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特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第1回/全2回)

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特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第1回/全2回)

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 蒼空学園のセイバー、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は別荘地帯の小屋の陰から数字兵を狙っていた。
 東のエリアからこの別荘地帯への入るならば、この面から。その面を一望できる、尚且つ小屋と小屋の間隔が狭い場所を選んで身を隠していた。
 アリアの狩り場にまた一人、「ハートの5」が歩み来る。
 カルスノウトを強く握り直して、アリアは数字兵の前に姿を見せた。
 数字兵が身構えると同じ、アリアは間合いを詰めてゆく。
 右に大きく踏み込んでから繰り出した突きが数字兵の右脇をかすめる。
 避けさせた。突きにより体を回転させてしまうなら勝負あり、アリアを視界に捉えていても腰を裂く一閃は避けられない。勝負あり。
 トランプを拾い上げるアリア。小さく息を吐いた時、視線を感じて再びに身構えた。
「荒削りだけど、鋭い動きね」
 屋根の上から見下ろしていたのは波羅蜜多実業高等学校のローグ、ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)は舞うようにアリアの前に降り立った。
「ねぇアナタ、手に入れたカードは幾つ?」
 ヴェルチェはアリアに歩み寄り、5枚のトランプを広げて見せた。
「交換しない?私のカードとアナタのカード」
「交換?」
 アリアはヴェルチェのカードに瞳を向ける。「ハートのキング(13)」、「ダイヤのクイーン(12)」、「クラブのクイーン(12)」、「ダイヤの8」、「スペードの5」の5枚。カードを見てもアリアの瞳は鋭さを失わない。
「どう?」
「興味ないわ」
「そう、残念ね」
 アリアは意識をヴェルチェから外す事無く半身になりて去ろうとした。
「どこへ行くの?」
「……、もう十分なの。戻りながら相手を捜すわ」
 歩き始めたアリアにヴェルチェは声を抑えて言った。
「ねぇ、ジョーカー、持ってない?」
 ヴェルチェの声にアリアが立ち止まる。
「ジョーカー?」
「えぇ。居るみたいなのよね、ジョーカー」
 アリアは手札を思い浮かべた。「スペードの10」、「スペードの6」、そして「ハートの5」、当然ジョーカーなどは無い。
「持ってないわ」
「そう、残念だわ」
 ジョーカーが居る?ノーム教諭が53体と言っていた事をアリアは思い返して顎を振った。
「アナタと一緒に行くわ」
「は?」
「アナタの強さに興味があるの、ジョーカーとヤル時は力を貸してね」
「……」
 背中を見せて歩き出すアリア。奇妙なタッグが結成されたようだ。


 東の大滝。高さ200メートル、幅100メートル、まるで巨壁のような滝の裏面には巨大な洞窟、その中で「ダイヤのクイーン(12)」に対してセイバーの荒巻 さけ(あらまき・さけ)とパートナーの日野 晶(ひの・あきら)が二人掛かりで打ち合っていた。
 クイーンに相対しているのは、チーム「クイーン・オブ・カード」の面々だ。
 さけと晶が同時に斬りかかったが、クイーンはどちらも受けると、腕力をもって二人を振り払った。すかさずナイトの織機 誠(おりはた・まこと)がランスでの突進をかけるが、軌道をズラされて捌かれた。
 続くはウィザード水橋 エリス(みずばし・えりす)の雷撃。クイーンの動きを瞬間でこそ止めるを成功させ、誠が続けてランスを向ける。
 それでもクイーンは体を傾けてランスとの距離を僅かに稼ぐと、その瞬きにランスを叩き防いで凌いだ。
「う〜ん、強いですね」
「えぇ、さけ、どうしましょう」
「呑気に言ってないで、早く誠の援護に行きなさ……」
「オラオラ、どけどけぇ」
 ソルジャーの国頭 武尊(くにがみ・たける)がスパイクバイクで強引に走り進んでいた。
「もう待てねぇぜ、俺も混ぜろや」
「ちょっ、武尊、そんな無茶して」
 タンデムシートからシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が掛け声を投げる。
「二人とも、行きますよっ」
「了解ですわ」
 スパイクバイクに、さけと晶が続いた。
 スパイクバイクは岩も地面も砕いて進み、勢いのままにクイーンに襲いかかった。
 大きく避けるクイーン、そこへ、さけと昌が斬りかかる。バイクの強引な突進がクイーンを大きく動かし、足場を崩すのにも一役買っていた。
「エリスさん」
「誠、大丈夫か」
 武尊の突進に合わせて誠は一時戻ってきていた。
「えぇ、それよりも雷撃です。力、抑えてますよね」
「それは……」
「水分を含んだ地面、限られた空間、そして対象の傍で戦う我々。それでも次の一撃は全力で放って下さい、私もろとも」
「ちょっ、誠っ」
「全員長靴を履いているんです、足元からの感電はありませんよ」
 笑顔を瞬き見せて誠は走りだした。
「皆さん、離れて下さいっ」
 誠がクイーンに突進してゆく。その背中が呼んでいる、全力で撃てと、それが勝利への鍵だと、心配は要らない、と。
「さけっ、昌っ」
 エリスの叫びに二人が振り向いた。エリスの視線を受ける二人、瞳だけの想いのやりとり。
 エリスが魔力を手に込める。二人は誠の横に並んで加勢する。
「聞こえませんでしたか?お二人とも、離れて下さい」
 さけの斬撃をクイーン受けるとすぐに弾き、後方からの昌の斬撃を斬り払う、その勢いのままに誠のランスに打突を与える。
 さけと昌が斬り向かう。その姿に誠は声を荒げた。
「お二人とも、早く離れて……」
「離れないっ」
 さけの声。昌が突きを放つ。それをクイーンは何とかに受け捌いた。そして僅かな隙が生まれた。
「くっ」
 迷いが過ったが、誠はランスを突き放った。
 クイーンの胸にランスが撃たれた、その瞬間、その上空をスパイクバイクが飛び過ぎていて、タンデムシートからエリスが体を乗り出していた。
 特大の雷撃がクイーンに放たれた。轟音と爆光が拡散してゆく。
 光が散った時、クイーンはカードに戻っていた。
 カードを見た時、クイーンの姿が無い事を認識できた時、大きく息を吐き出して、肩が重くなるのを感じた。言葉も交わさずに誰もが集まり、座り込んだ。
 ただエリスが寄り来た時、誠の頭を軽く叩いた。
 ただみんなで笑みだけで笑みあっていた。


 南の別荘地帯の一角、蒼空学園のセイバー葉月 ショウ(はづき・しょう)は一人、戦っていた。
 相手は数字兵「ハートの9」、一枚目を倒した時に幾つかに試していた。
「空中に飛び出させれば反撃してくる」
 ショウは兵の前に飛び出して、足を狙って剣を振り抜く。
 兵はショウの体上を飛び越えて避けるが、振り抜いたままに体を反転させたショウは、兵が着地するよりも先に斬りかかる。
「避けられないと判断した数字兵はダガーを投げつける」
 ショウの論理の通りに兵がリターニングダガーを投げつけてきた。ショウはこれを避けると左方の木々の中に姿を隠した。
「ここからは論理のみ。奴を中央に、俺は姿を隠し、攻撃するときは左から右へ移動しながら」
 並走し、一気に飛び出して直線に。一閃を放って避けられても、そのままの一方まで移動する。これを2度繰り返した時、兵が放ったダガーが兵の手元に戻り来ていた。
「チェック」
 ダガーを受け取ろうと視線を向けて動きが止まった一瞬にショウが斬りつけて勝負あり。兵はトランプへと戻ったのだった。
「ふぅ」
 論理のままに上手くいった。出来過ぎだ。
「順調にいくと、ろくな事がないんだぞ」
 息を整えながら、ポケットの中にトランプを納めた。


 数字兵を倒すとき、追い詰める事は何よりも有効だ。
 北の山にいて罠を張る、地形を利用した追いこみ罠。
 蒼空学園のウィザード、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)は巨大な岩の陰で待ち構えていた。
 巨大な岩が無造作に生えている、それでもイーオンには道が見えていた、数字兵が逃げ来る道すじが。
 遠くで岩を砕く音がした。パートナーのアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)からの合図、ようやく点の高い数字兵が現れたようだ。
 音がして、しばしの後に魔力を込める。
 やがて足音も聞こえてくる、「お待ちなさぁぁぁい」というアルゲオの声も聞こえてきた、もうすぐである。
 イーオンが構えた時、「ダイヤの9」が目の前に飛び出してきた。
 すかさずに氷術で足元を凍らせる。そこへアルゲオが斬りかかれば、これにて終了。
「思った通りだ。面白い」
「ィ、イオ。何枚か見過ごしましたけど、本当に良かったのですか?」
「ん? 数字の低い兵だろう?良いんだ、魔力だって限られてる、高い数字兵だけを狙えば良いよ」
「かしこまりました、ですわ」
 忠誠を表す言葉、決められた言葉。それでも私は様々な言葉をイーオンに投げ掛けたい、様々な言葉でイーオンの反応を見たい。アルゲオは思っていた。
 イーオンが笑顔を見せる事、それはアルゲオにとって何よりの喜びとなるのだった。