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暗き森の泣き声(第1回/全2回)

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暗き森の泣き声(第1回/全2回)

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第6章 森を守りしその執念

 ゴォオオッと音を立てて燃え広がる森の中、武尊はバイクを止めて後ろを振り帰ったが、いっこうに妖精が追ってくる気配はない。
「何で来ねぇんだよ」
「そうよね・・・これだけ酷いことしたら怒って攻撃してくると思ったわ」
 焼け落ちる木々を見ながら、シーリルは不思議そうに首を傾げる。
「あれ?そっちも追ってきていないようですね」
「追ってこないなんておかしいですわね」
 妖精が追ってこないことに対して疑問を抱いている武尊に、陽太とエリシアが遭遇した。
「森をこんなにしているのは武尊さんたちだったんだね、酷いじゃないか!」
 北都は森を荒らしている生徒に向かって、眉を吊り上げて怒鳴る。
「木々に燃え移ってなかなか消火できないでございます・・・」
 消火用の水を使い果たした空っぽのバケツを見ながら、クナイは嘆息する。
「どうやらそうみたいだぜ。意味の無い行動になっちまったかな」
「肝心のマンドラゴラも燃えてしまいそうよ」
「あぁああ〜っ、そうだったぜ・・・!」
 目当ての品まで燃やしてしまったのかと思い、頭を抱え武尊は一気に落ち込みモードに入った。
「ん・・・そうか・・・追ってこないなら、採り放題じゃないか!」
「えっ・・・えぇええ!?」
 間違った方向で立ち直った武尊に対して、シーリルは驚愕の声を上げる。
「採り放題ってまさかと思いますが・・・採ったのをどうする気ですか?」
「この俺が売り払うとかそんな悪いことを考えていると思うか?売り払うとかよぉお!」
「(今2度言いましたね、2度・・・)」
「えぇ、そう見えますわ」
 見え見えの邪悪な考えに、エリシアが即答した。
「(あぁやっぱり・・・)」
 金儲けに走ろうとする武尊の姿に、彼のパートナーのシーリルは涙する。
「やっぱりそんなことだろうと思ったぜ」
「無闇に魔法草を奪うと、精霊たちだけでなく森の守護者にも悪影響を及ぼすのよ」
「―・・・えっ!?まさかアウラネルクまで影響があるなんて・・・」
 怒りの形相で詰め寄る芳樹とアメリアに、陽太は思わずたじろいでしまう。
「そう思うとったらここまでやらへんのとちゃうか?」
「知らないで済まされると思わないでよね、そこの4人!」
「4人って・・・?」
 陽太は北都とクナイの方を見てから、芳樹たちの方へ視線を戻すと彼らは首を横に振った。
「俺たち2人も含まれているんですかぁあ!?」
「当然よ!」
「そっそんなぁあ」
 アメリアにキッパリ言われ、眉をへの字にして思わず陽太は涙が出そうになる。
「というわけで後は頼んだぜ」
 陽太の肩をポンッと叩き、武尊はバイクに乗りシーリルを後ろに乗せて逃走した。
「頼んだって・・・えっ・・・えぇえ!ちょっとぉお!?」
 問答無用と言わんばかりに陣たち4人が、陽太たちに向かっていっせいに攻撃を仕掛けてくる。
「こんなこと頼まれたくありませんわぁあ!」
 多勢に無勢なのか先にエリシアが走りだす。
「待ってください、俺を置いて行かないでぇえ!」
 自分1人をその場に放置し、全力で走るパートナーの後を陽太は必死な形相で森の中を駆ける。



 生徒たちの攻撃を受けてしまい、傷ついたアウラネルクと妖精を守っている生徒たちを見つけた恵は木陰から様子を窺っていた。
「あれだけ酷く傷を負っていたら、さすがにもう動けないわよね」
 気づかれないように、そっとその場から離れようとする。
「そこに誰かいるのであろうか!」
 アルツールは氷術で木々の間を氷らせ壁を作り出す。
「きゃぁあっ!」
 相手に気づかれていないと気を抜いてしまい突然現れた氷の壁に道を阻まれ、その拍子に恵は思わず声を上げてしまう。
「どうしてもその先に進むというならしばらくの間、そこで凍っていてもらうことになるであろう」
「―・・・(どうしよう・・・アウラネルクだったら戦ったんだけど・・・生徒同士で戦うつもりはないのよね・・・)」
 恵は見逃してもらえそうな言葉を頭の中から探す。
「ちょっと待ってよ、早く採取して帰らないとアーデルハイト様たちの病気が治らないじゃないの。必要な分しか採らないわよ、だから・・・ね?」
 話しながら後退っていくが、それは術の範囲外になった時にすぐに逃げるための考え抜いた手段だった。
 妖精がそれを許すはずもなく、恵の足元に雷術をくらわす。
「何よっ、動けるんじゃないの!」
 焦りながらも転びそうな足を地面に踏み止めて体勢を立て直した。
 術を使って対抗しようにも弱っているといえど彼女とでは力量に差があり、他の生徒たちが守っているためさらに分が悪い。
「ちっ、あんなにくらってまだ動けるなんてヤツだ」
 駆けつけたラルクが妖精を睨みながら、厄介だと言わんばかりに舌打ちをする。
「でしたら今しばらく眠っていてもらいましょうか」
 メガネをかけ直し義純は、アサルトカービンの照準をアウラネルクに合わせた。
「貴様のような小僧どもがわらわに敵うと思っておるのか・・・?身の程をわきまえろ人間・・・」
 森の木々がアウラネルクの怒りに呼応するように、葉が擦れあいざわめきだした。
「大地の気の力・・・その身で思い知るのじゃ!」
 守護者は両手を地面へかざし、ダークブルーの瞳で義純たちを睨む。
 地鳴りと共に大地がひび割れ、禍々しい不気味な紫色をした霧、不のエネルギーが噴出す。
「なんだこれは・・・突然・・・体の自由が・・・」
「―・・・くぅっ!」
「力が抜けていく・・・」
 彼らは土の上に膝と両手をつき、立ち上がれなくなってしまう。
 おぞましい気の流れを感じ取ったアルツールは、眉を潜めて顔に冷や汗をかく。
「土の下から何か気配が・・・いけない・・・皆さん逃げて!」
 義純は反射的に恵を抱えて飛び退いた。
 草むらに転がり込むのと同時に、地中から鋭く尖った樹木の根が彼らに襲いかかる。
「だ・・・大丈夫ですか・・・?」
「それよりもボクを庇ったせいで、あなたの方が酷い傷を負ってしまったわ」
「これくらい平気ですよ。立てますか?」
「えぇ・・・なんとか・・・」
「アーデルハイトさんたちの病状が心配です・・・早く魔法草を採りに・・・」
「―・・・分かったわ」
 よろめきながら立ち上げると、恵はマンドラゴラを探しに駆けていった。
「深手を負わされてもさすが守護者といったところか・・・。もろにくらってたら危なかったな。オウガが盾になってくれてなきゃ、大怪我を負わされていたところだぜ」
「ラルクが無事でなによりです」
 受けたダメージの苦痛に耐えながら立ち上がり、ラルクはパートナーのオウガを助け起こす。
「さぁて・・・これからどうするよ」
 人間の進入を拒み傷を負ってもなお立ち向かってくる妖精を、どうやって倒したらいいか彼は必死に対抗策を頭の中で練り始めた。



「しつけぇな、まだ追ってくるぞ」
「あんな無茶苦茶なことをするからじゃないですかー!」
「うるせぇな!細けぇことはいいんだよ、細けぇことは」
「全然細かくないですわ!」
 武尊たちと共に追われる身になってしまったエリシアが反論する。
「武尊さん!前・・・前ー!」
「あぁあ゛・・・?おっとと!」
 危うく生徒たちが密集している地帯に突っ込みそうになり、武尊は急ブレーキをかけてバイクを止めた。
「げっ・・・ヤバイところに遭遇しちまったぜ。こうなったら気づかれる前にこっちから仕掛けてやる」
 アーミーショットガンの銃声がズガンッドンッと鳴り響く。
「避けるんや!」
 遠くからの発砲を察知した幸兔が叫んだ。
 急所にはいたらなかったが、彼らは銃弾を避けきれず数発ほど掠ってしまった。
「仕留めそこねたか。まぁいい・・・大人しくタネさえよこせばこんなことにはならなかったのによぉおっ!」
 動けないアウラネルクへ照準を合わせ、銃弾を補充してリボルバーを回し銃のトリガーを引く。
 とっさに妖精の前へ跳び出たエルは、迫り来る弾丸をナイトシールドで防いだ。
「邪魔だっ、そこをどけ」
「いくら説得に応じないからといって、力で解決する行為には承服できないな」
「私も同意見です」
 森の守護者を守るように両腕を開き、ホワイトはエルの隣に並ぶ。
「また動かれて邪魔されたら厄介だからな、まとめて餌食になりたくなかったらそこを退け」
「―・・・承服できない」
「もうやめようよ、こんな傷つけ合いは!人間たちの欲ために森が荒らされてしまったんだよ。それなのに守護者を倒すなんて・・・そんな考え方・・・絶対間違っているよ!」
「なら仕方ねぇな」
 北都が止めようとする言葉も聞かず、彼は妖精へ銃口を向ける。
「だから乱暴なやり方はいけないって言っているだろ」
 立ち乗りの状態で箒から飛び降りた和原が、武尊へ延髄蹴りをくらわす。
「パワーブレスがあれば、プリーストだって十分戦えるんだよ!」
 ホーリーメイスを支柱に、背後からバク転蹴りをかました。
「イテェじゃねぇかこのヤロー!・・・何しやがるんだ、離せぇえ!」
 隙をつかれた武尊は、フォルクスに捕まってしまう。
 どうしていいか分からないシーリルは傍で見ているしかなく、困り顔でオロオロしていた。
「そちらさんも大人しくしていてもらおうか」
 睨むような鋭い眼差しで芳樹は、ハーフムーンロッドをラルクの首元へつきつける。
「いいのか?そんな至近距離で・・・」
「僕の術と君が発砲するのと、どちらが早いだろうな?」
「試してみたら?面白い結果がでるかもしれないわよ」
 アメリアはバーストダッシュの俊足の速さで接近し、オウガの脇腹へカルスノウトの刃を向けて動きを封じる。
「―・・・しゃあねぇな」
 パートナーへ視線をあてるが、すでに捕まった後だった。
「ようやっと片がついたようやな」
「いや・・・まだついていないようなのだよ」
「どういうことや?」
 アルツールの視線の先へ目を移すと、森を荒らした者へアウラネルクが術を仕掛けようとしていた。
「もう決着はついた!」
「そこを退くのじゃ・・・さもなくばおぬしも・・・」
「だったら・・・ボクからの誠意の表しとして盾を捨てる。お願いだ・・・アルラネルク、もう一度話しを聞いてくれ」
 術の餌食になる覚悟の上でエルは地面にナイトシールドを投げ捨て、妖精に丸腰の状態を見せる。
「あぁもうっ、分かったぜ」
 敵意がない態度をとるため、ラルクたちも武器を土の上へ落とす。
「これでもボクたちを攻撃するかい?」
 エルたちはその場から動かずに、じっとアウラネルクを見据えた。
「―・・・分かった・・・今一度、おぬしらの話を聞こう」
 次々と武器を捨てていく彼らの決断を見た彼女は、魔法を使おうとする手を下ろした。