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リアクション
北の山脈、頂上付近。「スペードのジャック(11)」に挑んでいるのは、薔薇の学舎のナイト藍澤 黎(あいざわ・れい)、一騎、挑んでいる。
突きを繰り出す黎。素早く避けるジャックに対し、最後の瞬間まで放つのを我慢する事でジャックの動きに対応した突きを放つ事が出来る。左半身に重心が移動するのを待ちて放ったが、ジャックはカルスノウトで受けると、圧されながらも踏み止まったのだ。
しかし、この突きも二度は通用しなかった。突きを我慢する事で、それまでの勢いを殺し、上半身の捻りのみで突きを放つ事になる、故に突きの速さが半減してしまうのだ。すなわち突きを放った時、ランスがジャックに届く前に叩かれ弾かれてしまっていた。
黎は顔を歪めながらに手が詰まっていくのをその身に感じていた。
「やはり小手先の技など通用しないか」
体勢を整え、地面を蹴って飛び出した。一心不乱、突きの奥儀、全てを速さに捧げて突き進む。今持てる全てを込めた一突きが今、ジャックを突く!!
宙を舞いたは黎であった。渾身の突きも完璧に見切られ、その勢いを利用されてカウンターの一閃を受けてしまったのである。
地面に落ちる黎の体、ジャックが踵を返した瞬間、黎のパートナーでプリーストのフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)のペットボトル爆弾ジャックを取り囲み、一斉に爆発した。
黎の体は黎を抱きしめたフィルラントによって爆風を防いでいたが、フィルラントの爆弾は更に宙から降ってきていた。
4つ、4つと爆弾が順に降ってきては爆発した、そして8つの爆弾が落ちて来た時、フィルラントは爆発の中心に向かってバニッシュを放ったのだった。爆弾は一気に爆発し、本日最大の爆発となった。
「黎、大丈夫かぁ?」
「あぁ。フィルラは相変わらず無茶な戦術をする」
「黎が真面目なんや、敵を倒すなら、アレでええねん」
土ぼこりが収まり始めていた。ジャックが立っている様子はない。
「ランスを持たぬジャックに手も足も出なかった。ふっ、情けない限りだ」
「焦る事なんて無い、勝てるようになる事、挑み続ける事、それが大事や思うでぇ」
「ふっ、そうだな、全くその通りだ」
抱き締められて腕の中、黎は悔しさと満足感に包まれていた。
土ぼこりの晴れた土の上、トランプに戻ったジャックもまた、悔しさに包まれているようだった。
「ん、なにぃぃいぃいいぃぃぃ!」
チーム「トランプハンター」のセイバー松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が仕掛けたバナナトラップを、「ハートのジャック(11)」はピョンと飛び越えて過ごしていた。
「………………」
「………………」
「………………」
と言葉を失うか、それとも、
「……まぁ ……そうだろうよ …………」
と思うかは自由であるが。
それでも目を疑う事もある、ジャックが「ピョン」と飛び越えた事である。ナイトが一人、ウィザードが二人がかりで攻めようとも、腕力と的確な判断で三人の相手をしていたジャックがコミカルにも見える飛び方をした事、これには少しばかり頬が緩んだ。
頬を緩めないのは岩造と同じく後方を担当しているシルエット・ミンコフスキー(しるえっと・みんこふすきー)である。大きなため息を吐き落とした。
「だから言わんこっちゃない」
「うぉぉおぉお、バナナだ、バナナの量が足りなかったのだぁぁ」
「なるほどぉ、でしたらもっとバナナの皮を集めてみせますわ」
岩造に同調したのはパートナーのフェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)である。一心に岩造と同じ景色を見ているようだ。
コンビネーションとシルエットの罠、ジャックを攻略するには絶対的に必要であるようだ。
面白き状況と言えば、やはりイルミンスール魔法学校のウィザード、九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )が開いた「お茶会」であろう。
本陣付近の小高い丘地、敷物の上には九弓とパートナーのマネット・エェル( ・ )、そして向かいにはソルジャーのカライラ・ルグリア(からいら・るぐりあ)のパートナーティファナ・シュヴァルツ(てぃふぁな・しゅう゛ぁるつ)と数字兵の「ハートの3」、そしてウィザードの魔楔 テッカ(まくさび・てっか)とそのパートナーマリオン・キッス(まりおん・きっす)の4人が座っていた。
「なんて言うか、凄くカオスだね」
敷物の上を見てみれば、「ハートの3」は正座をしながら両手でお茶を啜っているし、マリオンは機晶姫で身長3メートルもある為に正座をしてもかなり大きい。テッカに至ってはお茶よりもバナナに手を伸ばす回数の方が圧倒的に多いように思えた。
ほのぼのしている。しすぎている!
「あなた、あの子と合体できるの?」
「は、はぃぃ、テッカはとっても温かいですぅ」
「お茶が飲めるならバナナも食べられる……、あらまぁ」
数字兵は照れているようにも見えた。数字兵の茶碗には初めから水分は入れられていないのだ。
「ますたぁ、友達いっぱい、いっぱいですぅ」
「でもやっぱりトランプ兵だけだと、寄って来ないみたいだね」
「あら、そんな事はないわよ」
九弓の視線をカライラも追った。「クラブのジャック(11)」と「スペードの5」が丘を上がってきていた。
「あっ、あの子っ」
「あら、お知り合い?」
「知り合いと言うか、負けたと言うか」
「そう、少し前に立ち寄られたんです。お仲間を連れてきたようですね」
トランプ兵が3体も。うち1枚は絵柄兵である。
丘陵のお茶会、侮れない。
西の樹海に巡らした罠。
薔薇の学舎のローグ、北条 御影(ほうじょう・みかげ)の仕掛けたワイヤーに走ってきた数字兵が引っかかる。
足を取られた数字兵は空中に投げ出され、その瞬間に御影のリターニングダガーが襲い掛かり来た。ダガーは致命傷にはならずとも、数字兵の体を脇の茂みまで飛ばすのに成功し、そこにはロープの網罠が張ってある。ダガーを拾いて一撃を与えればトランプへと戻りゆく。
「クラブの10か、良い手だ」
御影の手札はこれで4枚、連続の罠が有効のようだ。
「あっ、よっ、やはっ、はっ」
御影の視界の少し先、ロープの網罠にかかったパートナーマルクス・ブルータス(まるくす・ぶるーたす)の姿が視界に入ってきた。それでも御影は表情を変えずに時計に目をやった。
「残り1時間弱…… 、あのままにしておくか」
数字兵がよく通った事も幸いしたが、御影は十分に手ごたえを感じているようだった。
西の樹海の木々の切れ目の空き地一帯、そこを拠点としたセイバーの樹月 刀真(きづき・とうま)は、拠点からさほど離れていない地点で遭遇した「クラブのクイーン(12)」を拠点まで誘導する事に成功していた。
成功と言っても刀真はクイーンに弾き飛ばされ続けて、この場所まで。いや、計算して飛ばされてきたのだ、本人がそう言っているのだから、そうなのだろう。
クイーンがゆっくりと拠点に足を踏み入れる。改めて刀真は構えて睨みつけていた。
刀真がカルスノウトを振りおろして、クイーンに受けられるも、続けてナイトのヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が突きを放つ。
ほぼ二点同時攻撃であるはずが、一体どんな反応をしているのか、受けて弾いて受ける弾ける、を繰り返す事ができるようだ。刀真の剣を弾いて、ヴァーナーのランスを受けて弾く、それも涼しい顔で受けられていた。
刀真がカルスノウトを高く掲げた。これは合図、ヴァーナー、そして刀真のパートナー漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)に伝わる合図。
刀真は飛び出してクイーンの足元に滑り込むと、クイーンが刀真に一撃を入れる前に跳び上がると、振りかぶったカルスノウトを思い切り振り下ろした。
無論クイーンは剣で受ける、それも体が少しだけ沈み込んだだけ、それだけだったが、クイーンの視界からは月夜が消えていた、それが狙いだった。
刀真を押し退けた直後、月夜のバニッシュがクイーンを襲った。光りの攻撃にクイーンの視界は一気に狭まった所へ月夜とヴァーナーが更に仕掛ける。
二人はクイーンの腕にしがみ付いた。制限できたのはホンの一瞬、そこへ刀真の渾身の一撃、さすがのクイーンもこれは受けられなかった。
振り下ろした一閃に続けて突きも放ったが、クイーンの体に当たる前に煙が生まれてトランプに戻っていったのだった。3人はその場に座り込んだ。
「はぁあぁはぁ、終わったぁ」
「うん…… うん、うん」
「あ、待って、今、ヒールを……」
立ち上がろうとする月夜を刀真が止めた。
今は良い、息を整えよう、喜びを感じようと刀真は言った。トランプを見つめながら、捨て身とも言える作戦に乗ってくれた事を刀真は2人に感謝して、同時に申し訳ないとおもったのだった。
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