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暗き森の泣き声(第1回/全2回)

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暗き森の泣き声(第1回/全2回)

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第5章 燃ゆる森林・・・森の泣き声

「(こんな桁外れの魔力を持ってるなんて・・・想定外だったよ。イルミンスールと百合園の校長のパートナーが風邪ひいちゃったから、早く良くなってもらうためにマンドラゴラかタネを分けてくれると嬉しいな♪なんて思ってたけど・・・)」
 凄まじい術の威力に、クラーク 波音(くらーく・はのん)は顔を青ざめさせ土の上にへたり込んでいる。
「ほら早く立ち上がってくださいよ。マンドラゴラを採りにいくんでしょう」
 アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)は波音の腕をひっぱり、無理やり立ち上がらせた。
「そうだったね。よし・・・こうなったら」
「―・・・こうなったら?」
「あたしと鬼ごっこしよう妖精!よぉーい・・・どぉおおん!」
「えっ・・・えぇえ!?」
 魔法草が採取できそうな場所へ、突然駆け出した波音の後をアンナが慌てて追いかける。
「採取しに向かう人たちが動きだしたようですね」
 義純は採取に向かった人たちを妖精に追わせないよう、アサルトカービンを構えた。
「えぇ・・・ここはなんとしてでも守り抜かなければ」
 伊那 武士(いな・たけし)も意を決し、守護者に立ち向かおうとする。
「やっぱりこうなったか・・・」
 採取の許可をもらう交渉していた生徒たちの様子を物陰から見ていた国頭 武尊(くにがみ・たける)は、自ら妖精の怒りを買いターゲットとなるためにエタノールをまいた所にライターで火をつけた。
「(いいのかな・・・こんな方法)」
 武尊の森林破壊行動に、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)は心中で嘆いている。
「交渉しに来た人たちを信用させるために攻撃を仕掛けようと思っていましたが、少し予定変更しましょうか」
 影野 陽太(かげの・ようた)は森に、予め爆弾を仕掛けておいていたようだ。
 破壊工作として作り上げた爆弾のスイッチを押した。
 ドォオンッと空気を振動させて轟音が轟き、森の生き物たちがギャアギャアと騒ぎ出す。
「森の中に凶悪なクリーチャーがいるというのに、珍しく自分から動いたのですわね。まぁ、校長たちに貸しを作っておくのも悪くありませんわ」
 購買部で購入したばかりの新品のロングボウを片手に、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は楽しそうに笑う。



 武尊たちの放火や爆発といった破壊行動によって、森の木々が赤々と燃えていた。
「おぬしもこの森を荒らすのか?」
「待ってくれ森の守護者よ!俺は君と戦う意思はない、交渉しにきたのだよ」
 怒りに満ちた顔をしたアウラネルクと遭遇したアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)は、両腕を広げて敵意のないことを示す。
「そのようなことが信じられるとおもっておるのか」
「ならばこちらの誠意を見せよう。採取の許可をもらう代償として貴方に向かってくる敵や、許容以上に採取をしようとしている者たちと戦おう」
 誠の精神と魂を彼女に認めてもらおうと、アルツールは真剣な眼差しで説得を試みる。
「僕も内容に同意するぜ。人間たちの勝手で森を衰弱させたのが原因で、妖精が人間嫌いになってしまったのかもしれないしな」
「こんな火に油を注ぐ行為、私も許せないよ」
 戦況を近くで窺っていた高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は、乱暴な手段を取る生徒たちに対してついに怒りを爆発させた。
「俺たちの言葉を信じるか信じないかは、貴方の目で確認するといいであろう」
 あわざと妖精を挑発しようとする武尊たちの後を、彼女の信頼を得るためにアルツールたち3人が追う。
「あれ・・・アウラネルクはどこへ?」
「いなくなっちゃったね。無理やり採ろうとしてる人たちを追っていったのかな?」
「探してみましょう」
「そうだね」
 ラキシスはコクリと頷き、2人は妖精を探しにいくためにその場から離れた。
 彼らが立ち去った頃合を見計らっていたのか、草陰で何者かがゴソゴソと蠢く。
「どうやら行ったみたいね」
「そうですね。今のうちにマンドラゴラを引き抜いてしまいましょう」
 草むらの中からひょっこりと顔を出し、波音とアンナはそこに誰もいないことを確認した。
「あっ!あっちに何かいるよ」
「どこですか?」
「ほらそこに・・・」
 波音は平らの道を埋まったままゆっくり移動している、体長3cmほどの小さなマンドラゴラを見つけた。
「引き抜くのと同時に、大きな声を出せばきっと気絶しないはずよね」
 2人は対象に気づかれないよう地面に屈んで、魔法草へ波音はそっと手を伸ばす。
 後もう少しで届くと思った瞬間、ザクッと踏む音が聞こえた。
 恐る恐る顔を上げると、眼の前に森の守護者が立っている。
 その場から逃れるために波音とアンナは火術と氷術で水蒸気を作り出し、逃れようとするがすぐに守護者に見つかってしまう。
 凄まじい形相で見下ろす妖精に対して、2人は恐怖に慄きその場から動けなくなってしまった。



「覚悟は出来たか?侵入者・・・」
 アウラネルクは波音たちに手の平を向け、口の中でカオスワードを唱え始めたその時。
 木の上から飛び降りたクルードが森の守護者に斬りかかるが、気配を察知した彼女は後方へ跳び退き間髪避ける。
「―・・・避けられたか。こちらには時間が無いんだ、魔法草の採取の邪魔をさせるわけにはいかない・・・そこを退いてもらおうか。ユニ、銀閃華を出せ!」
「はい!」
 ユニが目を閉じ両腕を広げると、彼女の胸の辺りが輝き始める。
「銀の炎が・・・この世の全てを照らし出す・・・」
 ふつふつと呪文のような言葉をつむぐと、光条兵器の柄が現れた。
「―・・・銀光の華よ、開け!銀光の煌き・・・銀閃華!さぁ引き抜いてくださいクルードさん!」
 クルードは自分と身の丈くらいある太刀の形状をした光条兵器、銀閃華の柄を掴み引き抜く。
 パートナーと自身にパワーブレスをかけ、ユニも応戦しようとする。
「いきますよ、はぁああ!」
 カタールを握りアウラネルク目掛けて地面を駆けた。
 シュッシュッと刃音を立てて、彼女の腕を狙って突きを繰り出す。
「小娘ごときがわらわに敵うと思っているのか?」
「フフフ、いいんですよ・・・これで」
 簡単にかわされるのはユニの計算の内で、自分に注意をひかせてパートナーに攻撃させるチャンスをつくるためだった。
 策略に気づいたアウラネルクは背後を振り返ると、銀閃華の刃がすぐそこまで迫っていた。
「これが・・・銀狼の爪だ」
 妖精に術を発動させまいと音速を超えるスピードで、獣の爪によって斬り裂くように刃を振るう。
「殺すつもりはない、そこで少し大人しくしてくれればいい」
「まだじゃ・・・わらわはまだ負けておらぬ」
 痛む傷口を手で押さえ、アウラネルクは立ち上がろうとする。
「動かない方がえぇと思うで?」
 鬱葱とおおい茂る森の中から雪華が現れ、カルスノウトの切っ先を守護者に向けた。
「ごめんね、これもアーデルハイトたちのためなのよ」
 アウラネルクを探してやってきたルカルカは、苦渋に満ちた表情で傷を負った彼女を見つめる。
「ここは俺たちに任させて、早く魔法草の採取へ・・・」
「そう簡単に通すことは出来ないな。守護者の許可も無しに、無理やり採取を行うとは賛同できないであろう」
 義純の言葉を遮り、アルツールが波音たちの行く手を阻む。
「まぁ、そういうことやからすんまへんな」
 攻撃のチャンスを狙っていた青空 幸兔(あおぞら・ゆきと)は、アサルトカービンをルカルカたちへ向けてトリガーを引く。
「危ない伏せろ!」
 ダリルはとっさにルカルカの身体を抱え、銃弾から逃れるために地面へ伏せた。
「そないによってたかって攻撃するなんてあかんやろ?」
「さっきから急いでる言ってんだから、余計な邪魔すんじゃねぇえよ!」
 今度はラルクが幸兔に向かって銃を乱射せる。
 銃弾を臆することなく駆け込んできた隆光が、傷を負った妖精を抱えて森の中へ駆け込む。
「あぁー!美味しいところ勝手に持っていくなや!」
「仕方がない、ここは一旦引こう」
 隆光の後を追って幸兔とアルツールも、その場から走り去っていった。



「―・・・大丈夫か?」
「気がついたようであるな」
 妖精が目を覚ますと、心配そうに見下ろす隆光たちの姿が瞳に映る。
 飛び起きるとアウラネルクはとっさに彼らから離れ、警戒の眼差しを向けた。
「おいおい、そう睨むなよ。俺たちは何もしやしねぇぜ」
「これだけ人間たちに酷い目に遭わされると、信じろゆうーても信じらへんのも無理ないやろな」
「まぁっ、俺は絶対こんな美人に酷いことしないけどな」
「オラだってせーへん!」
 心中が丸見えの2人の争いに、アルツールが呆れ顔でため息をつく。
 アルツールは視線をアウラネルクの方へ移すと、彼女は苦しそうに息を切らせながら地面に倒れこんでいた。
 抱き起こすと血色が悪くなっていて、生命力が減退している様子だった。
「こりゃまずいんじゃないか?」
「せやな・・・これだけ深く傷つけらとったら・・・」
「ー・・・いや、原因はそれだけではないであろう。多くの植物が爆発やら炎上やらで燃やされた影響で、魔力が枯渇してしまったのであろう」
「どうしたらいいんだ・・・肝心な時に役に立てないなんて・・・!」
 何も出来ない悔しさのあまりに、隆光は木を拳で殴りつける。
「心配で探してみたらこんなことになっているなんて・・・。しかも森のエネルギーが減退してしまうと、守護者にも影響がでるようね」
「あぁそうみたいだぜ。荒らしてる奴らを探し出して止めるしかないな」
 道を引き返してアウラネルクの元へやってきた芳樹とアメリアは、森を荒らしている人々を探すことにした。
「森が・・・泣いているようや・・・」
 ざわざわと揺らめく木々の音が、幸兔には痛めつけられて朽ちていく悲しみのように聞こえた。