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リアクション
第二章 トランプの兵との戦いを経て
ノーム教諭の言葉を思い返してみると、ジョーカーの存在を推測できる事以外にも思える事があるのです。
イルミンスール魔法学校のウィザード、九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )だけが汲み取り、そして独自の方で実現しようと試みていた。
本陣付近の小高い丘地、太陽も傾き始めた頃でありまして、九弓は笑顔で敷物を広げ始めていた。
それを見つめてパートナーの剣の花嫁、マネット・エェル( ・ )も敷物の端を持って広げるを手伝った。
「ねぇ、ますたぁ、どうですか?」
「えぇ、良いですよ、次はカップを出してくれる?」
「はい、了解ですわ」
敷物を敷いて、カップを出して、お茶菓子、ケーキに冷たい飲み物まで用意してますよ。
九弓とマネットは授業中にて、多くの戦闘が起こっているフィールドの中央で「お茶会」を開こうとしているのだ。
携帯冷蔵庫と冷凍庫を設置している九弓にマネットは言った。
「でも、トランプ兵さんを倒さなくて良いですか?みんな行ってしまいましたのに」
「いいのよ、ノーム教諭の言葉を思い返してみて」
首を傾げるマネットに九弓は笑みかけた。
「授業の目的は「トランプ兵を捕まえる」ことなの、つまり「捕まえること」が出来れば良い訳で「倒す」必要なんてないって事でしょう?」
「えぇっとぅ、う〜ん、倒さなくても……?」
「そう。とにかく、トランプ兵たちをお茶会に誘って仲良くなれれば、友達いっぱいで私たちの勝ち!なのよ」
「わぁ〜、友達いっぱいです?友達いっぱいが良いですぅ」
「私もよ。さぁ、お茶会を始めましょう」
「はいですぅ」
戦う事なく得点を得る。きっとノーム教諭も笑んでいる事であろう。
本陣付近から、やや北へと向かいた地点、地面がゴツゴツとし始めており、大きな岩なども姿を見せ始めた地点において、イルミスール魔法学校のウィザード、魔楔 テッカ(まくさび・てっか)は逃げながら連続で雷撃を放っていた。
「きゃぁあぁ〜 来ないで〜」
テッカの動揺は命中率に反映されている。撃てども撃てども当たらない。パートナーの機晶姫、マリオン・キッス(まりおん・きっす)が「クラブのジャック(11)」に水をかけて、テッカの雷撃が当たったはずなのに。ジャックは起き上がり追いて来た。故にテッカは逃げているのだ。
「もうダメ、頭に来ましたですわ」
足を止めて振り向きて、空に向かって叫び放った。
「マリオン、合体するわよ」
「あ、は、はいぃ。トランスフォォォームゥゥゥ」
体長3メートルのマリオンの体が、胸からお腹までが裂きて左右に開いてゆく。太ももと腕も筋に沿って開けば、マリオンの体内にテッカが格納できる部位が現れる。
テッカはバナナを二本ほど口にねじ込んでから、マリオンの体に飛び乗った。大の字になるように、テッカがマリオンに体を預けるとマリオンは体を閉じたのだった。
「合体! テッカマリオン!」
ジャキーン、という効果音が聞こえた気がした。マリオンの体内からテッカが呼びかけた。
「行くよ、マリオン」
「ひ〜、やっぱり無理ですぅ、怖いですぅ」
「大丈夫、さっきバナナを食べたから、私は元気だから」
「私は元気じゃないですぅぅ〜」
「マリオン。よく見なさい」
言われてマリオンは顔を上げた。ジャックも目を見開いて硬直しているように見えた。当然だ、二人が一人になったのだから。マリオンは少しだけ、瞳を開けた。
「逃げないって、決めたんでしょう?」
合体と言えども、能力に変化は起こらない。むしろ体内に居る分、ダメージを受ければその衝撃は中のテッカも受ける事になる、でも、でもそれでも。
「…… うん。怖いけど、頑張りますぅ」
「よし、行くよ、振り下ろしてすぐにツインスラッシュよ」
「はいっ」
決意を宿してマリオンは飛び出した。体が内から温かい、それは安心と信頼、そしてテッカへのダメージを考えると下手な攻撃は受けられない。
合体により得るのは心の加算。心と想いが、一つに宿る。
西の樹海で息を潜める、茂みに隠れて窺っているは蒼空学園のセイバー、シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)とパートナーのプリースト、雨宮 夏希(あまみや・なつき)であるが、不意にシルバが夏希の頭を押さえて屈み込んだ。
「えっ? ちょっと、シルバ?」
「静かにっ、動くなっ」
シルバの額に汗が溢れている。夏希は瞳の端にそれを見て、口を両手で押さえた。
息を止めて気配を窺う、シルバはただただ過ぎるのを死に待った。
茂みの前を何かが歩む。一歩と一歩が遅く感じた。
足音を聞いて夏希も顔を上げて茂みの先を窺って見ると、途端に瞳が見開いた。
頭を押されて再び地面へ。目の前の気配が通り過ぎるまで、ずっとずっとに押されていた。
シルバの手が離れた瞬間、夏希は立ち上がり、気配の行く先を追った。それでもその主は見えなかった。
「シルバ、トランプさん、行ってしまいました」
「あぁ。危なかった」
「あっ、って。いいんですか?」
「いいんだよ、俺たち二人じゃあ太刀打ち出来ない」
気配を感じた、汗が溢れた、圧されてしまった。
「でもっ、たくさん得点を取るのが目的だって」
地面に拳を叩きつける。夏希の体も跳ねて止まった。
シルバが唇を噛み締めている。
いつも熱くて負けず嫌い。シルバが唇を噛み締めている。
「シルバ……」
夏希はそっとシルバに寄り添った。
北の山脈、中腹下の一帯はチーム「ノーザンライト」が陣取っていた。
白馬に跨り、山肌を登りゆくのは薔薇の学舎のナイト、アラン・ブラック(あらん・ぶらっく)である。乗馬の技術はもちろんの事、岩と岩とを跳び渡る白馬の能力も十分に高いようだ。
跳んで跳びて跳んだ先にてアランが辺りを見渡した時、見下ろした右手側、エリアの下手にトランプ兵の姿を見つけた。
「よし、見つけた。…… 僕だよ、見つけた、場所は……」
通信の先は薔薇の学舎のプリースト、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)である。
「その位置なら……、ここだ、このポイント」
「うん、正解」
相槌を打ったのは弥十郎のパートナー、守護天使の仁科 響(にしな・ひびき)である。一帯に到着、エリアの決定の後すぐに地図を作りて穴を仕掛けたのは、この二人である。
「ルカルカ、聞こえるかい?エリア下手から現れる。第三ポイントに誘導してくれ」
「了解〜!」
通信先で明るい声をあげたのはシャンバラ教導団のセイバー、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)である。
「さぁ、行くよ、ダリル」
「了解だ」
ルカルカの言葉を受けてパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は左手をバイクの機体に固定させた。
アクセルを全開にして前輪を大きく盛り上げる。軍用バイクを操るはルカルカ、後部に乗るダリルが補佐を担当する。
山肌を平地の如くに進みゆく。空中に飛び出したかと思えば、大きな岩に着地、後輪のバウンドが収まりきらない内に回転、再びに飛び出した。
「あれね」
ルカルカの視線がトランプ兵を捉えた。トランプの柄は……。
「ほぅ、ダイヤの10か」
「ラッキー、高得点じゃん」
数字兵が二人に気付いた。当然である。爆音と共に急に現れた、待ち伏せていたのかと思うほどに、ルカルカが通信を受けたから然程の時間は経っていなかった。
エリアの下手にバイクを置いて、数字兵を上手に移動させる。小さき岩なら砕いて進み阻む、斜面下には逃がさない。
「弥十郎っ」
「了解だよ、ポチっとな」
弥十郎がスイッチを押すと、爆発音の後に山肌を落石が走り降りてきた。
数字兵が落石から抜けた先、待ち構えていたのは蒼空学園のウィザード、御凪 真人(みなぎ・まこと)である。
真人の氷術がトランプ兵の足を凍らせた。その瞬間、
「セルファ」
「やぁぁぁぁっ」
真人のパートナー、セイバーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)がバーストダッシュを用いて一気に距離を詰めて懐へ。そしてゼロ距離にてツインスラッシュを放った。
煙に包まれ、トランプへ戻る。追いついた真人が拾い上げた。
「バーストダッシュにツインスラッシュ。セルファ、SPゼロでしょう?」
「うっ」
「足を凍らせたんです、派手に大技で決めなくて良いんですよ」
「あっ、いや、つい」
「つい、じゃないです。先は長いんですから、SPは節約しないと」
「それはキミもだろう、真人」
真人とセルファが振り返る。白馬に跨るアランだが、どうも大分に離れている。
二人の周辺から白馬の手前まで、広範囲に渡って凍りついている。
「君も威力を抑えるべきだね」
アランの言葉に笑みが交わされる。他のメンバーも集まり喜ぶ。その様を、遠き死角から見ている影が二つ。
「ちっ、数字かぃ。いいわ、チマチマやるなら数をこなすんだよ」
「あの馬、火で炙ってみたいわぁ」
チーム「ノーザンライト」に向かう怪しき視線。喜びの隙にて、気付かないでいた。
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