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暗き森の泣き声(第1回/全2回)

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暗き森の泣き声(第1回/全2回)

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第7章 獲物を狙う亡者たち

 森の消火活動を終えた生徒たちが守護者の元へ集まってきた。
「もう近寄って平気なのかな?」
 恐る恐る筐子が木の後ろから顔を出す。
「大丈夫やで」
 隠れている生徒たちへ幸兎が手招きして呼び寄せる。
「ごめんなさいですぅ・・・こんなに傷を負わせる結果になってしまって・・・」
 メイベルは白色の瞳に涙を溜め、アウラネルクへヒールをかけてやる。
「僕も手伝うよメイベルちゃん」
「アウラネルク様の治療のお手伝いするですぅ」
 セシリアとシャーロットも加わって、妖精の傷を癒していく。
「なかなか治りませんねぇ」
「たぶんやけど・・・さっき自然界のマイナスエネルギーをつこうたせいちゃうか?」
「―・・・そうだったの」
「そこまでしてこの森を守りたかったのであろうな・・・」
 傷を負った妖精を見つめ、アルツールは呟くように小さな声で言う。
「エリザベートさんのために・・・魔法草を分けてくれ」
 鳴海 士(なるみ・つかさ)はよたよたと歩きながら、フラジール・エデン(ふらじーる・えでん)の肩を借りて守護者たちの方へ向かってきた。
「なんだか様子がおかしいようだが」
 視点の定まらない士の表情に、涼介は眉を潜めて見つめる。
「風邪を引いているみたいですぅ。あんな状態になってまで人助けしたいなんて・・・」
 ゲホゲホと咽る士の姿を見てシャーロットは、関心したように言う。
「あれや・・・士はただのロリコンやから」
「と・・・言うと?」
「マンドラゴラを手見上げに、イルミンスールの校長に看病してもらおうとか考えているんとちゃうんか」
 涼介の疑問に幸兔はため息をついて答える。
「何であないなロリコンを止めへんかったんや」
「それはエリザベートさん・・・が・・・アーデルハイトさんの・・・風邪が治らなくて・・・泣いてるの・・・知ったから」
 眉間に青筋を立てて詰め寄る幸兔に、言葉を途切れさせながらフラジールは小さな声で話す。
「ワタシも・・・泣く・・・という感情を・・・思い出して・・・士の気持ち分かる・・・から。士・・・ワタシにも・・・、そしてエリザベートさんにも・・・沢山笑顔で・・・いて・・・ほしい・・・そう思ったの」
「せやからってなぁ・・・高熱だしてまで・・・」
「魔法草を手に入れることが出来たら・・・!お粥とか手作りのご飯を・・・エリザベートさんに食べさせて貰うのさ!!」
 フラジールの考えとは裏腹に、士はエリザベートに看病されることだけで頭がいっぱいだった。
「だからさこんな時に家で寝ている場合じゃないよね!だってだって・・・パラミタで一番・・・いや・・・世界一可愛い・・・エリザベートさんの笑顔は・・・僕のっ・・・・・・!!」
「やかましぃい!」
 雪華にハリセン型の光条兵器で、士はスパーンッと頭を殴られてその場に倒れこむ。
「あぁ・・・エリザベートさん・・・僕のために・・・」
 眠りについた士はエリザベートに手厚く看病されている想像空間へ旅立っていった。
 すっかり話しの腰を折られ、樹たちは恐る恐るアウラネルクの方を見る。
「どうやら気分を害してはいないようですね・・・」
「えぇ・・・また説得に失敗するかと思いましたよ」
 樹と遙遠は小声でひそひそと話す。
「だがその前に・・・」
 蠢く人影目掛けて、司はランスを振りかざした。
「―・・・!」
 足元にランスを突きつけられた大地は、腰が抜けてしまい顔を青ざめさせる。
「密猟者か?」
「あはっ・・・あはは・・・違う違うっ。説得が終わるまで、ここで待ってたんだ」
 目をそらしながら、ウィルネストは乾いた笑いでごまかそうとする。
「だったらそんなところにコソコソと隠れてないで出て来い」
「キミたちが密猟者じゃないんだったらな」
 司とロレンシアに鋭い眼つきで睨まれ、身の危機感を察知したウィルネストたちは、慌てて地面から立ち上がった。
「妖精さんだ、本物の妖精さんー!」
 ウィルネストは幼い子供のように目を輝かせ、アウラネルクを見つめる。
「話しが終わるまでそこで待機していてもらおう」
 逆らわない方がいいと思い、大地は黙って待機していることにした。



「上手く説得できているのか・・・?」
 黒霧 悠(くろぎり・ゆう)は説得しようとしている生徒たちの声が聞こえるところまで場所を移す。
「うーん・・・ここからだとよく聞こえないな」
 聞き耳を立てて、英希も生徒たちの話し声を聞こうとする。
「様子からすると、悪い方向じゃないようだな」
「もとより攻撃したりしなければよかったのであろう」
 ケイとカナタも木の陰から交渉の様子を窺う。
「ねぇねぇ」
「どうした?」
 悠は裾を引っ張ってくる瑞月 メイ(みずき・めい)の方へ視線を移した。
「マンドラゴラのことよく分からないんだけど・・・食べたら美味しいのかな」
「―・・・メイ・・・もしかして食べる気かよ」
「うーん・・・」
「(まさかと思うが・・・採取したやつを食べようと思っているのか?)」
 考え込むメイの姿に、悠は嫌な予感がした。
「あはは、面白いこと言うね君。(本当にマンドラゴラを食べるつもりかな・・・)」
 メイは珍味好きの変わった少女なのだろうかと、英希は心の中で呟いた。
「―・・・しっ!奥に何かいるぞ」
「ケイ・・・得体の知れないやつがそこにいる!」
「どうやら人間じゃないようだな」
 彼らの視線の先には死人のような肌の色をした不気味なクリーチャーがいた。
 両目の潰れた4本の腕を人形のようにカタカタと動かし、それは手探りで獲物となる者の位置を探っている。
「こいつ目が見えないようだよ」
 それは目の潰れていて、手探りで見つけようとしているようだ。
 クリーチャーに向かって英希が雷術を放つ。
 バチチッと電光が走る。
「やったか・・・?」
「効き目というか・・・こいつら痛覚というのがないのか・・・」
 平然としている相手に、ケイは冷や汗を流し後退る。
 酸によって蕩けた皮膚がシュウシュウと焦げた音を立てて、嫌な匂いが漂う。
「ならばこれならどうであろうか!」
 カタナは標的へアシッドミストをくらわし、濃酸の霧によって相手を溶かそうとする。
 あまり効果がないのか、クリーチャーはゆっくりと彼女たちに近づいていく。
「アウラネルクと交渉の邪魔をさせるわけにはいかない・・・どうすればこいつを倒せるんだよ」
「簡単なことだ、ようは動けなくすればいいんだろ?」
 木刀を構えた悠は鋭い眼つきでクリーチャーを見据える。
「―・・・それで倒せるのか?」
 ケイは疑問符を浮かべて首を傾げた。
「ものは試しだって・・・よくいうだろ!」
 力任せに悠が木刀を振り下ろし、ゴキンッと骨を砕く音が聞こえ、標的の腕が1本折れた。
 折れた腕を動かし悠の足を掴んだ。
 彼はなんとか振り払おうとするが、クリーチャーはなかなか放さそうとしない。
「―・・・この・・・このっ放せ!」
 助けようと試みた英希は、化け物の首を思い切り踏みつけた。
 それでも放そうとしないクリーチャーの腕をケイが蹴り上げ、千切れた腕が地面へボトンと転がり落ちる。
「くそっ・・・まだ動けるのか」
「こうなったらアシッドミストで溶かしつくしてやろう」
「承知した!」
「俺は雷術で足元を狙ってやろうかな」
 ケイたち3人がかりでやっとクリーチャーの動きは止まり、その身体はグズグズに溶けて崩れ落ちた。



 ガサガサと草をかきわけ、そこらじゅうから次々と亡者たちが現れた。
「こんな時に現れるなんて!」
「全て倒しましょう」
 水神とカディスは武器を手に取り、クリーチャーの群れに立ち向かっていく。
「私たちも行いきましょう」
「化け物相手なら遠慮もいらないであろう」
 満夜の言葉にミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)は頷き、雷術を発動しようと唱え始める。
 青光りの電光によって亡者の身体は痺れ、動きを静止させた。
「俺たちはアウラネルクと彼女たちを守ろう」
「せやな!」
 クリーチャーの襲撃から速人と幸兔が結託して、彼女たちを守ろうとする。
「たしかに・・・守護者は動けないようであろうからな」
 生者を食らおうとする亡者たちを見据え、アルツールも守りに徹する。
「なんぎやけどしゃーないな」
「ここで負ける分けにはいかないよね!どうすれば倒せるかしら」
 陣とリーズは傷つくことを恐れない死者を眼の前に、どう倒そうか頭の中で対策を練り始めた。
「あんなにうじゃうじゃと・・・一体どこから・・・」
「えぇ・・・大変なことになってしまいましたね」
 シェイドはミレイユを庇うように、彼女の前に立つ。
「森で火術を使ってしまうと、樹木を燃やしてしまいそうだから術は安易に使えないな」
 エンシャントワンドを握り、レオナーズは対抗策を考える。
「気をつけて戦わないといけないわね」
 戦う手段を見つけられないアーミスも、悔しそうにギリッと歯を噛み締めた。
「術が駄目なら体術という手もありますよ。とはいっても・・・あたし自身、どこまで戦える分かりませんが・・・」
 アサルトカービンをクリーチャーたちに向けたまま、礼香は傍に寄り2人を守ろうとする。
「ニンゲンダニンゲンダ」
「クッテヤロウ・・・クッテヤロウ」
「いやぁあっ助けてぇえ!」
 クリーチャーに捕まってしまったヴァーナーは、逃れようと必死にもがく。
 化け物は大口を開けて彼女の頭を食らおうとする。
「―・・・ドコカラ?アシカラカ・・・ソレトモ・・・アタマカラカ?」
「ぐすっ・・・食べないで・・・」
 生者の言葉を聞かない相手を見上げ、ポロポロと涙を流す。
「伏せろ!」
 駆けつけたケイの言葉に、ヴァーナーは両手で頭を抱えて伏せる。
 ケイが蹴り飛ばした亡者の首は、90度に折れ曲がった。
 手にしているワンドでレオナーズたちがクリーチャーに殴りかかり、なんとかヴァーナーを化け物から引き離した。
「怪我はないであろうか?」
「えぇ・・・なんとか大丈夫です」
 心配そうな目で見るカナタに、掴まれた時に痛んだ腕を押さえることなく彼女は平然を装う。
「大丈夫だったか?」
「大事には至らなかったようなのだよ」
「そうか・・・ならよかった」
「どうする?さっきみたいに雷術とかで動きを鈍らせてからアシッドミストで溶かそうか?」
「あぁそれがいいだろうな。むしろ今の段階だと、それしか対抗策が見つからない・・・」
 英希の案に賛成しながらも、ケイは苦戦を強いられている礼香たちを見て苦々しい顔で言う。
「銃でも倒せないなんて・・・」
「なら・・・バラバラにするまでですよ!」
 漆黒の太刀の形状をした光条兵器を手に、大地がクリーチャーへ斬りかかる。
 生者を食らおうとする口を真っ二つに割った。
「なるほど・・・動きを止めてから溶かしてやれば倒し易くなるんだな!」
 ウィルネストは大地が叩き斬り裂いた敵の周囲に濃酸の霧を発生させ、ドロドロに溶かし尽くしていく。
「うっ・・・やっぱり匂いがキツイですね」
 悪臭を吸わないように、樹は片手で鼻を覆う。
「森を傷つけない程度に火術を使っているのですけど・・・。それでもやっぱりこの焦げたような匂いは・・・」
 あまりの酷い死臭に、カディスも思わず顔を顰めた。
「何かいい方法はないでなしょうか・・・」
 遥遠は遙遠の方に視線を送り、匂いをなんとかできないかとアイデアを求めた。
「―・・・そうですね・・・倒したヤツを氷術で凍らせるとか・・・でしょうか」
「いいな、そのアイデア乗った!」
 アメリアがカルスノウトの切っ先から雷の気をクリーチャーへ放ち、すかさず芳樹は氷術で仕留めた。
「氷らせたヤツをこうしてしまえば、もう復活したりすることもないんじゃないの?」
 カチコチに氷らされた亡者はアメリアの斬撃によって砕かれ、破片となって散らばっていく。
「こういう戦い方もあるんだな」
 氷術によって氷らされた標的を、司もランスで叩き崩していった。
「やれやれ・・・全部片付いたか」
「そのようだな」
 ケイたちは数十体ものクリーチャーを退治し終わり、疲労したような表情をみせた。