレアノールが作った機晶姫だから、似た名前をもらった」
「そうか、いい名前だけど……名乗れないのが残念」
「ルーノ・アレエがいい。皆が呼んでいたこの名前も、私は気に入った」
「それじゃルーノさん!百合園に来ませんか?」
神楽坂 有栖はルーノ・アレエの手をとって声を上げた。赤嶺 霜月はあーーー!と声を出しながら割って入ろうとする。
「あ、ずるいぞ、それなら蒼空学園にだって……」
「もう許可はもらったわよ?」
空井 雫は携帯を見せつけながらにっこりと微笑む。百合園女学院のメンバーは顔を見合わせて歓声を上げる。
「ずるーい!じゃ、じゃ、困ったら絶対私のこと呼んでね?修理はアサノファクトリーにお任せ!」
「そ、それなら私も!今度はあなたの側でちゃんと護りますからね?」
俺も、あたしだって!そんな声が次から次へと沸き起こり、ルーノ・アレエは困ったように辺りを見回すが、そのうちたまらなくなって、噴出して大笑いをし始めた。
釣られてひとしきり皆が笑い終えると、各学校からの救助班がようやく到着した。
お疲れ様です。今回は前回と異なってまじめなシナリオにしてみました。
ルーノアレエ=エレアノールという方程式を解読した方は多くおられましたが、コミュニケートをメインでアクション指定された方を優先とさせていただきました。
あと、逆さ言葉である、とアクション指定してきた方はこのシナリオのヒントをきちんと見てくださった、ということで少々コミュニケート時間を多くさせていただきました。
アクションで機晶姫と仲良くなりたいとおっしゃっていただいた方は自動的に「ルーノの○○」という称号を差し上げてます。
(マルの中身はルーノアレエとどれだけ親しくなれたか、によって変化しますよ)
今後、彼女の身に何かが起こればどうぞ駆けつけてあげてくださいませね。
あと、魔獣を切りまくるのを中心としたアクションの方には『魔獣討伐隊』を差し上げました。
砕けてしまった会話、というのは、単語が逆さ言葉になっており、文法がばらばら……ということを示したかったのですが、ヒントが少なすぎましたね。申し訳ありません。
多くのアクションの中に、これを当てようとしてくださったものがいくつもありました。
皆々様のアクションに感銘し、これを今後の励みとして、もっと楽しんでいただけるシナリオを提供していきたいと改めて思いました。
皆様に提供させていただく側ではありますが、やはり最後にこの物語を作り上げ、ルーノアレエを助けてくださったのは皆様です。
百合園にて新たな生活を始めた彼女が、これからどんな形でパラミタ大陸を生きていくのか……それもまた、皆様のアクション次第となるでしょう。
本当は、全員の方にコメントを差し上げたい気持ちでいっぱいだったのですが、当方の都合上差し上げることができませんでした。ごめんなさい。
お付き合いくださり、ありがとうございました。
また次にお逢い出来るのを、楽しみにしております。