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第一章 四方に八方に散りぬれば
箒に跨り空に浮きしはイルミンスール魔法学校のメイド、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)とパートナーのウィザード、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)である。界下に広がる景色に瞳を輝かせているナナに向かって、ズィーベンは大きく投げ問いた。
「ねえ、ナナァ、どこを見てるのさ。東の滝に行くんだよねぇ」
届き得たナナは顔だけで向いてから、笑顔のままで上昇、接近、あっという間にズィーベンの隣に並び着いた。
「見て、ズィーベン。森がまるで緑の絨毯みたい……」
振り向き見れば、陽の光を浴びた樹の海は、淡くも高貴な絨毯のような輝きを見せていた。
「深く暗い樹海も、暖かい光に覆われているのね」
「あ、いや、そうかもだけど、今は……」
「シィーッ、美しいものは心で見ましょう♪」
瞳は奪われ、西の海。木々の厚さは外には静けさだけを見せるようである。
幾つもの戦闘が起こる事を、幾つものドラマが待ち受けている事も、樹海のそれが感じているとは思い得ない、その程に落ち着いている、そう見えた。
西の樹海だけにはあらず。突然の戦闘とドラマを起こすべく、生徒たちは各地への移動を始めているのであった。
目の色を変えて走るのは、蒼空学園のセイバー、ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)、その人である。
「うぉぉぉぉぉぉぉう、どけどけどけどけぇぇぇ」
進行方向に生徒無し、動物もモンスターも居ないのだが、ベアは叫びて道を行く。いや、急に向きを変えたと思ったら、道なき道へと飛び込んで行きました。
「どこだぁぁぁ、どこに居るぅぅぅう」
すでに血走っている。一心不乱、猪突に猛進。
小型飛空艇から見下ろしているパートナーの剣の花嫁、マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)も、ただただ首を傾げながらベアの跡を追いている。
南に向かい走りゆく。狙うはただ一枚の数字兵。
「出て来い、俺の、ハートのエース(1)!!」
視線も顔向きも固定しない、欲しがりません他の兵など。すぐ横を「ハートの8」が通り過ぎたようとも、ベアは一切に立ち止まらずに「駆ける」を続けた。
同じく、いや、まともに南に向かっている最中、数字兵に遭遇したのは蒼空学園のセイバー、一乗谷 燕(いちじょうだに・つばめ)、とパートナーのセイバー、宮本 紫織(みやもと・しおり)である。
成長著しいローグ並み。授業の主催者、イルミンスール魔法学校魔術科学専攻ベルバトス・ノーム教諭は数字兵の能力について、そう言っていた。確かに、セイバーの二人が追おうとも、どうにも距離が縮まらない。
「待たんかぃ、6! いや? 9かぃな、どっちや」
「あれは…… 、6に思われます」
「ほぅ、6か、よぅし」
燕は瞳を輝かせると、バーストダッシュで一気に距離を縮めていった。背にもペイントされている6の文字が、見る見るうちに近づいてゆく。
「もろたで」
燕は大きく跳んで斬りかかった。が、兵に当たりで返ってきたのは紙を叩いた乾いた音。燕が構えるはカルスノウトにあらず、最近持ち始めていた扇子であった。
「あかん、こっちはセンスやったか。間違えてしもぅた」
打撃を受けた「ハートの6」は一瞬体を弾ませたものの、すぐに駆けるを再開させていた。その背に、追いついた紫織も瞳を向ける。あっはっはっ、と幾らか笑いた燕も笑んで、同じに瞳をその背に向けた。
「せっかく出会ったんや、逃がさへんでぇ」
二人は揃って駆け出した。今度はしっかりとカルスノウトを握り携えて。
方角変わって北山へ。空飛ぶ箒は便利なり、イルミンスール魔法学校のウィザード、八畝 八尋(やつせ・やひろ)と、こちらも同じくウィザードのパートナーのイスタ・フォン(いすた・ふぉん)は箒に跨り、お空の散歩。八尋は脚を前後に振りながらにイスタに笑みかけた。
「ねぇねぇイスタさん、数字兵さんは、靴、履いてるんですかね?」
「靴? ですか?」
「うん、だってローグさん並に速く走って逃げるんでしょう?靴が無いと足痛めちゃうと思うのよね」
「そうですね、もし履いていないとすれば、それだけの強度を足に施した、という事になるのでしょうか」
「う〜ん、やっぱりノーム先生は凄いなぁ、トランプを擬人化するって、うん、面白い♪」
参加者募集の知らせを聞いた時の嬉しそうな顔。笑みかけられたイスタの方が照れてしまった、それほどに、トランプ兵、そしてノーム教諭への興味が溢れていた。
「楽しみですね、イスタさん!」
実践経験は多くない、しかしそれだけに何もかもが新鮮だ。
数字兵との出会い、そして戦闘。いざ北の山々へ、躍り弾ませ、空を歩み行く。
空を行くチームがここにも一つ、「クイーン・オブ・カード」の面々は箒に跨り、東の大滝を目指していた。隊の中ほどを行くウィザードの水橋 エリス(みずばし・えりす)は地上を見下ろしながら、小さくため息をついた。
「ふぅ、やはり遅いですね。重くて、大きくて、うるさくて、可愛くなくて、変な物まで付けて、可愛くなくて……」
「おぃこら、通話中にモノローグ入れるんじゃねぇ」
返答したのは波羅蜜多実業高等学校のソルジャー、国頭 武尊(くにがみ・たける)である。チームの面々が上空を移動する中、パートナーのシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)をタンデムシートに乗せて、スパイクバイクを走らせているのだ。歩道はあれば走るもの、直線に木々があろうものならば強引に蹴破って進んでいた。
「可愛くないことなんてあるか、なぁ、シーリル」
「はい、いつもよりカッコいいです」
「どこがよ? 変な音を出して、変な装飾をして、おまけにチェーンソーまで付けて、どこから見ても変よ」
「変なのはお前等だろうが、長靴なんて履きやがって」
「これは…… 、さけが……」
「変な事ないですよ、必要で、立派な装備です」
隊の先頭を行っていた蒼空学園のセイバー、荒巻 さけ(あらまき・さけ)が口を尖らせて反論した。
「目的地は大滝ですよ、きっと足元は滑ります、長靴があれば滑り知らずです」
「機能的な事を言ってんじゃねぇ、制服に長靴ってのが変だって言ってんだ」
「そうなのよね、そこなのよね」
さけの提案でチームは長靴着用が決定したのだが。各学校の制服に長靴を装着する、それだけなので、ふむ、ふむ、やはりあまり似合ってはいないのだ。長靴を見つめるエリスに、さけのパートナー、日野 晶(ひの・あきら)が寄り言った。
「すみませんねぇ、さけは普段から女の子らしい服装にこだわらない所があるので」
「晶までそんなこと言って。ねぇ誠さん、良いですよね? 長靴」
冷静な顔をして見ていた織機 誠(おりはた・まこと)だったが、さけに笑顔にも表情は変えなかった。
「そうですね、足が滑っては戦闘になりません。良い策だと思いますよ」
「アンタも気にしない派かぃ!」
エリスの突っ込み、さけの笑顔。交わす会話は華ばかり。チームの誰にもどこを見ても、瞳には心地よさを宿し始めていた。
「ほぉ、昼寝するには豪華な家だ」
小型飛空艇を降りるなり、小屋の一つを見て蒼空学園のセイバー、東條 カガチ(とうじょう・かがち)は零して言った。すかさずにパートナーの柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)はカガチに詰め寄る。
「昼寝じゃないでしょ、トランプ兵さんを倒すんでしょ」
「そんなにやる気を出さなくても。トランプ兵に会えなきゃ戦えないんだし」
「だから捜しに行こう、ねっ、今すぐ行こうよっ」
「よぉし分かった、まずは、ゆっくりしよ……」
「ん? どうしたの?」
辺りを見回したカガチが急に動きを止めて、ため息をついた。
「ゆっくりさせては、くれないって訳かぃ」
南のキャンプ地、別荘地帯。立派な庭付き一軒家とも言えるだけの小屋の幾つもが点々と建っている、その影から、何とも堂々と絵柄兵「ハートのクイーン(12)」が歩み現れていた。
なるほど、トランプから手足と頭が生えている。にしても肩幅が広い。カルスノウトを持つ腕も太く、団子の様な拳だって握る力が分かるほどに逞しく見える。
「これはどうも、楽しめそうだねぇ」
「あっ、ちょっとカガチ!」
なぎこが気付いた時には飛び出していた。地を蹴り向かい、カルスノウトを振りかぶる。
不敵な笑みで、いざ挑みゆく。
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